地形
千葉県には山がないという人がいらっしゃいます。確かに都心から、または埼玉県・茨城県側
から江戸川・利根川越しに千葉県を眺めた時、下総のごく低い台地のほか、山らしいものは見
当たりません。そのため千葉県には登山・ハイキングの対象になる山がないと、お思いになら
れる方も少なくないでしょう。
確かに下総(しもうさ・しもふさ)には僅かな台地しか在りませんが、その南部、上総(かずさ)・
安房(あわ)の国境(くにざかい)を中心に多数の山があります。房総三山と呼ばれる鹿野山
(かのうざん)、鋸山(のこぎりやま)、清澄山(きよすみやま)をはじめとして、富山(とみさん)、
伊予ヶ岳など特徴的な山があります。
最高標高が408.2メーターの(嶺岡)愛宕山ですから、登山ハイキングの対象となる山々の
標高は、いずれも300メーター程度です。低い地点から登り始めますので、意外と比高感があ
ります。半島地形の為に、他地方へ通じる街道が無く、道路が近くても意外と静かな尾根歩き
が楽しめます。
丘陵地帯は茂原と富津岬を結ぶ線の南側、安房の国と上総の国との国境に集
中しています。南側の安房では加茂川の東西の流れと平行した東西の方向に、山並みが走っ
ています。これに対して北側の上総側では、南北方向に幾つかの枝尾根が取り付き、川が深
い渓谷を刻み、北へと蛇行して流れています。(穿入蛇行)この国境の北側では太平洋に近い
南側の方が高く、北側の東京湾の方が低くなっています。養老渓谷などへ観光などで行かれた
時、太平洋のほうが地理的には近いのに、川が全体に北の方向に流れ、その下流が、君津・
木更津・富津・五井の東京湾、それも意外と北よりの平野部に達しているのに気が付かれ、不
思議に思われた方も多いでしょう。加えて川の流れはかなり複雑な蛇行を繰り返しています。
全体の流れの方向はつかみにくく、その河岸は僅かな平地(河原)とそそり立った断崖になっ
ています。さらにその断崖は今日でもなお、崩壊が進行しています。
![]() |
| 清澄寺境内の大スギ |
複雑でつかみ難い地形は、耕地拡大のために、最近では道路拡幅のために蛇行する
流路を短絡する新河道やトンネルが掘られ、思わぬところに水流が出没します。流路の短絡は
「川回し」と呼ばれ、「川のトンネル」も各所にあります。
又、川の断面はU字型が多く、沢を歩く時、平らな河床に、傾斜した地層の水平断面を洗濯
板のように見ることがあります。降水時には直線的に水位が上がり、両側の岸にも取り付ける
ところが少なく、大変危険なことになりかねません。沢を横断する時、遡行する時には激
変する天候に充分な注意が必要です。
それ以上に道路のトンネルが多い。未舗装林道などでは照明もなく、中央部に
光の届かないほどの長さのものもあります。又、地面は浸透水でぬかるんでいたりします。度
胸で通り抜けるのではなく、懐中電灯を用意しましょう。日帰り時の不意の遅れ対策や、ビバ
ーク想定だけではなく、このような理由でも懐中電灯は必携です。
三角点のある山頂の標高は△をつけて数字を出しました。標高点として二万五千分の
一地形図などで数字のある標高は●で数字を出しました。地形図には標高の数字はありませ
んが、地形図の等高線(計曲線)などから標高のわかるもの、別の資料でに標高が明示されて
いるのもなどを○で数字を出しました。
山の名前は他の地方にもまして同名の山が多いので、愛宕山・大塚山・浅間山・石尊山など
注意が必要なものも少なくありません。
読みにくい地名が多くて、地名の読み方は現地の方でも「若い人たちのなかには」「そう呼ぶ
人もいますねえ」という形で二通り以上の読み方があったり、地方独特の方言的音便以上の
変化があったりしています。権威のある筈の大出版社の地名辞典でも、県内の人の書いた本
の振り仮名でも、怪しいものが少なくありません。道路標識などに見られるローマ字表記や橋の
