オミナエシ

著/ 薊野佑子

女は母親の代用であり、女というものは母親のように寛容で、女神のように威厳があり、阿呆のように際限もなく溺愛してくれ、なおかつ邪悪な動物のように悪に憑かれた魂をも兼ねそなえているものでなくてはならなかったのである。

(大庭みな子 「山姥の微笑」より)

 

「男って結局は、女って女神のようで悪魔のようで、最後には自分のために死んでくれると思ってるのよ!」
 と、某演劇を見た後のランチタイム、憤っていたのはノエミ。
「ふーん」
 と適当に相槌をうっているサクヤは、つまらなかったのでどうでもいいというスタンス。
 あてが外れて美味しくもない卵料理を、真顔で胃に押し込んでいる。
 ノエミの憤りには、自分に何か思い当たる節があったせいだと気づいていて、あえてノーコメントを決め込んでいるのは、カナエ。
「なんかよくわかんなかったし」
 サクヤが呟くとノエミが複雑な表情で「え、わかるよ」と言う。
(やっぱり、勝手に苦悩しているわ、この人。)
 カナエは、思った。
 ノエミは、自由奔放で魅力的だと思う。女神のような寛大さと、悪魔のような情熱を感じさせる器だということも、決して嘘ではない。男友達が多いのも納得がいく。
 カナエは、調子を整えるように軽く溜息をつく。

「お誕生日おめでとう」
 上品なティールームの向かいの席で、優しさ一杯の表情を浮かべながらテディベアを差し出す男。カナエはひきつった表情で
「わぁ、かわいい…。どうも、すみません。」
 と言った。「ありがとう」とはついに言うことができなかった。ちっとも彼女の趣味じゃなかったのだ。照れくさそうな笑顔のまぬけな男。彼女の良心はさいなまれた。
 カナエは、自分の容姿が好きではなかった。透き通るように白い肌、猫っ毛でやや茶色いまっすぐの髪。おまけに鼻にかかった声。少女幻想を絵に描いたような見た目。それを無邪気に振りかざせるほど、彼女はおめでたい性格ではなかった。
「ごめんなさい。実はおばあちゃんが風邪ぎみで、今日家に誰もいないの。」
 心から申しわけなさそうに上目使いで言うカナエ。実は大嘘なのだが、大抵の男性がカナエのこんな物言いには逆らえない。半分無意識、半分わざと。彼の思い描く自分をついつい演じてしまうのは、彼女の本能らしい。
 テディベア男をうまくあしらって、ひとり駅に向かうカナエ。ご丁寧にテディベアは、透明の風船にラッピングされている。それを抱えて渋谷の街を歩くカナエに、道行く人が振り返る。行き場のない怒りが込み上げてくる。
(あいつらが求めてくるような、可愛らしい優しさなんて、わたしは一編も持ち合わせてないのよ。見た目より全然冷たいんだから。)
 怒りのベクトルは、自分自身や相手の男やあちこちに右往左往する。
(ノエミだったら、何もらったって満面の笑みでお礼言うのよ。相手の気持ちに対して、素直に感謝できる娘なのよ。わたしにそんな心の広さはないんだから。こんなものくれたって無駄なのに。)
 不機嫌そうな顔で渋谷駅から電車に乗るカナエ。
 自分にプレゼントをすることができて満足そうな男の顔を思い出して、吐き気がする。そんな自分が申しわけなくもあり、「ごめんね」と心の中で呟いてみると、ジレンマに拍車がかかり余計に気分が悪くなる。青ざめて口元に手を当てていると、斜め前に座っていた男性が席をゆずろうとしてくれた。
「いいんです。平気ですから。」
 自分の容姿の威力が発揮されていることを感じながら、カナエは純粋に怪訝に思っていた。が、この男はカナエが怪訝に思っているなんてことは微塵も思っていない。「やっぱり具合が悪いんだ。」としか思わないに違いないのだ。断りきる気力もないカナエは、結局席をゆずってもらった。
「すみません」
 やっぱり、「ありがとう」とは言えなかった。まるで、「感謝の気持ちが持てなくて、すみません。」と言っているようだった。

