メランコリック・プランツ

作:叶 比見子 10/31更新

少女小説家: 若草めぐむ
ファン  : 三島菜々
その他 … 編集/杉村  めぐむの恋人/本多聡
        めぐむの友人/夢野愛

*** オープニング ***

開場音楽がフェイドアウトするのと同時進行で暗転、
やがて憂鬱なクラシックが流れはじめる。
夢遊病者のようにふたりの女性の姿が浮かび上がる。
目覚めているのかいないのか、物語を暗示する単語をぽつりぽつりと呟く二人。
時にはカノンとなり、時にはシンクロしつつ、言葉が重ねられていく。(→暗転)

ふたり 》

はじまり・おしまい・日向・日影・雨降り・水まき・
かんかんでり・ざんざんぶり・カモミール・ペパーミント
・ベンジャミン・紫陽花・根っこ・花弁・手紙・電話・
ことば・返事・かみくず・物語・あとがき・憂鬱・
記憶・空の断片・眠れない夜・青く青く・共鳴・警告

(テープ)
わたしの部屋を支配している/うつむいた葉/生々しい緑/はじめまして/
先生の小説を読み返します/それはいつも窓辺にあって/
心に共鳴するのです/四角い窓に切り取られた/物語とともに/植物は呼吸している
/先生の言葉/わたしを支配している/はじめまして/こんにちは/
この小説は/ハッピーエンド/実際にあった/叶わない現実/
憂鬱な植物の/鼓動が聞こえる/小説家はいつも/第三の視点で/
わたしとあなたとを/もの憂げに見据えて/絡めとろうとしている

ふたり 》 メランコリック・プランツ

 暗闇の中、憂鬱な音楽が一段と大きく鳴り、
やがてフェイドアウト。


   *** 三島菜々 一通目 ***

明転すると、舞台の上手と下手にそれぞれ分かれて、
二人の女性が台本(?)を持って椅子に座っている。
先ほどのオープニングが嘘のようないたって普通の様子。
下手の女性が小説家。
観客のことを気にすることなく、次の作品の構想を練っているような様子で
台本を開き、視線を落として読み込んでいる。
二人の女性の間には小さなテーブルがあり、
その上には電話と植物(鉢植え)が乗っている。
やがて上手の女性(三島菜々)がゆっくりとひざの上の脚本を開き、読み始める。

*

東京都千代田区神田郵便局私書箱302号 昭栄社パステルハート編集部 
若草めぐむ様

 前略 若草めぐむ先生。
 はじめてお便りさせていただきます。
 わたしが先生の小説にはじめて出会ったのは、今から3年前、わたしがまだ高校の制服を着ていた頃の事です。あの日は明け方までひどい雨が降っていて、わたしは一睡もできないままに学校へと続く長い長い坂を登りました。空はさっきまでの雨が嘘みたいに澄み渡り、どこまでも遠くて、わたしを不安な気持ちにさせました。
 今でもはっきりと思い出せます。あの時の空の色、道端の濡れた緑の生々しさ、湿気を含んだ制服のプリーツの重さを。
 そう、あの日わたしは出会ったのです。先生のデヴュー作『ナイショの屋上ドリーミング』に。今から思えば、あれは運命だったのかもしれません。
『ナイショの中庭スキャンダル』『ナイショの放送リクエスト』『ナイショの放課後ミーティング』先生の「ナイショシリーズ」は、全部初版で持っています。なかでも『ナイショの屋上ドリーミング』は、何度も読んだせいで、もう本がぼろぼろになってしまっている程です。
 眠れない夜、わたしはよく先生の本を読み返します。先生の小説には、他の小説にはないなにかがあると、わたしはずっと思ってきました。
先生の最新作『フレイヤの迷宮』、ついさっき読み終えました。
…感動しました。この感動を自分の中でどう受け止めていいのか、ましてやどう表現していいのかわからず、今、とても混乱しています。
とりあえずこの思いを一刻も早く先生に伝えたくて、急いで筆をとりました。
またお手紙させて頂きます。

