お花屋さんのバラは、あんまり好きではない。ほんとうに素敵なバラは、わたしの知っている限りひとつしかなくて、わたしはもう二度と、バラの花は欲しいと思わない。
だけど、バラの花は大好き。だって、あんなに優雅で貴婦人然とした花は他にないもの。
ある日、おばあさまが外で遊んでいるわたしに言った。
「ねえ、ユミちゃん。とっても素敵に咲いているバラがあるのよ。見た?」
泥遊びに夢中のわたしは、お花を眺めることなんて知らなくて、お花と言えばおままごとのおかずだと思っていた。
「ほら見てごらんなさい。綺麗でしょう?」
おばあさまは、わたしの背丈ではお花を下からしか見られないので、手でそっとお花の顔をわたしのほうへ向けてくださった。
ほんのりオレンジ色のようなコーラルピンクのバラの花が、ほんわりつぼみをほころばせていた。その慎ましやかな風情は、とてもとても美しくて、うちの庭で咲いたことが夢のようだった。
そしてはじめて、わたしはお花を眺めて楽しむという遊びを覚えた。けれどまだ、このお話には続きがある。
お花を眺めるのは楽しいけれど、ずっとお外にはいられない。あしたも同じように咲いているかしら。もしかしたらすぐに枯れてしまうかもしれない。そこでわたしはバラを摘んで、おうちへ持って帰ろうと思った。そうすればおばあさまも、もっとゆっくり眺めることができるし、きっと喜ばれるはずだわ。
小さなわたしは、切花のことなんかちっともわからなかった。ただきれいなお花が欲しかった。だからだから、思っていなかった。お花だけを、枝葉もなしに首から切ってしまうってことが悪いことだなんて…。
てのひらにお花だけを乗せて、おばあさまのところへ持って行くと、おばあさまはがっかりなさった顔をした。わたしもなんとなくわかっていた。手の上にちょこんと乗っかったお花より、さっきまでお庭で咲いていたお花のほうが、素敵だったってこと。
「まあ、どうしましょう」
おばあさまはそう言って、静かに微笑まれた。わたしが、「きれいだから取ってきたの」と伝えると、おばあさまは「お庭で咲いていれば、それで良かったのよ」と優しくおっしゃった。それでわたしは、お花に可哀相なことをしてしまったと思い、ひどく良心がさいなまれた。
ところが、おばあさまは、なんて優しくてセンスの良い方だろう。まるで魔法のように、わたしの摘んできた首だけのバラの花を素敵に生けた。
大きなガラスの果物皿に、澄んだ冷たいお水をはって、そっとお花を浮かべたのだ。キラキラ光るお皿の中で、漂うほのかなお花の姿は、親指姫のお船のように、ゆらゆら揺れて踊っていた。
「ほら、ユミちゃん。あなたのおかげで、とっても綺麗よ?」
おばあさまはおっしゃって、そのおかげで、バラもわたしも生き返った。
それはとても素敵だったけど、でももうわたしは、バラの花は欲しがらない。きれいにきれいに、どこかで咲いていればいい。小さなわたしや、誰にも摘まれない場所で…。
了