□ジャイルズ・ゴダード
[Giles Goddard]
『スターフォックス』『1080°スノーボーディング』など、任天堂の名作ゲームの開発に携わった英国人プログラマー。
13歳の頃、母親が買い与えてくれたSpeccyをきっかけに、コンピュータに興味を持つようになる。A-Level(大学の統一試験のようなもの)が始まる頃に、Gilesはもし自分就職しようとすれば、何があるのか探してみようと決めた。そして、Amiga magazineに掲載されていた、その時3Dゲームを開発していた唯一の英国企業、Argonaut Software(現Argonaut Games PLC)が目に留まった。Gilesもよく知っている『Starglider』を開発していたArgonaut社は、その時続編の『Starglider II』を出したばかり。Argonaut社がポリゴンをどのように使いこなしているのかどうしても知りたくなり、Gilesは自作の3DデモをArgonaut社に送ると、面接したいと言ってきた。1週間後、学校を卒業したGilesは、ノースロンドンにあるネズミがうじゃうじゃいるアパートに入居した。Argonaut社での仕事は本当にわくわくすることばかりで、社長のJez Sanの家で5人が働くことが楽しかった。GilesはJezに『Starglider II』のMac版を制作するように頼まれた。そして何の考えもなしに作業に取り掛かり、2、3ヵ月後には開発を終えた。
その後すぐに、Jezはある映画のゲーム化の権利を獲得し、Gilesはそのプログラミングに着手した。しかし、Gilesはこれに関して全くいい仕事ができなかったという。そうこうするうちにも、Argonaut社では大がかりなフライトシミュレーターのプロジェクトが進んでいた。当時実現するには、十分な処理能力を持つPCがなかった。よって、秒間10フレーム程度のものだった。Danny Emmetの3Dオブジェクトは驚くべきものであり、航空力学は軍事クラスと言ってもよく、実際Amiga上では決定版的なフライトシミュレーターになったはずだが、しかし悲しいかな、それは極めて古典的なものだった。4年もかけていたこのプロジェクトの開発にGilesは途中参加、サウンドプログラミングを担当した。そのあいだにも、Pete WarnesがNES上で3D処理を試作していたが、CPUの能力不足は明らかで、新しいDSPチップを開発しようと話し合っていた。そのうち彼らはそのDSPチップを“マリオチップ”と呼ぶようになった。その頃、ちょうど任天堂がSUPER NESをリリースした時期で、SNES上で3Dゲームを動かすためにも“マリオチップ”を採用するようにとJezが任天堂をどうにか説得、「スーパーFXチップ」が共同開発されることになった。任天堂は3Dゲームの開発について何も知らなかったが、非常に強い興味を持っていた。よってArgonaut社は、3Dゲームの開発とそれを教えるために京都に社員を派遣することを申し出た。Dylan Cuthbert、Krister Wombell、そしてGilesの3人が京都に行く事に決まり、のちに『スターフォックス』と呼ばれるゲームの開発が始まった。デザインを任天堂情報開発部が、プログラミングをArgonaut社が担当することになった。
Gilesらが『スターフォックス』の開発に執りかかったとき、細かな役割は決まっていなかったので、その時おもしろいと感じたことは何でも取り入れた。Dylan達との開発作業は、ほとんどがとても上手くいった。かくして完成した『スターフォックス』は世界中で大人気になったのだが、Argonaut社からやってきた3人の若者はそれぞれの道を歩むことになった。結局帰国したのはKristerのみで、Dylanは『スターフォックス2』の開発にあたり、そしてGilesは『ワイルドトラックス』と呼ばれることになる3Dレースゲームの開発を始めた。『ワイルドトラックス』は無事完成しリリースされたものの、Giles自身はそのプログラミング開発にあまり良い思い出がないという。『ワイルドトラックス』の開発終了後すぐ、GilesはArgonaut社を退社することを決意した。英国に戻ろうという考えもあったが、日本でこんなに良い3年間を過ごせるとは思っていなかったのだ。Gilesは断腸の思いでJezに電話して、任天堂に入りたいので辞めさせて欲しいと伝えた。ありがたいことに、任天堂がArgonaut社からGilesを引き抜いたのではないという旨を、その時皆に理解してもらえた。
その頃、任天堂及び情報開発部はNINTENDO64の発売に向け、その準備に追われていた。NINTENDO64上で動く試作品とデモプログラムがたくさん制作されていた。任天堂に入ったGilesもデザイナーの一人と一緒にいくつか試作品を作り上げ、その中にマリオの顔を動かすことができるデモプログラムがあった。Gilesはマリオの顔を動かす方法をいくつか考え、そのアイデアのひとつに、Gilesの頭に付けた蛍光色のピンポン球の移動をインディ・カメラで探知するという方法があった。数週間の間、情報開発部内で頭にピンポン球を付けたGilesが見かけられたが、そんなことをしていても気兼ねしない情報開発部の雰囲気をGilesは好きだという。宮本茂氏の方は、顔を弄るのにスクリーン上の手を動かすというアイデアを気に入っていた。また、宮本氏は『スーパーマリオ64』のフロントエンドとして使えるおもしろいアイデアを探していたので、それに使えるようにとマリオの顔がゴムのように跳ね返るエフェクトを追加した。