三島菜々


 *** 若草めぐむ 一通目 ***

効果音 …FAX送信の音

「 FAX送信表 パステルハート編集部 杉村様 本状を含めて二枚。
 いつもお世話になっております。
 『フレイヤの迷宮』好評ということでほっとしました。杉村さんに学園ラブコメに、フ
ァンタジーの要素を入れた方がいいというアドバイスを頂いたおかげです。『ナイショシリーズ』以来読者の反響が少なくなって密かに落ち込んでいたのですが、先日頂いたファンレターの中には、熱烈に応援してくださる読者の手紙がいくつもあり、元気をとりもどしました。
 ようやく続編『ワルキューレの刻印』のあとがき原稿があがりました。遅くなって申し訳ありません。こんな感じです。

 【あとがき】
 こんにちは、若草めぐむです。えっと、あとがきであります。
 この本、『ワルキューレの刻印』は、前作、『フレイヤの迷宮』が好評だったので、続編として出すことができました。みんなありがとう!『ワルキューレの刻印』を先に読んでしまったという人も、『フレイヤの迷宮』、読んでくださいね。
 前作に続いて、フレイヤの生まれ変わり、仁科寧々ちゃんが学園を救うために大活躍。めぐむもだいぶラブコメからファンタジーになれてきました。
 そうそう、今までのめぐむのヒロインにくらべると、寧々ちゃんは苦労が多くて、読者の皆さんをずいぶんはらはらさせているみたいですね。あ、でも苦労と言えばこの作品では寧々ちゃんだけじゃなくって、甲斐くんと忍くんも満身創痍って感じですよね。(って、わたしがいじめてるのか、ごめーん。)でも大丈夫。めぐむの小説の登場人物はみんな幸せになれます。今回だって、ね、みんな幸せになれたでしょ?
 わたしはハッピーエンドが大好きです。だってハッピーは、誰かひとりのものじゃなくて、みんなのものだと思うから。わたしの小説の登場人物で、ひとりでも泣いている人がいたら、わたし、ちょっと悲しくなってしまいます。そんなわけで、今回もハッピーエンド。いつもわたしは無理矢理にでもハッピーエンドにしちゃうんですよね。だけど、物語のハッピーエンドって、なんだか人を勇気づける力があると思うんです。
 だから、ファーゾルトと闘う寧々ちゃんの物語を読んで、よし!わたしもがんばってハッピーになろう。って、思ってくださることを願っています。
 それでは、この本を読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。これからもめぐむのこと、応援していてくださいね。

 って感じなんですけど、杉村さん、どうでしょうか。よろしくおねがいします。

若草めぐむ


   *** 三島菜々 二通目 ***

 東京都千代田区神田郵便局私書箱302号 昭栄社パステルハート編集部 
 若草めぐむ様

 前略またまたお便りします。先生、お元気でいらっしゃいますか?
毎日お手紙を書いているので、なんだか先生が家族みたいな…いいえ、それより近しい存在のように思えます。
 お仕事をしているときでも「今日は先生どのくらい原稿を書かれたのかしら」なんて考えてしまうし、それに最近ではご飯をつくる時にいつも「先生はちゃんとご飯を食べたのかな、栄養のバランスはちゃんと取れているのかしら」なんて心配をしてしまいます。と言うのも、わたしは今、とある出版社でダイエットに関する雑誌をつくるお手伝いをしているからなんです。…お手伝いと言っても、事務でコピーをとったりワープロを打ったりするだけなんですけど。でもアンケート結果なんかを見ていると、食事からその人の生活が浮かび上がってくるみたいで、すごく想像力をかきたてられてしまいます。
 先生、今まで考えてもみなかったけれど、なにかを食べることってすごく生々しい事ですよね。例えば桃の薄い皮を指ですうっと剥いて、滴る果汁に手を汚しながら口に運ぶとき、その少し押せた果肉と自分の肌の色合いがどことなく似ていることに気づいたりすると、なんともいえない気持ちになります。今あるわたしの体を構成しているものはかつてわたしが飲み、食べ、消化したものなんだということを目の前につきつけられたような…。
 なんだか話がそれてしまいましたね、ごめんなさい。
 ところで先生、わたしが今お仕事している「とある出版社」が何処だか、わかりますか?そうです、昭栄社なんです。
 もしかしたら先生にばったりお会いすることがあるのかもしれない…なんて思うと(もちろんそんな偶然、なかなかないと思いますが)ちょっとどきどきしてしまいます。
 もうすぐ先生の新刊、『ワルキューレの刻印』が出ますね。『フレイアの迷宮』の感想、きちんと先生に伝えたいと思っているのですが、まだ自分のなかでもうまく整理できなくて…。でも、なんとなくですが『ワルキューレの刻印』を読んだらきっと答えが出るというかわかるような予感がしています。
それではまたお便りします。