欄干などに取り付けられた仮名書きの銘板も、音訓読みからすれば正しくとも、方言的な音便の
変化からすれば、決して正しいとは限らないようです。
気候・天候
中緯度地方では緯度の差を距離の換算しておよそ50kmによって生じる気温の上下は、標
高差100mの気圧の変化によって生じる気温の変化に等しいと言われています。標高100m
の上昇は気温にして0.6°Cの低下を生じます。しかしこれは理論値で、実際にはもっと複雑な
要素で変わってきます。
富士吉田市が標高800m、富士山頂が3800mとすれば、同じ気象条件であれば、18度
の気温の低下ということになります。東京と比較すれば23度近い気温の低下です。
真夏の富士登山でも山頂では相当の防寒が必要です。又、風は風速1mに付き体感温度は1
度下がるといいますから、防風対策も併せて対応せねばなりません。
![]() |
| 天津神明神社境内のまるばししゃの木 |
房総丘陵は東京から南へ50kmほど南に位置し、標高は300m前後です。これは横須賀・
小田原の緯度です。これを考慮しても、山頂でも水戸・日立の気温ということになります。山へ
行くといっても、特別な防寒対策は全然要りません。加えて、鋸山から清澄山を結ぶ国境の山
々より南の安房地方では、冬でも「肌着一枚」少なくてよいといわれるほどの温暖な気候です。
そのためこの地方では冬季、花卉の栽培が盛んで、「陽だまりハイク」とみかん狩り(12月頃ま
で)、花摘み・イチゴ摘み(もちろん栽培畑で買うのですが、12月頃より)が、楽しめるくらいで
す。夏は標高が低いため、前述のような標高差による気温低下はありません。周囲を海で囲
われているため、海洋性の気温低下が若干期待できますが、暑いことには変わりなく、盛夏だ
けはハイキングに適していません。
年平均降水量は1300ミリから2000ミリです。わが国の平均が、1800ミリですから、その
点大きな違いはありません。しかし、この「房総丘陵」付近は全般的に降水量の多い地域にな
っています。南東に太平洋があり、北西に山を控える清澄山を中心にした箇所に、この地方で
の降水量の一番多い地域があります。ここは養老川の源頭部でもあり、植物では清澄の名が
つけられた特異種の多い地域でもあります。
登山・ハイキングでは快晴でも雨具(傘ではなくレインスーツ)を持参すべきことに変わりはあ
りません。ここでも同じです。日帰りの予定で、出発時から雨なら中止す
るでしょうが、出発時が好天でも雨具は必ず用意しましょう。テレビの気象情報・天気予報では
「関東南部」とともに「伊豆諸島」の情報・予報も参考にしましょう。
動物
千葉県にはペット、家畜を除いて在来種11科21種、外来種共15科33種の哺乳動物が見
られます。
| 在来種 | 外来種 | |
| (ホンド)タヌキ | ヒメネズミ* | クマネズミ+ |
| ホンド(ニホン)イタチ | カヤネズミ* | ハツカネズミ+ |
| ハタネズミ(モグラネズミ)* | ドブネズミ+ | |
| アズマモグラ# | アカネズミ* | マスクラット* |
| ホンシュウヒネズミ# | ニホンリス | ハクビシン |
| ホンシュウジネズミ# | イノシシ | |
| ユビナガコウモリ | ニホンザル | アカゲザル |
| コキクガシラコウモリ | アナグマ | アライグマ |
| キクガシラコウモリ | キツネ | イヌ |
| アブラコウモリ(イエコウモリ) | ノネコ | |
| モモジロコウモリ | ニホンジカ | キョン |
| キュウシュウノウサギ | テン | アナウサギ |
マスクラットは外来の大型のネズミで、輸入されたものが野生化したものです。アナグマはム
ジナ、ササグマ、ササムジナ、マミなどとよばれることがあります。ほかにムササビを確認した
とか、ヌートリアを確認したという話もあります。マスクラットと共に戦前外国から毛皮のために
