第56回
Bill Evans
Everybody Digs
50年代ジャズの遺産たち

「ビル・エヴァンスからは間違いなく多くのことを学んだ。彼はピアノを理想的な形で演奏する」
−マイルス・デイヴィス
「ビル・エヴァンスはここ数年で聴いたなかでも最もすがすがしいピアニストだ」
−ジョージ・シアリング
「ビル・エヴァンスは極上のピアニストの一人だと思う」
−アーマッド・ジャマル
「ビル・エヴァンスは類稀なるオリジナリティとテイストを持ち、何よりも彼の楽曲の捉え方はそれが演奏法の決定版だと思わせる、希有な才能を持っている」
−キャノンボール・アダレイ
少しずつではあるがミュージシャンの間で注目されだしてきたエヴァンス。
このアルバムジャケットにはこんなコメントが述べられている。
以前、私はある年上の男性と音楽の話をしようと言われたことがあった。
話と言っても一方的に話をする相手に聞き入っていただけだったが。
私がジャズを聴くとは思っていなかったその男性は突然「ビル・エヴァンスのPeace Pieceを聴いていると自殺したくなるよ」と言った。
「どうしてですか?」私はエヴァンスに好感を持っていたので彼を擁護する立場にまわって質問をした。エヴァンスについてはその頃かなり聴いていたので多少の反論はできると思っていたからだ。
「サロンミュージックだからだよ」
サロンミュージック、あるいはカクテルピアノ、店内に流れるBGMと変わらない無益な演奏、と言うのだろうか?演奏者に対しては侮辱に値する言い回しだ。
その人は「ジャズとは本来スイングするものであって、エヴァンスのPeace Pieceはそうじゃない」といいたかったのであろう。若い自分にはその言葉が理解できなかったのだ。
Everybody Digs Bill Evans (Riverside RLP 12-291, VICJ-2195)
Bill Evans (p) Sam Jones (b -1,2,4,6,8,9) Philly Joe Jones (d -1,2,4,6,8,9)
NYC, December 15, 1958
1. Minority (Gigi Gryce)
2. Young And Foolish (Horwitt Hague)
3. Lucky To Be Me (Leonard Bernstein)
4. Night And Day (Cole Porter)
5. Epilogue (Bill Evans)
6. Tenderly (Walter Gross)
7. Peace Piece (Bill Evans)
8. What Is There To Say? (Vernon Duke)
9. Oleo (Sonny Rollins)
10. Epilogue (Bill Evans)
11. Some Other Time (Leonard Bernstein)
()は作曲者。
さて問題の「Peace Piece」を聴いてみよう。
確かに静かな曲で今までに聴いたことのないタイプだが別に「自殺したくなる」ほどのものではない。
エヴァンスはこの曲のベースラインを他にも使っている。
11.の「Some Other Time」
そして「Kind Of Blue」に収録されている「Flamenco Sketches」だ。
しかしながら大変よく似ているのは、「Peace Piece」と「Some Other Time」なのだ。
エヴァンスは語る。
「曲のイントロを弾きはじめると、その曲独特の感じや個性がどんどん膨らんでいって、まあ、このまま続けようと思ったんだ」
また彼と長い付き合いだった友人がよくリクエストして「Some Other Time」を弾いてもらっていたが、知らないうちに「Peace Piece」になっていたという。
こういうことは他の演奏家の中にもよくあることだそうだ。
エヴァンスはこのように言っている。
「この楽曲には参考とすべき調子とリズムはひとつしかなかったんだ。だからこそ、そのひとつのことを守りさえすれば何でもありだったんだ。ベース・ラインを除いては、すべてが即興演奏だったのさ」
クラブでリクエストを受けてあまり快く引き受けられなかったというのも頷ける。
そんなわけで「Peace Piece」というタイトルの曲はこのアルバムのこの曲しかない(たぶん)
プロデューサーの意図でこのCDでは2曲とも聴くことができるが、エヴァンスは当初「Some Other Time」をボツにしていた。
前置きが長くなったけど「Peace Piece」を私は「無難な曲」とみるがいかがなものだろう?
そしてドラマー、'フィリー'ジョー・ジョーンズとは、両者の白熱した演奏も変化があっていいと感じる。4.Night And Day では誰かが唸っている(笑)
彼とは「エヴァンスの好きなドラマー」としてその後も何度か共演することとなる。
ソロとトリオの演奏を織り交ぜて変化に富んだアルバムとなっている。
つづく。
◆◆◆ 補足事項 ◆◆◆
エヴァンスの初期ソロ作品集「Easy To Love」がある。
これは初リーダーアルバム「New Jazz Conceptions」と当アルバムのソロテイク(Some Other Timeは除く)、さらに62年4月に録音されたものが含まれ全11曲のソロアルバムとなっている。
追加データは下記のとおり。
Bill Evans (p) New Jazz Conceptions (Riverside RLP 12-223; Fantasy OJC 025, OJCCD 025-2)
NYC, September 18, 1956
1. I Got It Bad (And That Ain't Good)
2. Waltz For Debby
3. My Romance
Bill Evans (p) Easy To Love (Riverside VICJ-23063)
NYC, April 4, 1962
8. Danny Boy
9. Like Someone In Love
10. In Your Own Sweet Way
11. Easy To Love
彼のソロだけを聴きたい、62年のソロも是非聴きたいという方はこちらをおすすめする。