最新情報(2009年10月)


2009/10/30 鳥取大、過労事故死で控訴せず 徹夜の院生医師が居眠り
(47ニュース)

 鳥取大医学部の大学院生で医師だった前田伴幸さん=当時(33)=が鳥取大病院で徹夜勤務をした直後に交通事故死したのは大学側の責任として、両親が約1億1600万円の損害賠償を求めた訴訟で、約2千万円の支払いを命じた鳥取地裁の判決に対し、鳥取大が控訴しない意向を原告側へ伝えたことが30日、大学などへの取材で分かった。
 能勢隆之学長は「本学の主張の一部が認められず遺憾に感じているが、遺族の心情を察して控訴しないことを決めた」とのコメントを発表した。
 原告側代理人の松丸正弁護士は「この判決を契機に、医師の過酷な勤務条件が改善されてほしい」と話した。
 16日の鳥取地裁判決は「大学は疲労や睡眠不足から居眠り事故を招かないために必要な措置を怠った」と指摘。研修などの名目で無給のまま医療業務に従事する院生の医師に対しての、大学の安全配慮義務違反を認めた。


2009/10/30 もんじゅ事故:自殺の遺族側、2審も敗訴 東京高裁
(毎日新聞)

 高速増殖炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)のナトリウム漏れ事故(95年)を巡り、内部調査を担当して自殺した西村成生さん(当時49歳)の遺族が、動力炉・核燃料開発事業団(動燃、現・日本原子力研究開発機構)に1億4800万円の賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、東京高裁は29日、訴えを退けた1審判決(07年5月)を支持し、遺族側の控訴を棄却した。遺族側は「虚偽の発表を強いられ自殺に追い込まれた」と主張したが、原田敏章裁判長は1審同様、「虚偽発表の指示はなかった」と判断した。
 原告は西村さんの妻トシ子さん(63)と息子2人。西村さんは事故の約1カ月後の記者会見で、動燃が隠していたとされる現場撮影ビデオを内部調査チームが把握した時期について事実と異なる発言をした。
 高裁は、会見前の打ち合わせ状況や遺書の内容から「とっさの判断でうその答えをしてしまった」と認定。遺族側は「同席した同僚らがその場で間違いを訂正していれば、自殺に追い込まれることはなかった」とも主張したが、高裁は退けた。【伊藤一郎】


2009/10/28 磐田の小学教諭自殺:遺族側の勝訴確定 自殺は「公務災害」−−最高裁決定 /静岡
(毎日新聞)

 ◇養護教諭自殺は「公務災害」
 県西部の小学校で養護教諭を務めた尾崎善子さん(当時48歳)が00年に自殺したのは、過重な労働でうつ病になったのが原因として、母親が地方公務員災害補償基金県支部(支部長・川勝平太知事)に公務災害と認めるように求めた訴訟の上告審で、最高裁第3小法廷(藤田宙靖(ときやす)裁判長)は27日、県支部側の上告を棄却する決定を出した。請求を棄却した1審・静岡地裁判決(07年3月)を取り消し公務災害と認定した2審・東京高裁の逆転勝訴判決(08年4月)が確定した。
 1、2審判決によると、養護学級で障害児2人を担任していた尾崎さんは00年1月、さらに暴れがちな障害児を2週間の体験入学で受け入れた。体験入学の途中からうつ病を発症し、同4月に休職。復帰間近の同8月に自殺した。
 1審は「うつ病を発症させるほど公務が過重だったとは認められない」と判断したが、2審は体験入学の業務が過重だったことを認め「自殺と公務には因果関係がある」としていた。【銭場裕司】


2009/10/28 名ばかり店長長時間労働で過労死初認定、マック残業月平均81時間/神奈川
(神奈川新聞)

