|
8(最終話) 死ぬときはひとり…
俺は、玲奈のマンションに居座ってしまっていた…。
その代わり、玲奈のために、朝食づくり、洗濯、風呂や部屋の掃除、夕食づくりなどの家事をした。
玲奈は、俺が作る食事をおいしそうに食べた。
「あなたは、まるで、シェフみたいね」
と、玲奈は言った。
俺は、素敵な生活を玲奈にプレゼントされていた。
だから、俺は、玲奈に何かを残したいと思った。
俺は、大学時代の友人に会いに行こうと思った。
彼は、生命保険会社に勤めていた。
実現できそうな話ではなかった。
しかし、俺は、ぼんやりと、保険金を玲奈に残せないだろうか、と考えていたようだ。
「なんだ、そのきたない格好は!」
「……」
「俺は、この会社じゃ、部長なんだからさ」
彼が名刺を出した。
肩書きを見る。
本当に、「営業部長」とあった。
49歳で部長なら、あるいは役員にまで出世するかもしれない。
「で、何の用だ?」
「いや、おまえになら、聞けるかな、と思って…」
「何だ!」
「つまり、そのぉ、俺が死んで、残った家族に保証が3000万円ある保険って、掛金は月に、どのくらいになるのかな、と思ってな…」
「医療保険もあるし、がん保険もあるし」
「……」
「で、おまえ、入院給付金はいくら欲しいの?」
「そんなのは、いい」
「馬鹿言えよ」
「死亡保障だけでいいんだ」
「ガンにでもなったのか?。ちゃんと、診査を受けてくれなくっちゃ、だめだからな」
「おまえのところも、入るとき、医師の健康診断が必要なのか?」
「あたりまえよ。それに、死亡保障に関しては、さぁ、確かに、他社では、1年組み立て保険というのもあるけど。うちの会社のは、原則、保険料の払い込み期間は、10年間と設定しているんだ」
「どうして?」
「考えても見ろよ。うちは、外資系でもないし、大手でもないんだ。入ってすぐに自殺なんかされて、家族から、『3000万円の遺族保証金を出してください』って、言われても、困るのよね」
「……」
「で、おまえ、本当に生命保険に入る気があるの?」
「いや…」
「だったら、もうこれ以上話をしても、無駄なこった…」
「ああ」
「俺は、忙しいんだ」
「すまなかったな、呼び出したりして…」
俺は、大学時代の友人に、けんもほろほろにあつかわれ、結局、玲奈のマンションにすごすごと帰っていった。
俺は、こたつに当たっていた。
と、新聞の一面記事が目に入る。
「無年金者118万人」
12月12日、社会保険庁のまとめが、公表されたらしい。
記事を読む。
公的年金を受けるには、どうやら、加入期間が最低25年必要らしい。
ところが、現在、この25年に満たず無年金になっている者や、今後加入を続けたとしても、この25年をクリアできず年金を受給できない者が、118万人もいるらしいということだった。
振り返ってみると、俺は、大学を卒業し、ある医療機器メーカーに入ったが、上司とけんかして、44歳のとき、会社を辞めたのだった。
会社勤めのときは、厚生年金に加入していた。
その期間は、おそらく、22年くらい。
25年には、3年足らない。
それに、かつては、満60歳になれば年金が支給されていたのに、だんだんにその支給開始年齢が引き上げられているという。
最終的には、満65歳にならないと、年金はもらえないらしいのだ。
つまり、長生きしない限り、年金はもらえないということなのだ。
今、49歳の俺は、仮に、いいところに再就職でき、25年という加入期間を満たしたとしても、16年後、すなわち満65歳にならないと、年金がもらえないということになる…。
「どうしたの?」
