小説 自由学校

Syun 作

1 つきまとう女の子

 かつて、僕は、
「もう、いいかげんにせんか!」
 と、父に、どなられたことがある。
 
 もっともだ。
 僕は、もう2年も浪人していたからだ。

 父には、浪人時代、
「この、ごくつぶし(穀潰し)が!」
 とも言われた。

 “ごくつぶし”ってなんだろう、とインターネットで調べた。
『食べるだけは一人前だが、まったく役に立たない人間のこと』を言うらしい。

 それで、3浪をするわけにもいかず、僕は模擬試験による合否判定結果に素直に従い、今の大学に入ったのだ。
 もっとも、この大学を受けるについては、高校の先輩がいて、『うちの大学は、ともかく出席率より、試験を受けるか、レポートを出せば、何とか単位をくれるところだから』と助言をしてくれたところが大きかった。

 入学式の時、学長が言った、
『君たちがしっかり勉強してがんばれば、大学も、責任をもっていいところに就職できるよう応援するから…』
 と。
 高校の先輩によれば、確かに、うちの学校法人には企業やメーカーから多くの出資金や寄附金が集まっているらしい。
 だから、成績優秀の、ごく一部の学生だけは、何とかなるらしい…。
 確かに、今の時代、工学部情報工学科の修士課程でも出れば、就職も何とかなるらしいのだが…。
 
 僕は、法学部法律学科。
 よほどがんばらなくては、正規社員は無理だろう…。

 4月に入学して、早や1カ月が経とうとしている。
 なのに、僕には、まだ何をやろうか、決めかねていた。
  
 
 僕は、大学の授業の合間、ひとりでブラブラ構内を歩きながら、それでもどこか、文化サークルに入るか、スポーツ系の同好会に入るかして、有意義な時間を過ごさなければいけないかな、と思いはじめていた。

 ある日、講義の合間のことだったが、耳寄りなことが、突然、僕の耳に入ってきた。

 音楽クラブに入れば、好きな時に、ピアノのある部屋に入り、ピアノが弾けるということだった。

 また、水彩画クラブに入れば、好きな時に、アトリエに入り、そこに置いてある絵の具や画用紙を使って、絵が画けるらしかった。


 僕は、まず、音楽クラブに行ってみることにした。
 部室のドアをノックする。
 中に、女の子がひとりいた。

「やってみたいのですが、その試験的に…」
「どんな楽器がやりたいのですか?」
「ピアノはいけませんか?」
「いいですよ」

 彼女は、簡単にピアノが置いてある個室の鍵を貸してくれた。
 学生証を見せたわけでもないのに。
 もっとも、ピアノなんか、盗めるはずもない、重たくて。

 それで、僕は、個室に向かった。

 ピアノが見えた。
 ドアの一部がガラス張りになっているから、中は見えるのだ。
 コンサートなどに使われれる、大きなグランドピアノではない。
 ごく普通の、一般家庭にある、平型(アップライト)ピアノだった。

 がしかし、なかなか、ドアが開かないのだ。

「だめだめ、鍵の入れ方がまちがってるわ」
 そばに女の子がいた。
 さっき、部室にいた子のようだった。

(いつのまにここへ来たんだろう?)
「えっ、そうなんですか?」

 彼女が鍵を抜き、もう一度、鍵穴に鍵を差し込んで、ドアを開けてくれた。
「はい、どうぞ。ピアノには、鍵は、かかっていないですから…」
「ああ、そうなんですか?」

「はじめてなの?」
「ええ、いや、はい」

「教えてあげましょうか?」
「でも、僕は、ずぶのしろうとだし、まだ、音楽クラブに入る、と決めたわけでもないし…」
「いいわよ、そんなこと、気にしなくても」
 
 僕は、彼女の髪の毛を見ていた。
 ことわる理由が、なかなか見つからなかった。
「本当に、いいんですか?」
「いいわよ」

「その、右手と左手の使い方、教えてもらえますか。そうしたら、まず、指の動かし方から、慣れていきたいんで…」
「いいですよ」

「まず、右手は、親指が1番になるの。人差し指は2番、中指は3番、薬指は4番、小指は5番ということね」
「はい」

「それじゃ、今度は左手よ。左手も、小指が5番、薬指は4番、中指は3番、人差し指は2番、親指が1番になるの」
「はい、右手は、左から右へ1,2,3,4,5と並ぶんですね。でも、左手は、逆に、左から右へ5,4,3,2,1と並ぶんですね。なんだか、やっぱり、ややこしい…」