 日本マクドナルドの横浜市内の店舗の女性店長=当時(41)=が2年前に研修中に倒れ、死亡したのは過労死だとして遺族が労災申請していた問題で、厚生労働省神奈川労働局は27日までに、長時間残業など過重な労働が原因だったと認め、労災認定した。勤務記録に残った残業時間が少ないなどとして、いったんは不支給処分を出されていたが、遺族側が審査請求で新たな資料を提出するなどして労災認定を勝ち取った。
 支援する労働組合・連合などによると、日本マクドナルドの「名ばかり店長」らの長時間労働問題で従業員の過労死が認定されるのは初めて。今後のファストフード業界全体の労働時間管理にも影響を及ぼす可能性があるという。
 神奈川労働局の審査請求決定書によると、女性は2006年12月から横浜市内の店舗で店長を務めていたが、07年10月16日に川崎市内の店舗で研修中に突然倒れ、3日後にくも膜下出血で死亡したという。
 連合によると、本人が申請した会社の勤務記録では、店長就任後の残業時間は月45時間程度に抑えられていた。しかし、倒れた当日も「公休」と記録されるなど、不自然な労働時間管理があったという。女性は店長会議で残業時間を月35時間以内に収めるよう指示されており、残業が多いと能力不足とみなされるため、少なく申告せざるを得ない状況にあったとみられる。
 遺族側は昨年9月に横浜南労働基準監督署に出した申請が「不支給」となった後、神奈川労働局に審査を請求。日本マクドナルドの勤務記録がずさんで労災認定が困難だったことから、通勤で使っていた駐車場の入出庫記録や、知人とやりとりした携帯電話のメール記録などを審査資料として提出した。
 同労働局は、知人とのメールのやりとりから、くも膜下出血が亡くなる約3週間前の9月28日に発症したと判断した上で、駐車場の入出庫記録などから「発症前6カ月の平均残業時間は月約81時間」と認定した。
 女性の遺族は「日本マクドナルドの経営者には、二度とこのようなことが起きぬよう改善していただきたい」とコメント。日本マクドナルドは取材に「当局からの連絡がない状況であり、コメントは差し控えたい」としている。


2009/10/25−30【働く 暮らしを守る】
(産経新聞)

(1)労組は機能しているか

 今春、神戸市内にある金型製造メーカーで、従業員十数人に解雇が言い渡された。別の会社との業務提携について、2度目の従業員向け説明会が行われる予定の日のことだ。説明会前の夕方、従業員は会議室に集められ、会社幹部が解雇通知書の束を机に置いた。「これを持って行ってほしい」。社印さえなかった。
 従業員100人に満たない、このメーカーには労働組合(労組)がなかった。個人では難しい会社側との交渉も団体なら可能だ。30〜50代の男性5人が、1人で加盟できる地域ユニオン「神戸ワーカーズユニオン」に入り分会を結成した。
 このうちの50代の男性は3月ごろ、業務提携の噂(うわさ)を知った。勤続約20年。会社の「危機」は何度も聞いたが、今回は違った。しばらくして相手企業のホームページで、自身がいる製造部門が事実上売却されると知り驚いた。
 上司を通じて会社側に問い合わせた。回答は「心配するな」。説明会の後、4月1日には、会社幹部が「社員は守る」と約束した。解雇が言い渡される約10日前のことだ。これらの経緯が、自身の雇用、生活がモノのように扱われたようで腹が立ったという。
 6月末の解雇後、現在は、次の職を探しながら退職金の上乗せを求め交渉を続けている。男性は言う。
 「定年まで働くと思っていたから、不安なことがあっても会社に反発せず、このままいけばいいと思っていた。いままで労組が必要とも思わなかった」

    ◇

 働く者を守るはずの労組の組織率低下が続いている。厚生労働省の調査によると、戦後間もなくの昭和24年に55・8%だったが、日本労働組合総連合会(連合)が結成された平成元年に25・9%、平成20年6月時点で18・1%に減った。
 しかも、これらは大企業、公務員中心の労組の数字。100人未満の中小企業だと、わずか1・1%(20年)で、つまり労組はないに等しい。冒頭のケースもこの一例だ。
 組織率低下に、連合も危機感を抱く。47都道府県の組織下に300以上の地域協議会を設置するなど活性化を図り、今月8、9日の定期大会で改革推進を確認した。
 一方で、企業別に組織されている日本の労組のあり方には、労組側から自省の声があがる。
 昨年5月、一橋大学の寄付講座で、連合幹部は「(労組という)言葉自体が暗い。色にたとえるなら灰色」という意識調査を紹介した。確かに労組のイメージは芳しくない。また、15年に連合評価委員会が出した最終報告は、企業別組合が社会変化に対応できず、組織率低下につながったと指摘し、労組に抱く社会のイメージをこう記している。
 《労使協調路線のなかにどっぷりと浸かっていて、緊張感が足りないとも感じられる》
 これも厳しい指摘だ。

