《3》定期借家法の解説
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定期借家制度の概要と新設の目的

  新設された定期借家制度は、期間の定めのある建物の賃貸借契約を締結する場合、公正証書等の書面によって契約する場合に限り、契約の更新がないことを定めることができ、賃貸借期間が満了した場合には、確定的に賃貸借契約が終了するという制度です。

 従来の借家契約(以下「従来型の賃貸借契約」といいます)では、貸主に建物の自己使用を必要とする事情等の正当事由がない限り、更新の拒絶や解約が認められず、期間が満了しても、事実上契約を終了させることが困難になっています(借地借家法28条)。

 このような従来型の賃貸借契約の内容が、立退き等の貸主と借主間のトラブル発生の一因となっており、また正当事由の制度が良質な借家の供給を阻害しているとも指摘されています。

 そのような問題点の是正をするため、契約期間が終了した場合に確定的に契約が終了するという定期借家制度が新設されたと説明されています。

【定期借家制度の成立要件】

 定期借家制度の成立要件は、次の5つであり、以下の5要件を満たさないと従来型の建物定期借家とはいえず、従来の更新の認められる賃貸借契約と扱われます。 

@「期間の定めのある」賃貸借契約であること(法第38条1項) 

 賃貸借契約でも期間の定めのあるものに限られます。従来の建物賃貸借契約では期間の定めのない契約も多くありますが、新設された定期借家契約は、期間の定めのあるものに限定されました。

 なお、今回の改正ですべての建物賃貸借契約について民法604条の適用がなくなり、さらに定期借家契約には借地借家法29条も適用されなくなったため、短期では1年以下、長期では30年とか50年といったような期間の定期借家契約が認められるようになりました。 

注:借地借家法29条・・期間を1年未満とする建物の賃貸借は、期間の定めのない建物賃貸借とみなす。

 民法604条・・・・賃貸借の存続期間は20年を超えることができない。もしこれより長い期間を定めたときは期間を20年に短縮する。

 なお、定期借家契約に対しても短期賃貸借制度(民法395条)の適用はあります。したがって、同条により、「3年を超える契約期間の定期借家契約」が、抵当権者あるいは競売手続きの競落人に対抗できないということは「3年のを超える契約期間の従来型の建物賃貸借契約」の場合と同じですから、この点は、賃借人に対し、都宅建発行の「追加重要事項説明書」等を活用して説明しておく必要があるでしょう。

A「建物」の賃貸借契約であること(法第38条1項) 

 建物の賃貸借であることが要件になっていますが、建物の賃貸であれば、用途が事業用であろうと、居住用であろうと定期借家契約は認められます。また、面積による制限、地域による制限等は一切ありません。

B公正証書等の書面で契約をすること(法第38条1項) 

 定期借家契約を締結するには、公正証書等の書面で行うことが必要です。公正証書は一例としてあげられているだけですので、公正証書によらなくとも、一般の書面による契約であれば、定期借家契約を締結できます。 

C契約の更新のないこととする旨定めていること(法第38条1項)

賃貸借契約の条項に「契約の更新がないこと」が定められていることが必要です。

 実務的にどのような契約書を作成すべきかは、現在検討しておりますが、一例として「本件契約は借地借家法38条に基づく定期建物賃貸借契約であって、契約の更新はなく、第○条の定める期間の満了により終了する」というような条項が考えられます。

 

D貸主があらかじめ借主に、契約の更新がなく期間満了により建物の賃貸借契約が終了することを記載した書面を交付して説明すること(法第38条2項)

 この要件は衆議院による修正により付け加えられたもので、借主に誤解が生じることを防ぐため、貸主に定期借家契約であることの書面の交付による説明義務を課したものです。

 なお、書面の交付をして説明することを怠ると、たとえ契約書に更新をしないと定めていても無効であり、従来型の賃貸借契約と扱われることになります。

【定期借家の効力】 

 定期借家制度の最大の特色は、契約に定めた賃貸借期間が満了すると賃貸借契約が確定的に終了して、借主は建物の明渡しをする義務が生じることです(法第38条1項)。 ただし、契約が終了すると言っても、契約期間が1年以上の契約では、期間の満了の1年前から6月前までの通知期間内に期間満了による通知をしなければ、借主に契約の終了を対抗できないとされています。通知期間満了後に通知をした場合は通知の日から6月経過後に終了したことを対抗できます(法第38条5項)。

 なお、1年未満の期間の定期借家契約では、このような通知をすることなく、期間の満了時に契約が終了したことを、貸主は借主に主張できます。

 もっとも、期間満了の際に貸主と借主が合意により再契約をすることは認められますが、これは従来の賃貸借契約の更新とは全く異なる「新しい定期借家契約」ですので、注意してください。