「そうかしら?」
「はい、複雑です」

「でも、親指は、左右とも、1でしょ。それに、親指から小指に向かっては、どちらの手も、1→2→3→4→5という順番よ。何も、むずかしくはないはずよ」
「そうですか…」

「じゃ、鍵盤(けんばん)のことね。鍵盤には、たくさんのドレミファソラシドが並んでいるの。で、まずは、ドの位置よね。ここよ。黒鍵が二つ並んでいるところと、三つ並んでいるところがあるでしょ。この二つ並んでいるところを見て。この左側の黒い鍵盤の左下がドなわけ…。さあ、ここに、右手の親指を置いてみて。ここが、まん中のドなのよ。そぉ、それでいいわ。2番の人差し指でレ、3番の中指でミ、4番の薬指でファ、5番の小指でソ、というわけよね。あとは、何度もくり返し練習すること。だんだん指が慣れてくるわ」
「そうですか」

「あと、左手の練習ね」
「はい」
「ここの真ん中より左側にある、二つ並んだ黒い鍵盤を見て。ここの左下が、真ん中より一つ下のドなの。このドのところに、左手の5の小指を置いてみて」
「こうですか?」
「そおそお。そこから右の方向に、順番に行くと、ドレミファソラシドとなるのよ」
「ああ、そうですか」
「左手の場合は、小指でド、薬指でレ、中指でミ、人差し指でファ、親指でソ、ということになるわ」
「そういうことですか?」

「あなた、右ききなの?」
「はい」
「じゃ、左手の指を動かすのは、ちょっと大変かもね。でも、左手の指は右手以上に、しっかり練習してね」
「はい」

 彼女は部屋から出て行った。

 僕は、早く帰りたかった。
 彼女の応対に、けっこう神経を使ったのかもしれない。

 しかし、彼女がせっかく教えてくれたのだ、クラブに入るか入らないかわかりもしない僕に…。

 それで、少し、練習して帰ることにした。

 実際のところ、僕は、予備校の時代から、英数国理社の勉強しかして来なかった。
 時間があれば、英語の単語を覚えること、数学の公式を覚えることを、先生から強いられてきたのだ。
 もっとも、こっちはやる気がないのだから、時間はかけても、なかなか英単語の意味や公式の意味が頭に入って来なかったのだけれども…。

 高校の3年間と予備校の2年間の、計5年間というもの、僕は、父親から勉強以外のことをやるなと言われ続けてきた…。
 ましてや、のんびりと音楽を聞いたり、何かの楽器を手にする、などということがなかったような気がする。
 教科書や参考書を、いやいや開き、その字面だけを目で追っていた…。

 が、今、僕は、黒や白の鍵盤を追っている。
 あの頃より、目が大きくなっているような気がする。
 やはり、浪人生活が終わってよかった、と思った。

 鍵盤を叩いてみる。
 
 ドレミファソラシド、単純な音階だ。
 しかし、鍵盤が奏でる音というのは、今の僕の耳には、快かった。

 僕は、指を動かす、というよりも、鍵盤をたたき、そのことによって、木のハンマーが、上に張ってあるピアノ線を叩き、その細い線の振動によって発生している音というものに、心を奪われ、耳を澄ましていた…。


 それから、僕は、料理クラブにも顔をのぞかせた。
 体験入部ということで…。
 しかし、部室にいた女の子に、本日の材料費ということで、500円を出すように言われた…。

 参加していたのは、8人ばかり。
 あと、ここの卒業生みたいな人が講師だった。

 2つのグループに分かれ、肉じゃが、ほうれん草の胡麻和え、フルーツヨーグルトの3品を作ることになった。
 そして、みんなで試食した。
 丸いテーブルに椅子を持ってきて座る。
 何と、驚いたことに、先生も、僕を除いたあとの7人も、みんな女の子だった。
 
 後片付けはみんなでやった。
 父は帰りが遅かったし、僕はよく台所で母の後片付けの手伝いをしていたので、食器を洗ったり、拭いたりするのは、ちっとも苦にならなかった。

