神奈川総合法律事務所  
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「賠償責任保険の死角」その後 (2008年1月発行第36号掲載)

大塚 達生

 2006年1月の事務所だよりで、「賠償責任保険の死角」というタイトルの報告をしました。
 そのときに、まとめとして次のようなことを書きました。

 「もしも、医療機関の民事再生手続において、医療過誤による患者側の損害賠償請求債権について、一般の再生債権と同様の免除をすることが再生計画で認可されてしまうと、現行の医師賠償責任保険の保険契約約款の下では、免除後の残額に相当する額しか保険金が支払われず、患者側はせっかく訴訟で勝訴判決を獲得していても、判決認容額どおりの賠償を受けることができなくなる可能性が高い。
 医師賠償責任保険による保険金支払額が、医療機関の倒産手続の影響を受けないということが保険契約約款に定められていれば、そのようなことにはならないのであるが、現行ではそうなっていない。
 医療機関も倒産する時代であるから、このような保険契約約款の改正は急務であるが、現状では、医療機関の民事再生手続において、医療過誤の被害を受けた患者側が、損害賠償請求債権について、一般の再生債権と同様の免除をされないように、再生手続申立代理人と裁判所に求めていく必要がある。」

 私が体験したのは病院の民事再生手続のケースだったため、このように民事再生手続を例に説明したのですが、破産手続の場合にも類似の問題が生じます。
 医療機関で医療過誤が発生し、医療機関が被害者に対して損害賠償債務を負い、そのための保険金が保険会社から支払われる場合でも、医療機関が破産してしまうと、保険金は破産管財人に対して支払われ、医療過誤の被害者も、原則として他の一般債権者と同様に、破産財団から配当として按分に弁済を受けることしかできなくなります(例外的に破産管財人と特別に有利な和解ができた場合は別ですが)。
 多くの破産手続の場合、配当率は低いですので、せっかく保険会社から損害賠償債務の全額に相当する保険金が支払われているにもかかわらず、被害者の手に渡るのはそのごく一部であり、ほとんどは医療過誤と無関係な他の債権者への支払い等に使われてしまうというわけです。

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 さて、その後ですが、最近、知り合いの弁護士から、このような問題について立法的解決が図られそうだとの情報をもらいました。
 2007年8月8日に法制審議会保険法部会でまとめられた「保険法の見直しに関する中間試案」が、それです。
 見直しの内容は多岐にわたりますが、その中の1つとして、「保険金からの優先的な被害の回復」ということが提案されています。
 具体的には、次のとおりです。

 「責任保険契約(被保険者が損害賠償の責任を負うことによって生じた損害をてん補する損害保険契約をいう。)の被保険者について破産手続開始、再生手続開始又は更生手続開始の決定があった場合には、被害者(被保険者が損害賠償の責任を負う相手方をいう。)は、〔一定の要件〕の下で、保険金から優先的に被害の回復を受けることができるものとする。」

 「一定の要件」の具体的内容については、「判決、裁判上の和解等により被保険者の損害賠償責任が確定したことやその確定が保険者の関与の下で行われたことを要件とすること等が考えられるほか、そもそもこの規律を認める場面を、強制保険(法令により被保険者が責任保険契約の締結を義務付けられているもの)に限定すべきとの考え方、被害者が個人の場合やその生命又は身体に損害が生じた場合に限定すべきとの考え方等があることを踏まえて、なお検討する。 」とされています。
 また、被害者が保険金から優先的な被害回復を受けるための法的な枠組みとしては、大別して、次のような2つの考え方があるとし、どのような枠組みを採用するかについては、なお検討するとしています。
 (1) 被害者は、保険金額の限度において、被保険者が支払うべき損害賠償額の支払を保険者に対しても請求することができるものとする考え方。
 (2) 被害者は、被保険者に対する損害賠償請求権に関し、保険金について、他の債権者に優先して弁済を受ける権利を有するものとする考え方。

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 このような保険法の見直しが実現すれば、医療過誤に関する保険金がきちんと被害者の手に渡ることになり、上に述べたような問題は解決されます。
 ですから、このような見直しが早期に実現することを願っています。
 しかし、見直しが実現するまでの間に、どこかの病院で医療過誤と倒産が発生するという事態がないとはいえません。
 できることならば、法改正による見直し実現までの当面の対策として、保険会社の保険約款を改正することで、医療過誤の被害者が保険会社に対して直接保険金を請求できるようにできないものかと、思います。