『1080°スノーボーディング』の開発は、スキーのゲームを作ろうとGilesが宮本氏に提案したことをきっかけに始まった。そしてかわいくもない、キャラゲーでもない、マリオもいない、任天堂らしからぬスタイルのゲームを作ろうというコンセプトのもと開発が始まった。『1080』のプロトタイプを見せた時は、あまり反応が良くなかった。それはよりリアルな部分を大いに強調しており、且つこれまでのNINTENDO64ではあまりないタイプのものだった。趣味でスキーとスノーボードもやるGilesのこだわりは相当なもので、ゲームエンジンはもちろんNINTENDO64オリジナルのもので、ゲーム中のボードの動きは本物と同じ。また、ポリゴンの継ぎ目が分からないようにスキン処理され、キャラクターアニメーションはアニメーションとインバースキネマティクスを合わせて処理するようにした。1997年4月に始まった『1080』の開発は、実質約9ヶ月という短い時間で完成した。スタッフは16人程度と少なかったが、開発は全てが上手くいった。Gilesにとってもそれまで手掛けた仕事の中で、最も満足のいく出来だったと振り返っている。スーパーマリオクラブによる1週間のデバッグ作業に入る前にバグは全て潰し、また開発作業が徹夜に及ぶこともなかった。完璧なプロジェクトと言った人もいたかもしれない。
1998年の、冬というにはいささか遅い2月28日に発売された『1080°スノーボーディング』だが、セールスは奮わなかった。これに関して、任天堂のゲームとしては内容がシリアスでユーザーの対象年齢があまりにも高いので売れないと言っている人もいたし、マリオクラブが『1080』のリリースにあたって低いスコアを与えたのには全く驚かされたと、Gilesは任天堂の一部に対し不満を口にしている。しかし、どのように受け入れられたのか、それによってわずかでも彼らが間違っていることを証明できたとGilesは考えている。実際、情報開発部の他の開発チームもまた、『1080』の短い開発期間に影響を受けており、開発期間の短縮を図るためにGilesらが開発した新技術を共有して開発したのであった。
『1080°スノーボーディング』の開発終了後には、既にNINTENDO64の次世代機ドルフィン(コードネーム)の基礎研究が始まっていた。Gilesは直ぐに沢野貴夫氏(現情報開発本部技術部長代理)の研究グループに配属された。その研究グループは、ソフトウェアの開発チームから新しい技術をハードウェア開発の部署(旧開発第三部?)にもたらせられるように、緊密に協力していた。また、ハードウェアのAPIとグラフィックスライブラリーについてのアイデアをNintendo Technology DevelopmentとArtXに助言もした。実際ドルフィンに採用された多くのアイデアは、情報開発部のNINTENDO64での開発経験から来ているという。
しかし、『1080°スノーボーディング』完成の数ヶ月後には、Gilesは任天堂を去ることを決意していた。そして、PDABusinessという携帯端末の事業を立ち上げ、専用ゲームや新技術を開発し提供している。また最近では、Peercast(P2P方式のインターネットラジオのようなもの)の開発にも中心的に携わった。
任天堂との関係は退社した後も続き、密接に連絡を取り合っていた。街中で旧友に出会うこともよくあった。そうした関係の中で、米国Left Field Productions社が開発するゲームキューブ版『1080』に関わることになった。NINTENDO64では諦めざるをえなかった要素、例えばたくさんのキャラクターやコースの追加など、多分に含まれるはずだったが、このプロジェクトはあえなく開発中止となってしまった。Gilesのとっての最新作はゲームキューブへのリメイクとなった『巨人のドシン』。プログラマーに逃げられたパーラムのヘルプとして、プログラミング(一人でやったらしい)を担当した。
リンク≫有限会社ヴィテイ
リンク≫PDABusiness.com
リンク≫PeerCast.org
| ■主な代表作 | |||
| タイトル | 機種 | 発売日 | 役割 |
|---|---|---|---|
| スターフォックス | SFC | 93.02.21 | プログラマー |
| ワイルドトラックス | SFC | 94.06.04 | プログラマー |
| スーパーマリオ64 | N64 | 96.06.23 | マリオフェイスプログラム |
| 1080°スノーボーディング | N64 | 98.02.28 | メインプログラマー |
| 巨人のドシン | GC | 02.03.14 | プログラミング |