産学連携型やベンチャー支援型の
地域産業振興に関する先行研究は多く,産業クラスターの概念はご高承のとおり
ポーター教授の用語であり,日本での研究では
関満博教授や
金井一ョ教授の一連の研究が知られている.川崎市の事例ではインキュベーション施設である
KSP(かながわサイエンス・パーク)の執行当事者による
なお,本研究は余暇時間を用いての筆者の個人的研究であり,全ての所属組織(かつて所属した
NEDO,現所属会社等)や研究対象組織・個人は本研究に関しては免責である.また,本稿ではホームページをHPと省略する.
2.新川崎K2タウンキャンパスの概要
川崎は北部には専修大学,明治大学理工学部,聖マリアンナ医科大学,洗足学園大学等大学があるが南部には大学が無く,中小企業は多い.
川崎市南部にあるJR新川崎駅には貨物操車場跡地があり,バブル期に当初は総合運動場のドームを作る予定で市が購入したが,バブル崩壊により計画が宙に浮いた.工業等制限法が1999年に緩和されて(後に2002年に撤廃)京浜地区でも大学を自由に作れるようになったこと等の事情により,この貨物操車場跡地に産学連携型キャンパスを設けて大学誘致を行うことになった.その結果,
川崎市外の
横浜市ではあるが新川崎駅の近くに
理工学部があった
慶應義塾大学がオフ(学外)キャンパスとして進出することになり,2000年春に
K2タウンキャンパスが開設された.オフキャンパスとは申せ,
川崎市南部では唯一の大学キャンパスと化している.形態としては
川崎市の土地に
川崎市の法人・
まちづくり公社が施設を建設し,10年間の契約で
慶應義塾が賃借している.
3.新川崎K2タウンキャンパスの運営
このオフキャンパスは学部ではなくプロジェクトであるため,研究室は塾内(学内)公募によりアサインされ,入居研究者はこのキャンパス内の他に学部等所属組織に元々の研究室をアサインされている.公募対象は
理工学部だけにとどまらず学内9学部の全研究科であり,学部横断的である旨が特徴である.キャンパスが隣接していることと設立目的が産学連携ハイテク起業型の
地域産業振興であるため,全塾(全学)プロジェクトとは申せ結果論として入居研究室は
理工学部のものが多い.キャンパスとしての対研究者の運営上の特徴は,(1) 有期限,(2) 学部横断,(3) 研究者からの利用スペース料徴収,の3点であり,家賃を払えないような研究者は入居できない.廊下など共用部分は研究者からではなく,キャンパス(大学)が負担している.研究者からの家賃は単にコスト転化のためだけのものであって家賃を収益源にしている訳ではなく,あくまでもキャンパスとして運営しており,ここでの収益はない.
入居研究者の家賃支払いの資金源は,科研費や補助金,助成金等の外部資金である.言い換えれば学外の公的機関や企業から研究内容を評価される研究者だけが入居できる.このため,
医学部のように講座制を採用している学部や,講座制を採用していないが助手がいないと実験が成り立たないため実質的に実験室が講座同様の機能を果たしている
理工学部の助教授や講師でも,研究内容が実用化可能として評価されて外部研究資金が得られれば入居可能である.この助教授や講師でも入居可という条件は,若手研究者にとっては大きな励みになるものである.研究費を得られなければ家賃を支払えないため,学術的に重要でも基礎研究の研究者は少なく応用研究の研究テーマを掲げて入居する研究者が多いが,例外として
医学部の
清水教授のゲノム・プロジェクトは応用研究ではない(この場合も国の金が下りている).大学全体としては基礎研究も重要だと考えているため,このキャンパスのような応用研究とはバランスを取ることを心がけている.外部資金については,研究室入居前の必要条件ではあってもその獲得支援を同キャンパスが行うことはしないが,助成金公募等の情報を伝えてはいる.同キャンパス入居者公募時に研究計画をしっかり出して貰った上で期限後には必ず退居するルールが特徴であり,実際,既に入れ替え事例があった.
K2タウンキャンパスはインキュベーション施設ではないため企業は入居しておらず,企業の入居ニーズには同一敷地内でも別棟の
川崎市のインキュベーション施設・
KBICで対応する.
K2タウンキャンパスで研究して,実用化の目処がついたら
KBICで実用化,という関係になっている.
KBICに入居している
慶應義塾大学の研究者は
慶應義塾が推薦した人である.例えば,同キャンパスのパンフレットにも記載されている
白鳥教授の場合,
K2タウンキャンパスに研究室を設ける一方で,
会社を設立して会社登記の上で
KBICに入居している等,既に会社設立事例がある.このように,
K2タウンキャンパスから
KBICに移行してハイテク・ベンチャー起業する事例が増えることが期待されている.このように大学とインキュベーション施設が連携した施設は少なく,この大学とインキュベーション施設との連携プレーが行われている点が,TLOや共同研究センター等の他の産学連携組織との相違点である.