 自作の着メロが軽快に鳴る。
「もしもしー?」
 朗らかに応対するノエミ。もう十二時をすぎ、日付が変わってしまっている。
「今、ひま?」
「うん、ひまだけど、どうかしたの?」
「なんか寂しくなっちゃってさあ、これからどこか行かない?」
「でも、もう電車ないじゃない。」
「車で迎えに行くから。」
「ほんとに?だったら別にいいよ。最近退屈してたし。」
 ノエミは大柄で個性的な美人。気さくな性格で男友達は多いが、恋人はできない。こんな電話も、とりたてて事件でもない。彼女が実家に帰省中で人恋しくなった男友達。
(これって浮気?…そっか、浮気かな。)
 ノエミはちらりと考えを巡らせるが、すぐに「ま、いいか」っとなるのがいつものペース。会えば楽しい友達が、一緒に遊ぼうと言っているのに、断る理由がわたしにはない。そういう理論なのだった。
 こんな友達が彼女には何人もいた。みんな心の通った友人だったし、おおらかに彼らを受け止めていた。しかし、恋人には恵まれない。
「いっつも友達以上、恋人未満なのよねえ。」
 本命にふられて以来、少々辟易しているノエミ。
 助手席に腰かけて腕を組んでいる。どこへ向かっているのかよく分からない運転に身を任せているのは、友人としての信頼ゆえ。
 運転中の彼が、ノエミに答える。
「違うよ。恋人以上であるがために、恋人の資格がないんだよ。」
 ノエミは、なんのことやらと首をかしげる。
「みんなそうでしょ、ノエミには心の根幹握られてるんだよ。俺、彼女には嘘つけても、ノエミに嘘つけないもん。」
 ノエミは溜息まじりに鼻で笑った。
「わたしをふった浮気男も、彼女には嘘ばっかりついてたわ。」
「心のよりどころなんだよ。菩薩だね。」
(菩薩だってよ、えらいもんだ。)
「そいでもって悪魔だね。『小』が付かない悪魔。」
「へえ、すごいのね。」
 たいした女に祭り上げられて、気にしなければ一人勝ち。しかしどうも、そんな気にはなれない様子のノエミだった。

「あの〜、もう忙しいから切るよ。」
 不機嫌最高潮を精いっぱい表現しながら、サクヤは言った。つもりだった。
 ちょっと友達づてに知り合っただけのはずの男。そいつの悩み相談電話につきあわされて、すでに二時間がまわっている。手にはゲームのコントローラーを握っている。RPGに熱中していて、実のところ話の内容など聞いていなかった。
「ああそう。もう後は自分で考えなよ。わたし忙しいから。」
 かなり冷たい調子で会話を打ちきろうとしているサクヤ。
(こんだけ言ってるのに、なんでわかんないのかしら。)
 サクヤは、淡白な印象で、地味ながらも綺麗なタイプ。華やかさはないが、それが気安さにもなっている。無関心を装った静かな物腰で、冷徹に人間観察をしている彼女の本性に気づく男性はあまりいない。
(こんなバカ話につきあわせて、もしかして嫌がらせかしら。)
「ふーん、あっそう」
 彼の悩みはどうも、女の子を妊娠させてしまったとか。男の責任だかなんだか知らないが、かっこつけたい気持ちとはうらはらに、本音は責任逃れしたいらしい。
(自分のへまは自分で処理しろってもんだ。)
 モニタの音量を小さくしているゲームが、こっそりと終盤にさしかかる。
(やった、ボスキャラだ。)
「ごめん、わたしほんとに忙しいの。」
 彼の言葉を遮り、せっぱ詰まった調子でサクヤは言った。「え、でも…」と彼が言いかけるのも無視。
「だから忙しいの」
 受話器を放るようにして電話を切り、ゲームに専念する。すでに彼の悩みなど、彼女の心に微塵も残っていなかった。
 これだけ手ひどく振る舞っても悪いようにとられないのは、彼女の温和な印象らしい。本人は、相手がどうかしてるといつも言い張っているが、それもその通りだとノエミやカナエは思っていた。しかし彼女が、そういう相手になつかれやすい性質を持っていることも事実だった。