    ◇

 男性らが頼った「神戸ワーカーズユニオン」は約20年前、従来の組織を改め結成された。労働相談などを通じ、雇用環境の改善に取り組む地域ユニオンだが、その輪は静かな広がりをみせる。
 同ユニオンが加盟する「コミュニティ・ユニオン全国ネットワーク」(全国ネット)には計75団体が参加し、約1万5千人の組合員がいる。
 同ネット元事務局長で、神戸ワーカーズユニオン副委員長の黒崎隆雄(57)は昭和50年に春闘を手伝い労働運動に携わり始めた。「当時は労働者の力がまだ強かった時代で、自身も社会を変えられると思っていた」。その後、神戸ワーカーズユニオンの前身の地区労組に入ったが、電話相談の内容は、社会の問題点を映し出す「鏡」のように次々と変わった。
 主婦パートや派遣、外国人労働者、名ばかり管理職、ワーキングプア…。今年1月から取り組む外国人研修生問題には驚いた。
 雇い側の企業は、研修生と周囲の接触を途絶えさせて午前9時から午後6時まで働かせていた。15分だけ食事休憩をとらせ、さらに午前0時まで労働を強いる。働く女性らに渡されるのは毎月1万円だけ。残りは通帳に入金され、通帳は会社が管理する。その過程に働く者の「誇り」は見いだせない。
 18日で7年間務めた事務局長を退いた黒崎は自戒も込めて言う。
 「この20年間、組織的な形はできたが、労働運動は後退し続けた。ひとつの例だが、不祥事があると、会社の恥をさらせないという意識が経営者側、労働者側双方にあり、発覚が遅れることがある。労組には企業内の不正を監視する役割があるし、また、そのことを通じて人々が誇りを持って働くための手助けをする役割もあるはずだ。ここに衰退の原因はないだろうか」

     ◇

 働く環境が悪化する中で労働組合や労働行政、司法が果たす役割は何か。現状をみる。
(敬称略)


(2)足りぬ労働基準監督官

 大阪労働局の主任地方労働基準監察監督官、山本博(55)は今年3月まで、大阪府羽曳野市などを管轄する労働基準監督署の署長を務めた。長い経験がある山本をしても、現状の雇用環境の悪化ぶりは際立っているという。
 働く権利を守る労働基準監督官は、働く側が「頼れる存在」だ。不当な解雇や長時間労働などに対し、事業所に是正を勧告するのが役割だが、一般にその仕事は見えにくい。
 山本によると、監督官が事業所に出向き行政指導するのは1カ月の半分程度。事前予告はしないため、担当者不在で空振りに終わることも少なくない。ひとつの事業所で一日がかりになることもざらだ。
 昨年12月以降は民間の信用調査会社などの情報を積極的に活用し、大規模なリストラをしようとする事業所を早期につかみ指導。担当者に対し、企業が支払う休業手当の一部を、国が補填(ほてん)する制度の利用などを勧めている。
 だが、中小企業経営者の多くは労働法規への理解が足りない。山本も、相談に駆け込んできた経営者から「経営が苦しい。リストラしたい」と詰め寄られ、「経営者の一方的な理由で解雇はできない」と、いさめたことがある。
 「安易な解雇はいさめますが、あくまでお願い。使用者の改心を期待するしかない。極端に言うと100件中1件でも解雇を思いとどまってくれればいい」

    ◇

 監督官不足が、働く側に過酷な労働を強いる土壌になっているとの指摘がある。
 国際労働機関(ILO、本部・ジュネーブ)は、日本を含む加盟国への指導文書で、監督官数の目安を「先進国は労働者1万人に対して1人」としているが、日本の監督官数は平成20年度末で全国で3076人しかおらず、約1万6千人に1人にとどまる。
 大阪府内を管轄する大阪労働局はさらに悪く、365万人以上の労働者に対し、監督官は191人で、ILOの目安の2倍近い約1万9100人に1人だ。これでは事業所をくまなく回り、労働環境を監視するには無理がある。
 「監視の目が行き届かず、結果、不当な長時間労働などが横行している。まるで、もぐら叩(たた)きのような状態です」
 大阪労働局の職員などでつくる「全労働省労働組合大阪基準支部」の副執行委員長、丹野弘(46)は現状をそう説明する。
 財団法人「日本生産性本部」が4月に上場企業2237社を対象に実施したアンケートによると、「心の病」を理由に1カ月以上も休暇・休職した労働者がいる企業は約7割に達したという。丹野は「過労死の予備軍は極めて多い。法制度を含め抜本的に見直さないと、近い将来、大変な事態になる」と警告する。