玲奈が帰ってきた。
「すまない。今日は、料理を作る気になれなくて」
「それはいいけど、外に食べに行けばいいし…。でも、なんで?。何かあったの?」
「友達に会って。やつは元気だった。営業部長として張り切っているみたいだった。俺なんか、仕事もないし…」
「なんだ、そんなこと。人は人、あなたはあなたでしょ」
「それに、ほら、この新聞、見てみろよ。無年金者が118万人いるって、書いてあるだろぉ。俺も、そのひとりなんだ」
「ふーん、なるほど。加入期間が25年に満たない人が、こんなにいるわけね。それで、あなたは、何年足りないの?」
「たぶん、3年は確実に足りないね」
「じゃあ、あと、3年、がんばれば、いいじゃない」
「そう簡単に言うなよ。俺みたいな男、雇ってくれる会社なんてあるわけがない」
「パートだって、いいでしょ」
「どうしてよ」
「だって、無理に会社勤めして厚生年金に加入しなくてもいいのよ。国民年金に加入すればいいわけだから」
「あっ、そうなんだ」
「そうよ。共済年金、厚生年金、国民年金など、合わせて25年あればいいのよ」
「でも、国民年金だって、保険料は高いだろうな」
「あと、3年あればいいだけなんだから、ゆっくり納めればいいわよ」
「でも、俺、もうすぐ、50歳になるんだ、60歳まで、間がないよ」
「何、言ってるの。70歳になるまでの間に保険料を支払えばいいのよ」
「あれっ、そうなんだ…」
「そうよ。まだ、あなたには、20年以上の猶予期間があるわ」
「でも、パートだって、俺には働き口がないよ」
「どうして?」
「色々、あるけど、まともなところは、やはり、保証人が要るし」
「なに、そんなこと。わたしが保証人になってあげるわよ」
「えっ、そうなの?」
俺は、まだ、体力には自信があった。
夜間の水道工事現場での交通誘導の仕事でも、できそうだった。
あとは、市役所に行って、国民年金の保険料を3年間、払えばいいのだ。
年金の支給額は、最近、減ってきているらしい。
しかし、今まで、ゴミ収集置き場で、生ゴミをあさってきた人間にとっては、月に3万円、年に36万円も、もらえるなら、それは本当にありがたい話なのだ。
俺は、わがままで、独りよがりの男だ。
俺は、急に、その月に3万円の年金が欲しくなったのだ。
65歳にならないと、もらえるはずがないのに…。
俺は、身を乗り出すようにして、玲奈に言った。
「俺、ハローワークに行って、職を探すよ。だから、保証人になってくれる?」
「ええ、いいわよ。でも、できるだけ、夜間の、例えば、ビルの警備の仕事は辞めてね」
「どうして?」
「もらえるお給料は少なくていいの。わたしと一緒に過ごす時間を優先して欲しいの」
「えっ!?」
「だって、わたしが会社からうちに帰ったとき、あなたがいないと、さびしいわ」
「……」
俺は、何だか、涙ぐんでいた。
しかし、腹の底から元気が出てきたような気がする。
「玲奈、じゃ、うちで、飯でも食う?」
「えっ、外へ出るんじゃないの?」
「外食なんて、もったいない。俺が、15分で、親子丼をつくるよ」
「あら、そうなの。わるいわね」
実際、ご飯は、冷凍室にいっぱいあったし、鶏のもも肉だって冷凍してあった。
たまねぎや、たまごもある。
それに、昨日買っていた「みつば」もあった。
俺は、いつも、パンの耳にマヨネーズをぬり、おからを挟んで食べていた。
しかし、こうして、白い米のご飯を食べると、急に元気が出てきて、精力がついてきたような気がするのだ。
食事のあと片付けをしているあいだに、玲奈は風呂に入った。
そのあと、俺も入り…。
