|
あの頃、レリーフのごく細かい彫刻を いつもアトリエの室内で彫り続けることが数年続いていた。誰にも邪魔をされないで、集中感のある緊密な時間。夜も遅くまで、小さなノミとハンマーの音を響かせていた。夜の方が、やりやすかった。
でも何かのキッカケで、、、たぶん春が来て、あたりが明るく新緑の輝きを増して来た頃だろう。外で彫りたいと思うようになった。しかも昼間の光りの元で、、、。
テーマも決まっていないのに、大理石の手ごろな大きさのものを屋外のテントの下にセットした。そして、石の中に形を透視するかのように、じーっと見つめて永い時間を過ごした。
そこに見えたものは、争闘と試練の嵐の中で、今にも負けそうになっている女だった。女はひとりで耐えていた。怪しい東風が彼女の髪を もてあそぶかのようだ。自分の中に渦巻く苦悩に捉えられている女には、子供達が見えない。後ろから静かに支えている男は、彼女の夫であるはずだ。
延々と続くような落ち込み。黒い誘惑の穴。
この時代は、女たちには過酷な時代なのだ。不自然な生き方が魅力的だとクローズアップされるから、静かな生活などしていられない気分にさせられる。
みんな女は、そわそわしていて落ち着かない。家庭でも 学校でも 路上でもウロウロする女たちでいっぱいだ。
女たちの顔がきつくなって ギラッと鋭く光る眼。
「それでも、嵐が去れば、きっと彼女は立ち直る。」と信じて、嵐から守るようにして支える夫。手で輪を作って守っている子供達。
実は、夫は「愛の姿をした主」として彫りたかったのだし、子供達は天使として彫ったつもりなのだ。あまりにも小さな子どもの姿は、女には見えていない天使の存在なのだ。
まだ救われているのは苦悩の中にいるからで、もしも女がこのまま街に出かけていったら、きっと もう戻っては来れないだろう、、、。
天使は、いつでもそばにいるわけではない。
生きようとすることは、誰かを愛そうとすることで、、、
誰も見えなくなって、自分ばかりを見つめている時は、天使もずーっと遠くに離れて見ているしかないんだって、、、。
久しぶりにやって来た"アマレク"の一家の姿に 昔の記憶を呼び戻されて怯えた。虚栄と快楽が、生活の大目標かの様相で、静かな田舎の風景を脅かす。『アマレクのことを 忘れてはいけない。彼らはいつでも、旅に疲れた隊列の最後尾の弱い者たちを餌食にする。』恐ろしいことだ。二度とあってはいけないこと。だから、しっかり彫ろう。
|