輸入したものが、逃げ出したもので、県北西部での確認があったというもので、両者の誤認の
可能性もあるそうです。イノシシは在来種ですが、一旦は絶滅したと考えられ、今日見るもの
はその後、他地域から放獣されたものです。
| #印は | *印は | +印は |
| モグラ | 野ネズミ | 家ネズミ |
蛇では
| アオダイショウ | ヤマカガシ | ジムグリ | |
| マムシ | ヒバカリ | シロマダラ | シマヘビ |
蛙では
| アマガエル | ヤマアカガエル | カジカガエル | モリアオガエル |
| タゴガエル | ニホンアカガエル | トウキョウダルマガエル | |
| ウシガエル | アズマヒキガエル | シュレーゲルアオガエル | |
その他には、ニホントカゲ、ニホンカナヘビ(トカゲ)、イモリ、ニホンヤモリなどがいるのは他
所と同じです。トウキョウサンショウウオがJR外房線の房総半島横断部分付近を北限に(隔
離生息地もありますが)半島全体に分布しています。ウナウとかハタケドジョウなどと別名をも
っています。まさに頭がやや大きめのドジョウに手足がついたような姿です。
江戸時代から利根川・江戸川によって関東山地・平野より水流でヘだれられた千葉県には、
陸橋もさらには「緑の陸橋」もありません。このため、本州一般の山地に見られるツキノワグ
マ・カモシカはいません。その点、安心して山歩きが楽しめます。本州全般に分布しているタカ
チホヘビも県内にはいません。サル・シカ・イノシシなどは関東周辺部の他の山岳地のハイキ
ングコースより多くいます。各所で農産物を守るための電気柵や罠があります。電気柵・網に
は扉にも電流が流されていますので、通過の時には特に注意しましょう。檻型の罠は不用意
に触って、落ち子形の扉などでけがをしないとも限りません。十分な注意が必要です。
国道、県道でもサルが横断します。民家の庭先に繋がれた飼い犬などは、完全に無視され
ています。しかし、人の姿を見ると素早く距離をとりますので、梢や枯草の物音には耳をすま
せ、風とは関わりのない梢や竹林の動きへ目を運ぶようにしましょう。又、尾根筋を踏み替え
る地点では、とりわけ出会うことがあります。サルは鳴き声で仲間との意志疎通をはかってい
るといいます。ギャー、ギャーは悲しい時。ガッ、ガッは威嚇や怒ったとき。クーとかホーはお互
いの居所を知らせる時に使われます。又、ホウィーという丸みを帯びた鳴き声は仲間を呼ぶと
き、カ、カ、というのは異性を呼ぶときなどに使われます。物音に向かってホウィーと実際の声
はわからなくとも真似たつもりでやってみると、ながく観察できるかもしれません。
ウリボウと愛称されるイノシシの子供の背中には筋が見えます。そのそばには、必ず親の成
獣がいます。この為、近づかないで遠くから観察するに留めておきたいものです。ブウィという
鳴き声とともに蜘蛛の子を散らすが如く、一瞬の内に駆け逃げていきます。
シカも、複数いるときはキョンという甲高い声とともに、駆け抜けていきます。このシカが多い
ところにはヤマビルも多く、各所に注意書きの看板があります。下半身の肌を完全に覆うこと。
長ズボン、靴と靴下との隙間にスパッツなどを使用すること。予防には靴に塩水を染み込ませ
ることなどが言われます。塗布型の鎮痛剤の塗布(散布)も有効です。又、喰いつかれたとき
は、無理に剥がしてはいけません。外傷に備えて傷バンドと共にスプレー式消毒液を持ち歩き
ましょう。吸血中のヒルには手を触れず、そのままスプレー式消毒液を噴霧しましょう。ヒルが
身を捩じらせて剥がれ落ちるまで待ちましょう。重ねて消毒もできます。無理に皮膚から
剥がすと、「歯」が残ることがありますので、落ちついて対応しましょう。血液の凝固を妨げるヒ
ルジンという物質を分泌させて吸血しますので、傷口からはわりと長時間出血します。傷