そして、風呂から上がって間もないというのに、俺は、こたつの中に足を突っ込みながら、髪を乾かしている玲奈を、絨毯の上に押し倒していた…。
「いやいや」
「髪はあとで乾かせばいいだろぉ」
「ちゃんと乾かしておかないと、明日の朝、困るの」
「いいって、いいって。あした、また、シャンプーして、ドライヤーをかければいいさ」
俺は、実際、濡れた髪が好きだった。
真っ黒な髪。そして、地肌の匂い。
そして、風呂上りの、やや、湿った玲奈の肌が好きだった。
手に吸い付くような感じがして。
部屋は暖房がかかっていて、まるで夏みたいになっていた。
俺は、玲奈を丸裸した。
そして、俺も、丸裸になった。
玲奈の股間を見た。
湯上りのせいなのか、それとも、こたつの中で蒸れていたのか、内腿は、まだ湿っぽかった。
湯上がりに玲奈は、バスタオルでしっかりからだを拭く。
内腿についている水玉は、たぶん玲奈の汗なのだろう。
俺は、その汗を口で啜っていた。
と、ボディ・シャンプーの、いい匂いが鼻をつく。
それは、玲奈の草叢から発していた。
俺は、玲奈の草叢に、鼻をつけた。
「くすぐったい!」
玲奈が笑い、そして、あばれた。
「痛い!」
俺は、鼻頭をごつんと、玲奈の恥骨で打たれてしまったのだ…。
「大丈夫?」
玲奈が、首を上げ、覗きこむようにして、言う。
「大丈夫」
そうは言いながら、俺は、玲奈の腰をしっかりと固定してしまっていた。
そして、草叢の中の陰核を探していた。
この陰核を攻めなければ、玲奈は、また笑い転げて、恥骨で、俺の鼻っ柱を打つにちがいないのだから…。
玲奈をおとなしくするため、俺は、舌とくちびるを酷使した。
「うーん、もう、いやっ!」
玲奈がお尻を上げてくる。
でも、かえって、それで、玲奈の亀裂が、はっきりと目の前に迫って来る。
俺は、玲奈の膣口を舐めていた。
内側から、ねっとりとした粘液が流れ出てくる。
俺は、それを啜る。
「あーん、いやいや、もう、エッチなんだからぁ!」
俺は、攻撃の手を休めない。
玲奈は、若い。
玲奈は、1回のセックスで、3度、4度とアクメに達しても、明くる朝は、ケロッと平気な顔をしている。
俺は、1回のセックスで、射精は1回でないとだめになってしまっていた…。
若い時なら、1回目の射精後、5分もあれば回復していたのに。
今は、もうだめだ。
最低30分経たないと、回復しない。
そして、一晩で2回、射精をしてしまったら、明くる日の夜は、もう、興奮度が落ち、勃起力も落ちるようになってしまったのだ…。
俺は、指先で、玲奈のクリトリスを揉んでいた。
なぜなら、玲奈は、クリトリスを愛撫すると、子犬のように、クンクンとかわいい声を出し、お尻をピクピクと上下に揺するからだった。
玲奈は、どうやら、膣の中をペニスで擦られるより、クリトリスを、指、くちびる、舌で愛撫される方が気持ちいいらしいのだ。
俺は、しかし、くちびるや舌で、玲奈のクレバァスを舐めるのが好きだった。
玲奈の粘液が、くちびるを濡らす。
そして、俺は、俺のくちびるについた、玲奈の淫液を舌で舐めるのが好きだった。
いや、玲奈のヴァギナいっぱいに満ちた淫液を、直接、膣口にくちびるをくっつけて、チューチューと吸い込むのが好きだった。
玲奈の淫液が、咽喉元を通り、食道を通り抜け、胃の中に入ると、何だか、生きる力がみなぎってくるような気がした。
俺は、口をすぼめながら、懸命に、玲奈の淫液を啜っていた。
すると、俺の口元からは、唾液が漏れ出て行った。
そして、股間のペニスの先からは、先走りの液汁が、垂れ流れていくのが感じられるのだった。
