おみやげ プロローグ
無知故の過ち。
私は知らなかった。この世界は人の想いとはなんの関係もなく動いているということを。
どんなに強く願っても、どんなに涙を流しても、人の想いが叶えられるとは限らないということを。
あの頃の私は、そんなことも知らず、ただ純粋に、無知故の無邪気さから、善意は報われると、そう単純に信じていた。
無垢なる善意が、私自身と、私の大切な友達を傷つけることになるなんて信じられなかったあの頃。ただ、純粋に友達になろうとしてかけたその言葉が、心に大きな傷を刻む凶器となった。
それでも私は信じている。
たとえ、世界がどんなに冷酷であったとしても、人々の想いは、かけがえのない温もりであることを。人々の善意は、闇を照らす篝火であることを――
「あの、神尾さん……。ちょっと、いいかな?」
ゆっくりと、大きく深呼吸をするようにその子に話しかける。
「……えっ? 川口……さん? なに、かな?」
話しかけられたその子。私の前の席に座る神尾さんは、どこか怯えるような、まるで私の顔を窺うように、上目使いで見上げながら聞き返す。
「あのさ、私、連休中に家族と旅行に行ってきたんだ」
私は、そう言いながら両手で抱えるように握り締めている小瓶の存在を確認した。
「それで、クラスのみんなにおみやげを配っているんだけど……だから、これ、神尾さんへのおみやげ」
そして、両手で握り締めていた小瓶を神尾さんに渡す。
「たいしたものじゃないんだけど……よかったら貰ってくれるかな?」
七色に輝く砂が入ったきれいな小瓶。神尾さんは、どこか緊張したような面持ちでそれを受け取りながら「あ、ありがとう」と小さく囁いた。
小瓶は、私の手から、神尾さんのきれいな手に渡る瞬間、太陽の光を受け、きらりと小さく輝く。神尾さんは、それをとてもまぶしそうな表情で眺めていた。
「それ、『星の砂』っていうらしくて、お守りみたいなものなんだって」
私は、そんな神尾さんの表情を見つめながら、そう説明した。
「えっ? ……わたしがそんな大切なものを貰っちゃって……いいのかな?」
神尾さんは驚いたように聞き返す。
「うん、それは神尾さんのために買ってきたものだから……だから、貰ってくれると嬉しい」
「……うん、ありがとう。大切に……するね」
そう言って、神尾さんは『星の砂』を両手でぎゅっと、優しく握り締めた。
「……それじゃ、私、他の人にもおみやげ配らなきゃならないから……だから、もう行くね」
私がそう言ってその場を離れようとする時、神尾さんは「本当に、ありがとう」と言ってくれた。
私は、くるりと振りかえり、ただ一言、言葉にする。
「……あのさ、また、神尾さんと……一緒にお話できるといいね」
神尾さんはそれには答えず、ただ静かに『星の砂』を握り締めていた。