バンドで流れる血液が散らないようにしましょう。際立った痛みは有りません。痒みや傷が
残ることもありますので、必ず医師に見せてましょう。4月から11月が要注意期間です。
![]() |
| 県指定天然記念物。上野村の大椎。オオシイ(スダジイ)、勝浦市名木276 寂光寺 |
最近、イノブタが思慮の足らない人たちによって意図的に放たれ、イノシシと共に田の畔際や
山裾を掘り起こし、農産物にも被害を与えています。思わぬところに鉄柵・檻型の罠が置かれ
ています。これには不用意に近づかないようにしたい。又、場所によっては、鹿用の大きな罠
もあります。
泥岩の水を含む地層が多いため、川に遠い山中にも蛙が多く、これを追って蛇も多いほうで
しょう。シマヘビ、ヤマカガシ、ヒバカリ、マムシなどがよく見られます。素早く移動している時の
蛇の体から、マムシの特徴的な銭型紋を見とどけられるゆとりはありません。ヤマカガシも多
く、これにも毒があります。青みがかった背中に明瞭な斑紋の模様がありますが、やはり、移
動中の体から見とどけるゆとりはありません。蛇もこちらに人がいることがわかれば、逃げて
いきます。蛇の逃げる方向を用意した追い払い方をすれば、危険はありません。まずは、近づ
かないこと。さらには草むらの物音に注意して、素早く発見することが大切でしょう。むしろ蛇
のほうこそ人間からの危険距離を測って逃げていきますが、僅かな間合いをはかって休んで
しまいます。「逃げ足らないよ」とその尻尾を触ってやって、更に遠くへ行くように促すことも必
要です。不自由な体で、精一杯生きているのが実情かもしれません。
前表のように各種の動物がいますが、これらに出会うことは、珍しいほうでしょう。鹿を見た直
後に出会った人に聞いても、その人たちは全然気が付かなかったということが普通です。イタ
チ、テン、リスでも人には充分警戒して距離を取っていますので、暗い森陰の中で、そのシルエ
ットを認めるのがせいぜいなのが、ハイキング中での観察の限界です。ハイキングの計画・実
行に錯誤があったりして、夜間行動せざるを得ないときなど、夜行性の動物に出会う機会に恵
まれます。
鳥類
スズメ、ハト、カラスなどの都市型の鳥類から、各種の野鳥が数多く見られます。ウグイス、シ
ジュウカラ、ホウジロ、メジロ、ヤマセミ、キジ、セキレイ、セグロセキレイ、ヤマガラ、エナガ、ヒ
ヨドリ、コゲラ、カワラヒワ、カワセミ、フクロウ、キジバト、ヤマドリ、カケス、ハシブトガラス、コ
ジュケイなどが年間を通して生息し、主に夏訪れるオオルリ、ツバメ、センダイムシクイ、ヤブ
サメ、ツツドリ、ホトトギス、サシバ、アオバズク、主に冬訪れるツグミ、アカハラ、シロハラ、ショ
ウビタキ、ルリビタキ、アオジ、ウソ、シメがいます。安房・上総の国境の山では猛禽類の優雅
な飛翔と、華麗な笛の音を思わせる鳴き声が聞かれます。
全ての野鳥類は、その捕獲や飼育が禁止されています。しかしメジロ捕りの人間が、諸道具
と共に、複数入山しています。接触の折には、その対応に十分注意したい。こちらの方が危険
な動物だといえます。
昆虫等小動物 有毒のもの、特徴的なもの
スズメバチには数種類あって、酷暑の年には大量発生します。攻撃的で、黒いものに襲いか
かるといわれています。かつて、御殿山の登山道、大黒天の付近で事故がありました。背を低
くしてあまり動かないで、個体の通過を待つのがいいでしょう。巣を見つけても刺激しないように
気を付けねばなりません。ブンブンと羽音をたてて飛行するようになると、攻撃を開始します。
カチカチと口音を立てると、総攻撃体勢になります。刺された場合、激しいアレルギー反応によ
り、アナフィラキーショックをおこして、死亡することもあります。針を抜き、毒を吸い出して患部
を水洗いしましょう。急ぎ医師の処置を受けて、大事に至らないようにしたい。
