●「選択」2009年7月号
オバマ政権が企てるドルの延命策
●「選択」2009年6月号
米銀ストレステストの深層
●「選択」2009年5月号
アジア新興国の「意外高」の背景
●「選択」2009年4月号
金融危機でもうけた悪いやつらが狙う「次」の標的と作戦
●「選択」2009年2月号
「次のバブル」を狙って早々と動き出した中国
●協栄物産ゴールド四季報2009年新春号
世界的な金融危機!2009年金価格はこう動く
●「選択」2008年11月号
ジョン・テンプルトンの教訓
●協栄物産「四季報」 2008年秋号
米国発金融危機と金価格
●エース交易「情報交差点」 2008年7月号
今後の株式、為替、国際商品市場をこう見る
●ニューリーダー2008年新年号
2008年上昇相は大型場
●協栄物産「四季報」 2008年新春号
2008年の金価格はこう動く
●「選択」2009年7月号 |
| オバマ政権が企てるドルの延命策 「何い?アメロだって?今世界中がドルについて心配しているご時世に、わざわざドルの地位を疑わせるようなことをする馬鹿がいるもんか?」 他のこともあってある著名なヘッジフアンドの運用担当者に、最近日本で話題となった地域通貨AMEROについて質問したときの返事である。 CNNがブッシュ米大統領とフォックス・メキシコ大統領の合意として伝えた大分前のニュースだが「両方とも前任者だろう?」とそっけない。 この人によると「世界の基軸通貨なんてものは、そうそう簡単に変わるものじゃない。英国が世界の製造業のリーダーシップを米国とドイツに譲ったのは1920年代だが、ドルがポンドに取って代ったのは1945年の戦争終了時。35年以上長持ちした。」 また「輸出入の手形の最終決済をするBA(バンカーズ・アクプタンス)の市場でも96%はドルだ。ワカッてない学者や日本人がすぐドル不安を言うが、一体どこの通貨がドルの代役になるんだ?ユーロ?まだとてもダメだろう。円?人民元?キーカレンシーの役に立つほど使われていないじゃないか」。なろほど。 そうはいっても、ドル不安はなかなか消えない。それは第一には米国の財政赤字が巨大化し、資金調達のための国債発行が、中国、日本など外国に握られていること。第二には先日の英国国際の格下げのように、市場から不信任状を突きつけられる懸念が消えないこと。第三には中国を始め主に新興国が、貿易取引に地域通貨を利用するとか、IMFのSDR債の購入を宣言するなど、ドル不信の姿勢を表明していること。 第四に(これは噂だが)ある日本の中堅化学メーカーに米国財務造幣局から特殊なインクの大量発注が来た。偽造防止の特殊インクで、新しいドル紙幣の製造が準備されているのではないかという憶測。 そして最後に5月14日から17日まで、ギリシャの首都アテネ郊外の高級ホテルで行われた「ビルダーバーグ会議」である。 詳しくは後述するが世界を支配しているある階級に対し、がイトナー米国財務長官からある意思表示がなされたという情報である。これはきわめて重要な情報だ。 しかしまず順序として前記の第一から第四のドル不信に対し、世界の通貨情報通たちがどう見ているか、またそれが日米で広く行われている理解と、どのくらいかけ離れているか、について触れることにする。 中国の朝鮮は時期尚早 まず4月にロンドンで開催されたG20サミットで、一部の国の通貨危機が先進国の銀行に経営不安を呼ぶという懸念が言われた。このためIMFの融資ワクを7500億ドルに三倍増とした。 直前に中国人民銀行の周小川総裁がドル通貨体制に疑問視する論文を発表。ドルでな くSDRを、国際準備通貨とすることを提唱した。 その後6月の西シベリアのエカテリンベルグで開催されたBRICS会議では中国は500億ドルのSDR建てによる IMF債の購入を決めた。ちなみにSDRはドル44%ユーロ34%ポンド11%日本円11%の複合通貨バスケットである。中国の手持ち外貨準備算の82%がドル建てなので、まずリスク軽減、次いでIMFでの自国の地位上昇を狙っての「一発かまし」と見られている。 また4月24日には「2003年から2008年まで中国国内産出金を集め、金保有を600トンか ら1054トンに増やした」と公表。