 が、しかし、気になる。
 で、横にいて、お皿を洗っている、背の低い女の子に、僕は背中をかがめるようにして、そっと聞いたのだ。
「このクラブ、男が入ってもいいのかな?」

 すると、彼女は言った、
「ぜんぜんかまわないよ。むしろ、大かんげいよ」
 彼女がにっこり笑っている。
 僕は、ホッとした。
 で、大きく背伸びをした。

 久しぶりに牛肉をたっぷり食べることができたし、ほうれんそう、しめじ、にんじんといった新鮮な野菜、それに、バナナ、プレーンヨーグルトもたくさん食べることができた。
 それも、たった500円で。
 料理クラブというのは、けっこういいな、と僕は思った。
 

 僕は、大学の授業にはあまり行かなかった。

 昼間、時間が余っていた。
 それで、美術クラブの部室にも行ってみることにした。

「ちょっと、試験的に見させてもらっていいですか」
「いいですよ」
 そのクラブにも、女の子が一人部室にいて、椅子に座っていた。
 
 やはり、順番に、部員の誰かが来て、部室の管理をしているんだろうか?

 その部屋には、大きな机の上に、塑像とか、くだもの、野菜とか、花を活けた花瓶が置いてあって…。
 誰でも、好きなようにスケッチをし、絵の具を塗っていくことができるようであった。

 僕は、1時間ばかりいて、スナップエンドウを鉛筆でデッサンし、そして、緑色の絵の具で色づけした。
 誰も来なかった。
 女の子とふたりだけで、何となく気詰まりな感じがした。

「体験させてくれて、ありがとう」
 一応、僕は、そうお礼を言って、部室を後にした。


 不思議なことだ。
 僕は、体育の授業だけは出席した。
 ソフトボールとかバスケット、サッカー、バレーなど、その時間には、球技をさせてもらえるからだ。
 実際、僕は、小学校高学年のときも、中学校のときも、野球部に入りたかったのに。
「おまえは、俺に似ていて、運動神経がいいわけがない」
 そう父親に言われ、そして、塾に行くことを強制されていた…。

 それに僕は、中学校の頃は、母親がキッチンで料理をしているところを見るのは好きだった。
 しかし、土曜、日曜など、父親がうちにいて、
『そんなところでうろうろするな、そんな時間があったら勉強しろ』
 と、叱られたものだった。

 僕が、高校2年になるまで、父親は、僕が弁護士になることを望んでいた。
 父はよく言っていたものだ、
「いいか、旧帝大の法学部をねらうんだ。旧帝大は、な、民事訴訟法とか、刑事訴訟法とか、手続法の講座が充実しているんだ、他の大学に比べてな。これらの手続法をきちんと勉強しなくては、いい弁護士にはなれないんだ」と。

 僕は、旧帝大って何か、と思い、インターネット検索で調べてみたことがある。
 どうやら、旧帝大とは、旧帝国大学のことで、「○海道大学、○北大学、○京大学、○古屋大学、○都大学、○阪大学、○州大学」のことを言うらしい。

 がしかし、今は、もう、父も、僕が弁護士になるのを、あきらめている。
 
 僕の、予備校での成績を見て、父はカンカンに怒った。
 そして、僕が受けたいという大学の、センター試験の偏差値ランキングを見て、深いため息をついた…。

 ともかく、大学に入って、僕は、受講手続きだけは取ったものの、民法とか、刑法という講義には出なかった。
 あまり興味が湧かなかったからだ。

 保健体育、技術・家庭科、音楽、美術。
 むしろ、僕は、英数国理社の「主・要」5科目より、「従・不要」4科目の方がやりたかった…。

 僕は、再び、美術クラブの部室に行った。
 
 このあいだ、スナップエンドウの絵を画いたのだが。

 スナップエンドウは、フキとともに、母が春の味噌汁の具として、よく入れてくれていたものだ。

 しかし、このあいだは、絹さやより大きめな、肉厚のスナップエンドウが、ふっくらと描けなかったのだ。

 僕はマンションに絵の具を置いてなかった。
 まだ、本格的に水彩画をやるとは決めていなかったからだ。

 もっとも、なんとなく、スナップエンドウに再度、挑戦してみたくなったのだ。

 が、部室には鍵がかかっていた。
 これでは中に入れない。

 一瞬、僕は、茶店にでも入って、時間をつぶすかな、と思った。

 しかし、うちの大学の校門前にある茶店は、コーヒーが一杯450円もした。
 ケータイの時刻を見た。10時20分だった。

 10時30分からの授業には間に合う。
 ケータイで、僕の時間割を見る。
 英語の授業だった。
 が、ともかく、何がテキストになっているかを確かめておくのもわるくないと思った。
 あとは、後ろの席にいて、図書館で今借りている、デッサンの本でもながめていようと思った。

