なぜ、私はバルナックライカを1台所有しているのにも関わらず、
更に、バルナックライカのコピーである「
レオタックス f」までも持っていたのか。
その経緯と現状を紹介します。
【1.ライカウイルス感染】
発端は、赤瀬川原平氏の著書「ちょっと触っていいですか 中古カメラのススメ」
でした。
それまでも中古カメラは好きでしたが、ライカは近寄りがたくて、
なんとなく避けていました。一部のマニアのモノ、という気がしてましたし、
なんといっても高価で、自分には無縁の領域と思っていました。
それが。
赤瀬川氏の次の文章を読んで、突然、変わったのです。
少し長くなりますが引用します。
「ライカIIIfといえばもう大変な銘機だ。<中略>このIIIfをはじめて手にしたとき、
いちばん変に思ったのはファインダーだった。
のぞき窓が二つあり、その一つで二重像合致のピントを合わせて、そのあともう一つの
のぞき窓をみて構図を決める。<中略>(しかし使い慣れると)その作法に何か完璧な
ものが
あるようで、操作していて気分が実にいい。」
これを読んだとき、「作法」という言葉に、私は呪文をかけられました。
「ライカ欲しい。バルナックライカが欲しい」
突然に。強烈に。そう思い始めたのです。
...作法。
そういえば「バルナック」という名前は、「バロック」に似ています。
バロック音楽は、その構成において、厳格な「作法」があり、
そういうとなんだか堅苦しい音楽のような気がしますが、
実際には、バロックの中でも特にバッハの楽曲は、そういった作法のなかで、
むしろ自由闊達な凄まじい旋律の組み合わせが展開されるのに圧倒されます。
ともかく。
私はバッハの音楽に惹かれるのと同じように、バルナックライカに惚れてしまいました。
これが世にいう「ライカウイルス感染」です。
【2.ライカ入手】
とはいえ、バルナックライカは、中古カメラ屋でレンズ付きで最低10万円程度はします。
M型よりは安いですが、それでもすぐに手が出る金額ではありません。
ところが運良く、カメラ愛好家である友人S氏が、
IIIc(エルマー50mm F3.5付き)を、3万円という格安の値段で譲ってくれたのです。
「IIIfも持ってるしい〜」ということでした。
受け取って家に持って帰った日は、嬉しくて嬉しくて、枕もとにおいて寝ました。
【3.失望】
さて。
さっそくその週末は試し撮りです。
ライカを持って近所を散歩。フィルム1本を撮り終えて、さっそく同時プリントに
出しました。
ライカです。エルマーです。
どんな風に撮れているか、わくわくしながら仕上がったプリントを見て。
「え」
意外でした。
ぼやけているのです。ピントが合っていても、絞り込んでいても、
なんか、ぼやーっとしていて、駄目です。芯がない、っていう感じ。
レンズをカメラから外して、明かりにかざしてみて分かりました。
傷だらけでした。
それに、考えてみたら当たり前でした。
なにしろ50年くらい昔のレンズです。コーティングもしてありません。
それを、最近のゾナーやヘキサーと較べるほうが間違っているのです。
【4.出会い】
そんなわけで、気が向いたときに、たまにしか使わなくなったのですが、
そのIIIcに復活の日がやってきました。
コシナから、フォクトレンダーというブランドで、バルナックライカに付く
レンズが発売されたのです。
「とてもよく写る」というカメラ雑誌の記事を見て、さっそく新宿の
ヨドバシカメラで、「スーパーワイドヘリアー 15mm F4.5」を購入しました。
試写の結果、すばらしくクリアな描写をしてくれることが分かり、
以降、休日に出かける際には、ヘリアーをつけたIIIcを持ち歩くように
なりました。
【5.発覚】
そんな蜜月も、長くは続きませんでした。
いつも同時プリントをしてもらっている、会社の近くのDPE屋のおじさんが、
ある日、仕上がったプリントを受け取りにきた私に、
「カメラ壊れているんじゃない?」
と言ったのです。
「ネガのコマの間のすき間がないよ」
そう言われてネガを見てみると、確かにすき間がありません。
「プリントする機械が、コマの区切りを見つけられなくて、手作業に
なっちゃうんだよねー」
知らないところで、迷惑をかけていたようで恐縮してしまいました。
「古いカメラなので。。。すみません」
そう言い訳すると、「何使ってるの?」と訊かれました。
「昔のライカです」
「バルナック?」
「は、はい、そうです」
「バルナックのなに? IIIf?」
「IIIcです」
おじさんも、クラシックカメラマニアでした。
【6.オーバーホール】
「フィルム巻き上げ機構の不具合だ」
そう思いました。
なにしろ、50年以上昔に作られたカメラですから、ガタがきて当然。
調整してもらったら治るはずです。