IMFが財源確保のため売却を予定している403トンを「いつでも購入します」という意思表示も行った。 中国のハナ息は荒く「2020年までに世界の外貨準備の3%を狙う」と首脳部はいきまく。しかし現実には@6カ国の中央銀行と通貨スワップ協定を結んだが資金ワクは950億ドルしかないA人民元を使ったバーター決済なベトナム、タイなど中国周辺国と行われているがアングラ経済の域を出ない、など。道は遠い。3%という目標が達成されても、現在の日本円の4.3%にも及ばないということだ。 現に中国は正面切ってドルの基軸通貨体制にクレームをつけているが、米国の国債などへの買いを止めていない。6月に米ガイトナー財務長官が訪中し中国首脳と会談した折でも、中国側は国際的な通貨体制をつぶすつもりは毛頭ないと述べた。当面米ドルを文句を言いつつ支えるという形だ。 しかし米国の財政赤字急増はどんどん巨大化する一方。ある金融大手の推定では米国 の今年度(2008年10月〜2009年9月)の借り入れは3兆2500億ドルと前年度の8920億ドル の4倍で史上最高。ガイトナー長官はあと4年でこの数字は半減すると述べているが、市場の信任を得ているとはとてもとても言えない。ましてや米国債の発行の51%が外国の中央銀行に握られている。こうして世界中が米国経済の地盤沈下と基軸通貨ドルの行方について懸念している。 その中で1954年以来欧米のどこかでホテルを借りきり、米国から30人、欧州から80人、国際機関から10人といった構成で、今後の世界のあり方について討論する完全非公開の会議が開かれた。「ビルダーバーグ会議」という名で今年は5月14日から17日までギリシャで開かれた。米国の出席者はガイトナー財務長官、前任のポールソン、キッシンジャー、コンドリーザ・ライス、ゼーリック世銀総裁らのそうそうたる顔ぶれである。 ここで顔見世をしないと米国大統領とも英国など主要国(除く日本)の首相となれないほどの権威がある。この会議の決定事項がその後の世界の流れになるといわれており、EU統合、イラク侵攻などがその決定。日本人は緒方貞子さんが1度だけ招かれただけ。 今回は議論のたたき台となるパンフレットが配布されていた。今回の世界不況に対する処方箋で@今後何十年も世界不況が続くA国家主権がある程度制限され現在の世界体制より効率的な構造転換を行う、という二つの案。当然後者の政策が採択された。 具体的には国連のWHOを豚インフルエンザの蔓延を受けて各国政府の保険担当部局 に命令できる強い権限を持たす。またIMFを世界政府の財務省とするという案が検討された。会議概要は公開されないので、あるソースから取材したカナダのジャーナリストのウエ ブによると、米国オバマ・ガイトナーチームはとりあえず時間稼ぎの策に出たようだ。 問題はIMFでの米国の持つ拒否権である。IMFでの投票権は米国が17%、続いて日本の6%で中国は4%以下。重要事項の決定は85%の得票が必要で米国が合意しなければ何も決まらない。中国はG20でこの米国の拒否権をなくし、自国の投票権を大幅に上昇させるべく動いているが、ビルダーバーグ会議では、2011年ごろに投票権の改定を行うことが決まったらしい。米中2カ国による世界秩序を行うことになろう。グリーン・ニューデイールによる長期景気浮上を狙うオバマ政権としてはとりあえず中国の攻撃を受け流しながら時間を稼ぐ、という作戦のようだ。日本は1000億ドルの出資を決めて、第2位の地位を守ろうとしているが、成果の方はややおぼつかない。
|
| 上へ
|
●「選択」2009年6月号 |
