★『風と木の詩』について想うこと(1)

私が初めて『風と木の詩』を読んだのは連載開始と同時にリアルタイムでで したが、当時は話の展開に気をとられてじっくり考える余裕がなかったよう な気がします。

2年ほど前に、某パソコン通信の会議室で『風と木の詩』につ いて話し合う機会があり、その時久し振りに『風と木の詩』を全巻通して読 み直したのですが、読み進むにつれてどんどん自分の考えが変わっていき、 読み終わった後しばらくして内容を消化すると、また変わりました。こうい う経験というのは私にとって初めての事です。

キャラに対する想い入れや受け止め方も、自分の人生経験や成長と共に随分 変わったように思います。

セルジュについては、皆さんと話し合ううちに「おせっかいセルジュ」とい う意見を聞き、目から鱗でした(^^; そして『風と木の詩』の裏バージョ ンを勝手に妄想したりもしましたヾ(^^;)

特に感慨深いのがオーギュで、初めて読んだ時は彼を理解出来ず、とても じゃないけど共感出来ませんでした。それが今では殆どオーギュ擁護派に なりかけています(^^;

オーギュについて考えてみると、今まで分からなかった様々な事柄が分かっ てきて非常に興味深いのですが、今回、以前の自分の感想を見ながら現在 の自分の考えをまとめてみました。あくまで私の個人的な感想ですが、も し宜しかったら皆様のご意見も聞かせて頂けると嬉しいです(#^^#)

その前に、ジルベールについて私が『風と木の詩』白泉社文庫版で8巻めま で読了した時に書いた感情的な感想がありますので、先ずそれをここに書か せて頂きたいと思います。

『 私、今までジルベールって特に想い入れのないキャラだったんです。でも、 今読み直してみて、ジルが哀れで泣けてきちゃった・・・(; ;) 前に読んだ時は こういう感じ方はしなかったような・・・。

ジルベールが涙を流して泣いているシーンって、記憶になかったんです。今、 彼と一緒に泣いています。彼が悪い訳じゃない、彼の両親が悪いんです。一人 の人間として人格を認め、まともな愛情を注いで育ててくれる人がいなかった。 オーギュなしには生きられないように育てられてしまった。 セルジュに「オー ギュは君をペットとして育てたって言った」「彼は薬を使って卑怯な手段で僕 を思いのままにした」とか言われて愕然とし、セルジュを追いかけ学園に戻る ジルベール、可愛いじゃありませんか! オーギュはセルジュがしゃべるとは 思ってなかったんですよね。 よく言った! セルジュ。自分のプライドを捨て て、ジルベールに真実を教えたんです。 卑怯なオーギュに負けるな!

ジルベールのつらさがなかなかセルジュには分からない・・・まあ、無理もない けど。あんな異常な育てられ方をしたなんて、他の者には想像もつかないし、 セルジュの若さでは理解出来ない事もある。でも、ジルベールに恋している自分 を自覚した時、罪を犯す事を怖れなかった・・・。ジルベールの笑顔に驚くジュー ル・ド・フェリイ・・・セルジュがまさか一線を越えるとは予想していなかったの ね。ジルベールのせいじゃないのに、学校中の生徒達から汚いもの扱いされる ジルベール、彼がどうしてああなったのか、誰も知らないくせに 彼を非難する 資格なんてないよ!
ジルベール、私もあなたを抱きしめて育ててあげたかった!』

★ジルベールの生い立ちとオーギュとの関係について

ボナールに出会う前のジルベールは、オーギュに親子のようなスキンシップ を求めていたと思います。でも、オーギュはめったに彼を抱きしめてはくれな かった。それでも生まれて初めて、楽しそうなオーギュの友人達の姿を見て孤 独というものを知ったジルベールは、オーギュにどんな扱いをされようと自分 を構ってくれるだけで嬉しかった。初めて、自分の存在を認めてくれる人が現 れた訳ですよね。まともな親としての愛ではないし、実の父親とは知らなかっ たけれども、彼の保護者が出来た訳です。

そしてオーギュはジルベールに大人のキスを教え、「思いのままの人形から賢 く忠実な猟犬に」なるようにしこんだ。ジルベールはオーギュに抱きしめて欲し くて、言う事を聞いていたけれど、段々オーギュに構って貰う為にわざとオー ギュに逆らって怒らせ、「飼い主とのコミュニケーション」を楽しむようになりま す。