 テキストは、スタインベックの『老人と海』だった。
(しめしめ、これなら、翻訳本が図書館にありそう…)
 試験になったら、ともかく、せめて、日本語の翻訳を2,3回は読んでおかなくちゃな、と思った。

 12時になっていた。
 僕は学生食堂に行った。
 ここのカツ定食は、398円なのだが、けっこう、イケる、しろものだった。

「ここ、空いてる?」
 見上げると、どこかで見たことのある女の子で…。
(そうだ、美術クラブの人だ)
「はい、空いてます」

 僕は、美術クラブに入ると決めたわけではないのに…。
 食事が終わると、その美術クラブの女の子に、茶店に誘われていた。

 彼女は3回生だと言った。
 コーヒーが来た。
 僕は、改めて名前を言った。
 2年浪人していたことは伏せておいた。

 しかし、手持ち無沙汰だ。
 で、柴田沙耶香という先輩というか、年齢は同じ子に、僕はたずねていた。

「どうも、スナップエンドウがうまく画けなくて」
「さやは、ね、太い筆をつかって、ゆっくりと寝かせるように画けばいいわ。あと、スジのところは、細い筆で、筆を立てるようにして、すばやく画けばいいわね」
「ああ、なるほど…」

 そうは言ったものの、僕には、よくわかってはいない…。
 でも、筆の使い方として、同じスピードでなく、ゆっくり運んだり、手早く運んだりするやり方があるんだな、と、なんとなく感じられたような気もする。

 が、ともかく、僕は、コーヒーを飲みながら彼女と話をしたけれども、僕が2年も浪人してやっとこの大学に入ったということや、これから正式に美術クラブに入部するのでよろしくお願いします、とは、決して言葉にしなかった…。

 
 それから、しばらくして、僕は、再び、音楽クラブに行った。
 
 水彩画を書くことと、ピアノを弾くこととは、まったく関係がないことだった。
 
 絵と楽器、どちらかといえば、僕は、絵の方が、うまくなりたかった。
 それには、筆を使う際、手首の使いというか、指使いが器用でないといけない、と思うようになっていた。

 僕の場合、左手の指は、なかなか思うように動かないのだ。
 でもせめて、利き手である右手の指は、思うように動かしてみたいのだ。

 それで、正式の部員にもなっていないのに、ピアノの練習をすれば、器用な筆使いができて、絵も上手になれる、と勝手に思い込んで、音楽クラブに足を運んで来たらしい…。

 部室には、女の子がひとりいた。
 どうやら、留守番をしているみたいだった。

「あのー、部員ではないのですが、試験的に、ピアノの練習をさせてもらっていいですか?」
「……」

 女の子は答えない。
 何か、ブスッとした表情だった。

「やはり、だめですか、部員でないと」
「……」

 僕は、踝を返そうとした。
 実際、部員でもないのに、ピアノを貸してください、というのが無理な注文というものだ。

「あなたねぇ、二度目でしょ、今日で…」
「えっ、はぁ?」

 女の子の顔を見た。
 なんか、見覚えがある。
(あっ、この前、ピアノを教えてくれた子だ!)

 僕は、恥ずかしくなった。
 前に、ひょっとしたら、その子の名前も聞いていたかもしれないのに…。
 名前も顔も覚えていなかったとは…。

「すみません」
 僕は、ひたすらあやまった。

「あなたねぇ、このあいだ、美術クラブの部長と一緒に食事をして、喫茶店に行ったでしょ!」
「えっ!」
「ちゃんと、見てたわよ、わたし」

(あの、美術クラブの、3回生の子は、部長だったのか!)
 
