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89.岩下 美加ー2
祐輔はタクシーを呼び、クラブのロビーで待っていた。
(まだ処置してるのか……?)
祐輔はなかなか来ない美加を待って苛立っていた。
こういう時の1分1秒は長く感じると思った。
まもなく女性トレーナーに身体を支えられた美加が現れた。
「すみません……お手数をお掛けして……」
少し潤んだような瞳が艶っぽく感じられ、祐輔は美加の身体を支えてタクシーに乗った。
スラリとした肢体……
彫りの深い顔と極端にメリハリのあるプロポーション……
栗色の細く柔らかな髪……
その全てが祐輔の気持ちを掴んで放さなかった。
(欧米人より彫りは浅いのが、なお魅力的だ! ハーフとして、いい部分が噛み合った結晶か……)
10分ばかりのタクシーの中で、祐輔は身体から伝わってくる美加の柔らかさを感じ、大きな二重の目、小鼻が小さく鼻筋の通った高い鼻、小さな口と少し尖った顎を眺め堪能していた。
ふたりを乗せたタクシーは高層マンションの前に止まった。
美加は清算を済ませ祐輔に支えられ玄関に向かった。
美加の住む部屋は最上階にあった。
(ここの最上階は……1室しかないようだ。旦那さんはかなりの資産家か実業家……)
エレベータで最上階まで行き、美加から鍵を借りてドアを開き、中に入った。
無駄を省いた通常のマンションレイアウトと異なり、美加の住む部屋はゆったりとしていた。
祐輔は広いリビングのソファに美加を座らせた。
「すみせんでした。いろいろとご迷惑をお掛けして……」
美加はやっと落ち着いたような表情で祐輔を見た。
「いえ、それより大丈夫ですか?」
「えぇ、テーピングしていただいたから……」
美加は前屈みになって足首を擦った。
栗色の柔らかな髪の隙間から、白いうなじの肌が垣間見えた。
(ゴクッ……)
美加を助けた時には余裕が無かったが、こうして見ると一層、美加の美しい艶を感じた。
「それじゃ、僕は……」
祐輔は敢えてすぐに帰ろうとした。
(変に下心を感じさせては元も子もない……)
祐輔が美加に背を向けた瞬間に美加が呼び止めた。
「エッ! 待って……せめてコーヒーでも……何も支度してないから、特別な持て成しは出来ませんが……」
美加はソファに手をついて立ち上がった。
「大丈夫ですか? 無理をなさらないで……」
祐輔は美加の細い腕を抱えて言った。
(しかし、クラブのトレーニングウェアは……)
美加は女性トレーナーに着せられたウェアを着ていたのだ。
「コーヒーはまた別の機会にいただくとして……帰る前に何かお手伝いできることがあれば言ってください。そう言えば……ご家族は?」
祐輔は美加をソファに座らせ、自分も再び腰を下ろした。
「本当に祐輔、さん? には……お世話になり……家族と言っても、主人とふたり暮らしだから……」
「そうなんですか……ご主人が羨ましいですね! こんなに素敵な美加さんを占有できるなんて……」
「まぁ〜祐輔さんは逞しいだけじゃなく、お口もお上手なんですね!うふっ……」
「その笑顔もまた素敵で……それじゃ、ご主人が帰ってくれば大丈夫ですね!」
「えぇ……でも、いつも帰宅は夜半過ぎだから……」
「エッ! ……じゃぁ、やっぱり何かお手伝いを……」
美加は少し考えていた。
(幸せそうだ……そりゃそうか、こんなマンションで何不自由なく暮らして……これじゃ、淫らな欲を実現するのは無理かな……)
祐輔は淫らな妄想を打ち消さざるを得ないと思った。
「それじゃ……ひとつだけ、お願いしてもいいかしら? 祐輔さんのご厚意に甘えさせてもらい……」
美加は申し訳なさそうな顔をして祐輔を見た。
「ひとつでもふたつでも……ご遠慮なく」
祐輔は少しでも好印象を与えて帰りたかった。
(ひょっとしたら、今日は無理でも、この先……)
美加は少し微笑んで話を続けた。
「このウェアの下……水着のままなの……」
(エッ!)
「テーピングをしてもらって着替えようとしたけど辛くて……それで水気だけを取ってウェアを……でも……いつまでもこのままでいられないし、やっぱり気持ちが悪くて……」
「そうでしょうね……それでどうするんですか?」
「シャワーを浴びて身体を洗い流したいの……今はテーピングであまり痛みを感じないからいいけど、シャワーの後、自分ではテーピング出来ないので……」
「いいですよ! 自分がテーピングして差し上げます。だから、ゆっくりと身体を洗い流してきてください。足首だけじゃなく他も痛めているかもしれませんので、注意してください」
「本当に……少しだけ待っていてください」
そう言うと、美加はソファから立ち上がった。
祐輔はバランスを崩すといけないので、脱衣室までついて行った。
(まさか……浴室の美加さんを襲うわけにもいかないよな……)
祐輔は広いバルコニーに出て周囲を見渡していた……。
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