そこで、銀座のスキヤカメラで、「コマ間がない」という症状を伝えて
オーバーホールしてもらいました。
金額は確か3万円か3万5千円くらいだったと思います。
1〜2週間後。オーバーホールから戻ってきたので早速試し撮り。
ところが。
治っていませんでした。コマ間はなく、相変わらず各コマが
ぴったりとくっついているのです。
「やれやれ」という感じでまたスキヤカメラに持ち込んで、
「治ってないです」と伝えました。
店員さんは恐縮した面持ちで、「すぐ再修理します」と言ってくれました。
数日後、スキヤカメラから電話がありました。
故障ではなく、「そういうカメラなんです」とのこと。
「え?」
わけがわかりません。
ともかく、またスキヤカメラに行きました。
店員さんいわく。
「36mmであるべきフィルムマスクの幅が、36.5mmになっているんです」
とのこと。
つまり、巻き上げはちゃんとしているが、画像の幅が広くて、そのため
コマ間が無くなっている、というのです。
さらに、50mmくらいのレンズならば、ちゃんとコマ間が開くことも
教えてくれました。
その証左として、50mm、35mm、28mm、20mm、の各レンズを装着して、
私のIIIcで撮影したネガをくれました。
それを見ると、確かに焦点距離が短くなるにつれて、コマ間が狭くなっています。
50mmでは1mmくらい開いているのに、35mmではその半分くらい、
28mmでは髪の毛の太さくらい、20mmでは完全にくっついています。
短いレンズほど、レンズの後端からフイルムまでの距離が短くなるために、
そうなるのです。
「レンズはなにをお使いですか?」
と訊かれ、ため息とともに「15mmです。。。」と答えました。
「それじゃあ、仕方ないですねえ」
フィルムマスクの幅を36mmに改造することはできないかとも尋ねたのですが、
機構上不可能と言われました。
【7.レオタックス登場】
「スーパーワイドヘリアー 15mm F4.5」の写りには満足してます。
このレンズを使いたい。でも、DPE屋さんに迷惑をかけるのは嫌だ。
悩みました。
IIIfを使えば、解消するかもしれない、とも思いました。
IIIcの時代は、「フィルムマスクの幅は36mm」という規格が、厳密に守られて
いなかった。だから、より新しいカメラなら、規格どおりになっているのでは
ないだろうか。
でも、IIIfを買う金銭的余裕はない。
では、バルナックライカのコピーカメラならどうだろう。
そう思い至りました。
IIIfと同時代か、それよりも新しい、ライカのコピーカメラ。
キヤノンや、ニッカ、レオタックスなどを使ってみたらどうだろう。
中古カメラ屋を巡っていたら、カメラのきむら日本橋店で、レオタックスfを
見つけました。3万5千円でした。
10分くらい悩んで。
買いました。このカメラなら、「フィルムマスクの幅は36mm」になっている。
不思議に、そういう確信がありました。
早速、ヘリアーを付けて試写。
ばっちりでした。
きちんと、フィルムに1.5mm程度のコマ間。
こうして。
レオタックスfとヘリアーとの、幸せな時代が始まりました。
【8.ライカウイルス再び】
まったく不満なくスーパーワイドヘリアー付きのレオタックスfを使って約1年。
休日には、どこに行くにも持っていきました。
ライカに較べて、巻き上げなどの操作感がごつごつした感じだし、
シャッター音がちょっとうるさいですが、
写真の写りには関係ないです。
本体もライカよりもちょっと大きめですが、むしろ持ちやすい。
加えて、ライカIIIcにはないストロボのシンクロ接点があるなど、もう、
ライカの出番はないかと思い始めてました。
そんなある日。
しまいこんであったIIIcを久しぶりに取り出して、ほんとに何気なく、
巻き上げてシャッターを切ってみました。
「およ」
およよよよ。。。と思いました。
何なのでしょう。この感触は。
かたちはレオタックスそっくりなのに、操作感がまるで違う。
巻き上げは滑らか。シャッターの音は低くまろやか。
持ったときに手のひらに感じる精密感。
何なのでしょう。この手の中の充実感は。
。。。参りました。感服しました。
「そういうことなのか」と、独り納得しました。
ライカにとりつかれるということ。
ライカウイルスに感染するということ。
それは、この感触を知ってしまうこと。
それも、他のカメラを遍歴して、その果てに、ライカにたどり着く、ということ。
そういうことだったのです。
【9.迷走】
これ以降、IIIcを巡って私は迷走します。
まず考えたこと。
15mmがだめなら28mm。
以前にスキヤカメラでオーバーホールしてもらった際に、
確か28mmだったら、わずかにコマ間のすき間ができていました。
なら、それで行こう。
勢いに乗り出すと止まりません。