 ちなみに、期間満了後にも任意に明け渡さない借主に対しては、裁判により債務名義をとって強制執行しなければならないことは、現在と同じです。

【中途解約について】

(1)借主の中途解約

@(借主が中途解約ができるという特約の効力)

 居住用の定期借家契約、事業用の定期借家契約とも「借主はいつでも中途解約できる」という特約は有効と解釈されています。

A(借主が中途解約できないという特約の効力)

 居住用の定期借家契約で床面積が200平方メートル未満のものは、借主において転勤、療養、親族の介護その他のやむを得ない事情により、生活の本拠として使用することが困難になったときは、特約の有無に関わらず借主はいつでも中途解約の申し入れができるとされ、それを禁止する特約をしても無効という規定が盛り込まれました(法第38条5項、6項)。

それに対し、それ以外の定期借家契約、

すなわち、

(ア)200平方メートル以上の床面積の居住用の定期借家契約

(イ)事業用の定期借家契約

では期間中の中途解約は出来るという特約がない限り中途解約はできず、その結果、借主に賃貸借期間満了までの家賃負担義務があることになります。 

(2)貸主からの中途解約

 他方、「貸主から中途解約はできない」との特約は有効ですが、「貸主から中途解約できる」という特約は借地借家法30条(一方的強行法規)の趣旨からして特段の合理的理由がなければ無効と解される可能性が高いと思います。この点については今後の判例、学説の動向を注視したいと思います。

摘  要 事業用定期借家 居住用定期借家
200u未満 200u

中途解約の可

 

 ×

 

借主に転勤、療養、親族の介護その他のやむを得ない事情により生活の本拠として使用することが困難な時   ○(法第38条5項で特約の有無に関わらず可)  ×

 

中途解約できるとの特約の有効性  
借主に転勤、療養、親族の介護その他のやむを得ない事情により生活の本拠として使用することが困難になったときにも中途解約できないとの特約の有効性

 

 

×

(法第38条6項で無効)

 

 

中途解約できないとの特約の有効性   ○(法第38条5項に該当する場合を除く)

 

  中途解約の可否 × × ×
中途解約できるとの特約の有効性 合理的理由なければ × 合理的理由なければ  × 合理的理由なければ ×

中途解約できないとの特約の有効性

【その他】 

(1)定期借家契約では、賃料の改訂の特約を締結した場合には、借地借家法32条の   賃料の増額減額請求をすることができるという規定の適用がなされないこと、つ   まり、増額にせよ、減額にせよ、当事者間の特約が著しく不合理でない限り特約   の定めに従うということになりました(法第38条7項)。

 

(2)従来の建物賃貸借契約については、定期借家制度の規定は遡って適用はされませ   ん。ただ、従来型の建物賃貸借契約のうち事業用の賃貸借契約については、合意   をすれば賃貸借を終了させて、同一目的物を定期借家契約にすることはできます   (但し、実際にこの様な定期借家にするという合意が円滑に成立するかは疑問で   す)。

    しかし、居住用の建物の従来の賃貸借契約を合意により終了させ、同一の定期   借家の目的とすることは、当分の間(4年くらいとされています)は、できない   と定められています。

【定期借家のメリットと選択にあたっての留意点】

 最後に、注意して頂きたいのは、従来型の賃貸借契約が廃止されたわけではなく、定期借家契約と二つ制度が併存していることです。

 借主と貸主の希望に応じて、どちらの類型の賃貸借契約にするかは、選択が出来ることになっており、最終的には市場の動向はゆだねられているのです。

 定期借家のメリットをまとめると次のようになるでしょう。

 ≪メリット≫

@ 新設された定期借家制度は、賃貸借期間が満了した場合には、確定的に賃貸借契約 が終了するという制度であり、貸主の意向を確実に反映できるということです。これ は、従来の借家契約が、賃貸人に建物の自己使用を必要とする事情等の正当事由がな い限り、更新の拒絶や解約が認められず、期間が満了しても、事実上契約を終了させ ることが困難になっていたことと大きな違いです(借地借家法28条)。

A このような従来型の賃貸借契約の内容が、立退き等の賃貸人と賃借人間のトラブル発生の一因となっており、また正当事由の制度が良質な借家の供給を阻害しているとも指摘されていましたから、マクロ的には次のような効果が期待できるでしょう。

 (1)不動産の流動化、証券化が促進される

 (2)居住用・事業用の賃貸市場が拡大される他、様々な経済的波及効果を期待でき    る(東京都心1時間圏内に限定しても、借家建設戸数は41.6%増加し投資    拡大効果は、年間4,100億円とも8,000億円とも試算されている)