    ◇

 監督官は、丹野が言う「大変な事態」を回避できるのだろうか。
 労働基準法(労基法)には、「週40時間以下、1日8時間以下」という労働時間の原則が定められている。しかし過半数の労働者で組織する労働組合と使用者が協定で合意すれば時間外・休日労働が可能だ。監督官は、この合意を強制的に変更できない。
 さらに、少なくとも30日前に予告する必要があるという労基法20条の解雇予告を、山本は「唯一の武器」と呼ぶが、賃金支払いを科す罰則規定があるとするものの、解雇を覆す力はない。このほか20年3月施行の労働契約法では社会通念上認められない解雇は無効とされるが、これは民事上のルール。各都道府県の紛争調整委員会も、使用者側が出席を拒むと成立しない。
 いずれも行政の権限が及ばない「範囲外」のことばかりだ。その限界は、丹野の警告に現実味を与える。
 21年度経済財政白書は、実際の生産に見合う以上に企業が雇用を抱えている「企業内失業」が600万人を超えると指摘した。政府は今月23日、21年度内に10万人の雇用を創出する緊急対策をまとめたが、今後、大量解雇が起きる懸念は消えそうもない。
 労働法が専門の大阪大学高等司法研究科教授、小嶌典明(57)は「労使交渉で決める問題に労働行政が介入して正しく判断できるのか疑問がある。労使双方が納得できる形で法制度を見直すのは相当難しい」と話している。(敬称略)


(3)司法も解決できぬ現実

 派遣社員だからこそ、不良品は出すまいと心に決めていた。それに、1ミクロン単位の誤差を許さぬトップメーカーの技術力に貢献しているという誇りがあった。「正社員にできない難しい工程を任せている」。工場幹部からそう言われたことは何度もある。
 岐阜県内のベアリング製造工場で勤務していた30代の男性に、派遣元から大幅な人員削減が記された解雇予告が届いたのは、昨年10月のことだ。リーマン・ショックから1カ月余り。派遣期間は残り5カ月あったが、製造業の現場は容赦なかった。11月末、予告通り行われた派遣切りは100人規模にのぼったという。
 3年余りの勤務で、態度や技術に問題があった記憶がない。「なぜ自分なのか」。納得がいかなかった。むしろ、勤務時間を漫然と過ごし、トラブルが起きても「何とかしろ」と派遣社員に丸投げしていたのは正社員の方だ。正社員の作った不良品を、面目をつぶさぬよう、こっそり研磨し直したこともあったのに。
 年が明け、同じ工場で派遣切りにあった年配の女性と、ハローワークで偶然再会した。個人加盟できる労働組合に入って会社側と団体交渉をしていると聞き、心が動いた。だが、労組の中心メンバーの返事は意外だった。「やめた方がいい」。交渉は進んでおらず、後悔すらしているが、人を誘った手前抜けられないという。男性は困り果てた。

     ◇

 正社員と派遣社員。立場が違うだけで解雇が決まってしまう。その「見えない壁」を男性は感じた。男性のように働く側が直面するトラブルは多い。派遣切りを含む解雇や退職勧奨、パワハラ、内定取り消し…。それらを解決するための手立てをみる。
 まず労働組合で解決できなければ、厚生労働省が全国約700カ所に置く総合労働相談コーナーが、最初の「入り口」だ。平成20年度の相談件数約108万件のうち労使間のトラブルは約24万件。この6年間で約2・3倍になった。
 都道府県労働局による紛争調整委員会に訴える方法もある。弁護士などの民間委員が労使双方の訴えを聞いた上で斡旋(あっせん)案を提示する。20年度は8457件を受理した。1回で決着がつく上に無料だが、強制力はない。
 次は、司法制度改革で18年に始まった地方裁判所の労働審判。受理件数は昨年1年間で2052件。今年は8月でその数を超えた。民間の審判員2人と裁判官1人が原則3回で決定を下す。福岡地裁が今年4月、元学生の内々定を取り消した会社に75万円の支払いを命じたのも労働審判だ。
 ここでも決裂すると、民事訴訟となる。ただ、労働問題専門の裁判所がある諸外国に対し、龍谷大学教授の脇田滋(労働法)は「日本の労働裁判は少なすぎる」と指摘する。

     ◇

 独立行政法人「労働政策研究・研修機構」によると、労働問題専門の裁判所があるドイツ、フランスは2002年でそれぞれ1万件、17万件の訴えを受理している。日本は労働審判分をあわせても18(2006)年で約3千件を超える程度だという。
 なぜ、これほど「差」が生まれるのか。単純な比較はできないが、脇田は「日本の場合、労働問題は複雑で手間がかかる割に離婚や相続などと比べ成功報酬が低く、弁護士は受任を敬遠しがちになる。さらに派遣社員など立場の弱い労働者ほど金銭的な余裕がない。まず、弁護士までたどり着けない」と解説する。
 冒頭の男性に話を戻す。
 労働組合に頼れなかった男性は、知人のつてをたどって労働問題に関心のある弁護士と巡り合った。男性は「それも、これも違法と言われて驚いたが、心強かった」と振り返る。
 弁護士は、労働者派遣法で定められた上限3年を超えると受け入れ側が直接雇用しなければならないという「派遣期間」に着目。男性は今年5月、メーカーと派遣会社に直接雇用と慰謝料などを求める民事訴訟を岐阜地裁に起こした。
 再び職場に戻るのが理想だが、判決まで1年以上かかる可能性を考えれば、裁判で戦いながら無職のまま過ごす現在の生活は苦しい。たとえ勝訴しても、訴訟沙汰になった企業で満足に働けないとも思う。それでも司法の場で戦う理由を、男性は「労働者を簡単に切れると会社に思ってもらいたくないから」という。
 職場に存在する「壁」、弁護士に至るまでの労力と時間という「壁」。そして法律でも解決し得ない「壁」…。働く者を囲む「見えない壁」は多く、その現実はあまりに厳しい。(敬称略)


