300円

text by 琴川みや

以下、私が見た夢の内容を、すさまじく忠実に描写したものです。足したり変えたりはしていません。我ながらすごい夢を見たものです…。感心。
 ではスタート。


 東京とは名ばかりの離島で、私は生まれたらしい。生まれたときの記憶なんて持っていないから、それが本当だとは言い切れなかったけど。私が5歳のときに出てきた弟は、産まれる瞬間を見てたから、島で生まれたのに間違いはなかった。
 母親の顔は知っている。父親の顔は知らない。友達はいない。
 お金はない。家もない。どうやって暮らしていたか、覚えていない。ただ母と弟と、3人でいつも座っていた気がする。
 そしてある日、自分と弟は、2人で300円になった。

 島に来る人買いは、大抵船で東京から来ている。私と弟を買ったのも、東京の男だった。14歳の私と同い年くらいに見える子供を、たくさん連れて、彼は船に乗った。9歳の弟は、小さすぎて少し浮いている。
 船は、エンジンで動く船だった。が、屋根はなかった。
 台風の時期に来たこの男が、バカだったのだ。私と弟を含めた商品たちは、船に乗って8時間後、もう船の上にはいなかった。というより、船に上は存在しない状態になっていた。
 私はとりあえず、弟の手を掴んだ。ひっくり返った船から流れてきた何かに捕まって、這い上がって、そして意識を失った。
 次に目がさめたのは東京。下町、というところらしい。近くに海が見えて、私たちはそこで拾われたのだと説明された。
 私たちを拾ったのは、自活集団のうちの1つだった。バラックとがれきの町であるここで、日雇いの仕事を転々とし、お互いで支えあう、家族のような集団のうちの、1つ。そこのリーダー格の女リンと、いつもその側にいる男カトウに、拾われたらしい。
 弟は、そのトタンとベニヤを瓦礫に貼り付けたような家に住み、周囲の大人たちの使いっ走りをすることになった。私は自分の仕事を探さなければならなかった。
 町は、ボロボロだった。建物は崩れるか地面に沈むかしているから、3階がある建物が一番高くそびえたって見える。もうすこし都心で、力仕事か販売の手伝いかするしか、仕事はなかった。身体を売るのは気が進まなかったから。
 なかなか私の仕事は決まらなくて、私はただ自活集団に食べさせてもらうだけの居候になっていた。
 そんなある日、私はカトウと、仕事を探しに繁華街へ出た。一通り探したが、私を雇ってくれるところはない。一休みすることにして、ロッテリアへ向かった。販売ブースが道の際にあるだけで、座席は道路にテーブルとベンチを置いただけのものだ。しかし私たちは何も買わず、前の客のトレイが乗ったままのテーブルに着いた。それだと、金を払わずにそこに座っていることが出来るので。
「どうしてこんなに差があるの?お金があるのって、そんなに偉いの?」
普通に食事を買っている人々を見ながら、私は怒っていた。ハンバーガを買う2円のお金さえ、私は持っていない。
「私と弟は、2人合わせて300円だったわ。今思えば、私が200円で弟が100円だったんだと思うけど。」
私は、身体はやせぎすだが、顔はなかなか綺麗だ、と自分では思っていた。髪はおかっぱだが、量はそれなりにあって、悪くはない。自活集団にある程度食べさせてもらっているので運動もこなせるし、自惚れていた。
「こういう店にきても、何も買えない私がいるのに。どうしてこんなにこの人たちは普通にお金を使っているの?」
「いや、俺もここの飯くらいは買えないことはないけどさ。」
カトウは煙草をギリギリまで吸いながら、苦笑いする。
「でもカトウ、気軽におごってって言ったら断るでしょ?」
「まぁな。でも給料入りたてとかだったらおごってやってもいいぞ。」
「嘘つき。」
ふと、私の横を少女が通りすがった。さらさらの髪が綺麗な少女で、どこか自分と似た顔立ちの気がした。
なんとなくその少女を目で追っていると、小太りの男が彼女に近づいていった。声をかけ、肩に手をおき、何か話している。私はやばいな、と思った。あれは彼女をかどわかそうとしている、間違いなく。
