ちょっとたまらん本たち
「たまらん本たち」よりここは軽めにいきます(笑)

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「ちょっとピンぼけ」
ロバート・キャパ
ダヴィッド社
ロバート・キャパを知ったのは中学生の時。それからこの本や沢木耕太郎のキャパについて書いた本なども読んだ。数年前、キャパの写真展が3回に分けて大阪であった時は、すべて見に行った。ちょっと前はキャパ本人の写真を部屋に飾っておいたこともある。それくらい、私はキャパが好きだ。
報道写真家でありながら、その写真だけでなく、本人そのものが会う人すべてに強烈な印象を残したという。ヘミングウェイ、スタインベック、ピカソなどと交友関係をもち、イングリット・バーグマンとも恋に落ちた。
「彼は強烈に生きた」という。その「強烈」という言葉は本当に彼にふさわしい。
写真家として多くの作品を残し、その写真は今も人々の心を打つ。戦争の悲しみだけじゃなく、にっこりと微笑む兵士たちの姿も多くキャパは残している。そんなことからもキャパの人柄は伺い知れる。
暖かいベッドがあって、美味しいお酒があって、愛する女性がいる。けれど、そんなものを置いて、死を賭けた戦場へと彼は向かった。
男ってのは、絶対そうじゃなきゃいけないよなぁ。
かっこええ! キャパ!


「ノルウェイの森」
上下巻
村上 春樹
講談社文庫
井戸に落ちる人間と、落ちない人間がいる・・・・・・。
初め、この意味が私にはわからなかった。でも今はよくわかる。私にとって、「ノルウェイの森」のテーマはこの一点に尽きる。
目をつむって歩いたって絶対に井戸に落ちることがない人間もいるし、気をつけて歩いていても井戸に落ちてしまう人間もいるのだ。これはそんな井戸に落ちてしまうタイプの人間が、それでもなんとか生きようとした葛藤を描いた物語だと私は思う。
大学生活を送る「僕」、自殺した親友のキズキ。そしてその恋人だった直子。それぞれの抱えていた欠落が読んでいくと少しずつ見えてくる。それがなんともせつない。
露骨な性描写ばかり取り上げられることの多い作品でもあるが、やはり名作というにふさわしい、ココロの物語である。


「白仏」
辻 仁成
文芸春秋
エコーズというバンドをやっていた辻仁成が、突然作家になったときは驚いた。興味をもって何作か読んだが、それほどいいとは思わなかった。けれど、これはいい。たぶん彼の作品の中で最も読む価値のある本だと思う。それは、この作品に何か「伝えたい!」という彼の魂のようなものが感じられるからだ。魂のある本は必ず人の心を打つ。
村の人々の骨を集めて砕き、白仏を作ろうとする稔。その際、初恋の女性の墓を掘る場面もあるのだが、その女性の死に方(精神異常の夫に殺された)を初めて知る場面がなんとも悲しい。
「なんで人はこの世に生まれてくっとじゃろか」
ヌエのこの言葉がよくわかる。
全体を通して流れている人間の「生」と「死」をはっきり見つめようとしている作者の気持ちがよく伝わってくる。ええ本や!


「葉桜の日」に収録
「果実の舟を川に流して」
鷺沢 
新潮文庫
この中に収録されている「果実の舟を川に流して」が私はものすごく好き。初めて読んだとき、なんか全身を打ちのめされたようになって倒れて起きあがれなかった。それくらい衝撃的に私の心を打った。そんなに注目された話でもないけれど、私にはガーンと来る何かがあったんだよなぁ。
パパイヤボートというバーで働く青年。ママはニューハーフだ。そこにやってくる何かしら特徴のある人々。そんな人間模様を描いた作品かと思いきや、ベトナム戦争がテーマの根底にある。
割れてしまったグラスは我慢できる。それが寿命だったのだと。でも、ふちの欠けたグラスはたまんないのだと「ママ」は言う。私にはその「たまんない」気持ちがよくわかる。欠けたグラスを放っておくことなんかできない人っているんだ・・・・・・。
ラストで元アメリカ兵の黒人が歌っているシーンで、私はなぜだか「やられたぁ」と思った。こういう見せ場が鷺沢さんのすごいところだ。


「錦繍」
宮本 輝
新潮文庫
宮本輝は母の好きな作家だった。母はこの「錦繍」が一番好きだとよく言った。たぶん、若い人よりも母くらいの年齢の人のほうがこの物語はたまらんのかもしれない。
愛し合いながらも別れてしまった二人が、蔵王で再会。その後、二人は手紙を出し合う。その手紙の内容だけでこの物語は成り立っている。二人の往復書簡を読み進めるうちに、読者は二人の関係、過去を知る。
別れ、再会……その後に迎える結末は決してハッピーエンドではない。けれど、この小説はせつないだけで悲しくはない。これは過去を振り返ることで「未来」に向かう、男と女の物語である。
宮本輝の書く人々は、いつも「生」と「死」を見つめ、幸福になろうとすることをあきらめない。
だから、素晴らしいハッピーエンドでなくても、読了感は清々しい。