三島菜々

菜々が手紙を読んでいるときのめぐむの動きは、どこか行き詰まったような感じ。
電話に手をかけて、やっぱりやめたり、急に立ってうろうろしたり。(あくまで菜々の背景として動くこと)少し情緒不安定なめぐむと菜々が対照的に見えるように。


   *** 若草めぐむ 二通目 ***

効果音 …FAX送信の音
効果音にあわせて薄く音楽が入りはじめる。
めぐむ、FAXを読み始める。菜々はあまり動かず、いたって普通。ほんっとに普通。

FAX送信表、本多聡様。本状を含めて二枚。
 聡、元気にしてますか?なかなか連絡がつかないようなのでFAXしました。あなたも忙しくしてるのかな?わたしの方は〆切前でちょっと疲れちゃった。なんて、つい弱音がでちゃうな。でも聡は、会うとわたしの話をにこにこ聞いてくれて、それだけでわたしの気持ちはとってもすっきりするんだ。
 いつも〆切のせいでなかなか予定を合わせることができなくてごめんなさい。本当は、とっても会いたいです。でも小説のお仕事も好きでやってることだから頑張りたいの。

 そうそう、また新作が出版されます。この前出た『フレイヤの迷宮』の続編で『ワルキューレの刻印』っていうの。主人公をいつも助けてくれる甲斐くんっていう登場人物は、なんとなく聡に似ているような気がします。そんなつもりで書いていたわけじゃないんだけど、いつのまにか、似てしまったみたい。ひとりで仕事をしているときでも、知らず知らずのうちに聡に助けてもらってるみたいです。…なんて、変なこと言うなあと思うかもしれないけれど、いつもありがとう。

 追伸:聡もいろいろ忙しいのかもしれないけど、たまには連絡下さい。FAXでもいいし留守番電話でもかまいません。

めぐむ

音楽を残して暗転。


*** ブリッジ・メランコリックプランツ ***

めぐむ 》
あ、夕飯の支度…
なに、食べようかな。野菜、やさいやさい。緑の野菜。
ホウレンソウ、小松菜、白菜、チンゲンサイ、キャベツ、レタス、クレソン
…ラプンツェル。(楽しくなってくすっと笑ったり)
ホウレンソウのグラタンにしようかな。
菜々  》
『バラ ノ キニ バラ ノ ハナ サク  ナニゴトノ フシギ ナケレド』 
 野に咲くバラはあどけないと、みんな言う。
切られたばかりのこのバラを、どんな花瓶にいれようか? (花瓶をさがす)
『愁ひつつ 岡にのぼれば 花いばら』 (棘が気になる。) 
……いばらの冠は、「あどけない」と言うのだろうか?


   *** 三島菜々 三通目 ***

明転。菜々の手紙。
途中から音楽。(説得力をうながす音楽)

