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母は、なんであんな話をしたんだろう?ふたつの話が、妙に結びついて、絡みあって刻み付けられている。
いずれも 私がまだ母の背中におぶわれていた頃の話だ。そして、その話を聞かされたのは、いくつの頃だったか、、、記憶の中身からすれば、小学生くらいではないかと思う。
ひとつは、火事の話。もうひとつは、家出の話。
私たちの住んでいた製材所の2階。あたりは、ただ材木の山が拡がっているばかりで、近所も製材所だった。いくつもの製材所のずーっと向こうには、小さな港があって、漁具店とか売店が並んでいた。
ある日、その中の一軒から火が出たらしい。冬の寒くて強い風にあおられて、どんどん火は広がったという。
----火事がすぐにも こっちに広がって来そうでねー。材木に燃え移ったら大変だから水をかけたり、家の壁に濡らした筵(むしろ)を打ち付けたりして、みんなで大変だったのよー。
そんな騒ぎの中で、どういうタイミングだったのか、母は、
----火の方向を見ようとして、慌てて外に飛び出したのよー。とっても恐くてねー、ずーっと背中におぶっていたKが、もぞもぞと変な動き方をしていたのに、やっと気が付いて下ろしてみたらねー、ズボンの片方の穴に、両足とも突っ込んではかせていたのよー。あーゆー時というのは、慌てるもんだね〜 ハハハ、、。
緊張感のある話の締めくくりとしては、ずっこけていたし、話しの方向も見えなくなりそうで、不安定な気持ちになったのを覚えている。
その後しばらくは、その火事の痕跡や気配を探して、あたりを見回したりしたが何も無いようだった。気持ち悪さだけが残っても、、。
川べりに拡がる風景とはうって変わって、土手沿いの道を超えると、家が立ち並び、その中央に商店街があった。その中に一軒のレストランがあった。母は、その店が好きらしかった。ある日の買物の帰りに、私はクリームソーダ、母はウエハウスが付いてる銀の皿に乗ってるアイスクリームを頼んだ。
----この店はねー、昔からここにあってねー、、、家を出て何処かに行きたくなって、Kをおぶってこの店に入ったのよー。何も食べる気はしなかったんだけど、適当に「フルーツ」と注文したら、銀の皿に盛り付けた豪華なフルーツが運ばれて来たので驚いてしまって、それからずーっと、
----これいくらだろう?払えるだろうか? とばかり考えて、心配で心配でー、、、
意外と安かったのでホッとして無事お金を払い、それからまっすぐ家に帰ったという。
----だったら、食べればよかった〜、という母はまたもや私に不安定な気持ちを残したまま、最後に「ハハハ・・・」と笑うのだ。
永い間私の記憶の中では、ふたつの話は繋がってしまっていた。ズボンの片方の穴に両足を突っ込んだままの姿勢で、暗い夜のレストランで、(ほんとうは昼間だったのかもしれないのだけれど)窓際の席に母と向かい合わせに座っていたのだ。
これを書く為に、やっと今、絡んだ糸をほぐしたような気持ちだ。
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