戻る
トップページへ

 地基補第173号
平成11年9月14日
地方公務員災害補償基金
       各支部長 殿
地方公務員災害補償基金
   理事長 山崎 宏一郎
精神疾患に起因する自殺の公務災害の認定について(通知)
 精神疾患に起因する自殺事案の取扱いに関し、「公務上の災害の認定基準について」(昭和48年11月26日地基補第539号)の記の3の「公務上の疾病と相当因果関係をもって生じたことが明らかな障害又は死亡」と認定することについては、下記の基準により行うこととしたので、その処理に遺漏のないようにされたい。
第1 自殺が公務上の災害と認められる場合
   精神疾患に起因する自殺が公務上の災害と認められる場合は、次の要件に該当する場合である。
 1 次のいずれかに該当すること。
  (1)自殺前に、公務に関連してその発生状態を時間的、場所的に明確にしうる異常な出来事・突発的事態に遭遇したことにより、驚愕反応等の精神疾患を発症していたことが、医学経験則に照らして明らかに認められること。
  (2)自殺前に、公務に関連してその発生状態を時間的、場所的に明確にしうる異常な出来事・突発的事態の発生、又は行政上特に困難な事情が発生するなど、特別な状況下における職務により、通常の日常の職務に比較して特に過重な職務を行うことを余儀なくされ、強度の肉体的過労、精神的ストレス等の重複又は重積によって生じる肉体的、精神的に過重な負担に起因して精神疾患を発症していたことが、医学経験則に照らして明らかに認められること。この場合において、精神疾患の症状が顕在化するまでの時間的間隔が、精神疾患の個別疾病の発症機序等に応じ、妥当と認められること。
 2 被災職員の個体的・生活的要因が主因となって自殺したものではないこと。

第2 自殺の公務起因性の判断に関する取扱い
 1 自殺の公務起因性を判断するに当たっては、第1に掲げる要件について、自殺の直前から6か月(特別の事情があると認められる場合は、1年)前程度までさかのぼって調査を行い、その結果を基礎とし、総合的に評価し、判断すること。
 2 自殺前に医師の診断、診療を受けていない場合にあっては、上記1の調査に基づき、精神疾患発症の可能性の有無、疾病の性質等について、医学経験則に照らして合理的に推定して判断すること。
 3 自殺の公務起因性の判断については、理事長に協議すること。
   この場合において、理事長は、複数の医学専門家から精神疾患の発症機序、鑑別診断等に関する医学的知見を徴するものとする。

第3 具体的事項等
 1 「精神疾患」とは、次に例示するものをいう。
  (1)心因性うつ病、反応性うつ病
  (2)抑うつ状態
  (3)神経症性うつ病
  (4) 疲弊状態
  (5)心因反応、驚愕(きょうがく)反応
  (6)心因性錯乱状態
 2 「異常な出来事・突発的事態」とは、医学経験則上、驚愕反応等の精神疾患を発症させる可能性のある異常な出来事・突発的事態をいい、例えば、精神疾患に起因する自殺の直前に発生した爆発物、薬物等による犯罪又は大地震、暴風、豪雨、洪水、高潮、津波その他の異常な自然現象若しくは火災、爆発その他これらに類する異常な状態がこれに該当する。
 3 「特別な状況下における職務」とは、医学経験則上、強度の肉体的過労、精神的ストレス等を生じさせる可能性のある職務をいい、例えば、「異常な出来事・突発的事態」の発生時以降の職務又は大規模プロジェクト、制度の創設・改廃、条例の制定・改廃、緊張を強いられる折衝、伝染病・集団食中毒の発生に伴う対応等、通常の日常の職務に比較して、特に困難な職務を行うことを命じられるなどして、当該職務に従事したことがこれに該当する。
 4 「通常の日常の職務」とは、当該職員が占めていた職に割当てられた 職務のうち、正規の勤務時間内に行う日常の職務をいう。
 5 「強度の肉休的過労、精神的ストレス等の重複又は重積」とは、医学経験則上、「特別な状況下における職務」に従事したことにより生じる、精神疾患を発症させる可能性のある強度の肉体的過労、精神的ストレス等の重複又は重積をいい、例えば、次のような事態、状況等(以下「事象」という。)の重複又は重積が該当する。
  この場合において、「強度」の肉体的過労、精神的ストレス等の有無については、被災職員と職種、職等が同等程度の職員との対比において客観的に判断する必要がある。
 (1)肉体的過労等を発生させる可能性のある事象
  ア 1週間程度から数週間程度にわたる、いわゆる不眠・不休の状態下で行う、犯罪の捜査若しくは火災の鎮圧又は、危険、不快、不健康な場所等において行う、人命の救助その他の被害の防禦等
  イ アの職務遂行中における二次災害、重大事故等の発生への対処等
  ウ 期限の定められている職務のため数週間程度から1か月程度にわたって行う、特に過重で長時間に及ぶ時間外勤務(週40時間を超える程度の連続)
  エ 通常の日常の職務に比較して、特に精神的、肉体的に過重な職務のため、1か月程度以上にわたって行う、過重で長時間に及ぶ時間外勤務(週数十時間程度の連続)
  オ 上司、同僚、部下等の事故、傷病等による休業又は欠員の発生等による上記に準ずる、肉体的過労等を生じさせる諸事象
 (2)精神的ストレス等を発生させる可能性のある事象
  ア 第三者による暴行、重大な交通事故等の発生
  イ 組織の責任者として連続して行う困難な対外折衝又は重大な決断等
  ウ 機構・組織等の改革又は人事異動等による、急激かつ著しい職務内容の変化
  エ 極度のあつれきを生じるような職場の人間関係の著しい悪化
  オ 重大な不祥事の発生
  カ その他の上記に準ずる精神的ストレス等を発生させる諸事象
 6 「症状が顕在化する」とは、自他覚症状が明らかに認められることをいう。
 7 自殺の原因としては、傷病苦、経済問題、被災職員又は家族等に係る事故・事件の発生、うつ病・精神分裂病等の精神疾患、アルコール依存症、家庭問題(家庭内暴力、家族の病気・死亡、教育問題、家庭不和・離婚問題など)、異性問題、交友関係等が考えられる。また、自殺については、被災職員の性格等種々の要因も影響する。そのため、当該職員の個体的・生活的要因について調査し、評価する必要がある。