(4)過労死 遺族の長い闘い

 昨年1月、変わりはてた長男=当時(23)=と警察署の遺体安置室で対面した大阪府八尾市の母親(59)は検視で判明した事実を聞かされ耳を疑った。「怖がりな子だったのにどうして」。電気コードとLANケーブルで2度首をつった跡がある。1度失敗すれば恐怖でためらうはずだ。遺書には署名、指印と「自分の意志で逝きます」という走り書きがあった。
 大卒の新入社員として東京勤務を始めて10カ月。自殺前日には電話で「仕事がやばい」と打ち明けられた。「上司に相談する」「できないと言う」「退職を考える」。母親は繰り返し忠告したが、長男は死へと突き進んだ。
 寮から荷物を引き払うため会社を訪れると、担当者は一刻も早く縁を切りたいという態度。同僚が企画した追悼会を開くことも認めない。会社側の配慮はひとかけらもなかった。
 長男の同僚らと会い、手紙やメールをやりとりし分かったこともある。寮に帰る時間がなく宿泊用の荷物を持ち歩くほどだったのに、月10時間以上の残業は申告するなと命じられていた。死の約1週間前、上司に涙をみせた。体は痩せ細っていたという。

 今年3月、労災を申請したが、9月に出た結果は不認定。鬱(うつ)病を発症していたが業務が原因ではないとされた。母親は言う。「本人が弱いから死んだと思われるのは悔しい。一生懸命働いて死んだという尊厳を取り戻したい」

     ◇

 「karoshi」
 今でこそ英語でも通用するほど有名になった言葉だが、大阪府堺市を拠点に全国で労働裁判を手がける弁護士の松丸正(63)によると、ルーツは昭和57年に大阪の医師らが出版した「過労死」(労働出版社)だった。
 従前の呼び方は「急性死」。個人の病状ではなく、背景にある労働実態を問題にすべきだという点で、過労死に表現が変わった意義は大きい。ただ、その数は一向に減っていないのが現状だ。
 厚生労働省の統計では、過労が原因で鬱病などの精神疾患にかかり労災認定された自殺者(未遂を含む)は、平成20年度で66人と過去2番目に多かった。脳・心臓疾患で死亡し、認定された人は158人。いずれも高止まりが続く。
 しかもこの数字は氷山の一角だ。認定者以外にどれだけ過労死しているか、正確には分からない。一説には1万人以上という推計もある。
 労働基準監督署で認められないと、労災審査官への審査請求、労働保険審査会に対する再審査請求と進み、なおも覆らなければ行政訴訟になる。最高裁まで行けば10年以上かかるケースも珍しくない。
 遺族にとってもよほどの決意がなければ高いハードルとなり、手続きが複雑な労災認定をあきらめる遺族は多い。

      ◇

 今月19日夜、大阪市阿倍野区の弁護士事務所で開かれた「大阪過労死を考える家族の会」の例会で、出席したある遺族が悩みを漏らした。
 「過重労働があったのは間違いないけど、上司のパワハラはもっとひどかった。ただ、正直に証言してくれる同僚がいない」
 会社の業務で死に至ったという当然の「真実」を事実と証明するには、同僚や上司の証言、出退勤を記録するタイムカードなどの客観的な証拠を、遺族自身が集めねばならない。
 それは実に辛い作業だ。懸命に働いた家族を助けられなかった悔恨の念にさらされ、一方で周囲の人間の冷たさを知る。
 労災認定までに、家族を失った悲しみと同じだけ、あるいはそれ以上の苦しみを味わうことにもなる。
 大阪家族の会には遺族ら70人、弁護士、労働組合のメンバーなどの支援者30人の計100人が登録し、月に1度の例会では遺族の近況報告に時間が割かれ、それぞれの体験をもとにした助言が交わされている。
 この日の例会で、悩みを漏らした遺族に対し、8年に夫を過労自殺で亡くした全国家族の会代表の寺西笑子(60)がこう応じた。
 「当時の本人の様子をよく思い出すこと。過労自殺の場合は、必ず会社の裏切り行為があるから」
 辛いことを求めているようにも聞こえるだろう。寺西自身も、その苦しみを知っているはずだ。それでもなお、寺西はアドバイスをしなければならない理由があると思っている。
 「仕事のせい、会社のせいと主張しながら、遺族は必ず自分を責めて一生を過ごす。私たちは二度と犠牲者を出したくないんです」(敬称略)