やがてボナールのレイプによって崩壊しようとするジルベールの自我を、オ ーギュはSEXという手段によって救おうとします。この時のオーギュはジルベー ルを彼なりに真剣に愛していたと思います。そして、ジルベールにとっては今 まで飢え餓えていたものが一気に満たされた訳で、この時オーギュは「対等に 愛し合う恋の相手」になります。 ジルベールが初めてオーギュから受けた真剣 な愛情が SEXと結びついていた為に、ジルベールは動物的な本能で それが愛と いうものだと体で理解したのではないでしょうか? オーギュにとってもジルベ ールは初めて真剣に自分を愛し求めてくれた相手で、オーギュの孤独を満たす 存在だったと思います。

ジルベールを服従させるつもりだったオーギュの意に反し、ジルベールは己 の根本を見失わなかった。「私にこの強さがあったら全ての状況は変わってい たろう」というオーギュの言葉はジルベールを羨ましく思っていたのかも知れ ません。 ジルベールの無邪気なしぐさと無防備な甘えは オーギュに「心の一方 で己の父性を思い、もう一方で冷酷な観察者を意識させた」のでしたね。

ジルベールにとって、ブロウ達は肉体面だけの相手、セルジュは親子関係以 外の全てを満たす存在だったと思います。 肌の触れ合いは親子のスキンシップ の代わりの意味も含んでいたのではないでしょうか。

ジルベールが親子の愛情に充分満足していたなら、悲劇は避けられたかも知 れません。 実の親でなくても、親代わりになって愛情を注いでくれる人が傍 にいてくれたなら・・・。 皆さんはどう思いますか?

★ジルベールの変化について

ジルベールもセルジュとの出会いによってどんどん変わっていきます。
これも、物語の重要なポイントだと思いますので整理してみました。

  1. 最初の頃のジルベールは、学院内では誰一人近づこうとする者もいない孤 独な存在で、ブロウ達のような者以外にはほとんど無視されるか、嫌われ ていましたよね。 彼が信ずるのはオーギュ唯一人という状態です。 他の 人間など信じるなというように育てられた訳ですし。そんな中では彼は精 一杯突っ張って、自分の身を守っていたと思います。周り中敵だらけなの ですから。

  2. セルジュの登場で事態が変化する事になります。自分に積極的に近づいて 来るセルジュが信じるに値する人間かどうかを試す為、罠をしかけたり、 からかったりします。

  3. クリスマス休暇中、オーギュへの飢えと孤独に耐え切れなくなったジルベ ールがプライドを捨ててセルジュに抱いてくれと懇願し、セルジュが一晩 中抱きしめてやると、元どおりのジルに立ち直ります。

  4. オーギュがセルジュを食事に招待したりした為、自分とオーギュの間に割 り込むセルジュに敵意を抱き、セルジュを傷つけようとします。これは、 オーギュを独占したいジルベールの嫉妬心からですよね。

  5. オーギュに見捨てられたと思い、自暴自棄になるジルベールを放っておけ ないセルジュに慰められ、セルジュを友人として扱うようになるジルベー ル。夏の休暇を二人で過ごし、アーネスト事件でジルベールを信じて悪夢 から救ったセルジュとの間に信頼関係が生まれます。

  6. マルセイユでオーギュがセルジュに卑怯な行為をした事を知り、自分の意 志で学院に戻るジルベール。喜ぶセルジュと不安気なジルベール。授業に も真面目に出るようになり、セルジュの友人達とも話すようになる。

  7. セルジュに会いに来たパトリシアに嫉妬し、孤独に苛まれるジルベール。 マルセイユに帰りたいが「帰ればオーギュに支配されるだけ」「身も心も 溺れて二度と自分を取り戻せなくなる」「オーギュとの生活は僕自身を狂 わせるものだ」と自問自答のあげく、オーギュ婚約のニュースに学院を脱 走したジルベールを必死で連れ戻しに行くセルジュ。「オーギュが僕を捨 てたら誰が僕を愛してくれるの」と涙を流すジルベールに黙ってキスし、 一つのベッドで眠るセルジュとジルベール。

