微睡の猫



 − 雨垂れ −


   いつ止むともなく
   静かに静かに 降りしきるつめたい雨
   フロントガラスを伝う 雨垂れは
   都会の 煌びやかな 灯りを反射して
   濃い闇の中  さながら 
   宝石のように 美しく瞬いて揺れている
   そのゆらめきを みつめていると
   ふと自分が水底に沈んでいくような
   そんな気がしてくるのは不思議だ





 − ひとときの夢 −


    ひとひら
  風に踊るように             
      金の葉が
     散り頻きる              

        深い 
    秋の陽射しに
       風も樹も
    光り輝く世界

       金の葉が
   地上に舞い降りて
        愛が
    心に満ちるまで

    ほんのひととき
        夢を
     留めましょう





  − まどろみのなかで −

  静謐なる 深い闇が
  安らぎと共に 訪れる時
  夜毎 窓辺に佇んで
  囁くように 唄うように
  語ってくれたのは だれ

     それは 遠く微かに震える
     夜汽車の霧笛

  仄かな窓明かりが
  一陣の風に吹き消された時
                   ざわめく葉擦れにも似て
                   ひそやかに 消え入るように
                   泣いていたのは だれ

                      それは 暗い森の梢で
                      身繕いする 梟の低い鳴き声

                   いいえ いいえ
                   幼子のように 膝を丸めて
                   泣いていたのは 私

                   咽るほどの
                   姫小百合の香りに包まれて
                   泣きながら眠っていたのは私です






 − コスモス −

    
コスモス 
     コスモス 
10本のコスモス
    100本のコスモス
揺れる    
   揺れる 
           眺める私    

    ― − ―

小鳥の羽音を
      聴きながら
  ここで
    私は
      深く眠ろう
こころをゆらす
     母の腕は 
         野辺の草



 

 − ここにいるよ −


   誰も居なくなって 
   ひとりぽっちになった校庭
   風がおこって 砂が舞い 
   目を細めながら 振り返ると
   雲間から幾筋もの光が地上に降り注ぎ 
   茜色に染まった太陽が
   山の端に静かに落ちていくところ

   足元の転がったボールを拾い上げ
   ひとり家路を辿る道すがら
   うねうね続く畦道を過ぎて
   緩やかに流れゆく川の土橋を渡る
   土手に咲き乱れる野アザミ
   その冴えた色に誘われて寝転がると
   土から立ち昇る甘い草いきれ

                 手足を思いっきり伸ばして
                 大空を振り仰ぐと
                 そこには 綿雲がぽっこり浮かんで
                 のんびりしなよって 笑いかけてる
                 野面を渡る風さえも くすくす笑って
                 そんな顔しないでって囁いていく
                               ここにいるよ  ほら ここにいるよ







 − 丘へ − 


  夢の中で
 今日もかえる
  この丘

  黄に白に
  咲き乱れる
下草の甘い匂い

   あぁ

  心の中の
 この重い塊も
  何時かは
溶けてゆくだろうか

  いま ―
     風が
静かに 流れていった







 − こころには −


   空あおく
   心にはやさしいものが充ちていて
   なんと美しい春景色

   家々の軒先には
   草花が絶えることなく
   あちらこちら
   おもいおもいに色づいて
   ひそひそ囁きあっては
                               風にゆらめいている
                 
                   駅までつづく2キロの小道
                   道行く少女らの屈託のない笑い声
                   赤く染まった頬 −
                   その身振り手振りもいそがしい
                   他愛のない会話に流行りの歌
                   郵便局の前では お婆さん同士が長話
                   花屋のお兄さんは
                   鉢植えの入れ替えに汗を流す
                   おじさんは咥え煙草で自転車を漕ぎ
                   その速度にあわせて子犬が駆ける
                   若い恋人たちは時折立ち止まりながら
                   頬を寄せ合い指をからめる

                 このうららかな陽を浴びて
                 老若男女
                 それぞれに命をたのしみながら
                 時をすごすひととき

                 空はあおく 
                 そして どこまでもあおい
                 雲ひとつない春のあおい空







  − あなたを呼ぶ声 −


    鳥よ、草よ
 おまえたちの可愛い囁きが
  私の傷ついた心から
     棘を抜く

  褥たる草叢に身を沈め
     蒼天を仰ぐ
    私に呼び掛ける 
    微かなざわめき
      その 
  屈託のないほほえみ

     風が運ぶ
 心揺さぶるメロディーは
   I am calling you
  can't you hear me?

    あなたを呼ぶ
 私の声が聴こえるでしょうと
    せつなく唄う



  





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