8.僕らの未来 (注意:第1部34話直後のお話です)
彼女の信頼を一気に無くした。
しかし今までも信頼されていたかどうかは、自信がない。
自分の浅はかで、本能的な行動に、今となっては後悔というよりも腹立ちを感じる。
もっとゆっくり…
わかっていたはずなのに、彼女との楽しい一日ですっかり舞い上がっていた。
本当はプロポーズ、ずっとしたかった。
今日の僕はおかしい。
彼女と一緒に居ると子どもに戻ってしまう。
僕のすべてを受け止めてほしいと彼女に依存している。
家に戻ると、玄関ホールに母がいた。
「おかえりなさい」母はそう言ってほほ笑んだ。なにもかもお見通しなのだろう。
「ただ今戻りました。翼さんは戻っていますか?」
「ええ。お部屋にいらっしゃるんじゃないかしら。でも、直接お会いになるのは止めた方がよろしくてよ」
母はからかうような口調でそう言い残して、自分の部屋に戻って行った。
母からの忠告を素直に聞いて、室内の電話を使った。
「翼さん、先ほどは失礼しました」僕が話しても、しばらく彼女は何も言わない。
「あなたのことをよく考えずに、自分勝手なことを言ってしまって本当にすみません。 でも、あなたにだけは素直な気持ちを
聞いてもらいたかった」
まだ彼女は黙ったままだ。沈黙が怖いなんて感じたことがなかったのに、今は寒ささえ感じる。
「慎一朗さん」彼女の普段通りの声にほっとする。
「はい」
「私ね、まだ怒ってます」そう言いながらも彼女の声はとても穏やかで優しい。
「はい」
「でもね、あなたの気持ちはちゃんと伝わりました。だからといって承諾したわけじゃありません」
それはそうだろう。そう簡単にいくとは思っていない。
「はい。ありがとう、翼さん」
彼女の心が凍りついてしまわなくて良かった。
心が凍ってしまうということ、自分が体験しているので、よくわかる。
彼女が僕のせいでそうなってしまわないように、僕らの未来はゆっくりと進まなければならない。
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