| 米銀ストレステストの深層 去る5月7日、米国財務省は米銀に対するストレステストの結果を公表した。これは正式には監督型資本評価プログラム(SCAP)と呼ばれるもの。具体的には今年と来年の米国経済をシュミレーションして、どの程度のローン債権が不良化し、予想される追加損失額と必要な自己資本額が算出されている。 その結果が「追加損失額5992億ドル、必要とする増資額746億ドル」。シテイグループとGMACを除いては、最悪の場合でも政府保有の優先株を普通株に転換すれば資本の最低基準は満たされる、という結論になった。 市場は好感し、株価は上昇。とくに健全と判断されたモルガン・スタンレー、ウエルズ・ファーゴなどは増資を発表、不良資産救済プログラム(TARP)による公的資金の返済に進む動きが目立つ。 ストレステストの結果は一言で言うと金融システム不安の後退だ。不良債権の償却のため銀行が資本不足に陥る懸念は、なかなか消えない。しかし「大恐慌時より大きい損失発生率(米銀首脳)」でも、起こりうる資本減耗はこの程度、とされたのだから、市場が好感したのも当然だろう。 もちろん、批判はヤマほど出ている。たとえば@前提が甘い、とくに銀行の収益を過大評価しているA追加損失はもっともっと出てくるはずBTARPの残り金額1000億ドルの範囲内で、これは「出来レース」などなど。とくにAはIMFの4月に発表した金融危機による世界の金融機関の被った、あるいはこれから被る不良債権4兆ドル。要増資額は米銀2750〜5000億ドルという数字が引き合いに出されている。 筆者に言わせれば、ストレステストに対する批判は、ワカっていないとしか言いようがない。 まずストレステストの目的、特に政治的な目的にオモテとうらがある。勿論表面上は市場の不安感払拭だし、米国発表金融危機からの脱出を促進することだ。そのためには株式市場が好感しなくてはならない。実は4月下旬から一部の銀行が資金に物を言わせて売り物をさらい、特に金融株が上がるような環境作りがなされていたことは知る人ぞ知る。その結果は?海外投資家による米国経済への信認回復、つまりドル資産への投資の増大につながった。 もう一つの政治的な目的がある。それは欧州との差し手争いである。 「米国はストレステストを実施しているが、欧州は金融危機の実態を公表したがらないし、対策も遅れている]という評価を世界から得ることがガイトナー財務長官の狙いだ。 前述のIMFの見通しでも「米国の銀行は不良債権の50%を償却しているが、欧州の銀行は17%しか償却していない」としている。 特に米国で作られた資産担保証券(ABS)の償却はかなり進展したといわれるが、中東欧向け債権の不良債権化の重荷も相当に大きい。ごく一例を挙げるとオーストリアで、この国の銀行の中東欧向け債権はGDPの80%に達している。日本が100兆円、GDPの20%でこれが失われた10年になったのだから、80%という水準は途方もないことだ。 この米・欧の差は外国から投資、つまりドルとユーロの通貨としての評価になると同時に、実はIMFの資金の使い方についてのイニシャチブが米国にとり有利になるという効果をもたらす。基軸通貨としてのドルの安定につながる。 IMFによる新興国をめぐるセーフティネットの資金ワクは、ストレステストが行われた4月近辺に拡充されている。3月には新供給スキームのフレキシブル・クレジットライン(FCL)が導入され、4月のG20ではIMFの資本増強が決まった、その融資の優先順位で米国の意思が通るには、やはり国際的な世論に応じなくてはならない。ストレステストはその「武器」だったのである。 それほどFCLはこれまでのIMFによる資金融資と使い勝手が違う。普通IMFへ駆け込むのは資本が国外へ逃避が始まり危機に追い込まれた国である。そこへIMFが資金を供給するのだが、その見返りに経済、財務政策を約束させられる。FCLはその必要がないし、第一資本逃避によろって苦境に追いやられなくてもIMFへ資金供給を申し出ることが出来る。つまりFCLは予防的な性格を持つスキームなのである。メキシコ、コロンビアなど米国に地理的にも経済的にも近い国が申請しているのは、ここいらに理由がある。 ストレステストの成果はNYダウの反発によって明らかだ。3月9日の6547ドルの底値から5月には38%上昇した。30%以上の株価上昇は、単なる長期下げ相場の中での一時的上昇つまりベア・マーケット・ラリーではない。恐らくまだ全員が疑っている米国の景気の本格回復を反映した長期上昇相場の第一幕であろう。 がートナー財務長官が最も注目し期待してきた指標がいくつも5月下旬に具体化している。まずバンク・オフ・アメリカの投資判断引き揚げや収益見通しの上方修正。