席を立って、二人を追った。加藤が後ろで何か言ったが、聞こえない。だんだん二人の様子が争うようになってきて、少女は抵抗を見せた。なんとかして彼女を助けたい。
「メグミ?なにしてんのよ。」
私は知り合いの振りをして声をかけた。
「メグミ?」
ばか、あわせろよ、と思ったが、とりあえず腕を引っ張る。
「おい、待て!」
背後で小太りの男の声がする。私はその少女の手を引いて、大通りを走った。途中で何度か曲がり、電気屋の店内を通り抜けて反対側へ出ようとしたとき。2メートルはありそうな男が、私たちの前に立ちふさがった。
 その男は真っ黒な服を着ていた。でも怖かったのはそれじゃなく、顔に着いた何かの機械。目と口と頬を覆う機械が、何かを調節するように滑らかに動く。よく見るとその目のあたりの部分はレンズで、私たちを捉えているようだ。
「ターゲット捕捉。ターゲット捕捉。」
男は機械音声のような声で言うと、私たち、というより隣の少女に手を伸ばした。私は少女を抱え込むようにして男の横を通り抜ける。
 なんとか逃げ切らないと、と、私は海のほうへ向かって走った。
 海に向かって広がる河口に、鉄骨やトタンを張ってせり出すように作られた、奇妙な建物がある。建物と言うよりはただ何かそういったものが積んであるだけのように見えるのだが、入り口には2人、少年が立ち、侵入者を防いでいた。
 その河口の建物は、下町の少年少女の組織が作ったもの。大人に頼らずに暮らすことを誇りとして生きている彼らに、私は誘われたことがあった。ここへ来ないか、と。そこに入れば、私にもつとまる仕事を紹介してもらえる。だがその頃すでにリンやカトウたちとの生活に慣れていた私は断った。
 断ったのだが、組織のトップにいる少女には、どうやら断ったことを気に入られたらしかった。いつでも訪ねてきてくれ、と言われていたことを思い出し、私はそこへ逃げ込ませてもらおうと考えたのだ。
 世界は私を中心に回っている。組織にかかる迷惑は考えず、ただあそこなら戦うことの出来る少年が結構いる、なんとかなるだろう、と思っていた。
 門番の少年に口早に事情を説明し、かくまってくれるように頼む。少年は幹部かなにかに連絡を取り、そして中へ通してくれた。
 入り口から建物の中までは、廊下がない。鉄骨の屋根はあるが、下は水。私と少女はほとんど木の板といった船に乗って、建物のほうへ移動した。
 背後に、追ってくる気配はもうない。私は安心して、少女の顔を見た。今までずっと手を引いていたから、あまり顔を見ていなかったから。
 少女の顔はわたしとかなり似ていた。違うのは髪の長さ、色、そして瞳の色。わかりやすく日本人の色をした私のそれとは違い、色素が薄い。
 その瞳を覗き込んだ瞬間、私は幻影を見た。
 やけに金色の置物の置いてある部屋。いかにも程度の高い食事をとっていそうな身体をした中年の男が、目の前にすわっている。
「来てくれてよかったよ。私としても、君を一人にするのは忍びないからね。」
男が言う。男は自分の叔父であること、両親が死んで、ここへ来たことを、一瞬にして悟る。
「おじさま。でも私は……」
私は、ここにはいたくない。そう言おうとした瞬間、体から力が抜ける。
「すまないね。薬を、使わせてもらったよ。」
男は、力の入らない私に覆い被さってきた。
 のどの痛みと甲高い耳障りな声で、私は正気に戻る。声は、私の悲鳴。喉が痛いのは、裂けるほど叫んでいたから。
 今見えた幻影は、この目の前の少女の…。
 私の叫びに驚いたのか、建物から少年少女が飛び出してくる。私と少女の乗った木切れについたロープを、そちらに向けて引いてくれた。


……ここで起床。続きが気になります。どうしてもうちょっと寝てなかったんでしょう私。少年少女組織のトップの女の子、女の子だということは知ってるんですが、夢の中では出てこなかったので見てないのですよ。見たかった……。
 いつか続きをみたいものです。


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