慶應義塾TLOとの直接の関係は無く,
同キャンパスにとって
TLOは学外とのリエゾン的な役割を担って貰っている.法務,財務については,入居研究者への直接の支援は無いが,契約書のチェック等の際には
三田法曹会のお世話になり,弁理士の役は
慶應義塾TLOが果たしている.
4.外に向けて開かれたキャンパス
従来の学校敷地の外にオフキャンパスを持ってきた趣旨としては,大学の中の研究室だと民間の人にとって敷居が高いことを防ぐためという役割もある.実態を伴った「外に向けて開かれた研究キャンパス」を目指して,先端研究とオープンという逆方向を1場所で行おうとしているため,
理工学部がある矢上キャンパスの外に研究室がある意議は大きいと考えている.
この趣旨のため,
K2タウンキャンパスでは一般向けや中小企業の方向けのセミナーもやっている.過去には文学部の人に来てもらったこともあるが,2003年度は例えばゲノム,光ファイバー用プラスチックス,移動通信の世の中への影響等科学技術に的をしぼって行った.
5.地域の起業支援・産業振興施設間相互連携
このような相互連携の,部外者の目にも見える象徴としては,HP間の相互リンクがあるであろう.このため,現状での
川崎市のベンチャー起業支援型産業振興組織のHPの相互リンク状況を調べてみた結果が図表1である.一見して分かるとおり,現在・2004年初めの時点ではeスペースにおいても
地域産業振興施設相互間のシナジー効果は狙われていない旨が分かる.地域内の他の産業振興組織とのリンクの充実度は地域の産業クラスター化に対する決意表明に他ならないため,各組織の対外的パブリシティという観点からは地域の産業クラスター化に対する問題意識は低いと言えよう.他組織に比して,
K2タウンキャンパスは例外的に他の地域内産業振興組織へのリンクが豊富であり,
地域産業振興に賭ける決意が窺える.
6.まとめと今後の課題
本稿では,
川崎市にある産業振興組織の一つとして,
慶應義塾大学のオフキャンパスである
K2タウンキャンパスをヒアリングした事例研究結果を報告した.
川崎市は地域のハイテク・ベンチャー起業を促す産業政策を採用し,このためインキュベーション施設等起業支援組織を他地域よりも早くから,かつ複数設立してきており,
K2タウンキャンパスもこの潮流の一環のものである.
K2タウンキャンパスは直接的にはインキュベーション施設ではなく大学の研究キャンパスであるため,研究費を獲得可能な研究者のみを入居させ家賃収入で費用を賄う,起業の際には隣接して連動するインキュベーション施設・
KBICで行う等,キャンパスであるが故の特殊な運用が行われている旨が判明した.
工業立地でグローバルな競争が進み産業の空洞化が起きていたり,産業構造の変化に伴い旧来の産業は新興工業国に譲りながらより高度先端技術産業に移らなければ日本が衰退するであろうことが自明である今日,従来型の企業誘致のような外発的産業振興策では
地域の産業振興は成し得ない.このため,科学技術立国志向の地域の産業振興のためには,起業支援のように自力で産業を興す内発的産業振興により産業クラスターを起こしていくしかないであろう.産業クラスターの議論ではよく
経済産業省の
産業クラスター計画や
文部科学省の
知的クラスター創成事業が挙げられるが,本来産業クラスターとは,国の政策が無くても地域に意欲と実力があれば実現可能なものである.国の政策においては,国内では先進工業地域である京浜地域は国の地域産業振興からは見捨てられがちであるどころか,いわゆる工場規制三法により「逆差別」された時代さえあったため,現在
川崎市で試みているような地域独自の産業活性化の取り組みが必要なのだと思う.今後筆者は,本発表や
文献6)の拙稿を手始めとして
地域産業振興を研究していく所存である.
参考文献,参考サイトならびに参考情報
1)
関 満博,日本の工業集積の変容と挑戦―長野県岡谷の機械工業―,
組織科学,Vol.36,No.2,pp.4-14,2002
3)
金井一ョ,地域の産業政策と地域企業の戦略,
組織科学,Vol.29, No.2,pp.25-35,1995
8) KSP・慶応大など7機関 VB育成で連携 施設利用やTLO活用,日本経済新聞 地方経済面,2004年02月26日
OA学会全国大会で発表した、産学連携型地域産業に関する研究報告です。 : keywords = 地域,産業振興,産学連携,研究,施設,川崎