これによる金融株の一段高。そして全米住宅建設協会(NAMB)による5月の住宅建設指数の2ヶ月連続上昇。これは8ヶ月ぶりの高水準である。 3月から底値買いで大幅な利益を上げた私の知るヘッジファンドのマネジャーは@急ピッチで上昇したので買い方は出遅れで押し目買い意欲が大きいA一方「100年に一度」の先行き不安説を信じている向きは空売りやヘッジ売りをまだ手じまっていないBヘッジファンや個人の現金保有はまだ多いC5月からの20兆円の税還付による景気浮揚効果Dヘッジファンドの解約売りのピーク越え(45日ルールにより5月15日で完了)など。 そして何よりも弱気説の親玉だったジョージ・ソロス氏の投資方針の変化が注目されている。最近同氏のファンドは「米国の金融株を利食い、小売株、たとえばファースト・デホとか百貨店のメイシーズ株を購入している。米国消費者の過度な消費が今後縮小し、世界的不況と述べ続けてきた大物の「転向」だけにもっと注目されていい。 言うまでもないことだが、米国の信用不安の度合いが急速に軽減されていることを示す指標が多い。2年もの金利のスワップ・スプレッドがその一つで、昨年のリーマン・ショック後には167ベーシスポイントと過去最大だったが、5月18日に36ベーシスポイントと2007年2月以来の低水準になった。つまりサブプライム問題が本格拡大する直前の数値である。金融正常化を物語る。 米国景気回復を示す指標は実質消費支出の年率換算変化率は反転上昇。また民間調査機関コンファランス・ボードの米国景気先行指標総合指数は4月に7ヶ月ぶりで前月比1%上昇。この幅は2005年11月以来という。また消費者信頼感指数は4月に39・2ポイントと前月の26・9から大幅に改善した。 まだまだ日本では米国や世界の持続的な景気回復には疑心暗鬼の感が深い。しかし米 国ではガイトナー長官はすでに「現在のリフレ政策が新たなバブルを形成しかねない」と将来のバブルのリスクへの警戒論を述べているほどだ。 過度に悲観的な見方が余りにも一般化している現状だが、世界的な過剰流動性は景気 回復のV字型と株価のオーバーシュートをもたらす危険性さえはらむ。もう「100年に 一度」のストーリーはほどほどに。過信するべきではない。
|
| 上へ
|
●「選択」2009年5月号 |
| アジア新興国の「意外高」の背景 「投資をするものにとって、一番気をつけなければならないことばは、“今回は違う”だ。」 株式投資の名人故ジョン・マークス・ケンプルトン氏が筆者に教えてくれた教訓である。 同氏は10年以上も米国の投信運用でナンバーワンの地位を守り続けたスーパー・ファンド・マネジャー。数々のの名言を残した。 冒頭の言葉の意味は、今風に言えば「百年に一度」と今回の世界不況を特別視するこ とはない、ということになる。 たしかにリーマン・ショック以降の深刻な不況は異常といってよい。IMFの2009年の世界の予想成長率がマイナス0・5%と戦後初めての景気後退。また不況の震源地米国の金融システム安定のための対応策による支出合計が13兆ドル弱と2008年の米国GDP14兆ドルに接近、という2点でまず十分だろう。このほか大不況の証拠はいくらでもあげられるし、「これからもっとひどくなる」「回復に途方もない長い時間かかるL字型」という見方が横行する理由でもある。 しかし、一歩も2歩も先を読む投資のプロたちは常識外れの着眼点で途方もない利益を得る。その戦術の最近の例を挙げてみる。 まず不動産投資信託(REIT)。このビジネスが特に昨秋以降苦境にあり、運用先に含まれる商業施設は売り手ばかり。どこがまずお手上げになるか、が話題となっていた。そこに4月16日に大手のゼネラル・グローマ・プロパテイーズが、連邦破産法11条に基づく会社更生手続きを申請した。 同社はハワイ観光客が必ず訪問するアラモアナ・ショッピングセンターの運営で知られている。従来から資金繰りの困難が伝えられ、株価は1ドル台の破産相場だった。 この報道で喜んでいるのが、実は同業のREITの経営者と「デイストレストスト」という運用方針のヘッジファンドである。 なぜ喜んでいるのか。