第4 留意事項
 1 精神疾患の診断病名については、我が国の伝統的診断方式による従来診断病名(以下「従来診断」という。)が一般的に使用されている。しかし、最近では、我が国で使用する疾病、傷害及び死因の統計分類が準拠している世界保健機関(WHO)の「疾病及び関連保健問題の国際統計分類第10回修正」(以下「ICD−10」という。)の「精神および行動の障害(FOO−F99)」による診断病名が用いられる場合が増加している。このため、第3の1で例示する精神疾患については、参考として、別紙1のとおり、より詳細な従来診断とICD−10の疾病分類による診断病名を併せて列挙する。
 2 例示されていない精神疾患に係る事案の取扱いについては、本通知を準用して検討することとするが、内因性うつ病、操うつ病、精神分裂病等、いわゆる狭義の精神疾患に係る事案の場合は、当該精神疾患の発症機序に関する医学経験則に照らし、厳正に行うこと。
  なお、これらの精神疾患の診断病名についても、参考として、別紙2のとおり従来診断とICD−10の疾病分類による診断病名を併せて列挙する。
 3 公務に関連する自殺であっても、精神疾患に起因しない自殺は、公務上の災害とは認められないものであること。
 4 公務に関連して精神疾患を発症したと認定請求された事案の取扱いについては、本通知を準用する。
 5 本通知の適正な運用のためには詳細な調査が必要であるが、その特別な性質に鑑み、関係者等に対して調査を実施する際には、特にプライバシーの保護に配慮するとともに、収集した諸資料の保全に注意すること。
  なお、調査事項等によっては遺族等の同意を得ておくことが望ましい。

第5 精神疾患に起因する自殺の公務起因性判断のための調査事項
 1 −般的事項
 2 災害発生の状況
 3 身体状況
 4 災害発生前の勤務状況
 5 災害発生前の生活状況
 6 その他の事項


別  紙 1

従来診断病名 ICD−10
1 心因性うつ病
  心因反応性うつ病
  反応性うつ病
  荷降ろしうつ病
 F43.0 急性ストレス反応
 F43.1外傷後ストレス障害
 F43.2 適応障害
2 心的外傷反応によるうつ状態
  抑うつ状態
  うつ状態
  神経症性うつ状態
  反応性抑うつ状態
 F34 持続性気分(感情)障害
 F43.1外傷後ストレス障害
 F43.2 適応障害
3 抑うつ反応
  抑うつ神経症
  適応障害の環境性のうつ型
  性格(反応)型うつ病
  神経症性うつ病
 F34 持続性気分(感情)障害
 F43.2 適応障害
4 精神的生理的疲弊状態
  疲弊状態
 F43 重度ストレスへの反応および適応障害
5 急性一過性状況性障害
  心因性精神障害
  心因反応
  意識朦朧状態
  驚愕反応
 F43.0 急性ストレス反応
 F43.1外傷後ストレス障害
6 心因性錯乱状態
  錯乱状態
  心神喪失
  反応性精神病
 F23 急性一過性精神病性障害
 F25 分裂感情障害
 F43.0 急性ストレス反応の重度の状態

(注)診断病名については、米国精神医学会(APA)が作成した、DSM−Wによるものが使用されている場合があることに注意すること。


別  紙 2

従来診断病名 ICD−10
1 内因性うつ病
  躁うつ病
 F31 双極性感情障害(躁うつ病)
 F32 うつ病エピソード
 F33 反復性うつ病性障害
2 精神分裂病  F20〜29の精神分裂病、分裂病型障害および妄想性障害
 (F23急性一過性精神病性障害及びF25分裂感情障害を除く。)