青空と海ときみと
それは果てしなく広がる広大な青の世界。
はるかかなた
霞がかった一本の“線”が、空と海を断ち切って、
二つの世界がつながる事を許さなかった。
世界は互いを写し合い、きらきら光る。
その輝きを求めた、二つの命の物語。
始まりはアクアブルーの空の下。
同じ色した海の上。
カモメが一羽、“線”を目指して飛んでいた。
イルカが一匹、仲間とはぐれて戸惑っていた。
広い空の下、広い海の上。
イルカは、疲れた羽を休める場の無い事に困っていたカモメを、
快く自分の背中で休めさせてやった。
「きれいな空ですね。今日はまた、お一人でどちらまで?」
イルカが優しく声をかけると、カモメはこう答えた。
「この広い空と海の間に、“青の泉”と呼ばれる場所があるそうだ。
そこには空と海を区別する“線”が消えていて、
そこへ行けば空の住人は海に、
海の住人は空で暮らす事を許してもらえるという話を聞いて来たんだ。
僕は空を飛ぶ暮らしなんてうんざりした。
海の魚を食べようと思っても、皆すぐに底深くに潜ってしまうから、食事も満足に出来ない。
子供のころは群れの大人達が食べ物を分けてくれたけれど、
いつまでたっても上手く狩りが出来ないから、ついには群れからも見放されてしまった。
僕は海で暮らしたい。
その広い海の中を自由に泳ぎ回って、おなか一杯食事がしたい。」
するとイルカは言った。
「私は空で暮らしたい。
人間の網から逃れるために、暗い海の底にもぐって、じっと暮らしているなんてつまらないもの。
奇麗な太陽の日を浴びて、果てしないその空を自由に飛び回って、遠くへ旅に出てみたい。」
そこでカモメとイルカは二人一緒に、“青の泉”へと旅する事になった。
巨大な竜巻と巨大な渦。
それが“青の泉”の正体だった。
空と海のぐるぐるは、
同じ所を目にして、絶えず回りつづけていた。
それもものすごいスピードで。
カモメとイルカは勇気を振り絞って、同時に“泉”に飛び込んだ。
そして――
それから何年かたった、スカイブルーの空の下。
同じ色した海の上。
カモメになったイルカが一羽、“泉”を目指して飛んでいた。
イルカになったカモメが一匹、“泉”を目指して泳いでいた。
広い空の下、広い海の上。
イルカになったカモメは、昔イルカがしてくれたように、
カモメになったイルカを、自分の背中で休めさせてやった。
「また会えたね。あれからいかが?」
カモメになったイルカが優しく声をかけると、
イルカになったカモメはこう答えた。
「海の暮らしも悪くないけど、僕は空で暮らす方がいいや。
海の青も奇麗だけど、今は空の青が恋しくて仕方が無い。
僕はもう一度、空を飛びまわりたい。」
するとカモメになったイルカは言った。
「私も。確かに空は広くて奇麗だけど、
海のようにたくさん仲間がいない。
もう一度、海を泳ぎ回りたい。」
そこで二人はもう一度“青の泉”へと向かい、
そして――
それからまた何年かたった、
ネイビーブルーの空の下。
同じ色をした海の上。
元に戻ったカモメと、
元に戻ったイルカが、
また同じ青の下で出会った。
広い空の下。
広い海の上。
イルカは昔と同じように、
カモメを背中で休めさせてやった。
「また会えましたね。あれからいかが?」
イルカが優しく声をかけると、
カモメはこう答えた。
「もう僕は十分に生きた。
子供も産まれたし、そのまた子供も産まれて、
妻も死に、子供も自分の手を離れた。
狩りの腕もあれから上達して、
子供にもたくさん食事を与えてやれたけれど、
もう自分には、狩りをするどころか、飛ぶ体力すらも残っていない。」
するとイルカは言った。
「私の命も、もうそう長くはない。
海に潜って食事を獲る事も出来なくなってしまった。
でも、もう海に思い残す事はない。
子供も孫も幸せに暮らしているし、
私も幸せだった。
だから今度はこの“線”の上で、
私が愛した二つの青の間で、この輝きを目に焼き付けてしまいたい。
日が暮れて、青が黒に変わるその時までに・・・」
夜。
“線”の上を二つの命が滑っていた。
広い空の下。
広い海の上。
夜空一杯の星を集めてもかなわないほどに輝く、
二人の心に焼き付いた青。
そこでは決して太陽は沈まない。
――青空と海ときみと
――そしてわたしがそこにいた。
おわり