俺の名は、御手洗良平。探偵さ。
この町の平和を守るために、今日もひとり 戦い続ける ―――。



 「私のお花たちを守って下さい。」

 突然結論を言い出したこの人は、依頼人の ミス セシル・ローゼンクロイツ。彼女は、2丁目の洋館に独りで暮らしている、 物悲しい雰囲気の漂う未亡人。貿易商を営む夫に先立たれてからと言うもの、屋敷をほとんど出ない日々を過ごしているため、 彼女の姿を見たものは、配達人のサブロウと、通いのメイドだけだった。
そんな彼女が俺の所にコンタクトをとってきたのが、今日だったという訳。

 「お花、ですか?」
怪訝そうに聞き返したのは、俺の助手を勝手に申し出てきた、幼なじみのケイ。俺の所に初めて舞い込んだ 探偵っぽい依頼に興味を 持ったから 仕方なく俺の手伝いをすると豪語していたしょうもない奴。探偵気分を盛り上げるためか、今日のコスチュームは真っ赤な チャイナ・ドレスと決め込んでいる。
 喪に服しているのか、黒のロングドレスを身に纏った ミス ローゼンクロイツ。彼女は、静かに口を開いた。
 「わたしの・・・お花たちが何者かによって摘み取られているのです。毎晩のように。だから、守って下さい。 あの人の残してくれた花々を。 元気に咲いている あの人のお花を無造作に摘み取ってしまうなんて悲しい事を、 もう繰り返して欲しくないから―――。」

  そう言って、ミス セシル・ローゼンクロイツは、もの憂げに瞳を伏せた。噂で聞いていた以上に 美しい未亡人が悲しみに ―――それも草花に対して―――耽っている姿が美しく、俺はたっぷり30秒間見とれていた。

 「でも、その様な事件なら、警察の方が向いていると思うのですが、何故、この依頼を私たちに…?」
  そんな雰囲気を壊すかのように、ケイが訊いた。
 「話をそのように おおごとにしたくなかったから、です・・・。」
  「解りました。では、問題の現場に私たちを連れていって下さいませんか?」

  セシル・ローゼンクロイツの花園は、屋敷の奥庭に広がっていた。
  「わぁ、きれい!」
ケイが年齢に相当した、ごく真っ当な意見を述べた。こんなヤツでも所詮は16歳だってことか。
 えらく自嘲気味に、俺は奥庭を見渡した。確かに手入れの行き届いた庭だと思う。正統派英国庭園。しかし、その花園の一部が、 不自然に荒らされていた。

  「ここか?」
 「・・・はい。朝に気が付いたので、おそらく夜中のうちに・・・。」
そう言うと、ミス ローゼンクロイツは目を伏せた。目に涙。
 「わかった。俺がなんとかしてみせるッ!」



 「セシル」
  突然の俺の声に、ミス ローゼンクロイツは 特別驚いたようだった。
 「・・・済まない。ただ、あんたの特別になりたかっただけさ。」
なーんて、決め台詞を吐いてみようかと思った瞬間。

 「花泥棒だーーーーッ!」

  え、もうクライマックスかい。なんて思っている暇なんてない。俺は、ローゼンクロイツ邸の奥庭に面したテラスから飛び出すと、 真っ黒な人影に向かってタックルした。

 「こなくそーーッ!」
  影が暴れるのを必死に押さえる。
月明かりが雲の合間から犯人の姿を照らした。

 「お、おまえは・・・、隣のクラスの早乙女瞬介じゃないか。」
  「そういうアンタは、5組の御手洗!!」

  犯人…早乙女瞬介は、諦めたかのように、芝生に胡座をかいた。

 「フン、おまえの好きにしなッ。」
  自棄になったかのように吐き捨てる。
 「早乙女、何でオマエ・・・」
 月明かりの下に照らされている、ローゼンクロイツ邸の奥庭と、目を伏せた美しき未亡人。その目の前に胡座をかいた少年と、 困惑する少年が対峙している。良平の助手のケイは凍り付いている。

 「そうさ、俺は、花泥棒なのさ。別に深い意味はない。ただ、この館の花が綺麗だったから盗んだまでよ。」
  「早乙女、おまえ、誰を庇っている!?」
  「止めて!」

 叫んだのは、ケイだった。
  「・・・ケイ?」
  月明かりの下、毒々しいチャイナドレスを着たケイの姿は、非常にミスマッチだ。

 「瞬介はワルクナイの!」
 「ケイ・・・」
  胡座をかいていた早乙女瞬介に、はじめて動揺が走った。

  ・・・つまりはこういうことか。ケイと早乙女は付き合っていたのだ。そして健気なことに、早乙女はケイに花を贈るために、 街一番のローゼンクロイツの花園から夜露に濡れた花を盗んでいた。早乙女は、奨学金を貰いながらもバイトして高校に通う苦学生。 ケイに花を贈るほどの余裕はない。

 「フッ・・・。そういうことじゃ、仕方ねーな。今回は、俺に免じて見逃してやるよ」
  ケイと早乙女は、感極まって抱き合いながら、俺に向かって感謝の気持ちを述べている。グッバイ。今回は俺の負けだよ。

  「アンタたちッ!私を差し置いて解決してんじゃないよ!」
セシル・・・もとい、ミス ローゼンクロイツ御乱心。父さん、今回も任務は失敗です。



  ―――俺の名は、御手洗良平。探偵さ。
この町の平和を守るために、今日もひとり 戦い続ける―――。


〜FIN〜