蛾には幼虫(毛虫)の時に毒のある毛が生えている種がありす。ドクガは幼虫の時は褐色の
体にやや小さ目の頭をしており、毒針をその体に生じさせ、成虫(蛾)になっても、そのときの
毒針を体に付着させています。毒針の毛は小さくて肉眼では認められません。その毒性には
耐年性があり、成虫の死体であっても触らないことです。年一回、6月中旬から7月上旬にか
けて、コナラ、キイチゴ、サクラ、ウメの木に発生します。チャドクガの幼虫はツバキ、サザン
カ、チャの木に年二回、6月下旬から7月上旬にかけてと、10月上旬から10月下旬にかけて
発生します。体の細い割りにやや大きな白っぽい頭を持って長い毛が生えています。何匹もの
幼虫が横に仲良く並んで厚肉の葉を食べているのが見られます。葉に産み付けられた卵塊の
時から毒針毛がついています。イラガ又はクロシタアオイラガの幼虫は柿の木の葉に発生しま
す。黄色・褐色の模様があり、毛虫にしては体長は太短く、全体に短い毛が生えていて、頭部と
尾部に太いツノ形の突起があり、色合いとしては美しく見えます。弱いが鋭い痛みが永く続き
ます。マツカレハの幼虫はマツの葉を食べます。毒毛は肉眼でも認められるほどの長さです
が、刺されると抜針はむつかしい。ほかにタケノクロホソバの幼虫は竹の葉に群がり、橙色を
した小さな体をしています。ヤネホソバの幼虫はわらぶき屋根のギンゴケを食べるというもの
で、小さくて黒い毛虫です。毛虫は触らなくても毒毛針が飛んできて刺さることによって激しい
痒みが生じます。
オビハバヤスデは腐植土を主食とする多足類で、明るい肌色をした3.5センチほどの体長を
しています。成虫になるのに8年かかりますので、およそ8年ごとに集団発生します。中部山岳
地帯の標高500〜2000メートルの山地に生息するもので、非常に特殊な隔離分布です。植
物の垂直分布の寸詰まり現象に似ています。
ヤマビルがいます。その注意喚起の看板が各所に有ります。黒褐色でナメクジのような濡れ
た肌の感じで、尺取虫のように移動します。長ズボンでも裾を完全に閉じる工夫をしていない
と、立ち止まらなくとも、靴から脛を登ってきます。ヒル除けスプレイや塩水を靴に塗るなどの対
策がいわれますが、肌の露出を避け、開放状態を防ぐのが有効です。休憩などではベンチ類
を積極的に利用すること。落ち葉や草の地面には明るい色のシートを敷いてから休憩すること
で、発見を容易にしましょう。動物の項の「シカが多い、、」以下との重複を避けます。
植物
県内の3分の1が森林で南部には杉、桧の植林地帯が広がっています。かつて県内の全域
にあった自然林は減って、清澄山の周辺に見られるだけになっています。照葉樹林帯の北東
限になっていて、房総丘陵の各所でこれらが見られます。又、氷河期の植物が取り残されて、
大木となって残っていています。植物の垂直分岐の寸詰まり現象が見られます。ほぼ同緯度
の伊豆半島の垂直分布で言うところの900メートルまでが房総半島の350メートルまでに垂
直分布しているというものです。
およそ200メートルまでにタブ林、スダジイ林。300メートルまでにウラジロガシ林。この300
メートル付近に混在してモミ林が分布しているのに対して、これらが伊豆半島では、300、
600、900までに分布しているというわけです。また、各所に植生分布調査結果の図が掲出
されています。
樹木
スダジイ、マテバシイ(トウジイ)、ツガ、ヒメコマツ(ゴヨウマツ)、ホルトノキ(モガシ)、コナラ、
クヌギ、ケヤキ、バクチノキ、モミ、カシ(アカガシ、ウラジロカシ、アラカシ)、タブノキ、ヒサカキ、
カエデ類(イタヤカエデ、オオモミジ、イロハカエデ、エンコウカエデ、ウリカエデ、オニイタヤ)、
アセビ、モチノキ、シロダモ、ミヤマシキミ、カクレミノ、メギ、チドリノキ、イヌガヤ、シラキ、リョ
ウブ、アオハダ、ヤブニッケイ、ヤブツバキ、クロバチ、アオキ、ムクロジ、マサキ、キハギ、フ