(5)自浄作用の役割どこへ


 平成17年4月25日に兵庫県尼崎市で発生し、乗客106人が犠牲になったJR福知山線脱線事故は、様々な問題を社会に突きつけた。ひとつは安全を軽視したJR西日本の企業体質。現在は、事故原因を調査した国土交通省航空・鉄道事故調査委員会(現・運輸安全委員会)の報告書漏洩(ろうえい)が問題化している。
 労働組合(労組)は事故を、また様々な問題を防ぐことはできなかったか。
 組合員数約2万4500人で、JR西日本最大の労組「西日本旅客鉄道労働組合」(JR西労組)の書記長、杉原清道(46)は「事故を起こしたいと思う人は誰一人いない。ただ、事故前に一人一人が本当に安全の意味を考えて行動していたかと聞かれると自信がない」と言う。
 事故後、JR西労組を含む5労組のうち3つが合同で、事故前に年4度程度だった経営側との労使安全会議を何度も開いた。現場の声を伝えるためだが、違う結果を示す数字もある。
 まず、JR西労組が19年3月に実施した職場アンケート。労組が職場の実態などを把握し、会社へのチェック、提言機能を発揮しているかについて「あまりできていない」との回答がいずれも4割を占めた。
 漏洩問題に関するJR西の社員調査では、公表前の報告書の非公式入手を26人が知り、不適切な行為だと24人が知っていたと回答した。働く側が労組に信頼を置いていれば、不正や不適切なことを知った人は、労組に伝えることで社内の「自浄作用」の役割を果たせた。事故も、いくつかの問題も防げたかもしれない。

     ◇

 《労働運動の重要な課題の一つは、働く者の社会的公正労働基準をいかにして確立するかにあります。このことは産業社会における労働価値を正しく評価させ、働く者の人権を守り、社会正義を確固たるものとして定着させ、安心して働くことのできる社会づくりをめざすことを意味しています》
 11年9月、金属機械の2つの労組が統合してできた新組織「JAM」結成前の4年に統合に伴う話し合いの中で掲げられた理念のひとつだ。
 雇用環境が悪化するいま、「安心して働ける社会」は働く者がもっとも必要とすることだろう。
 今月26日の第173臨時国会召集に対し、連合は27日に発表した談話の中で雇用問題に触れ、「安全と安心の社会を取り戻すためのあらゆる施策に積極的に協力する」などとした。
 脱線事故後にJR西が設置した外部有識者会議で委員を務めた関大教授の安部誠治(57)は「経営陣は経済性を重視したがるが、公共交通機関として安全性は欠かせない。事故前のJR西は明らかに前者に傾いていた」と指摘。「だからこそ労組は企業内唯一のチェック者という自覚を持ち、安全への提言を続けなければならない」という。
 17年前に掲げられた労組統合の理念と、安部の指摘は、内容も、置かれた状況も異なるが、共通点がある。それは「安全」や「安心」をすべての基本に置く、という考え方だ。

     ◇

 JRの労使関係には特殊な事情がある。杉原が「国民からノーを突きつけられた」と言い、安部が「とげとげしい」と表現する国鉄時代の労使関係で、社会を揺さぶった事件も多い。
 経営者側が、荒れた職場を改め、生産性を向上させようとした1960年代のマル生運動、70年代のスト権スト、そして80年代の国鉄民営化。中には「働かないことが労働運動だ」と主張するグループさえあった。
 昭和63年入社の杉原は、前年の国鉄改革後に入社したJR世代で、平成6年から組合専従となった。「国鉄末期のヤミ超勤やカラ出張、ストライキ。一人の国民として理解ができなかった」。これらの過程で労組への過激な印象が国民に根付き、国鉄改革による「労組潰し」につながり、結果として「(JRの)労使間にいい緊張感ができなかった」(安部)とされる。
 「社会の側から、労組は既得権益の集団にみえる。それを変えるには、例えば働く者がおかしいことはおかしいと自由に言える企業になることだ。そのために労組側も新たな形を提示するべきだ」と安部はいう。
 変化の兆しはある。今年1月末、杉原らは会社側との労使協議の前に初めて「雇用を守る」という議題をはかった。脱線事故や、厳しい雇用環境を踏まえたものだ。働く者の雇用を守れば、その生活を守るだけでなく、鉄道技術が継承でき、安全が生まれる、という思いがあったからだ。
 安心して働ける社会−。安全や安心を労使ともに求め、互いの関係が変われば…。JR西の企業体質が変化したとき、その道筋が見えてくるかもしれない。(敬称略)

