2.新たな旅立ち
| 2.新たな旅立ち 康子が二十歳を迎えた頃、世の中は景気も上向き、活気づいていた。 仕立て屋での康子の役割は、お針子ではなくなっていた。 出入りする娼館の数も増え、娼婦達の注文取りと集金の専属となっていた。 康子が、娼館への出入りが多くなると、娼館の女主人たちからの誘いが多くなっていた。 顔立ち、胸・お尻の大きさ、身体のバランスと、二十歳を迎えた康子は、掛け値なしに美人だったからである。 ・・・・ そんなある日、康子は決意した、娼婦に身を落とすことを。 実家の家計は、今でも逼迫している、このままでは自分の人生もまま成らない。 女主人の誘いに答える康子、仕立て屋には当然、秘密である。 女主人の計らいで、当分の間、売春婦としての勉強に励むこととなった。 注文取りと集金の合間に、娼館に仕掛けられた覗き穴から、娼婦達の営みを観察した。 その穴は、覗きに金を出す客がいることから、仕掛けられていた。 ある物は、壁に掛けられた仮面の目、またある物は、壁裏からスライドする額縁などであった。 そこには、お客を焦らす娼婦、お尻の蕾を捧げる娼婦、萎れたお客を元気にする娼婦、限りない性欲に答え続ける娼婦、看護婦姿の娼婦、セーラー姿の娼婦、マゾに哲する娼婦、と際限のない男達の欲望に答え続ける娼婦達の姿があった。 康子の脳裏には、響子への強姦シーンが蘇る。 あの後、響子は勤めに出てこなかった、消息も知らされていない。 うわさでは、あの事件のため、精神に支障をきたし、入院生活が続いているとのことであった。 康子は知った、あらゆる性技について。 女主人は言う、どんな時も本気になるなと、心も身体も。 康子は学んだ、一流の娼婦になるための、心と技を。 そして、その日はやって来た。 娼婦達の特殊な下着の営業に出かけた合間である。 女主人の計らいで、隣町の娼館が紹介されていた。 紹介先の娼館は、一流中の一流、出入りする客達は、地位も名誉もある金持ちばかりである。 康子のように、処女の娘の初仕事は、常連客達だけのために、高値で取引がされていた。 女主人は、康子のために、一流企業の幹部役員を務める初老の男を選んでいた。 男が待機した部屋へ向かう康子。 ショートカットの鬘をかぶり、チャイナドレスで着飾っていた。 今までにも慣れ親しんだ、仕立て屋の仕事のように、何の不安もなかった。 男は、体格のいい、いかにも紳士といった風体だった。 「ゆっくり、脱いでくれ」 だみ声でいう男。 焦らすように、ゆつくりと脱ぎ始める康子。 「初めてにしては、落ち着いてるじゃないか」 それには、答えず脱ぎ進める康子。 男の一突きは、康子の壺に赤い血を散らせた。 痛みを感じたのは、その時だけ、その後は苦痛もなく、娼婦としての勤めを果たした。 男の強張りが萎えるまで、誠心誠意つくした。 男は大満足で帰っていった。 康子が勤めるのは、仕立て屋の仕事に支障のないよう、週に2日とされていた。 週に2日のお勤めでも、仕立て屋の収入より多かった。 半年も娼館で勤めた頃、康子は仕立て屋の主人から暇をとった。 特に理由は告げず、実家に帰ることにした、とだけ告げた。 そのころには、康子は一流娼館の一番の人気者だった。 全ての、お客に誠心誠意つくし、満足せずに帰らせることのない康子の人気は高かった。 康子自身も、娼婦の勤めを腰掛のようには考えていなかった。 冷静に生涯の勤めとして考えていた。 参考文献:『大修院長ジュスティーヌ』「娼婦ティティーヌ」(文春文庫)藤本ひとみ作。 |