ジザクラ、リンボク、カラスザンショウ、オオバグミ、アズキナシ、ヤマボウシ、カラタチバナ、ア
ルバアオダモ、ネジキ、ヒメユズリハ、ヒメウツギ、ツクバネウツギ、バイカウツギ、イヌビワ、ハ
ナイカダ、タイミンタチバナ、カガヤノコウヤボウキ、マンリョウ、イズセンリョウ、ヤブコウジ、カ
ツラ、シバヤナギ、ハゼノキ、クロモジ、ムラサキシノブ、ヌルデ、カゴノキ、トベラ、イヌシデ、ツ
ルコウジ、ムクノキ、ヤマツツジ、ヒカゲツツジなどが挙げられます。ミツバツツジは栽培もされ
ています。特にミツバツツジは山中には少なく、栽培種が販売されている実情になっています。
スギ、ヒノキの人工林が多く見られます。
半島一の多雨地帯である清澄山付近には特異種があります。キヨスミウツボ、キヨスミミツ
バツツジ、キヨスミコケシノブ(シダ類)などです。
ヒメコマツは松科の高木で最重要保護植物になっています。各所に個体の存在をしめす標
識が取り付けられています。これらは高宕山の南、清澄山の北西部などに散在しています。し
かし、生育場所は崖の上の僅かな平地だったりしますので、観察には十分な注意が必要で
す。ほかに北限を越えた種目が点在し、巨木と共に各所で保護されています。
各所の天然記念物に指定された大木や、特筆される大木。
| 〇 | スギ | 清澄寺境内 | 〇 | ナギ | 高鶴山に近い熊野神社 |
| ナシ | 鴨川市南小町 | 〇 | クス | 平群天神社(夫婦)クス | |
| スギ | 鴨川市西神社 | マキ | 鴨川市 鏡忍寺(降神)マキ | ||
| カヤ | 丸山町 日運寺 | イヌマキ | 鴨川市北小町 長福院 | ||
| 〇 | スギ | 鹿野山鳥居岬道 | 〇 | オオソテツ | 富山町竹之内の民家 |
| 〇 | シイ | 大多喜町小田代 | 〇 | ボタンスギ | 富山山頂 馬の背 |
| イチョウ | 富山町 蓮台寺 | 〇 | スダジイ林 | 三石山自然林 南斜面 | |
| 〇 | イチョウ | 高鶴山 東善寺 | 〇 | 柏槙(イブキ) | 鋸南町勝山 天寧寺境内 |
| ヒイラギ | 鴨川市 奈良林 | 〇 | マルバチシャ | 天津神明神社境内 | |
| 〇 | ヒカリモ | 竹岡 黄金井戸 | マルバチシャ | 鴨川市天津 実入集落 | |
| 〇 | イヌマキ | 富浦町 釈迦寺 | 〇 | (姉妹)イチョウ | 白滝山(嶺岡浅間登り口) |
| 〇 | クスノキ | 上三原くすのき内 | オハツキイチョウ | 竹岡 薬王寺境内(雌株) | |
| 〇 | クスノキ | 環の大樟 興源寺 | 〇 | バクチノキ(群生) | 大山不動尊の東側 |
| 〇 | オオクワ | 鹿野山神野寺境内 | 〇 | (ウラジロ)シラカシ | 三島の白樫 豊英個人山林 |
| 〇 | ホルトノキ | 石堂寺 本堂裏手 | オオシイ(スダジイ) | 勝浦市 名木 寂光寺 | |
| 〇 | ホルトノキ | 富浦町 宮本城址 | 〇 | 本文中に案内のあるもの | |
| 2005.2.11 天津小湊町は鴨川市と合併 | |||||
| 2006.3.20 丸山町和田町富浦町富山町三芳村白浜町千倉町合併南房総市 | |||||
スダジイ、ツガ、ヒメコマツ、モミ、カシ、タブノキなどのほか銀杏(イチョウ)など各地で大木が
見られます。上記には民家の庭先であるがために、一般の見学ができないものもあります。
東京大学千葉演習林がこの丘陵の中央にあり、相当の面積を占めています。このために
貴重な植物資源が残っています。石尊山、麻綿原間のコースから元清澄山まで、その周縁か
ら、この林相が見られます。このハイキングコース沿いに点在する大木を中心に、識別標が取
り付けられています。上総亀山駅に近い長崎から折木沢の南、黒滝からの林道は年二回、春