「それでその男が、一週間後、わたしのこと好きだって言い出したのよ。」
 サクヤの言葉を聞いたカナエは、一瞬冗談かと思い唖然とする。ノエミは火がついたように腹を抱えて笑っている。
「笑いごとじゃないよ!生まれた子供の世話でも押しつける気かと思って、真剣に怖かったんだから!」
 サクヤは、真面目なのか小バカにしているのかわからないような調子で言った。
「…すごいね」
 カナエは眼を丸くしている。
「感心してる場合じゃないよ。」
「いるんだねぇ、そういう人。それにしても相手を選んだほうがいいわよね。だってサクヤでしょ?」
 ノエミはおかしくてしょうがないらしい。
「ほんとだよ、わたしのことどういう女だと思ってるのかしら。」
「めちゃめちゃ母性のある人とか、心優しく寛大な人とか?」
「それって、ほとんどサクヤとは対極にある人間性だね。」
 さりげなく致命的な一言を発したのは、甘い声のカナエである。
「なんであんなに冷たくしてるのにわかんないんだろ。どうかしてるよね。」
 カナエの発言はさして気にせず、容赦なくサクヤはこきおろしている。
「だから男ってのは、女は聖女であり魔女であって欲しいと思ってるのよ。潜在的に。それは歴史が証明していると言ってもいいわ!」
 唐突にノエミは熱をこめて言った。
「さっきの芝居の話?」
 サクヤが、そうでないことを知りながらたずねる。
「わたしが言われたのよ。菩薩で悪魔だって。」
「ああ、言われる言われる。」
 サクヤが淡白な反応を示す。
「言われてみれば、わかっていたけど、言われると、なによね。」
 ノエミは支離滅裂なことを言いながら、美味しくない卵料理を、半ばやけになって口にほおばる。そして、おおまかに事情を話す。ノエミは感情が先走ってしまい、状況説明などをするのが下手である。そんなことには慣れっこのサクヤとカナエは、いたって冷静にノエミの話を聞いている。
「いいじゃないのよ。みんな甘えてるんでしょ?気にすんなよ。」
 とサクヤがあっさりと言う。
「そうだよ。それもサクヤみたいに、誤解がつっぱしってるわけでもないんだし。」
 カナエも、食べきれない料理の皿に視線を落としながら言った。
「あー、そーねー。当たらずとも遠からずっていうか。ただそれが本当だと、平凡な幸せからほど遠い気がしてねー。」
 ノエミの落ち込みは、だいぶ深いらしい。
「だって、落ち着きたいと思ってないでしょう。」
 ずばり一言、サクヤが言った。ノエミは凍りついたように考え込む。
「ごめん、そうかも。っていうか、あんまり思い浮かばないわ。落ち着いてるとこ。」
 無言でうなずきあう、サクヤとカナエ。
「わたしは、悪女だと思われないんだよねー。結構ひどいこと思ってるのになー。」
 今度はカナエがぽそりと言った。まあそうでしょうね、としか言いようのないノエミとサクヤ。
「ほんとに、人格疑われるようなことばっかり思ってるのよ。わりと。」
「ほぉー、どんなことよ。」
 ノエミが面白そうにたずねる。やっと料理を食べ終えたところだ。
「うーん、それはちょっと。ほんとにひどいから。」
「なによなによ」
 余計に聞きたがるノエミ。困って首をかしげるカナエの可愛らしさも、ノエミには通用しない。
「なんていうかね、わたしってまず、あんまり人を好きにならないでしょ。」
「うん」
「それで、わたしのことなんか視野に入らないような人を好きになっちゃう場合が多いと思ってたんだけど…。」
 カナエは、言いづらそうに一呼吸おいた。
「わたしのこと見ない人がいると、ちょっとこっち見ないかなあって…。そんな感じなの。本当に子供が無意識に思うみたいに。それも、人が欲しがってるような誰かに対しては特にそうみたいなのよ。」
 それを聞いたノエミとサクヤは、声をたてずに苦笑した。
「まあね、それは潜在的にみんな思ってると思うんだけどね。普通だよ普通。」
 ノエミが、軽く言ってのける横で、「いやそれはどうかと思うね」と口には出さずにいるサクヤ。やっぱりノーコメントである。
「でもね、それがまた、こっちむいたとたんにどうでもよくなるのよ。」
 ノエミは、あっはっはと景気よく笑う。サクヤはひかえめながら呆れ顔。
「カナエって一番悪女の素質あるじゃん。あたしなんかが悪魔呼ばわりされてる場合じゃないよ。」
 実際ノエミは、三人の中で一番自分が優しい性格だと密かに思っていた。カナエの身のない短期型の優しさといい、サクヤの仁義なき切り捨て方といい、トラウマになりそうだ。
 ともあれ、世の男性に見る目がないと言えればまだいいが、自分たちの運のなさは、何か裏づけのある確固たるものという気がしてならない三人だった。