「玲奈、もう、俺は、がまんできないよ」
「いいわよ、入れても」
「ありがとう」
おれは、玲奈の股間を押しひろげた。
そして、玲奈のヴァギナの入り口に、ペニスの先っぽをあてがった。
「あああ、ああああ」
玲奈がうめく。
が、俺は、ゆっくりと腰を進める。
玲奈の中は窮屈だった。
しかし、玲奈のクレバァスで、ペニスが締め付けられ、気持ちがいい。
俺は、俺の欲望に貪欲であった。
さらに、奥へと、押し込む、俺のペニスを。
「おおっ――ッ!」
俺は思わず声を上げた。俺のすべてが押し込まれ、そして、俺のペニスを、玲奈の筒状の襞肉がしっかりと包み込んだのだ。
俺は、じっとしていた。
が、つながている股間の、クリトリスを、俺は指で愛撫していた。
そして、乳首を舐める。
俺は、挿入したまま、腰を回転させる。
だんだんに玲奈のヴァギナは練れて来る。
襞肉と襞肉の隙間から、淫液がにじみ出て来た。
ちょっと動いてみたくなった。
ペニスをそろそろと引いてみる。
と、玲奈の襞肉が、まるで、蛸の吸盤のように、陰茎にくっついてくる。
そして、押し込む。
引く、押し込む。
それをゆっくりと繰り返す。
すると、すべりがよくなった。
玲奈に、俺の愛情を注ぎ込むために、俺は、腰を使った抜き差しをはじめる。
玲奈も、俺の動きに合わせるかのように、下から腰を使いはじめている。
(玲奈だって、いつか、他の、いい男に抱かれるようになるだろう。が、それでもいい。今は、しっかりと玲奈を愛するのだ。精一杯、愛しさえすれば、玲奈に捨てられ、ひとりぼっちになっても、ジタバタすることはない…)
俺には、社会的な名誉は要らない。
そんじょそこらにいる、ただのおっさんで十分だ。
そして、莫大な財産も要らない。
俺にとって必要なのは、玲奈のからだのみ…。
いつか、玲奈は、俺を捨てるだろう。
10年経てば、玲奈は30代半ばの、女ざかりを迎える。
一方、俺は、60歳の、くたびれた、おっさん…。
肉体的にも、玲奈を満足させてやることはできなくなっているだろう。
それだって、構わない。
また、ホームレスの生活に戻ればいいことだ。
いつか、俺は、コンクリートの路上の上に倒れ、呼吸をするのを止め、警察で検死を受けるだろう。
それから、火葬場に運ばれ、灯油で肉体を焼かれ、煙となって空に舞い上がっていくのだろう。
所詮、人間、死ぬときは、ひとりなのだ。
恋もいつか冷める。
命もいつか尽きる。
今を、今このときの瞬間、瞬間を、大切にするしかない。
「ああああ、うううううっ・・・」
俺の体の下で、玲奈が、上半身の肉をヒクヒクと痙攣させている。
と、玲奈が、下肢を伸ばし、そして、グッと上体を弓のように反り返らせた。
ペニスに、強烈な締め付けを感じる。
「あああ、玲奈…」
俺は、思わず、目を瞑った。
と、俺は、両脚を伸ばし、足指を折って、痛いほどに背骨を反らしていた。
絨毯の上に置いていた手を突っぱねている。
ペニスが、筒状の中で、くねり躍動する。
腰の後ろが痺れる。
両脚の筋肉がピクピクと痙攣する。
と、目の前を、何本もの閃光が走り抜けた…。
(玲奈、愛している)
俺は、胸を張り、玲奈の股間に腰を押しつけ、激しく射精をしていた…。
俺は、がっくりと両腕を絨毯の上に投げ出していた…。
俺は、玲奈の上半身に体を預けながら、玲奈の汗ばんだ肩先に、顔をくっつけた。
(玲奈のために、俺は生きる…)
俺は、玲奈をいとおしく思った。
そして、セックスを自堕落で非生産的なものとせず、健康的で生産的なものとして捕らえ、前向きに生きるのだ、と俺は思った…。
(おわり)
|