  8. オーギュと離れて不安でたまらないジルベールに「何もしてくれない」と 言われて悩むセルジュ。

  9. ブロウ達に身を任すジルベールを見ていられず、セルジュが恋を告白し結 ばれる二人。授業に出て優秀な成績で教授達を驚かせ、笑顔を見せるジル。

  10. オーギュの陰謀でセルジュを傷つけると脅され、不良達の言いなりになる ジルベール。セルジュに気付かれないように心にもない事を言う。カール に真実を知らされ、自分を責めるセルジュと オーギュに怯えるジル。

  11. オーギュに父親だと言われ、ショックを受け、考える事を放棄するジル。 退学させられるよりはと駆け落ち決行する二人。

  12. パリで一人でいられないジル。ギャルソンとして働き、セルジュ以上のチ ップを稼ぐが、ダルニーニに目を付けられ辞める。パットと会っているセ ルジュへのあてつけにジルが抱いたカミイユの復讐で、職に付けないセル ジュ。

  13. ボナール邸にジルを置いて下宿に帰ったセルジュの後を追うジル。

  14. 一人で退屈している間に阿片をうたれ、中毒になる。禁断症状でダルニー ニの言いなりになるジル。

最初の頃のジルベールは、精神的な支えでもあり 学院の実力者でもあるオー ギュという保護者がいて突っ張っていられたけど、セルジュに恋をしてからは セルジュを傷つけられる事を怖れ、それが彼の弱点となり、不良達の言いなり になりますよね。しかも、その不良達の背後にいるのがオーギュだと分かって いるので、太刀打ち出来ないと思ったのかもしれません。

オーギュが父親だと知らされたショックで、絶望感に打ちのめされたという 事もあるのではないかしら? どちらかを選べず、運命に任せた結果が駆け落ち 成功となる訳ですが、一人でいるのが不安でたまらず、いつもセルジュに傍に いて欲しかったのでしょう。 初めて保護者から離れて丸裸で世間の荒波に放り 出されたジルは赤児のようなものでしょうか。

駆け落ちした時のジルは、まだオーギュが父親だと知ったショックから立ち 直っていなかったと思います。 やはり、傍にいてくれる人が必要だったので はないでしょうか?

★オーギュの目的

先ず、オーギュがなぜジルベールを学院で飢えさせておいたかですが、ジルに オーギュの価値観による処の世間一般の堕落した教育を受けさせない為ではない でしょうか。

ジルを学校にやったのは、義兄ペールの都合で仕方なくですが、たとえ学校へ 行っても教育を受けさせない為には、ジルを愛に飢えさせるのが一番ですよね。 ジルはいつもオーギュの愛に飢え、孤独な状態だったので、あれではまともに授 業を受けようという気にはなれないでしょう。 普段はオーギュがいない淋しさ をブロウ達で紛らわせていましたが、休暇で他の学生達がいなくなると孤独に耐 えられず 気も狂わんばかりになりましたよね。

また、ああいうジルベールを見ればブロウのような者以外には、近寄る者もい なくなって、オーギュには好都合だったのでしょう。

ジルベールは授業を受けなくても、既にマルセイユやパリで十分な知識や教養 を身に付けていました。勿論、オーギュ好みの自由奔放な芸術作品とマルセイユ での豊かな自然によるものですが・・・。

オーギュは学校教育を否定し、なおかつ憎んでもいたのではないかしら。 ジ ルベールが世間に負けず、まっすぐ伸びる事を望んでいたと思います。 ボナー ルさえ手を出さなければ、そしてペールが邪魔にしなければ、ジルベールは一人 でも生きられるように育てられた事でしょう。

ジルベールが学校を卒業する年齢になれば、マルセイユで二人で暮らすつもり だったのだと思います。

★価値観の逆転

私は、『風と木の詩』を読んでいる時は、セルジュやジルベールに感情移入 していましたが、読み終わって消化していく間にオーギュに共感を覚えるよう になってきました(^^;

愛情という側面から考えていた時はオーギュという人を理解しきれなかった んだけど、教育という側面から考えてみると、新しいオーギュ像が浮かび上が って来ますね。

普通の人間社会では 既成の価値観に縛られて生活しています。 アスランや セルジュはその中での優等生な訳ですよね。 オーギュは社会の汚さを知ってい るが故に、あえて既成概念に捕らわれない自由な人間を育ててみたかったので はないかしら?