 ※この連載は土塚英樹、小野木康雄、康本昭赫、大谷卓が担当しました。


2009/10/16 医大院生「過労で事故死」 鳥取大学に賠償命令
(47ニュース)

 鳥取大医学部の大学院生で医師だった男性=当時(33)=が付属病院で徹夜勤務をした直後に交通事故死したのは、睡眠不足や過労を生じさせた大学側の責任だとして、両親が鳥取大に損害賠償を求めた訴訟の判決で鳥取地裁は16日、約2千万円の支払いを命じた。
 朝日貴浩裁判長は判決理由で「大学院生の業務内容は勤務医と大きく変わらず、業務の性質は精神的負荷が高いものだ」と認定。「大学側には(過酷な勤務で)事故発生が十分予測可能だった」と安全配慮義務違反を認めた。
 研修などの名目で無給のまま医療業務に従事している院生の医師について、「雇用」する側の大学に安全配慮義務があることを認める司法判断。医大院生の過酷な勤務実態は国会などでも問題化しており、各地の大学で進む雇用契約締結の動きにも影響しそうだ。
 訴状などによると、男性は同病院の外科で「演習」として恒常的な長時間勤務を強いられ、2003年3月、鳥取大病院でほぼ24時間徹夜で勤務した後、そのまま派遣先の病院へ乗用車で出勤中にトラックと衝突、死亡した。
 大学病院などで院生や研修医などの若手医師は劣悪な条件で長時間勤務を強いられることが多いとされ、文部科学省は昨年、医療業務に従事する院生と雇用契約を結ぶよう、各大学に通知した。


【別の記事】
大学に「労務管理」求める判決 鳥取大病院の院生事故死

(47ニュース)

 大学病院での過酷な勤務の末に交通事故死した大学院生の医師について、大学側の安全配慮義務違反を認めた16日の鳥取地裁判決は「院生の業務内容は勤務医と変わらない」と判断。大学側に勤務医と同等の「労務管理」が必要であることを示した。研修名目などで酷使されることが多いとされる大学院生の処遇改善にもつながりそうだ。
 裁判で大学側は「診療は授業科目の『演習』で、自由意思で辞められるもので『業務』ではない」と主張。遺族側は「業務そのもの」と反論していた。
 朝日貴浩裁判長はこの点について「院生として在学し、診療もしていたのだから安全配慮義務があったのは明らか」とし、診療行為の法的性質を論じる必要はないと判断。院生が極度の疲労や睡眠不足に陥るのを避ける必要があったと指摘し「大学側は漫然と放置した」と厳しく批判した。
 判決によると、大学院生だった前田伴幸さん=当時(33)=は同病院の外科で長時間勤務を強いられ、2003年3月、鳥取大病院でほぼ24時間徹夜で勤務した後、そのまま派遣先の病院へ乗用車で出勤中にトラックと衝突、死亡した。


2009/10/15 自主学習は超過勤務…大阪市立大病院、残業代1億4300万円支給へ
(読売新聞)

 大阪市立大病院(大阪市阿倍野区)は14日、昨年4〜11月、看護師686人分の残業代計約1億4300万円(約6万7000時間分)が未払いだったとして、今月中に全額支給すると発表した。同病院では、勤務終了後に新人看護師らが行っていた自主学習を超過勤務として扱っておらず、長年にわたって「サービス残業」が常態化していた。
 大阪南労働基準監督署が昨年11〜12月、立ち入り検査し、残業を記録する超過勤務命令簿の労働時間と、IC(集積回路)チップ入りカードで出退勤時間をチェックする管理システムの記録に違いがあることを指摘、行政指導していた。
 これを受け、病院側が調査した結果、新人看護師らが勤務終了後、院内で行っていた自主学習が、業務による時間拘束に当たり、残業代を支払わなければならなかったことが判明。患者の容体急変などで残業時間が延びたのに、命令簿に正しく記載されていないケースもあった。最も未払いが多かった看護師は約84万円(235時間分)だった。
 同病院は「自主学習は病院設立後から続く慣習で、『労働』という認識がなかった。意識改革に努め、適正な労務管理を図りたい」としている。


2009/10/15 磐越道事故、2審も運送会社に賠償命令 安全配慮義務違反を認定
(産経新聞)

