AISASモデルにおけるSEOのメリ・デメに関する考察
A Study of Advantages and Disadvantages of SEO in AISAS Model
1.はじめに
また,筆者が進めている地域産業振興研究の上では,観光PR以外の内発型で技術開発志向のベンチャー起業支援においても,設立当初の時点では財務上の制約があり,検索連動型広告の広告出稿費用負担は重いであろう。このため,SEOが果たし得る役割はベンチャーでも大きいであろう.
本稿ではホームページをHPと略す.また,本稿は余暇の時間を利用しての個人的研究であり,筆者のモデルや見解に対して所属会社やNEDO等の組織は免責である.
2.先行研究
地域産業振興の研究でありながら筆者がインターネット・マーケティングというマーケティング分野の研究を行う理由の一つは,上述のとおり,事例とする
鹿児島県の産業クラスターは観光食料産業クラスターであり,観光振興による産業連関波及効果が大きいためである.産業クラスターはPorter (1998)で提唱されて以来,日本では金井(2005)等の先行研究がある.なお,
鹿児島を事例とした筆者の研究は,水平展開すれば他の地域にも適用可能である旨を,念のため補足しておく.
一方,SEMは,インターネット検索においては,従来の
パレートの法則では拾えなかった
ロングテール(The Long Tail)のニーズを拾える旨がAnderson(2004)で指摘されて以来,
WEB2.0環境下のインターネット・マーケティング手法として注目を集めてきた.電通(2006)や山本(2007)等では,WEB2.0の潮流下では旧来のAIDMAモデルが通用しなくなり,電通の登録商標でもあるAISASモデルが成立する旨が指摘された.実際,毎年1月に公表される日本民間放送連盟の営業収入見通しによれば,全社のスポット収入見通しの前年度比は2006年度1.4%減,2007年度3.1%減,2008年度3.2%減と3期連続して減少した.2008年度以前も減少しているため,これは金融恐慌以前からの要因による潮流であろう.これに対して,電通発表の年別「媒体別広告費<インターネット広告費>」によれば,年と年度で3ヶ月ずれるがほぼ同時期の検索連動型広告費用は2006年930億円,2007年1,282億円(前年比37.8%増),2008年1,575億円(同22.9%増)と増加しており,広告収入の上からもTV-CM等のAIDMAモデルから検索連動型広告等のAISASモデルに広告出稿元のニーズが移っている状況が窺える.
一方で,山本(2007)pp.159-168では,ビールのような価格帯の日常品では今日でもAIDMA型のTV-CMが有効であるとして,同書pp.169-173では「広告を使いこなす」こと,すなわち状況に応じた使い分けも提唱された.冒頭でも述べた筆者自身による「
SEMによる訪問型営業プロモーション・モデル」の先行研究も,「知名度の低い観光資源のPRの場合には、『知らないキーワードを叩く者はいない』ため,SEOだけではPRにならない」点に対する状況改善策である.SEM,特にSEOやAISASモデルは「いかなる場合にも有効な手段」なのではなく,
(1) 「単純素朴なSEO」でうまくいく場合
(2) 今後もAIDMAモデルが有効な場合
など様々な場合があり,コンティンジェンシー・モデル的にSEOの使い分けが必要である旨が分かってきたと言えよう.
3.考察(モデルの提示と分析)
図表1は,SEOだけでなく検索連動型広告も含むSEMや,その対抗馬としてTV-CM等の旧来のAIDMAモデルに対して,検索するキーワードの特性に応じた場合分けごとに,どのようなプロモーション手法が適しているかを示した,本稿で筆者が提唱するモデルである.このモデルは,前述の山本(2007)pp.159-173で指摘されている内容を,図示化した上でさらに細分化したモデルとして筆者が考えたものであり,名称を「AISASモデルとAIDMAモデルのメリ・デメ比較モデル」と名付けることにする.