「あなた、どっちなの?」

 どっちなのか、そう言われても困るのだ。
 まだ、決めかねているのだ、どっちをやりたいのか。

 料理クラブはいい。
 週一回、たった500円で、たらふくおいしいものが食べられるからだ。

 美術クラブ、音楽クラブは、どうなんだろう?、何か、いいことがあるんだろうか?。

「さぁ、練習をしましょう」
「ウン?」
 なんと、僕は、彼女に手を引かれて、ピアノのある部屋へと導かれていた。

 連弾でもする気なのか!。
 いや、そんなはずはない。
 しかし、彼女は、部屋の隅から、もうひとつ、丸い回転椅子を持ってきて。
 僕のそばに座る。

「さぁ、やってみて」
「はい」

 僕は、本当は、器用になるために、左手の練習をしたかったのに。
 しかし、鍵盤には、右手の指を置いていた。

「肩の力を抜いて!」
「もっと、指をまるめて!」
「まるく、柔らかいものをつかむような感じで!」
 そばの彼女は、とてもやかましかった。

 で、何か注意をしようと、横を向くと…。

 なんと彼女は、色白で…、けっこう、美人だった。
 
 急に、胸がどきどきしはじめた。

「どうしたの?」
「いや」
 しかし、僕は、鍵盤に置いている、右手の指先が、少し震えているのがわかった。

「長いゆびねぇ…」
「……」
「うらやましいな」
「そんなこと」

 何と、彼女は、震える僕の右手を、自分の両手に抱え込んでいくではないか。

 彼女の手のひらはとても温かかった。
 
 彼女は、さもいとおしそうに、僕の指を手にしている。

(きのう、つめを切っておいてよかったなぁ…)

 しかし、女の子に手を取られるなんて、初めての経験に、僕の心は、舞い上がっていた。
 そして、頬が紅潮してくるのだった。

「そんなこと」
 僕は、手をひっこめようとした。
「あらっ、ごめんなさい」
 彼女が、手を離した。
 が、頬を赤らめている…。

 見ると、彼女は、肩を落として、消え入りそうな感じで身を細めていた。

 わるいことをして担任の先生に叱られている小学生の女の子のように僕には見えた。

 何か、こっちが気の毒になるようで…。
 気にしなくていい、と言ってあげたいのに。

 しかし、なんて言っていいのか、わからない。

『女の子に手を取られるなんて、生まれてはじめてだ』
 なんて言おうものなら、また余計に、彼女の心を傷つけるかもしれない…。

 僕は、しかし、突然、彼女の手を取ってしまっていたのだ。

(そんなに彼女の手は小さいのか?)
 それを確かめるつもりだったのかもしれない。

「なんだ、君だって、すごく伸びやかな指をしているじゃないか!」
 僕は、正直に言った。

 それなのに、彼女は、ますます、恥ずかしそうに身をすくめていた。

 僕は、気の毒になって、椅子を回転させながら、彼女の方に向き、彼女のか細い肩に手を置いた。

「これから、練習に来てもいいかな?。へたくそで、どこまで上手になれるか、わからないけど…」
「……」
 彼女は、うつむいて黙ったままだった。

 でも、反って、そんな彼女がいじらしく思えてきた。

 それで、僕は言った。
「むろん、練習して、うまくなるようにするよ。でも、君に会いに来たいんだ、いいかな、それでも?」

 彼女がハッと、顔を上げた。
 その顔が、とてもかわいかった。

 思わず、僕は、チュッと、彼女の唇にキッスをした。

 甘いかおりがして、股間のペニスがキュンと頭をもたげた…。
                                 (つづく)

あなたのひと言が作者の励みとなり、新たな作品が生まれます。ご感想宜しくお願いします。
2008.5.24掲載  
Syunさんの他作品(2008.5.24現在)
『少女に調教されていく』 『一妻多夫』 『盗 姦』
『ショッキングな話』 『不 倫』 『ロボットの惑星』
『恋を裏切った女と男』 『黒い誘惑』 『大空に散る』
『小説 問わず語り』 『小説 愛の漂泊者』 『小説 スワッピング』
『小説 わたしが殺した女』 『小説 泣いている女』 『小説 秘密クラブ』
『野望渦巻く飛鳥の郷』 『ホームレスの欲情』 『密室での痴情』
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