「あの子がいるんじゃ、わたしもうこのサークルいられません!」
 ショックを受けるより先に、ドラマの物真似かと真剣に考えるサクヤ。
「わたしが先輩のこと好きだって知ってるくせに!もう絶交よ!」
 絶交…。小学校以来はじめて耳にする言葉に、不気味な懐かしさを感じるカナエ。
「自分の好きなようにばっかりして、わたしのことは考えてくれないわけ?!」
 それは彼氏に言ってくれ、と言っても通じないことだけは確かだと思うノエミ。

「いい加減、人間丸くなるってもんよ」
 ノエミは、煙草の煙を照明に向かって吹きつけながら言った。これが丸くなった人間の態度だろうか。
 三人はまずい卵料理屋から、珈琲屋に場所を変えていた。
「なんであのサークルでわたしが人気だったのか全然わからないのよね。そして、なぜ志麻ナギサに目の敵にされなきゃいけなかったかも。まあ、彼女の好きな先輩がわたしを好きだったらしいんだけどね。」
 こんなことを一片の自慢もなく、純粋に不愉快そうに話すサクヤは痛々しい。
「ほんとなんでだろうねえ、サクヤばっかり」
 心から同情するカナエとノエミ。本気でなぜかわからない。決して男性に愛想も良くないが、女友達に対して礼儀を欠くようなこともないサクヤである。彼女のイメージにそろいもそろって、周囲が振り回されているとは。
 運ばれてきた珈琲がコペンハーゲンのカップだったことに気を良くして、思わずにんまりするサクヤ。こういうところが可愛く見えるのだろうか。
「ま、カナエの場合は、あんたに火がないとは言いきれないかもしれないけどね。」
 ノエミは、グァテマラコーヒーの味にご満悦。
「え、そうなのかなあ。でもなあ、写真撮らせてくれって言われて、しかも海辺で撮りたがられるの、その先輩で三人目だったんだよ?今更ってかんじじゃない。」
 カフェオレに砂糖をたっぷり入れているカナエ。この辺りも少女っぽい。
「その海辺写真で絶交か。」
 とサクヤ。痛くもかゆくもなさそうな言い方である。実際そうだったかもしれないが。
「それでその子、結局どうしてるの?」
「やめちゃったわよ。」
「カナエの勝ちだね。」
 ノエミは言いながら、また自分の事を思い出して勝手に落ち込みはじめる。
「リエなんてやめないわ、口きいてくれないわ。」
「だって、略奪愛でしょ。当たり前だよ。」
 サクヤの一言はストレートに刺さる。
「でもね、半分かそれ以上、男の責任だと思うのよ。彼女を傷つけたっていうのは。わたしは彼女に直接何もしてないし。」
「そんなこと言ったらわたしたちのほうこそ、そうだよ。」
 カナエも追い打ち。
「ああ〜だから学習して、今つきあってる人みんな、彼女を傷つけたりしない人たちなのよ!」
 だから浮気もばれず、常に闇から闇の存在を強いられているのもそのためだ。と、自分で致命的なところを心の中でえぐるノエミ。
「別にみんながみんな彼女いるわけでもないんだけどねえ〜。なんか水面下でしか事が起らないのって、やっぱあれ以来かな。」
 女性の会話に脈絡なし。それぞれが気にしていることを少しずつ昇華していく。それにしても、はたから聞いたらこの会話、随分と傲慢に聞こえる事だろう。三人とも、もててもてて困っているかのようだ。(そうとも言うが)
 カナエが店員から煙草を買っている。8ミリのセイラム。最も煙草の似合わない容姿で一番のチェーンスモーカーである。煙草を吸っている姿を、いつも綺麗だと褒められるノエミは、実はカナエよりも軽い6ミリのキャスターだ。それなのに、カナエよりも遙かにヘビースモーカーの印象を持たれ、いつも不服を言っている。
 七時を回ると、この珈琲屋はバーになる。サクヤはミントジュレップをオーダー。照明もぐっと暗くなり、心地良い不健康空間が生まれている。
 どこからどう飛び出してくるのか、会話にも熱がこもってくる。