秋にコースを限定して一般公開されます。これにあわせて計画をして、新緑と紅葉を楽しみた
いものです。
×紅葉の時期の一般公開月日を、「花こよみ」に掲出いたしました。×
メギはコトリスワラズ、ヨロイドウシの別名を持つ落葉の低木で、葉の付け根になる枝に1セ
ンチ前後の刺針があります。葉は丸っこい小さなもので赤い実をつけます。ジャケツイバラも
落葉する低木で、藤のような葉の取り付きに刺があります。黄色い花を咲かせます。崖地の日
当たりのいいところに自生しています。アリドウシは膝ほどの高さにしかならない常緑の低木で
す。1センチ前後の丸っこい葉を付けてその根元に葉と同じく位の長さの刺を持っています。
少し気を付けていれば、その種類がわからなくとも、刺のあるのがわかります。ノバラと共に
刺の位置を避けてかわして進みましょう。
![]() |
| 水仙 |
草本類
アズマヤマアザミ、コバノカナワラビ、ヤブミョウガ、ハナミョウガ、ジャコウソウ、モミジガサ、
ツリフネソウ、ウワバミソウ(ミズナ)、ナツエビネ、イワタバコ、イズノシマダイモンジソウ、クマ
ガイソウ、ニリンソウ、マムシグサ、テンナンショウ、アジサイ(タマアジサイ、サワアジサイ、ク
サアジサイ)、カンアオイ、スハマソウ、ホトトギス、シロヨメナ、キヨスミギクなどが各所でみられ
ます。
アワチドリという小さな蘭科の花はウチョウランの変種で、千葉県だけの特異種です。貴重な
種のため自生株は絶滅の危機に瀕しています。一方、早い時期に採取された株が、栽培種と
して季節に応じて販売されています。そのため、純正な自生株は、さらに軽視されそうです。
毎年、6月の中旬、千葉市内で展示即売会が催されます。15センチほどの小さな株に咲いた
1センチほどの大きさの白や紫の小さな花は可憐なものです。株は大きくても30センチくらい、
花も大きいものは3センチくらいです。
各地の高山で見られるホタルブクロが、ここでも見られます。薄い桃色ないし紫色が色が
さめて白色に変わっています。紫、桃、白がその変種の色になり、色の薄いものが多く見られ
ます。ノシランが北限の分布地になっています。又、ヒガンマムシグサというやはり千葉県
だけの特異種があります。普通4月か5月に咲くのですが、これはお彼岸のころに咲きます。
ミミガタテンナンショウの変種だともいわれる種類です。但しカントウマムシグサが同じ地域に
分布しています。
コースの歩行にあたっては、野アザミ、ノバラの類、さらにはススキにも注意したい。整備の行
き届いた遊歩道でも、刈り込みの悪い山道でも、これらが手足を刺すことになりますので、寒
暑に関わらず、長袖・長ズボンは服装・スタイルの常識です。特に川辺に多いイラクサは、葉や
茎に刺があって、これには蟻酸系の毒があり、薄手の皮手袋もコースによっては着用したい
ものです。シソの葉に似たやや大きな葉で、葉や茎部分に白い毛と思わせる細い刺が一面に
生えています。見かけは柔らかい刺ですが、痒みというよりは痛みに近い刺激が長時間残ります。
タケ ササ
竹の種としてはモウソウチク、マダケ、ハチク、ホテイチクなどが見られます。
笹の種としてはアズマネザサ、メダケ(オンナダケ)、ヤダケ(オトコダケ)、スズタケ、キヨスミ
ザサ、テイフメダケ、キヨスミメダケなどがありここでも清澄の名がつく特異種があります。清澄
山、三石山、高宕山は特にシダ類の多いところです。鋸山付近の海岸線の南側から勝浦にか
けて、ダンチク(ヨシタケ)といわれるイネ科の多年草で笹に似た竹が生育しています。
大多喜駅に近い大多喜県民の森管理事務所に併設されて「竹の情報館」があり、竹と笹の
植物園にあたる笹竹園もあります。いすみ鉄道西畑駅から上総中野駅の南部ではモウソウ
チクを食用の筍として栽培しています。土質との関連もあって、エグミのないおいしいタケノコを
供給していますが、一方、野生のケモノたちによる食害が深刻な問題になっています。end