Keywords = 短歌,現代,短歌現代,新人賞,佳作,入選
平成十年(1998年)短歌現代新人賞佳作入選作品・「同じ釜の飯」
受話器を置きたる途端に電話がまた鳴り出せばわが業務進め得(エ)ず
電話機を壊してしまはば照会が減るらむと思ふときをりがあり
プロジェクトは遅れてをれども照会の電話が非情にまた鳴り始む
忙しき今日に限りてトラブルの予告とならむ照会の多し
キ
訊く前に自分で調べてみてくれと怒鳴りたくなる瞬間のあり
ちよつと待て俺は一人しかゐないんだと怒鳴り得(エ)ませば楽にならまし
発送を滞らせずにゐたければ照会応答をおろそかにできず
こなすよりも来る書類多し机上には壁と化したる山三つあり
タクシー代払ひたくなし終電を目指して会社から走りに走る
階段を駆け登り終電に飛び乗れば一日(ヒトヒ)の疲れの深々覚ゆ
ホームにて煙草を吸へばこの夜(ヨ)ふけささやかなれどもやうやく安らぐ
コンビニでカップ麺買つて帰寮すれば一時過ぎやうやく仕事が終はつた
飯食つて風呂入つて髪を乾かせば三時だ明日(アス)の出勤は間近い
睡眠を四時間しか取り得(エ)ぬ日の続きて今朝は頭が朦朧としてをり
白く強く破るる心配無き発送封筒のサンプルが届くはうれしも
この白き発送封筒のデザインはわがししことを言ひてみたしも
この帳票を全国の支社に配る便にかかる費用に悩みてをりぬ
支社便に合はせたる帳票配布日を快く友は認めてくれたり
新年度の支社便日程の組み難(ガタ)きの調整を先輩が助けてくれたり
出世遅きわがモチベーションは前線の友らへの支援だけになりたり
進捗に遅れは無けれど未完了の報告は遅延と誤解されたり
証券出力多き報告は決算期にうれしけれど機械容量悩まし
夜ふけて営業現場の旧友から保険契約を請(コ)ふ電話受く
同じ釜の飯食ひて来(コ)し友の挙績になればお薦めの保険に入らむ
苦しけれど現場の友らを支援し得(ウ)るシステムと思へば開発に励まむ
このステップでどうしてデータがドロップをするのか考へても考へても分からず
とりあへずドロップせぬやうこのデータを直して無理矢理テストを続けむ
夜明けまでにはテストを終へたしわが時計は二時を過ぎ三時を過ぎ四時を指したり
「今度こそアベンドするなよ」実行キーを強く叩きてジョブをキックす
やうやくにシステムテストはアベンドをせず終はりまで流れてくれたり
Keywords = 短歌,現代,短歌現代,新人賞,佳作,入選