第15回

Miles Davis and Modern Jazz Giants

50年代ジャズの遺産たち
「セロニアス・モンクはなにものにも堕落することのない類稀な創造性に満ちた逸材である。彼は、ジャズという特別な条件の下で、音楽を創造することを望むものが受けいれなければならないあらゆる挑戦をすべて受け入れた。おそらく幸いなことに、彼は西欧クラッシック音楽の悪影響に毒されることなく、ジャズとアメリカのポピュラー音楽以外の、なにものからも影響を受けなかった。だからこそ、彼はジャズやポピュラー音楽の"外枠"を利用し、より深い構造部分で曲を作り、驚くほど純粋で、比類ない音楽を創りあげたのだ」−ビル・エヴァンス

さて、いよいよジャズを少しでもかじったことのある人なら、一度は聞いたことのあるエピソードである「マイルス・デイヴィスとセロニアス・モンクの喧嘩セッション」について書こうと思う。
かなりの時間がかかった。そして自分なりの意見をまとめるのにも時間がかかった。

俗に言う「喧嘩セッション」はマイルスが自分のソロのときにモンクのバッキングは要らないと言ったところ、モンクが腹を立てて「The Man I Love」で自分のソロのときに弾くのをやめてしまい、マイルスが弾くように促した、というものだ。
私もそれを信じて、過去、色んな人にそのことを喋ってしまった。
確かにモンクは個性的な人物で、このセッションのほかでも「やらかして」いること(Monk'S MusicのWell, You Needn't)から、「喧嘩」ということをはなから信じてしまっていた。
ところが「マイルス・デイヴィス自叙伝」や他の本でもその「喧嘩」説は否定されていている。

ではこのセッションの事の真相とはなにか?

マイルスは1954年の夏ごろ、シカゴで活動していたアーマッド・ジャマルというピアニストをいたく気に入り、彼の独自のスタイルを自分の音楽に取り入れようとしていた(影響を受けたんですな)「The Man I Love」もジャマルのレパートリーだった。

「スタジオで「The Man I Love」をリハーサルしていたところ、モンクが急に外へ出て行った。それで、ヤツを抜いて練習したら、非常にしっくりいったんだ。だから戻ってきたときに、オレのバックではピアノを弾かないようにって言ってやった。ヤツのピアノはホーン楽器、特にトランペットと相性が悪い。サウンド的に交わらないっていうのかな。オレとはシンコペーションの感覚が違うから、バックでコードを弾かれると、スペースが埋められてしまったり、タイミングが狂ってしまうことがある。ただし、モンクのピアノはある面で最高だ。あんなに独特なフレージングと間のとり方ができるヤツはいない。だからレコーディングにヤツを呼んだんだ」
−マイルス・デイヴィス

マイルスによると、トランペットは音域が限られているためリズムセクションには目一杯演奏してもらい、ホットで追い立てるような感じでないとトランペッターはノレないという。
しかし、モンクの演奏はその反対で、彼の提供する「空間」の中でホーンプレイヤーに吹かせる。それができたのは、コルトレーン、ソニー・ロリンズ、チャーリー・ラウズだけだったという(私はジョニー・グリフィンもそれに含まれると思う)

Miles Davis and the Modern Jazz Giants (Prestige PRLP 7150)

Miles Davis (tp) Milt Jackson (vib) Thelonious Monk (p) Percy Heath (b) Kenny Clarke (d)
Rudy Van Gelder Studio, Hackensack, NJ, December 24, 1954

4.677 Bemsha Swing
2.678 Swing Spring
5.679-1 The Man I Love (take one)
1.679-2 The Man I Love (take two)


Miles Davis (tp) John Coltrane (ts) Red Garland (p) Paul Chambers (b) Philly Joe Jones (d)
Rudy Van Gelder Studio, Hackensack, NJ, October 26, 1956

3.997 'Round About Midnight

このセッションの謎を解く鍵は曲をセッション順に聴くことにあると思う。
資料はアルバムのセッションナンバー(3桁の数字)順に並べたもので左端の数字が実際のアルバム収録曲順だ。

それで問題の「The Man I Love」は2テイクが録音されている。
テイク1は最初のミルト・ジャクソンの出だしで一旦中断、再び演奏が始まる。
マイルスがソロでテーマを吹きその後テンポが変わって、ミルトのソロになる。次にモンクのソロに移るが、ここでモンクは例の「間」をふんだんに使う。で、ちょっと長い「間」がある。
聴いているほうは「え?」と感じるが、現場にいたミュージシャンたちも同様に感じたことだろう。
モンクのソロが終わると再びマイルスが入って、テーマに戻り演奏終了。

テイク2は同じ展開で進んでゆくが、モンクは先ほどの長い「間」をさらに長くする。「これが腹を立てて演奏をやめた」といわれる部分だ。そして、マイルスはトランペットで演奏を促す。「はっ!」と我に返ったモンクは再び演奏をする(様な気がする)

「Thelonious Himself」(1957年録音)の「Round Midnight」(ソロ)を聴いてみると(21分間の中に数テイクを残している)モンクは現場でひとつひとつ音楽を創りあげていくタイプの人で、一発勝負のマイルスとは正反対である。おそらく、モンクは「The Man I Love」のときにも同じ考えで望んでいるのだ。
それで、これは私なりの解釈だが、テイク1で使ったモンクの「間」、彼はテイク2でも使うが「もう少し長く間を取ってみようか?」と考えそれを実行する。「間」があまりにも長いと感じたマイルスが「おいおい、長くないか?弾いてくれよ」とトランペットで促したのではないか?なんて思っている。

マイルスはモンクの「ハウスセミナー」の常連で、彼にとっては師匠といえる存在である。そんな間柄の彼らが喧嘩などするだろうか?ただしこの日のセッションで、マイルスに自分のソロのところでピアノを弾かないようにといわれてモンクが気を悪くしたのは本当だ。しかし、「Miles Davis and the Modern Jazz Giants」は強烈な個性を持つ二人が残した極上の演奏だということは紛れもない事実なのだ。
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