『紅にほふ』のご紹介



 芸者さんをたくさん集めて、衣食住をあてがい、モデルみたいに出張させていた「置 屋」というのが昔はたくさんありました。けれど、今のモデル事務所みたいに事務的で はなく、芸奴(芸者)さんの人生までまるごと面倒みるような、人情味あるキップのい い女将がいたということです。
 その女将と芸奴さん、そして置屋で育った女の人たちがこの物語の主人公です。
 舞台は「満州」。そう、戦中から戦後にかけての日本のお話なのです。
 日本が中国の北東部を占領して「満州国」という国家をつくっていた、その土地にこ の「置屋」はありました。満州で幅を利かせていた帝国軍人や、今でいう財界人を楽し ませるための芸奴をまかなう「置屋」です。
 満州へ移った人たちは、みんな、満州という新天地で一旗あげてやろうと意気込んで いたはずなのですが、ご存じの通り、日本は戦争に負けますから、日に日に生活は不安 定になっていきます。明日にも国境沿いからソ連軍が攻めてくるかもしれない。そうし たら、満州という、日本と離れた土地にいる私たちはどうなるのだろうか。日本の関東 軍は助けてくれるのだろうか。
 そんな不安を抱えながらも、「置屋」の女たちは懸命に生きていきます。今日をどう 食べるか、明日をどうするか、戦争に負けたらどうしようか、その日常のなかにもささ やかな家庭の営みはあります。また、淡い恋、苦い愛もあったのです。
 戦争ものは、血がたくさん流れていやだ、という女性の方も多いと思います。けれど 、この物語は、女性の視線から描かれているために、あまり血みどろの戦場というもの は出てきません。キップのいい女性たちが頑張って戦争をくぐり抜けていく、ある種の すがすがしささえ感じさせられます。
 また、たくさんの文献を用いて時代検証を行いながら描かれたことがうかがえます。 「満州」のことは話には聞いているけれどよくわからない、一回ちゃんと勉強しておか なくっちゃと思っている、そんな方にぜひ一度読んでいただきたい作品です。20世紀を 振り返って、私たちの過去をもう一度ちゃんと見直しておくために大きな手助けとなる でしょう。
 見どころは、梅子さんという女性。おヤエさん(『私を月に連れてって』)と同じく らい誰もが愛してしまうキャラクターです。きっとアナタも好きになりますよ。折しも 文庫本が出ています。「中公文庫コミック版 1〜2巻」共に648円(+税)、あとが きも読み応え十分です。

(by ななお)

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