 福島県の磐越自動車道で平成19年1月、トラック運転手の夫=当時(27)=が事故で死亡したのは過重労働が原因として、仙台市の妻ら遺族が勤務先の運送会社「今井京阪神運輸」(京都市)に計約8400万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、仙台高裁は15日、請求通り全額の支払いを命じた一審仙台地裁判決を支持、会社側の控訴を棄却した。
 小磯武男裁判長は「夫が疲労困憊(こんぱい)の状態にあったと認識できたのに漫然と運転業務を命じ、安全配慮義務違反は明らか」とした。
 判決によると、夫は福島県会津若松市の磐越自動車道をトラックで走行中、大型トラックに追突して死亡。仙台市から会津若松市や山形県鶴岡市などに食品雑貨を配送し、連日十数時間運転、事故まで1カ月の休日は3日間だった。


2009/10/13 「パワハラで夫自殺」労災認定請求
(読売新聞)

 JR東日本新潟支社の社員だった新潟市西区の男性(当時51歳)の妻(52)が13日、「夫が自殺したのは上司からのパワーハラスメント(職権による人権侵害)が原因」として、男性の当時の配属先の酒田運輸区(山形県酒田市)を管轄する山形労働局庄内労働基準監督署に対し、労災認定請求を行った。請求は9日付。
 妻は弁護士と共に13日、新潟市で記者会見した。妻らによると、男性は2007年に酒田運輸区に副区長として配属されたが、今年2月に同市西蒲区の実家で首つり自殺した。男性の自宅から「パワハラをやめてほしい。異動したい」などの趣旨を書き残した紙が見つかった。
 男性は妻に生前、上司である同運輸区長から「役立たず」などと言われたり、メールで責められたりすると漏らし、自殺前日、「うつ状態になっており、会社を辞める方向です」とのメールを同運輸区長に送っていたという。また、弁護人らが同支社の関係者に聞き取り調査したところ、同運輸区の除雪を一人でさせたり、年末年始を勤務にしたりといった嫌がらせも受けたという。
 JR東日本新潟支社は、「社員から聞き取り調査をしたが、パワハラの事実は確認できなかった。関係機関の調査には真摯(しんし)に協力したい」としている。


2009/10/05 クタクタ 仮眠なし10時間 全労連 夜勤規制求めシンポ
(しんぶん赤旗)

 「24時間型社会から人間らしい労働へ」と題して夜勤労働の規制強化を求める全労連主催のシンポジウムが3日、東京都内で開かれました。
 「仮眠もなく10時間も働く『深(ふか)夜勤』が2004年に導入され、病休や健康障害が増えている」と報告したのは、郵産労の廣岡元穂副委員長。
 500人が働く職場で1割近くが夜勤を免除・制限されている事例も。民営化など郵政事業がゆがめられるなかで起きている事態であり、公共サービスを脅かす事態です。
 「2交代勤務で夜勤労働が増え、看護師の離職率が下がらない原因にもなっている」と発言したのは、看護師で日本医労連の中野千香子執行委員。安全・安心の医療を危うくする実態です。「国民の健康と命を守るため夜勤規制と働き続けられる職場をつくっていく」とのべました。
 東京社会医学研究センターの村上剛志理事は、夜勤自体の禁止や時間短縮など各国の事例を紹介。新政権にILO(国際労働機関)条約の批准と実行を求めていく運動が必要だとのべました。
 講演した過労死弁護団全国連絡会議の岩城穣事務局次長は、現行法にもとづいて長時間労働を規制するとともに、深夜休日労働の規制など新たな立法措置を強調。広く国民と共同した運動を呼びかけました。


2009/10/01 大統領警備で「勤務過重」 脳内出血との因果関係認定
(47ニュース)

 2002年に来日したブッシュ前米大統領の警備準備など過労が原因で脳内出血を起こしたとして、元警視庁警察官の男性(61)=茨城県在住=が「公務外認定処分」の取り消しを求めた訴訟の判決で、東京地裁は1日、当時の公務と発症との因果関係を認め、地方公務員災害補償基金(東京)の処分を取り消した。
 田中芳樹裁判官は「発症前1週間の勤務は異例に強い精神的、身体的負荷を与える特に過重な公務だったといえる」と判断した。
 判決によると、男性は警視庁第1自動車警ら隊に所属していた02年2月、大統領来日に備え、パトカーで首都高速の調査を終えた後、庁内で体調を崩し救急車で病院に運ばれた。脳内出血と診断され、時間外勤務は発症前の1週間だけで47時間に上っていた。
 男性は身体の一部に障害が残り、04年に退職した。


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