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日本漢文へのいざない


第一部 日本文化と漢字・漢文


第五章 読解のための漢文法入門


第2節 詞と短語


       

(2)詞類(品詞)について

 詞類(品詞parts of speech)は、名詞、動詞、形容詞など、詞(単語)の働きによる分類です。どの言語にも品詞の別はあり、当然漢文にもあります。

 私たちは日常自国語を話したり書いたりするときに、いちいち品詞分類を気にすることはありません。その言語に慣れてしまえば、品詞分類などはかえってわずらわしい作業です。しかし、外国語の初歩を学ぶときだけは、ある程度品詞の知識が必要です。

 漢文の品詞については、いろいろな説があります。下の表は、李佐豊氏の名著『古代漢語語法学』(中国:商務印書館)などを参考にして作成してみました(ただし、かなり単純化していることと、私自身の考えも入っていることをお断りしておきます)。

 漢文の詞類(品詞分類)

虚実

詞類(大分類)

詞類(小分類)

実例

実詞

動詞

動詞

問、帰、称、読、曰

性質動詞(形容詞)

美、強、清、富

能願動詞(助動詞)

可(~べし)、可以(もって~べし)、足(~にたる)、能(よく~す)

被動詞(助動詞・動詞)

見(る・らる)、被(る・らる)、為(となる)

名詞

名詞

山、川、日本

時間詞

、秋、夜、今、昔

方位詞

東、西、南、北、上、下

代詞

代名詞

之(これ)、其(それ)、彼(かれ)、我(われ)、汝(なんじ)、自(みずから、おのずから)

代動詞

如(ごとし)、然(しかり)

数量詞

数詞

一、百、万

量詞

、一

虚詞

副詞

副詞

甚(はなはだ~)、最(もっとも~)、徒(いたずらに~)、独(ひとり~)

区別詞

年、大臣

介詞(前置詞)

介詞

於(~において、~よりも)、以(~をもって)

連詞(接続詞)

連詞

而(~、しこうして~)、且(~かつ~)、雖(~といえども)

助詞

語気詞

哉(~かな)、乎(~か)、耳(~のみ)

決断詞

也(~なり)、矣、焉、夫(それ~)

結構助詞

之(~の~)、所(~するところ)、者(もの)

嘆詞

嘆詞

嗚呼(ああ)、噫(ああ)

 

 漢文法では、一般に詞類(品詞)を「実詞」(じっし shící)と「虚詞」(きょし xūcí)に分けています。「実詞」は、単独で意味をなすものであり、「虚詞」とは単独では意味をなさないものです。

さらに分かりやすくいえば、「実詞」とは単独で主語や謂語になることができる詞類です。「実詞」は、各国語にも同じような詞類があります。

これに対し、「虚詞」は漢文独特のものです。「虚詞」は単独では意味をなしません。意味が弱いため、訓読したときも「置き字」になることが多いものです。

江戸時代以前に書かれた漢文法書は、ほとんどこの「虚詞」の用法に関するものでした。実詞の用法は素読で習得できるが、虚詞は筋道をたてて勉強しなければ習得できなかったからだと思われます。

なお、「虚詞」は「助字」(じょじ zhùzì)と呼ばれることもあります。

※牛島徳次(うしじま・とくじ)博士の『日本における中国語文法研究史』(東方書店)の48ページ以下に「助字」についての説明がありますので、引用させていただきます。

  現在、中国語の文法を歴史的に考察する場合、「助字」という用語は、かなり見なれた、また聞きなれた一般的なもののように感じられるが、これは中国の古い時代においてはむしろ極めて用例の稀な語であった。(中略)いわゆる「助字」と同じもしくは同類の内容を表す用語と考えられるものとしては、次のようなものが挙げられる。

 辞 詞 語辞 語詞 語助 語之助 助詞 助句辞 助語之辞 助句之語 助字 助辞 助語辞 語助辞

 これらのうち、使用頻度の特に多いのは、「辞」「語辞」「語助」の3種(中略)。

 なお、「助字」と関連してよく用いられる述語に「虚字」がある。この名称に関しては、古来いま一つはっきりとしないまま、多くの人に使用されてきた。この点について、メスを入れた初期の研究として、青木正児氏の「虚字考」(1956)がある。

 青木氏の説によると「虚字」という述語は、12世紀の南宋のころから用いられるようになったらしく、元来は「実字」に対するもので、主として「詩」や「詞」のような韻文の中で、修辞の面から工夫、利用されたものであって、現代の文法論でいう「名詞」「数詞」を一括して「実字」といったのに対し、「動詞」を「虚活字」といい、「形容詞」「副詞」以下「接続詞」「助詞」に至るさまざまのものを「虚死字」といっていたようである。その結果、後世、「虚字」イコール「助字」というふうに考えられたり、混用されるようになった。(同書4850ページ)

※※漢作文の参考書として、同訓異字の検討に威力を発揮する伊藤東涯(いとう・とうがい)の『操觚字訣(そうこじけつ)』を使用されている方は、『操觚字訣』の独特な品詞分類を知っておく必要があります。ただし、現代風にきちんと区別できるわけではありません。

 語辞・・・虚詞および実詞のうち助動詞、代名詞、存在動詞

 虚字・・・動詞(他動詞)

 実字・・・名詞

 雑字・・・動詞(自動詞、形容詞)

 

     


公開日:2007年7月16日


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