「だからいまだに、女は男で汚れると思ってる奴が多いのよ!」
 波乱万丈な状況にうっぷん溜まっているノエミは、女性観を語り出すとすぐ熱くなる。
「いるの?そんな奴?」
 サクヤがいかにもばかばかしいといったふうに受ける。
「いるよ、いるいる。チャットとかで知り合う男にあたしの話すると、絶対に『男は美味しいけど、女はなあ…』って言うのよ。失礼よね。フィフティーフィフティーのはずじゃない?」
 うっぷんは溜まっているが、自分の築いている人間関係に、ある意味強く自信を持っているノエミはお怒りである。
「やっぱりそうなのねえ。だから援助交際のコギャルとかもこきおろされるのよね。」
 しみじみするカナエ。
「え?だってそれは、後で自分が困るからやめなよっ、てことじゃないの?」
 サクヤはきょとんとしている。
「違うんだよ、こきおろし方が。倫理的に不潔で自分には信じられないってことで、嫌悪しているだけなのよ。実は全然論理的じゃないの。」
「そうなの?知らなかった。バカだね。」
 サクヤのすっきり合理的な思考は、仁義に欠けることもあるが、正しいこともかなり多いと切に思うノエミとカナエ。
「それはお門違いだよね。援助交際がいいとか悪いとか以前に。ただの嫌悪で人を侮辱していいって理屈はないよ。」
「男なんかでいちいち汚れてられるかっての。」
 問題発言、爆弾発言の宝庫と化するこの場。
「すみません、テキーラにレモンだけしぼってもらえます?」
 こんな注文をするのは、強いお酒に目がないノエミ。店員も面食らっている。カナエが優柔不断っぷりを発揮しながら、フローズンダイキリをオーダー。このまごつきかたがまた、可愛らしくて腹ただしい。
「つまり、みんな自分の器量を使いこなせていないのよ。」
 舞台映えでもしそうな台詞で強引に場を引き締めるのは、なぜかノエミ。妙な感慨が湧いてくる。
 カナエは、相手の持つイメージをつい演じてしまう。サクヤは、持ち前のキャラクターをうまく表現できない。ノエミは、自分でも望んでいるイメージに自分でついていけなくなって自滅する。本人たちから見れば、うまくいかないことばかりだが、お互い客観的に見ると、それぞれたいした器だった。カナエは、相手に応じて演じるだけの器量があり、そのベースを持っているわけで、自分の好き勝手にそれがコントロールできれば天下無敵のはずである。サクヤは、ただそれだけで好意を持たれたり敵意を持たれたりするほど、何かを感じさせる女。その何かを確かな形で表現できればカリスマな存在間違いなしではないか。ノエミは、自分の主義にかなった個性を人に認めさせているのだ。それを自分で完璧に消化できれば、一人勝ちのはずだ。
 そんなことを互いに言い合っては、落ち込んだり希望を見いだしたり。
「自分を使いこなせれば、みんなそりゃ、いい女なのよね。」
 フローズンダイキリをかき回しながら、しんみりムードをかもしだすカナエ。
「少なくとも、自分以外のふたりを見ているとそう思うわね。」
 うんうんとうなずきあう。心から納得している三人だが、これもはたから見るとさみしい女の慰めあいなのだろうか。
「やっぱ、女友達よね〜」
 ほろ酔い気分になったノエミが、はしゃぐ。ノエミはいつも素直に情を示す。しきりにお店のカクテルの味を褒めてご機嫌なサクヤも、楽しんでいる証拠である。実は情に薄いカナエも、言葉少なに
「また来ようねえ」
 こんな奇妙なバランスの女友達が、夜の渋谷で、元気だった。

 ほんとうに女って、悪魔のように質が悪くて、でも可愛い生き物なのでしょう。そしてそんな自分との戦いで、いい女になろうとしているのが、やっと二十代を歩き出したわたしたちだった。

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