「AISASモデルとAIDMAモデルのメリ・デメ比較モデル」においては,プロモーション・モデルを検索連動型広告,単純素朴なSEO,(SEOの中でも特に)
SEMによる訪問型営業プロモーション・モデルにSEMを3分類し,これにAIDMAモデルを加えて4種類に分類した.これに対して検索するキーワードについては,知名度が低い場合の効果を想定して「機能」に関するキーワードと,知名度が高い場合を想定して「ブランド名,商品名(,企業名)」とに2分類した.機能に関するキーワードに対しては,さらにニッチ市場(すき間市場)と非ニッチ市場とに分けた上で,非ニッチ市場をさらに日常品と非日常品に分けた.日常品と非日常品に分けた理由は,先行研究である山本(2007)pp.159-173において「日常品では今日でもAIDMAモデルが有効である」とされている旨を念頭においたためである.一方,「ブランド名,商品名」をキーワードにしての検索に対しては,山本(2007)pp.159-173に基づいて日常品と非日常品とに分けた上で,それぞれをさらに店頭在庫が期待可能な場合と期待不可能な場合に分けたが,店頭在庫で分けた理由は,リアルスペースでの店舗に行けばそこにあり得るか否かの相違が消費者の行動パターンに与える影響を想定したためである.なお,AIDMAモデルは「検索型」ではないが,各々の検索キーワードが想定する場合に相当する場合の財やサービスが,AIDMAモデルではどうなるかという見方で見ていただきたいモデルである.
図表1のモデルは,それぞれの検索キーワードの場合において,各プロモーション・モデルの相対的な優位性でメリ・デメ比較した.念頭に置いて注意していただきたい点は,これはあくまでも相対的な相違であるに過ぎず,「×」が付いている場合でも「絶対評価としても,効果が無い」旨を意味する訳ではない点である.
図表1のモデルでは,機能に関する語での検索でニッチ市場の場合には,検索連動型広告であれ単純素朴なSEOであれ,AISASモデルのSEMが有効であるとするが,広告出稿料の費用に鑑みれば相対的にはSEOが優位であろう(ただし,SEOの場合でもHP開発・運用担当者の人件費は必要である).この点はSEOのメリットとして巷間よく指摘される点であり,例えばニッチ製品を売りに出すベンチャー企業にとってのメリットであると同時に,素材や部品等の中間財の場合にはBtoB市場でも効果がある場合である.この場合,単純素朴なSEOでも効果が得られるため,「
SEMによる訪問型営業プロモーション・モデル」のような工夫は必要性が無い.一方,非ニッチ市場の場合には競合相手が多くて検索順位向上が困難であるため,単純素朴なSEOでは効果が得られにくいであろう.この場合には「
SEMによる訪問型営業プロモーション・モデル」のような工夫がSEOにおいては必要になる.また,この場合,山本(2007)pp.159-173に基づき,日常品ではAIDMAモデルに,非日常品では検索連動型広告に優位性があるものとした.
予め一定の知名度があってブランド名や商品名で検索されるような場合の日常品は,山本(2007)pp.159-173に基づき,AIDMAモデルに優位性があるとした.ただし,店頭在庫が期待できないレア物のような場合には,例えばネットで販売店を検索の上でリアルスペースの店舗に買いに行く行動パターンがあり得るため,AISASモデルとAIDMAモデルは対立概念ではないとして両方に○を付けた.一方,非日常品の場合には,山本(2007)pp.159-173に基づきAISASモデルの方が優位性が高いものとする.
4.まとめと今後の課題
本稿では,「AISASモデルとAIDMAモデルのメリ・デメ比較モデル」を作って,シチュエーションごとに優位性のあるプロモーション・モデルを分類した.観光地や観光スポットの知名度向上や,起業直後のベンチャー企業など筆者が問題意識を持つ地域や組織が広告出稿料を惜しんでSEOを行う場合には,単純素朴なSEOが優位性を持つのは,巷間よく言われている機能に関するキーワードでは競争相手が少ないニッチ市場の場合である旨は筆者が指摘するまでもないであろう.知名度が低い時期からありがたくも直接的にブランド名や商品名で検索してくれるヒトがいる場合にも単純素朴なSEOの効果はあるであろう.
一方,機能に関するキーワードで検索してくれるヒトがいる場合でも,非ニッチ市場では競争相手が多くて検索結果の上位画面に自社HPが表示されないリスクが高いため,単純素朴なSEOだけでは不十分である旨は,本稿以前の筆者の研究の問題意識のとおりである.このような場合には,神山(2008)で提唱した「
SEMによる訪問型営業プロモーション・モデル」のように工夫したSEOを行う必要があるであろう.実際,筆者が運営する
鹿児島の観光PR用HP「
温泉天国・鹿児島温泉紹介!」
は,例えば「温泉」だけのキーワードでは2009年3月現在,検索結果は上位表示されない.
参考文献
金井一ョ(2005)「産業クラスターの創造・展開と企業家活動−サッポロITクラスター形成における企業家活動のダイナミクス−」『組織科学』,Vol.38 No.3,pp.15-24.