『変奏曲』どっぷりコーナー

★変奏曲シリーズ全編紹介

「鬱蒼と枝葉の茂った大木」と竹宮さんご自身をして書かれた「変奏曲」シリーズ。視点を変え、語り手を変えて、幾度も繰り返し描くことによって一つの世界が組み上げられていきます。こんなシリーズモノを読むなら、あなたならどこから読みますか。以下の紹介が、その一助になれば幸いです。
 ところで、「変奏曲」の主題を担うのは、ハンネス・ヴォルフガング・リヒターこと主人公のピアニスト。端的にいって、若くして世を去るこの短命なピアニストの誕生から死までが、「変奏曲」シリーズの舞台です。まもなく消え去ることが了解されている、霧の楼城のようにはかなく美しい世界に、少なくとも私は魅了されているのでしょうね。

T<変奏曲をこれから読むあなたへ>

●変奏曲

音楽評論家ホルバート・メチェック氏を語り手として、エネルギッシュな天才エドアルド像が浮かび上がります。そして人を愛することの苦しさ切なさを、エドアルドのウォルフに向けられた深い愛情が、私たちに語りかけます。シリーズの中核をなす作品であり、全編に登場する人物と主題のすべてが盛り込まれている作品。ぜひこの一編から読み始めていただければと思います。

<あらすじちょっとだけ>

ウォルフの演奏会のあと、楽屋からなにげなく外をながめた評論家ボブは、人目を惹くほどの美少年を目撃する。その美しさは名状しがたく長く心に残る。そんなボブの前に、ある日偶然にも少年は現れた。彼の名はエドナン。「ウォルフのような音楽家」になり、さらに彼を追い越すべく、故郷も家も捨ててやってきた留学生だった。エドナンの意志を理解し、パトロンとして支援を始めるボブ。やがて二人の天才は邂逅するが…。


●皇帝円舞曲

ウォルフの生い立ちから死までを、彼のもっとも近くにいたマネージャー、アダムス氏の視点から捉えた作品です。他の作品からはうかがいきれない、人間ウォルフの人物像が浮かび上がります。ウォルフファンの私には、この作品はたまりませんね。ともすれば冷静沈着で、控えめな優等生と思われがちなウォルフが、実はとても素直でスボケた性格だったことまでがわかりますよ(笑)。詳しくはまたそのうち。別項でね。

<あらすじちょっとだけ>

才能・環境ともに恵まれた貴公子ウォルフ。だが実は、彼は孤児だった。交通事故で両親を一度に亡くし、妹と生き別れになったのちのウォルフの生い立ちが描かれる。一旦は、リヒター伯爵に才能を見込まれ、順風満帆の音楽家としてのスタートを切るが、彼を待ち受けていた運命はさらに過酷で厳しいものだった。

●カノン(第一話)

この掌編に流れるはかない夢のような記憶の余韻は、「変奏曲」の読後感を総じて表したものといえるでしょう。ウォルフへのエドナンの想いの大きさと、喪失による傷の深さが、一コマ一コマから痛いほど伝わります。ぜひ、上記二編を読まれたあとに読んでみていただきたい一編です。

<あらすじちょっとだけ>

エドナンの息子ニーノは、ある日幼い頃の夢を見る。そこはユング・フェルン、亡きウォルフの邸宅。ウォルフの忘れ形見アレンとの親しい交友が蘇る。だが、彼の心に残っているのは、むしろ鍵をかけ閉ざされていたウォルフの居室に漂う芳香と、父・エドアルドが遠くて懐かしいものを追うように室内にめぐらす視線だった。


●VARIATION(変奏曲外伝)

ウォルフ在りし日の小さなエピソードの一つです。音楽に身をささげ生きていこうと決意したウォルフが、ふと人間として、自らの運命に向き合った夜の一コマです。彼の絶望をボブは癒せたのでしょうか。またウォルフは、一時でも救われることができたのでしょうか。上記三作をお読みになったあとには、ぜひ、この作品にも触れていただければと思います。

<あらすじちょっとだけ>

大きな演奏会が終わった。曲目は、ウォルフの年齢にはあまりに勝ちすぎた荷と評されたブルックナー八番だ。ただしウォルフは、指揮者として完璧にこの山をも乗り越えた。
 自分はまた音楽界に一つの伝説を作り、同時に死にも一歩近づいてしまった。丈高い壁を越えたあとには、人間である自分に立ち戻るときが来る。ボブと祝杯を上げながら、この夜、彼はぽつりと心情を洩らす。そして一つの賭をする。