東京都千代田区神田郵便局私書箱302号 昭栄社パステルハート編集部 
若草めぐむ様

 前略 若草めぐむ先生
 最新刊『ワルキューレの刻印』、昨日ようやく読み終わりました。この本は、先生の書かれた本の中で…いいえ、この世界にあるすべての本のなかで、最もわたしに大きな衝撃を与えたものであると思います。1ページ1ページをめくることに、これほどまでに緊張を強いられたことはありません。
 正直に言います。以前手紙に書いたように、わたしは先生がデビューしてから今に至るまでずっと、先生の小説をリアルタイムで読み続け、いわゆるファンを自認してきた訳ですが、一方で、わたしは先生の本を買うことに最初から一種の抵抗を感じてもいたのです。
 先生の小説には他の小説にはないなにかがある、とずっと思ってきたのも本当です。けれども失礼な言い方ですが、先生の小説には「少女小説である」ということにべったりと依存しており、文学的に優れているとは言い難いところがあると思います。 
 それではなぜわたしは先生の小説に惹かれ続けてきたのか?わたしはそのことををずっと考えてきたのですが、『フレイアの迷宮』、『ワルキューレの刻印』を読んで、それがなんであるのかはっきりとわかりました。
 それはシンパシー、共鳴です。わたしはあなたの感性に、心に共鳴するのです。わたしはあなたの描く世界、あなたが本当に書きたいと思っている小説を、知っています。そう、あなたの小説のイデアが、わたしには見えるのです。
このシリーズの主人公・仁科寧々はわたしであり、そしてあなた自身でもあるのです。
 あなたはこの小説のあとがきで「ハッピーエンドが大好きである」と書いていました。
「ハッピーは、誰かひとりのものではなくて、みんなのものだと思う」と。
 けれども本当にそうですか?あなた自身は、今ほんとうにそんなハッピーを望んでいるのでしょうか?…望んでいるのかもしれません。けれどもそのハッピーが現実にはないものであること、求めても得られないものであることを、あなたはもうすでに知っているのではないのですか?あなたは、あなた自身が書いていたように、「無理矢理にハッピーエンド」にしてしまうことで、自分を無理に納得させているのではないですか?
…わたしにはわかります。そしてわかるからこそ、あなたには本当の道、本当の世界をつくって欲しいのです。あなたはわたしの言うことを、わかってくれますよね?
 またお便りします。そして、あなたからの連絡を、心待ちにしています。

三島菜々


  *** 若草めぐむ 三通目 ***

 効果音 …FAXの音。

 FAX送信表、昭栄社パステルハート編集部 杉村様。本状を含めて二枚。
 すみません。次回作の原稿、少し難航しております。実はそのことで相談に乗っていただきたくFAXした次第です。
 ささいなことと思われるかもしれませんが、ファンレターの中にちょっと気になるものがあるんです。編集部のほうでもお気づきかもしれませんが、三島菜々さんという読者からの手紙です。わたしの熱烈なファンとかで、ほとんど毎日手紙を書いているようです。熱心なファンがいることはわたしとしてもとても嬉しいのですが、なんていうんでしょうか。わたし、そんなに熱心にお手紙をいただく経験がなかったものですから、ちょっと、プレッシャーな感じです。でも、ほとんど毎日、つまりひとつきに三十通ほど。それって、多いですよね。どんなに熱心にラブレターを書く人でも、毎日なんて、なかなか書けないんじゃないかと思います。それも三島菜々さんの文章はいつも整然としているんです。ちっとも乱れがないのです。わたし、小説書いているくらいだから、たくさん文章を書くのって、すごく精神力とか、集中力とかがいるって、わかってるつもりです。それなのに、それも手紙なのに、いつもきちっとした文章であんなに書いてくるなんて、わたしなんかよりも小説家にむいてるんじゃないかなあ、なんて思ってしまうくらいです。
 あと、本当のことを言うと、最近の彼女の手紙の内容が、ただのファンレターというものとはちょっと違ってきたのです。別に誹謗中傷するような事が書かれているわけではないのですが、わたしの小説を誤解して読んでいるような感じなのです。それってわたしが悪いわけでも彼女が悪いわけでもないのですが、なんとなく、落ち込んでしまって。これからわたしの書く小説がどんなふうに受け取られるのかなあと思うと、なかなか原稿も進まないのです。
 そういうわけで、わがままを言って本当に申しわけないと思うのですが、三島菜々さんからの手紙は編集部の方で処分してくださると助かります。本当はこんなこと言いたくないんですが、仕事がこれ以上難航すると困るので。よろしくお願いします。

若草めぐむ

  

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