刑法の基礎知識


少年犯罪で判決を左右する「責任能力」とは?
責任能力とは、 自分がしたことの善悪を判断する力、自分がしたことによる結果の社会的意味を認識するだけの 能力のことをいう。
1999年8月、愛知で起きたストーカー殺人は、女子高生にストーカー行為を繰り返したうえ、 夏休みの登校日に、その女子高生をナイフで刺殺したとして、 中学時代の同級生である無職の少年が殺人などの罪に問われた。 あらかじめナイフを購入していたことや、登校日を調べるなど計画的であったことなどから、 検察側は、「責任能力」があったと主張した。 これに対し弁護側は自分の行為を合理的に判断できない心神耗弱状態であったと反論していた。
名古屋地裁は「人格障害ではあるが、責任能力はあった。」と認め、この少年に最も重い刑を科した。
刑法では「心神喪失」なら刑は科すことができず、「心神耗弱」なら減刑すると定めている。 ちなみに民法では、「責任能力のない未成年者が他人に損害を加えた場合は、 損害を賠償しなくてもよい」としている。

刑事裁判は公判が開かれない「略式手続」のほうが多い
「略式手続」とは、 公判を開かずに書面の審理だけで被告人に対して財産刑(国が犯罪者の財産を取り上げる刑罰)を科すものだ。
略式手続によって処理される事件は非常に多く、正式起訴の10倍に当たる約100万人にものぼる。 略式手続により処理されるものの大半は交通違反や交通事故の過失犯だ。

できごころで万引きして激しく抵抗したら
「事後強盗罪」「強盗致死傷罪」になることも
他人の財物を盗むと窃盗罪、 暴行や脅迫という手段を使って財物を奪うと強盗罪になる。
単なる万引きやひったくりは窃盗罪だが、たとえばそれが警備員に見つかって追いかけられた場合に、 その警備員を殴ったり突き飛ばしたりすると事後強盗となり、強盗罪と同様に扱われる。 強盗罪は5年以上の有期懲役で、未遂罪も予備罪も罰せられる。
事後強盗で相手にケガをさせたり、死なせたりすると「強盗致死傷罪」となり、刑罰も重くなる。 致傷罪の場合は、無期または7年以上の懲役に処せられ、致死罪は死刑または無期懲役に処せられる。 小遣い欲しさにやった万引きでも、 「ほんのできごころだったのに」ではすまされなくなる場合もあるのだ。


宴席などで他人のケンカを
あおりたてたら「現場助勢罪」
  犯人じゃないのに、びびって
自白してしまったらどうなる?
酒の席で同僚がケンカを始めた。 まわりにいた人たちも酔いが回っていたこともあって、酒のうえでの余興のようなものだろうと、 みんなで「いいぞ」「やれやれ、やっちまえ」などとはやし立ててしまった。 ところが、両者とも大ケガを負って入院するほどの騒動になり、警察官までやってきた。
実際にケンカをしたり、相手にケガを負わせたわけではなくても、罪になるのだろうか。 刑法には「現場助勢罪」という規定があり、傷害や傷害致死の犯罪が行われている現場で、 ケンカをあおったり、はやし立てたりするような助勢行為をすると、自分では直接人を傷つけていなくても、 処罰されるのである。 現場助勢罪に問われると、 懲役1年以下、または10万円以下の罰金もしくは科料という罰則が待っている。
  刑事に任意同行を求められ、警察署まで連れて行かれ、 取調室で刑事のあまりの剣幕に、犯人でもないのについつい自白してしまったらどうなるのだろうか。 「今ここで自白しても、自分はやってないんだから裁判でひっくり返すことができる」などと 考えているとしたら、それは甘い考えだ。
日本の刑事事件の捜査、裁判は自白に依存する度合いが強い。 いわゆる自白中心型裁判なのだ。つまり捜査段階でつくられる自白調書は非常に重要で、 それに基づいて事実認定が行われているということであり、有罪認定の基礎にもなっているのだ。
ただ自白の偏重を避け、誤判を防止するため、刑事訴訟法には、 自白だけでは有罪とされずその自白を補強する証拠が必要であると規定されている。

レイプ犯を殺した場合や、
恋人をレイプ犯と間違えて殺した場合はどうなる
マンションで1人暮らししている 女性の部屋に男が押し入り、レイプしようとした。 その女性は必死に抵抗し、無我夢中でベッドの脇に置いてあったテニスラケットで男の頭を殴った。 男はびっくりして、逃げ出してしまった。
この男の行為は、レイプ目的で部屋に侵入したのであれば強姦未遂罪、 レイプまでは考えておらずキスをするなどのわいせつ行為までのつもりだったのであれば強制わいせつ罪にあたる。
それはさておき、この女性の行為で男が重傷を負ったり、死んでいたとすると、何かの罪に問われるのだろうか。
男が重傷を負ったとしても、この女性の行為は刑法第36条の正当防衛に該当する。 男が死んでしまい過剰防衛だと判断されても、情状酌量され刑期が短くなるか、 あるいは刑を免除してもらえる可能性がある。過剰防衛でも有罪であることには違いないが、 この場合「盗犯等の防止及び処分に関する法律」という特別法によって無罪となる可能性が高い。 この法律は「自己又は他人の生命、身体または貞操に対する現在の危機を排除するため 犯人を殺傷したとしても正当防衛とする」というものだ。
それでは、びっくりさせようとしてこっそり忍び込んできた恋人を、 レイプ犯と間違えて殺してしまった場合はどうなるのだろうか。 この場合も「盗犯等の防止及び処分に関する法律」により、やはり不処分、 すなわち無罪ということになる。

警察が違法捜査で手に入れた証拠は、
裁判でどう扱われる
違法捜査による証拠は、 裁判では証拠能力はない。
それを示す判例は、覚せい剤所持に関する事件によく見られる。 これは証拠物が有罪を認定するための唯一の証拠となる場合が多いためだ。 覚せい剤取締法違反の罪に問われた男性の裁判で、 警察が証拠品として提出したものを「違法収集証拠」として裁判で不採用にした例がある。
この男は大分県別府市のホテルで、知人の女性と一緒に覚せい剤を打ち、 乗っていた乗用車のなかに覚せい剤0.178グラムを隠し持っていたとして起訴された。
捜査員は男の右腕に注射跡があったため、取調室に連行した。 その後、令状に基づいて強制採尿などを行い、同法違反容疑で男を緊急逮捕した。 女も同じ容疑で逮捕され、その後執行猶予付きの有罪判決を受けている。
しかし、弁護人は捜査員が男性の左手首を後ろに回し肩をつかんだまま取調室に連行したこと、 「弁護士を呼んでほしい」という訴えを無視したこと、 長時間にわたって取調室に閉じ込めたことなどから警察の捜査が違法であると主張した。
1997年の公判で大分地裁は「任意捜査の段階で行き過ぎがあり、 令状主義の精神を没却するもの」として弁護人の主張をほぼ認めた。 つまり、覚せい剤所持に関する注射針と粉末の2点の証拠については採用したが、 覚せい剤使用に関する尿鑑定書、注射跡の写真の2点については 「違法収集証拠」として検察側の証拠調べ請求を却下したのだ。


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