人と地球の間には… 8

 2005/12/166号
秋の空、夕焼けの色
「さすがにこの頃は冷え込むわね。空があんなに高く見える…夏の空は晴れてても白っぽいのに、秋になるとどうして空の色が濃くなるのかしら?夕焼けだって秋の方がずっと赤くてきれいだし…」とネコおばさんはつぶやいた。実はぼくとおばさん、お天気じいさんの3人で近くの公園へギンナン拾いに来ている。昨日の雨のあとはきっとたくさん落ちているからとおばさんが誘いに来たんだ。お天気じいさんこと中村氏は、さっそく1本の大きな銀杏の樹に目をとめ、「おお、あの樹は雌樹のようだ」と近くへ行ってギンナンを探し始めた。そしてビニール袋を取り出して、「ギンナン特有の匂いがするからすぐわかるよ。この果肉はカブれるから気をつけて…ところでさっき空の色のこといってなかったかな、秋の空は春や夏より大気が澄んでいるからねえ。」と、中村氏はギンナンを拾い出した。「じゃあ春や夏は大気が濁っているっていうこと?」「うむ、秋の青空は移動性の大陸性高気圧に覆われて晴れ上がるのだが、この大陸性高気圧というのは空気が乾燥して細かい水滴がないうえに塵も少なく、大気の状態が安定していてね。これに対して春は南から湿った風が吹き込んだりして塵や水滴が多く、太陽光を乱反射して空を白っぽく見せるわけだよ。夏は太平洋高気圧が強い時、気温が高いために地表や海面からの蒸発が激しくて上昇気流が起き、大気が不安定になりやすくてね。大気中に水蒸気が多いから、夏空は白っぽくなる…」そういいながらもせっせと拾う中村氏に、おばさんも負けじと拾いながら、「じゃあ、きれいな夕焼けになるには大気が安定していて澄んでいればいいのね」という。すると中村氏は拾う手を止めて、「確かに秋の青空は濃くて美しいが、夕焼けが美しいかどうかは別の条件もからんでくるのだよ」といった。「日没の頃、太陽が傾いて地平線に近くなると、大気を通る太陽光の道のりが長くなるという理屈は分かるでしょう。空気中の酸素や窒素分子は、太陽光のうち波長の短い青色や紫色の光を散乱してしまい、散乱されにくい赤色の光だけが地表に届く。ところが春のように塵や雲が多かったり、夏のように上昇気流が発生して水蒸気が多かったりして、地表近くに不純物が多いと夕焼けは起こりにくいということだね。…ところで台風がやってくる前に、燃えるように赤く輝く夕焼けを見ることがあってね。日本の南海上を北上してくる台風のてっぺんから、数ミクロンサイズで吹き出す氷の結晶からできた薄い雲が広がると、真っ赤な夕焼けになって、台風がはるか1000kmも離れた南の海上にあっても、その接近を知ることができる。つまり美しい夕焼けのためには西の空がきれいに晴れてなくてはならないが、それに加えて高い空に氷の結晶があるような気象条件が必要だ。それに当てはまるのが秋から冬なのだよ。」といった。おばさんは「よく分かったわ。それと、夕焼けの次の日は晴れるけど、朝焼けのときには雨になるというのはどうして?」という。「朝焼けは東の空に巻雲や巻積雲があるとき、朝日が反射して空が赤く染まるのだが、これらの雲は温暖前線が近づいているときに現れ、天気が崩れやすいのだよ。」「…以前、外国で火山が大噴火をしたあとに、すごい夕焼けが見えたことがあったでしょう。」とぼくがいうと、「おお、1982年のメキシコのエルチチョン火山や1991年フィリピンのピナツボ火山の噴火では、高さ30〜40kmまで火山灰や硫酸ミストなどのエアロゾルが吹き上げられ、いずれの時にも太陽光を散乱させて世界中で赤紫色の夕焼けが観測されたことがあったよ。火山性の微粒子は、異常低温や冷夏などの異常気象を引き起こすから問題も多いが、夕焼けを実にカラフルに彩ってくれる…」といった。そして中村氏はギンナンの詰まった袋を持ち上げて「うん、すごい収穫だ。ギンナンは僕の好物なのでね、これで晩酌の楽しみが増えたよ。」と嬉しそうに笑った。    つづく