実は倒産まで様子見を決め込んでいた資金スポンサーたちが一 斉に「異常安の郊外商業施設物件への買い」を入れ始めたからである。従来、売り気配 で値が下がっていた物件に売買が付く。これだけで十分に投資の理由になる。 「米国の家計は消費にしすぎで縮小するのに商業施設?」と首をかしげる向きは米国人の国民性を知らない人だ。 「よく日本人はそういうけれども、米国の個人所得は減っていないんですよ」と筆者のNYの友人は笑う。この人は最近東京に行って「明けない夜はない」という話をしたら、ある財閥グループの長老から「あなたの話は明るすぎて現実味がない」といわれた、とか。「日本人には一番米国はダメ、という見方がウケる」と笑う。 現実にはリーマン・ショックで短期金融市場から、現金又は短期米国債市場に流入した4500億ドルが、金融危機の一段落で再び利を求めて動き出している。現に米国を含めREITや不動産そのものが世界的な価格上昇に転じ始めている。現にバブル破裂という見方さえあった上海や北京の不動産価格が、9ヶ月ぶりに上昇に転じている。 REITだけではない。BRICSとアジア市場への株式投資もすでに始まった。 世界の株価は昨年秋と今年3月に2度安値をつけ、その後反発。不況下の株高だから短期に終わると懐疑的な見方が多い中で、一つのテーマが明らかになっている。それは「金融危機後の世界の成長はアジアを中心とした新興国」という判断だ。 ある欧州の運用担当者と最近の出張時に会食したが、「市場そのものがモノを言っている」という。 まず昨年秋の安値を3月に下回らなかった国は香港、ブラジル、フィリピン、中国、メキシコ、インドネシア、韓国、タイ。 また昨年秋以来の高値を上回っている国(4月中旬現在)はブラジル、インド、フィリピン、中国、韓国、台湾、インドネシア。本誌刊行時に上回っていそうな国は香港、トルコ、タイ、シンガポール。日本が入っていないのが残念だが「アジア新興国の景気が良くなれば、最大の受益者は日本なので、いい数字が出て来そうになれば買いに入るつもりで、3月から打診買いを始めている」という。 逆に「日本人はどうしてまだ金融危機をオーバーに評価しているのか?」と筆者は聞かれる。「やはり自分たちが経験した不安の経験を、今や米国がやっているし、米国人も大して変わらない政策でしかないじゃないか、と思っているからだ」。[まあ、仕方がないか。] 実は、投資のプロたちが注目しているある指数がある。シカゴのオプション取引所(CBOE)のVIX指数である。別名「恐慌指数」。 S&P500種の今後30日間の変動率の市場予想を反映したボラテイリテイ(変動)を現したもの。今後の急落への警戒感が強いと高まり、不安心理が収まると低下する。 この恐慌指数が4月に入って急低下し、平常時の30ポイントに接近、昨年10月の80ポイントの半分以下になった。 実は本誌が発売される5月中旬以降に、米国の金融システム不安をさらに後退させる要因がある。PPIP(不良資産買い取りプログラム)の始動。これで証券化商品の市場流動性の回復と価格下げ止まりがすでに始まっている。 問題の震源地、米国住宅市場の底入れも視野に入った。米FRBによる積極的な住宅ローゲージ購入措置を受けて、住宅購入余力を示すアフォーダビリテイ指数はここ1ヶ月あまりの間に史上空前の高水準に達した。つれて住宅着工なども前月比では反発に入っている。 「そうはいっても、欧米銀の経営はまだ問題あり」という見方が日本では多い。たしかに「IMFが世界の金融機関の抱える不良資産は従来の推定の倍の4兆ドルと推定」という報道がある。しかし一方、現在実施中の米銀を対象としたストレステスト(資産査定による健全性審査)で「追加支援が必要と判断される銀行はない」という報道もある。 こうした相反する見解はなぜ生まれるか。銀行の抱える不良資産の定義と評価の違い によるものである。 その意味でFASB(米財務会計基準審議会)が「住宅関連など流動性の低い資産の評価には、市場価格によらないで、キャッシュフローを基にした評価も可能とする」と決定したことは注目される。 日本では例によって[問題の先送り]という声が高いのだが、現時点では市場が機能していないのだから当然の措置だろう。従前から不当な評価額に基づいて銀行が資本不足になり、貸し渋りと深刻な不況という事態を防止するには有効だ。 この指標化で銀行の最終損益は20%以上押し上げられる。ゼロ金利政策による銀行 の利ざや収支は確実に改善中。これも金融不安解消に役立つことになる。