U<変奏曲を一通り理解したあとで>

●アンダルシア恋歌

ちょっとみごとなほどの、兄ウォルフの、妹アネットへの溺愛ぶりがみものです(殴)。これほど盲愛を注いでおいて、病気の告知を一切せずに突然去るウォルフもかなりの人非人です。けど、なんにも知らないアネットの存在が、ウォルフ兄ちゃんにとっては、きっと最後の聖域だったんでしょう。おいらが去ったあとには、お前はお前で生きろよ、それが人生だ、と思っていたに違いないウォルフ兄ちゃんの思い切りのよさまで感じさせられます。(TT)

<あらすじちょっとだけ>

養護施設でウォルフと生き別れになった妹、アネットの恋愛物語。マネージャー・アダムス氏が、ウォルフに依頼されて見つけ出した唯一の肉親は、スペイン・アンダルシア地方で何も知らずに元気に暮らしていた。そして、ここからアネットの恋物語が始まる。ヒターノの子供レオンとの初恋、異国の地からやってきた兄との不思議な恋、なんとなく受け入れた優しい貴公子ペーターとの穏やかな恋、そして火花散るようなエドアルドとの激しい恋の行方は…。

●ヴィレンツ物語

もっとも初期の作品です。内容は上記の「変奏曲」と重複しますが、こちらは語り手はなく、あくまで三人称形式です。増山さんの心に昔からあったといわれる「変奏曲」の構想をそのまま描き出してみた「試み」の部分が感じられます。まだ、各キャラクターは完全に立ち上がってはおらず、ウォルフはやや優等生すぎ、アダムスもなく、ボブとエドナンの関係も描かれきってはいません。けれど、エドナンが故郷を飛び出してきた理由や、彼の家族の音楽に対する不理解など細かいエピソードが盛り込まれ、特にエドナン理解に役立ちます。

<あらすじちょっとだけ>

「変奏曲」全体のストーリーが、一章「エドアルド」、二章「ヴィレンツ音楽院」、三章「ウォルフ」、四章「カタロニアへ、そして…」の四章構成で描かれる。
 エドナンは幼い日に、偶然ウォルフの演奏会を聴いた。そしてこのときが、彼の生涯を決定づける瞬間となった。忘れられぬ音楽への感動を自らの手で再現するために、幼いエドナンは、独学でヴァイオリンを学び始める。しかし、家族は少年の音楽への想いを快く思わず、幾度もヴァイオリンを取り上げようと試みる。

V<変奏曲をもっと楽しむための掌編>

●椿館の三悪人

ボブとエドナンが登場する「変奏曲」番外編とも呼べる作品です。しかし思うに、たまたま登場人物にボブとエドナンが加わっていただけなのかもしれません。竹宮さんが描きたかったのは「ボブ」でも「エドナン」でもなく、人を好きになるにはお金も名声も学歴も、ひょっとしたら言葉も性別すらも必要ないんだよということ。コミカルに笑わせながら大きな主題をさらっと描いてしまうところに、いつもながら竹宮さんの力量を感じさせられます。

<あらすじちょっとだけ>

音楽界のホープ・美貌のヴァイオリニスト エドアルド・ソルティ、世界にオートクチュールを開く若き実業家 アラン・マーチン、人ぎらい&女ぎらいのへんくつ財産家 ホルバート・メチェック、この三人がある日、一つのゲームをした。今から車で追い越す五人目の人間を、老若何女問わずにカードにする。一週間なんとかみんなでつきあって、最初に自分を好きだと言わせた者が勝ち。掛け金は五万シリング。さて、誰が勝つでしょう?

●ランボーとヴェルレーヌのように

ボブとエドナンの楽しげな恋の珍道中がみもの。「椿館の三悪人」と同様、「恋するのに条件なんか必要ない」という主題に、さらに「恋にはきまった形なんかない」という主題も加わります。
 どこまでもまとわりつくエドナンを邪険にしながらも、いざエドナンがモテ始めると、やっぱり邪魔するボブのヤキモチの妬き方がなんともキュート。けれど「おまえの恋が本物なら邪魔はしないぜ」とも思ってるボブのポリシーの高さには思わず身もだえしますぜ、ホント。かっこいいのだ!ボブ。

<あらすじちょっとだけ>

評論家ボブの美術館めぐり旅行に、勝手にくっついてきたエドナン。ボブが仕事で忙しいのをいいことに、旅の先々で女の子をナンパしまくる。ところが恋が成就し始めると、いつのまにかボブが近づいてきていて、きっちりぶちこわしていく。怒るエドナンにボブ曰く「もしそれが、ホントの恋ならじゃまされたって続くはずさ」。けれどとうとう、「じゃまされても続く恋」の相手も現れるのであった。どうするボブ!?

