【書評】 「働きすぎの時代」
(岩波新書 2005年8月19日第1刷発行 定価790円+税)
弁護士 松丸 正

  「働きすぎ」をめぐって、今、激しいせめぎあいが続いている。一方では働きすぎによる過労死、自殺の労災認定や損害賠償による救済が広がり、労基署の賃金不払残業(サービス残業)の摘発が進んでいる。
  しかし、その一方では、100時間以上の残業と、本人の申し出がない限り産業医の面接指導をしなくてもよいとするなどの労安法改悪と、年間1800時間の国際公約を取り下げた時短法改悪が行なわれようとしている。
  著者は大阪過労死問題連絡会や労基オンブズマンにも参加されている。働きすぎの現場を熟知した視点で、このせめぎあいのなかで労働者が働きすぎにブレーキをどうかけたらよいかの処方箋も含めて問題を投げかけている。
  働きすぎの背景を「グローバル資本主義」「情報資本主義」「消費資本主義」「フリーター資本主義」と位置づけている。働きすぎの問題はともすれば「日本」の働きすぎと矮小化されがちであった。
「グローバル」「情報」「消費」は全世界的な現象であり、欧米(とりわけ米、英)において、働きすぎと過労死は、日本に劣らず社会問題となっていることを指摘している。
  「フリーター」では、正規社員と非正規雇用者との労働時間の2極分化を指摘している。厚労省の統計上は一見時短が進んでいるかのようにみえるのに、現場では働きすぎの労働者が増加しているカラクリを明らかにしている。
従前の「日本」の働きすぎ論に対する、「目からウロコ」の指摘である。
働きすぎにブレーキをかけるのはどうしたらよいか、この問へも著者は重視し、労働者、労働組合、企業、法制度にわけて、それぞれなにをなすべきかについて述べている。
  労働組合について、時短、年休取得の取り組みに加えて、30代正社員の働きすぎの解消を課題としてあげている。30代の過労死、とりわけ過労自殺の労災申請が増えていることは実感する。これから生まれてくる子を見ずして亡くなった30代の過労死は悲惨である。
 過労死の労災申請の支援も労組の課題としてあげている。加えて在職死亡の一斉調査を行なうことにより、過労死を掘り起こす取り組みを私としては望みたい。
  更に、36協定の締結についての指摘は重要である。特別協定で過労死ライン(月80時間の時間外労働)を超える時間外労働を認める36協定が多数あることを著者は述べている。このような36協定を容認することは、労組が過労死の「共犯者」となってしまうことになりかねない。
  この書を貫くものは、人間らしい働き方を求めようとしながら、働きすぎ社会のグローバルな波にのみこまれてしまう労働者への著者の思いである。
  その波に向かって大学を巣立っていく学生たちへの思いが執筆の動機だったとあとがきで述べている。
  私事であるが、弁護士になった30数年前、「人間性の経済学」のテーマの社会人講座に参加したとき、著者が講師だった。
  経済学者として「人間性」を考察するなかで出会った1つのテーマが労働時間であり、過労死であり、この著書はその働きすぎの研究の集大成であろう。
  自らの働きすぎを省みるためにも必読の書である。
(民主法律時報401号・2005年10月)

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