オーギュが近親相姦という行為に出たのも、決して自分の欲望を満たす為で はなく、ジルベールの自我の崩壊を救う為だった。それをどうして責める事が 出来るでしょう? ボナールがレイプしなければ、オーギュはジルベールをず っと無垢のまま置くつもりだった。そもそもオーギュはストイックな人間でし たね。男色家を異常なまでに嫌っていたのも、義兄に性の奴隷として自分が扱 われてきたからでした。 オーギュにしてみれば、汚い人間社会に染まらない 無垢な魂を持ったジルベールを育てる事が、自分に屈辱感を味わわせた既成社 会に対する復讐であり、せめてもの抵抗であると共に、彼の生きがいでもあっ たのでしょう。

オーギュはジルベールを世間の毒牙から守る為なら、何でもします。ロスマ リネやセルジュに屈辱を味わわせたのも、「ジルベールの無垢な魂を汚すな」 という彼なりの警告だったのではないでしょうか。

近親相姦が罪だというのは、人間が作ったルールである以上、オーギュにと っては何ら罪悪感を感じる必要もない事だったのかも知れません。 昔、古代 文明社会では 皇帝が実妹と結婚したりしていましたね。日本でも、男女の双子 が生まれると別々に育てて結婚させた時代があったと聞いた事があります。時 代や国・民族などによって変わる価値観など、オーギュにとってはどうでもい い事だったのではないでしょうか。

自由な魂の象徴とも言えるジルベール、彼を人間社会に適応させようと無駄 な(?)努力をするセルジュは『堕天使』という事になるのかもしれません。

故・寺山修司さんがおっしゃった「万才!ジルベール。セルジュのような堕 天使に敗れてはいけませんよ。」という言葉がやっと実感出来ました。

★セルジュはおせっかい?(^^;

『風と木の詩』を別の視点で読むと次のようになりますヾ(^^;)

『オーギュの溢れるばかりの愛を受けてまっすぐに育てられた純真無垢な魂を 持つジルベールは、退廃し切った貴族社会で育てられた好奇心一杯のセルジュ に魅せられてしまいます。表の言葉を信じ真の心を知らないセルジュによって ずたずたに傷つけられたジルベールはオーギュの元へ帰ろうとしますが、セル ジュのお節介で腐敗した社会教育を受けさせられたジルベールは、最早何も知 らなかった頃の自分を取り戻す事が出来ず、天使の羽根をもぎ取られて朽ち果 ててしまうのでした。愛するセルジュを守る為に自分の身を犠牲にして庇うジ ルベールは、死によってやっと自由と羽根を取り戻し、オーギュとセルジュ二 人の心を手に入れる事が出来て幸せになれたのでした。』

★更に『風と木の詩』裏バージョン(?)

『退廃した貴族社会で育てられたジプシーの情熱の血と爵位を受け継ぐ黒髪の ブロンズのアポロンのような少年セルジュは、ジルベールに一目惚れしてしま い 周囲の忠告も聞かず 自分のものにしようとします。オーギュと愛し合うジ ルベールを見て嫉妬したセルジュは二人の愛を引き裂こうと企てます。確信犯 でわざとオーギュに抱かれたセルジュは、その事をオーギュのせいにしてジル ベールに告げ口します。まんまとジルベールをオーギュから引き離す事に成功 したセルジュはジルベールを自分好みに変えようとしますが、自分はアンジェ リン、パットやカールを恋の虜にしているにもかかわらず、ジルベールが自分 以外の人間に近づく事は許せないのでした。 ジルベールを疑い、彼の真の心 を知ろうともしないセルジュは ジルベールの心をずたずたに傷つけます。 更 に、ジルベールの父を侮辱し 傷ついているジルベールの心を思いやる事が出 来ない無神経なセルジュは、ジルベールを確実に自分だけのものにする為、駆 け落ちする事に成功します。セルジュに一人で放っておかれたジルベールは、 腐敗した社会で生きて行く事が出来ず、ついに朽ち果ててしまうのでしたが、 ジルベールの自由な感性を手に入れたセルジュは芸術家としての一歩を踏み出 す事に成功するのでした。』

わぁ、ごめんなさい!
セルジュファンの皆様、石投げないでね〜!((((((^^;)

(たぶん、つづく…(^^;)

(by 森野泉)

『風と木の詩』続編小説『神の子羊』のご紹介

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