●変奏曲/ニーノ・アレクシス その旅路

こちらは増山さんの原作に基づく「ニーノ・アレクシス その旅路」と思われます。母想いで、まっすぐで、素朴なニーノ青年が描かれています。その気持ちのいい明るさと屈託のなさは、両親がともに持ち合わせた美質の一つでしょう。増山さんは、エドナンとアネットの明るさ・素直さを息子のニーノに継がせたのでしょう。

<あらすじちょっとだけ>

音楽界の大御所が集う、エドナンを家長とする家に馴染まず、飛び出していった息子のニーノ。行方不明になっていた彼は、コペンハーゲンの片隅で、現代音楽家として新たな人生を歩み始めていた。ある日、新聞に載った、新進音楽家を紹介する小さなコラムを見つけたボブは、ニーノの下宿を突然訪問する。そこで出会ったのは、自分の道を見つけ、自分の足で歩み出そうとしているニーノ青年だった。

●カノン/ニーノ・アレクシス その旅路

増山さんの描くニーノの設定に基づき、竹宮さん自身の設定で描き直した「カノン」の序章と思われます。同じタイトルを持ちながら、「変奏曲/ニーノ・アレクシス その旅路」にはみられなかった、控えめで優しく、少し影のあるニーノ像が浮かび上がります。彼の生い立ちと育った環境から考慮して、竹宮さんは、「カノン」のニーノに、つねに自らの感情を抑え、他人を気遣ってしまうはかなげな性質を与えたのでしょう。

<あらすじちょっとだけ>

家を出て行方不明になっていたニーノは、仲間を得て、現代音楽家として人知れず、自分だけの道を歩み始めていた。その小さな演奏会をボブは、ニーノに会うために訪れる。驚くニーノとその仲間たち。しかし久しぶりの嬉しい再会の中にボブは、いつのまにかニーノに染みついてしまった、我を抑え込む彼の性質を見出した。ニーノ自身を解き放ちたくて、ボブは思わず、長い取材旅行への同行を誘う。そして二人だけの旅が始まる。

●いとこ同士

増山さんの原作による、「変奏曲・その後」なのであろうと思われます。才気走った父・エドアルドの息子ニーノと、ウォルフの忘れ形見アレンの物語です。幼い頃から気が弱く優しいニーノを、まっすぐでおおらかなアレン少年が見守り続けます。あまりにも大きな二人の父親の存在がなければ、ニーノとアレンは、この作品のようにずっと互いを支え合い、憎しみも嫉妬も抱かずに歩いていけたのかもしれません。

<あらすじちょっとだけ>

あまりにも才気走った父・エドアルドの側で育てられたニーノは、気が弱く、すぐに自分の感情を表現できない控えめな性格の少年に育った。片やウォルフの忘れ形見アレンは、エドアルドの分け隔てない愛情を一身に受けて、素直でおおらかな少年として育った。ニーノは感情の表現が下手で、いつも父の愛情に充分に応えきれない自分を感じていた。しかしそんなコンプレックスも、アレンは丸ごと理解し包み込んでくれた。だからニーノはアレンが好きだった。
 だが周囲の大人たちは、彼らを偉大な音楽家の二代目としてしか見ようとしなかった。その視線を感じ取り、次第にニーノは自分らしさを失っていった。

●カノン(第四話以降)

竹宮さん自身の設定による「変奏曲・その後」と思われます。「カノン」では、エドアルドのウォルフへの盲愛は、息子たちの代にまでわれ知らず伝えられていきます。その結果、ニーノには、父が自分よりもアレンを贔屓しているように感じられてしまいます。嫉妬から、父とアレンを愛することができなくなったニーノは、苦しさのあまり家を出ていきます。そうして、コペンハーゲンの一角で、現代音楽家として小さな活動を始めたところから、この物語は始まります。

 ただし「カノン」で興味深いのは、屈折していたのがニーノだけではなかったという点です。エドアルドの愛と期待に応えるべく、むしろ複雑に深く屈折していたのはアレンのほうでした。ねじ曲げられずにいられなかった二人の息子の人生を描いたという点で、「カノン」は、「変奏曲」より一歩、地に足のついた作品といえるでしょう。

<あらすじちょっとだけ>

ボブの取材旅行に同行し、パリに入ったニーノは、原因不明のストレスによって胃穿孔を発症する。しかし、胃に穴の開くほどのストレスを何に対して感じているのか、ニーノは一言も口に出そうとはしなかった。詮索をあきらめたボブは、ただ黙って旅行を取りやめ、ニーノに自分の屋敷「椿館」に来るように提案する。故郷・ヴィレンツに帰り、エドアルドの待つ自宅ではなく、「椿館」に住んで、ゆっくり自分の音楽を始めるようにと。そしてニーノの心は恢復を始める。
 だがその頃、ヴィレンツではウォルフの息子アレンが、自分の音楽を見失い、苦しんでいた。

  (by ななお)

−勝手に対談−ミルとnanaoの『変奏曲』狂想曲

「『変奏曲』作品別収録本リスト」も見てみます?(^^)//

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