 (3)家賃改定ルールが確立される

 (∨)グローバルスタンダード化への対応も可能となる

 ≪留意点≫

 これに対し、貸主が定期借家を選択した場合の留意点をまとめると次のようになるでしょう。

 @ 定期借家契約は、借主側からすれば心理面も含め生活基盤が不安定となるため、  既に空き室の多いマンション、アパートでは従来型賃貸借契約でなければ入居者を  確保することは難しいでしょう。

   逆に、従来型の賃貸借契約であることをアピールして入居者の募集をする戦略も  有効かもしれません。

 A 定期借家の場合、更新料の授受がなくなることは当然として礼金の授受も取得す  る口実がなくなり廃止される方向に向かうべきと言われています。

 B 当初の期間が満了すれば契約は終了し、更に従前の借主に賃貸を継続するために  は新規賃貸になりますが、理屈から言えばその段階で貸主は畳・襖等を新しいもの  に取り替えて新規物件にする必要があり、貸主がそれをしない場合には借主側から  賃料の減額要求があり得るでしょう。

   貸主は、以上を前提に家賃額の正確な設定をする必要があります。

 C 連帯保証人の責任は原則として契約期間に限定されると解されるので貸主の意向  で終了通知が遅滞し事実上契約が延長された場合には、延長後の賃料遅滞等につい  て連帯保証人の担保機能が期待できないでしょう。

   最高裁平成9年11月13日判決(判例時報1633号81頁)は、従来型の建  物賃貸借について、当初の契約に連帯保証人として署名した連帯保証人は、その後  の合意更新、法定更新にかかわらず借主が建物を明け渡すまでの一切の金銭債務に  ついて借主とともに履行責任を負担すると判示したのですが、定期借家契約は更新  という概念がありませんから以上のように解されることになるでしょう。

 D 契約期間満了により契約が満了するため、いわゆる借主の回転は早くなりますが、  新借主が見つかるまでのタイム・ロスは覚悟しなければならないでしょう。 

【今後の検討事項】

 定期借家契約については、その他にも、契約書にはどのような条項をいれるべきか、権利金や礼金がどうなるのか、宅建業者としてどのような重要事項説明をすべきか、再契約の際仲介手数料は受領できるのか、税務上定期借家の貸家建付地の評価はどうなるのか等の問題がありますが、更に検討していきたいと思います。

 貸主の中途解約については、特約がない場合においても法第38条5項が下記(注)のとおり、一定の要件のもとに認めているわけですが、特に借主に不利益でない限り中途解約に関する特約は可能です(法第38条6項)。したがって、法第38条5項の要件がない場合でも借主側からの中途解約特約は有効となります。

 これに対し、貸主側からの中途解約の特約は、定期借家制度の趣旨にも反するので、合理的理由がない限り法第30条(一方的強行法規)により無効となる可能性が高いと思います。この点については、今後の判例、学説の動向を注視したいと思います。

(注) 居住の用に供する建物の賃貸借(床面積≪建物の一部分を賃貸借の目的とする場合にあっては、当該一部分の床面積≫が200u未満の建物に係わるものに限る)において、転勤、療養、親族の介護その他のやむを得ない事情により、建物   の賃借人が建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となったときは、   建物の賃借人は、建物の賃貸借の解約の申入れをすることが出来ます。

この場合には、建物の賃貸借は、解約の申入れの日から1月を経過することによって終了します

(法第38条5項)。

【期日について】

借地借家法の改正内容の主な点を列挙しますと、以下のとおりです。

@ 定期借家契約は、契約の更新がなく、期間の満了により終了する

旨等を明記した書面(定期建物賃貸借契約書)で締結することに加 えて、借主に十分な情報を提供して意思決定をしてもらうために、 貸主は書面により、契約に更新がない旨を説明することが義務づけられている(第381項、2項、3項)。

A 貸主からの6カ月前までの通知義務については、期間が1年以上 の契約の場合、契約期間満了の1年前から6カ月前までに賃借人に通知しなければならない。貸主が通知を忘れて契約期間を過ぎた場 合は通知のあった日から6カ月間は、貸主の側から定期借家契約を 終了させることはできない(第384項)。

B 賃借人の中途解約については、居住用に限り、200u未満の床面積のものについて、転勤、療養、親族の介護その他やむを得ない事情がある場合のみ認める。この場合、解約申入れ日から1カ月の経過で解約となる。ただし、200m以上の床面積のものは、特約がなければ中途解約できない(第385項)。

C 居住用に限っては、既存契約しているものから、貸主。借主がたとえ合意しても、当分の間定期借家に切り替えることはできない(附則第3条)。

D この法律は、定期借家に係る部分については、平成1231日から施行し、4年午後に見直しをすることとしている(附則第1条、第4条)。

 

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