台風一過
台風が過ぎた、午後4時過ぎに、墨田公園へ行った。
青く晴れ上がった空の下、増水した隅田川が悠々と流れていました。
橋の上から眺めれば、いつもよりすぐ近くに水面が揺れているのです。
あまりに容易に手が届きそうなので、身を投げてみたくなるのでした。
土手の上のコンクリートの柵の上に上ってみました。
西日にほの赤く染まった大きな流れが一望できました。
すぐそばに、あれは凌霄花のような…蔓植物の赤い花が鮮やかに咲いていました。
しばらく風に身を任せて体を揺らしていると、唄が生まれました。
わたしの中から、何もかも洗い流すようなゆったりとした唄が。
すぐ下の遊歩道が濁った水に沈んでいるのをしばらくぼんやり眺めていました。
水のひきかけた歩道の、乾いたところを選んでわたしは歩き出した。
いつもは見下ろす川の流れが、ほんとうにわたしのすぐそばにあることが
なんだかとても嬉しかったのです。
わずかに煉瓦の囲いで川と隔たれた大きな水たまり…池と言ってもいいでしょう。
そこには5センチくらいの小さな魚が泳いでいたのです。
はじめわたしは、ただその魚に出会ったことに感動して見入っていました。
けれどこのまま川に戻れないのではと、わたしは気の毒に思いました。
すると一匹が跳ね上がって煉瓦の階段の上に飛び出し、ぴちぴちともがくのです。
わたしはとっさにその魚を拾い上げ、手の中で動く様をじっと見ました。
銀色で尾が少し傷ついていました。ひんやりとして頼りなげな感触でした。
黒くて潤んだ瞳がまだ活力にあふれていました。
わたしはその魚を、すぐに川の方へ放ってやりました。
水へ帰って大きくおなりと、願いをこめました。
手には泥がほんの少しと、小さな鱗の一片が残っていました。
だいぶ日も傾いてきた。
わたしはここちよい風の名残を惜しみながら、そろそろ家に帰ろうと思った。