ちょっと散歩にでも出れば、
それほど深くはないものの、森、である。
植林杉の山だが、手入れがされないで
放置されているために山は荒れてしまっている。
しかし、荒れているというのも
反対に良いところもある。
びっしり植えられた杉の木は
そのぶん根はりが小さく
雪や強い風などですぐに倒れ易い。
するとその隙間に雑木が生える。
雑木は持ち前の生命力で成長が早く、
枝は広がり、冬には葉を落とす。
そして徐々に森が明るくなっていく。
この辺りの昔を知る土地の人は、
昔は紅葉がきれいだった、と言う。
十数年前に住み着いたわれわれにとっては、
秋の紅葉の美しさは、
引越して来た頃よりずっと増した。
(しかしぼくは、
山が明るい紫色にけぶり、
ほのかにうごめくように見える
新緑のはじまりが好きだ。
その頃は山全体が、生きる活力をみなぎらせている。
見ているだけでこちらまで嬉しくなって
ドキドキしてくる)
家の前の小さな山に登る。
倒木や崩れかかった道を登っていくと
ほどなく稜線に出られる。するとそこに、
これまたほとんど手入れされていない祠がある。
正月こそ御幣(ごへい)などが
新しくなっていたりするけれども、
夏場は、鬱蒼とした雑木と竹薮に囲まれて
行くだけでも大変。くもの巣を振払い振払いしての
薮こぎになってしまう。
いつ行っても、ほとんど人が訪れた形跡が無い。
秘密のような場所だ。
この場所でかつて
どんな祭儀が行われていただろうかと、
白骨化したような祠をみながら考えたりする。
このどこかに霊の存在を感じようとしたりしてみる。
ずっと昔、太古の昔に
動物たちと人間の交流の神聖な場所。
それが今ではみんなに忘れられ
見捨てられてしまった。
そんな遠い記憶のような、山の中の物語を想像した。
「---森」の拡大図
中央に見えるのが、謂わば、神官。
赤い服を着ている。
顔から胸の前までかかる程の
おおきな白い面をつけているので
両手は、その面の裏側まで入り込み、
面を支えている為に見えなくなっている。
その面というのは、一角獣の白い頭蓋骨。
彼はその姿で、画面左に向かって進む。
そのうしろに白い服を着た者たちが続く。
手に笛を持ち、音楽を奏でながら
神官の後にしたがっている。
彼らの前には、森に住む、
性質は穏やかではあるが
用心深く知恵のある生き物の代弁者、
白い馬の群れがいて、
突然の来訪者に半ば訝(いぶか)しんでいるが、
しかし半ば必然のように彼らを待つ。
これから始まるであろう祭礼の儀式。
深い森の中、
しかし空は晴れて澄みわたっている。
時間はゆっくりと流れ、
森全体がこれから起こることを
静かに見守っている。
2001・1/16記
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