思い立った翌週に、ちょうど開催されていた銀座中古カメラ市で、
ミノルタ G-ロッコール28mm F3.5を、ほとんど衝動買い。
試写。ラボにフィルムを出す。
返ってくる。
。。。
長巻でした。
「コマ間の隙間が無いため、カットできません」
コメント付き。
3日くらい落ち込んでから、
「じゃあ次だ」
スーパーワイドヘリアー15mmを使いたい、という当初の目的は
どこかへ消し飛んでいて、
IIIcを使いたい、それも(なぜか)50mmではなく広角で使いたい
その一念に取り付かれてました。
翌週、銀座の中古カメラ屋を巡って、今度は、
フォクトレンダーカラースコパー35mm F2.5
これで駄目なら考え直し。と、自分に念を入れて購入。
試写。
ラボから返ってきたのは。
長巻。
駄目。考え直し。
【10.試作】
IIIcの内部をじっと見て考えました。
フィルムをマスクしている枠が、広い。それが問題。
分解して取り出して加工するか。
いろいろ文献に当たってみると、どうも素人は手を出さないほうが良さそうです。
分解すると、フィルムとレンズの距離(フランジバック)がどうしても狂うのですが、
その調整は素人には無理。
ともかく。
光路をカットすればいい。
ということで、黒く塗った割り箸を、内部の適当な箇所に接着してみました。
で、試写。
駄目。確かにコマ間にすき間はできますが、ぼわーんとぼやけた約5mm空白で、
でかすぎ。
次は、もうちょっと冷静にいろいろ考えて、直径約0.3mmの黒く被服された針金を、
正面から見て左側のシャッターレールの端に接着しました。
シャッター幕が引っかかるのが心配。
接着剤が乾いてから、シャッターを切ると、
ぷしっ。
引っかかる。あせる。もう一度。
ぷしっ。
もう一度。ピンセットで針金の位置を微妙にずらしながら。
ぷしゅ。
すこしシャッター幕が走った。もう少し。
ぷしゅ。
あと少し。
ぷしゅーっつ。
なんとか、シャッターが切れるようになりました。
で。試写
コマ間のすき間は、ばっちりでした。
でも、シャッターについては予想通り不安定。
特に、高速になると、後幕が針金に引っかかるらしく、まったく開きません。
「しゃーない。低速シャッター専用機にするか」
とも思ったのですが、
針金を接着する場所を、
向かって左側(=シャッター幕の出てくるところ)ではなく
向かって右側(=シャッター幕が入るところ)にすればよい
と気付きました。
早速作業。
ピンセットで左側の針金を外し、右側に新たに付け直します。
ちょっと分かり難いですが、こんな感じ。
そして試写。
シャッター全速問題なし。
コマ間のすき間も、ばっちり。
こうして、長い迷走は、ひとまず終わったのです。
ライカ IIIc + フォクトレンダー カラースコパー 35mm F2.5
ファインダーはアベノン製。レンズがフォクトレンダーなのに、ファインダーは
アベノンにしたのは、こっちの方がかっこいいから。
ファインダーとしての「視野の見え」はフォクトレンダーの方が
良かったのですが、それよりも見た目をとりました。
バルナックライカとの、この組み合わせは絶妙。
エルマーを付けた姿よりも好きです。
ケースはレモン社製。
ライカ IIIc + ミノルタ G-ロッコール 28mm F3.5
やはり、ファインダーはアベノン製。
この組み合わせの姿も美しい。
黒かったらエルカンそっくりではないか。(写真でしか見たことないけど)
ライカ IIIc + フォクトレンダー スーパーワイドヘリアー 15mm F4.5
15mmのファインダーなんかフォクトレンダーしかないので、
当然、純正品。
バルナックライカには似合わないし、
てらてらしたプラスチック製なのが残念。
***2003/08/17追記***
なのでファインダーを銀色に塗ってみました。
(画像にマウスカーソルを乗せてみて下さい)
ライカ IIIc + エルマー 50mm F3.5
沈胴した状態。
描写がぼけぼけのレンズなので、ほとんど出番がありません。
軍艦部1
エルンストライツ・ウエッツラー・ジャーマニー。
もう、たまりません。うっとり。
軍艦部2
フィルムを巻き上げると、シャッター速度ダイアルが回転するのは
仕組み上なんとなく理解できるけど、シャッターボタンまで
回転する理由がわからない。しかも、回転してることが分るように、
黒くぽちっとしるしがある。だれか理由を教えて欲しい。
アイピース部分。
IIIfになると、この目を当てる部分はプラスチックになってしまいます。
この点、金属のIIIcの方が勝ち。
ただ、メガネが傷だらけになるのが難点。でもライカのためなら
許す。
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