彼岸ははるかに霞みあるいはないかのように見える。
そこに至る船を漕ぐために
私は一本の筆を持つのだ。
時に私は、写真機を手にとり
光学仕掛けのからくりの窓を目に押し当てて
かなたに起きるできごとを覗き込む。
死であったり血であったり硝煙であったり
戦慄であったり叫びであったり慟哭であったり
あるいはぬめるような快楽の蠢動を光は運び来たり
硝子の球を通りぬけ屈折し収束し
薄暮のごとき画像となって銀の紙の上に着床する。
快楽ですら私には見ることができない。
肌の熱さも粘膜の感触も呼気のかぐわしさも
すべては彼岸にあって光だけが触れることができ
私はかすかな痕跡を紙片の上に見て
ただ撫でさすり吐息をつく。
どれほどの地平をそうやって歩いてきたことだろう。
轟々とジャングルの向こうに轟く砲声を聴きながら
気温摂氏四〇度湿度一〇〇パーセントの悪夢の中
三〇キログラムのカメラバッグは私の肩に食い込み
しかし私はファインダーを覗く。
なぜならばそれは、門だからだ。
彼岸に至る入り口だからだ。
そして、なにものかが私にその扉を開ける力を下し
そうせよと命ずるからだ。
筆を手に私は彼岸に近づこうとしいまだそれは果たされず
しかして恥のような銀塩の記憶だけが累積していく。
果たされぬ約束ならばそれをどう読み解くかの回答はすべて
あなたの中の熱と光と官能が
鍵となりて扉を開くこの館の中にあるだろう。
彼岸写真館にようこそ。


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