|
| 上へ
|
●「選択」2009年4月号 |
|
連日のように世界的不況の深刻さと、回復の見通しがつかない現実が報道される。とくに金融市場不安の震源地の米国については「NYのマンハッタンでも不動産価格暴落」とか「五番街での大型店やチェーン店の閉店相次ぐ」など。失業率の増加に歯止めがかからない現状と合わせてやはり「百年に一度」というキャッチフレーズが多用される理由だ。 ところが半年振りでNYに出張して筆者が聞いたのは、アレレといいたくなるような「わるいやつら」の暗躍ぶり、もうけぶりだった。 「たとえばシテイグループの株価です。」と久しぶりに会ったあるヘッジファンドの運用担当者が言う。 この人によると、意外なことにシテイグループの信用格付けは日本の三菱UFJ銀行並みのA格(ムーデイズ社)。ところが株価のほうは先日瞬間的に1ドルを切るほどの破産相場だ。 「米国人は株式の40%近くを政府が保有し、信用保証している同行が破産するとは考えていない。金融を専門に売る専門のヘッジファンドの空売りと、超低位株を社内投資ルールでもてない機関投資家の強制的な売りで押し下げられている」 売る理由は簡単。誰もが知るサブプライム問題に始まった金融危機の深刻さだ。具体的には米国企業と家計の過剰負債問題で、その解消まで途方もない永い時間がかかるという。ご存知の“出口なし”シナリオだ。震源地の米国住宅価格低下が止まらない限り、実体経済の悪化に歯止めがかからず、失業者も増加する。 デリバテイブはもうける人とソンする人とがチャラ。ゼロサムゲームの世界だ。当然、売り専門ヘッジファンドはボロもうけだ。たとえばポールソンというファンドは銀行株の売りで元本の10倍の利益を挙げた。また主に利用されている先物とオプション取引などデリバテイブの残高はBIS(国際決済銀行)の最新の数字で、昨年8月のものだが683兆7000億ドルで前年比32%増加だ。その後売り玉はてじまわれ始めたので残高は5月19日発表の12月末数字を見なくては分からないが、多少減少しても600兆ドルを超える、ともかく天文学的な水準だ。売り筋が世界の株式資産の減少分にちかい収益を上げたことは想像に難くない。 その結果はどうなったか。S&P銀行株指数は2007年2月のピーク時比で89%下落した。奇しくもNYダウが戦前の大恐慌時に暴落した株価の下落幅に全く同じ。「もうこれ以上は売れない水準に達してしまった。あとは上がるだけだろう」と前述のファンドの担当者は言う。 現在プロの投資家たちの共通した目標は「デイストレスト投資」。直訳すれば困窮とか遭難の意だが、理外の安値まで売り叩かれた物件を専門に投資するヘッジファンドの一形態だ。投資リスクは勿論大きいが、そこは腕に自信のある運用担当者が「5年間で倍以上」というパフォーマンス目標を掲げ、しばしばそれを上回る。 2007年夏からの下げ相場の開始で大幅下落した投資物件のキズものをあえて買収するファンドが確認されただけで4兆4000億円を超える、といったら驚かれるだろうか。 投資対象は@不動産の現物A企業・金融機関Bローン・債権など。サブプライム債券価格の大幅下落で2年続けて5倍、5倍合わせて25倍のポールソン氏(前財務長官と別人)が破綻した金融機関の専門買収ファンドを数10億ドルで立ち上げた。またローンスターは簿価306億ドルの資産担保証券を額面の22%という安値でメリル・リンチから購入した。これらを含め野村證券資本市場研究所の調べでは確認されているだけで15本444億ドルに達している。 これらの担当者すべてにあたったわけではないが、共通しているのは「期待」である。それはとめどない破局のように見える現状の「わざわいの源」の資産担保証券の再生だ。 仕組みはいろいろあるが、これらの証券はたとえて言えば幕の内弁当。ゴハンも刺身もエビフライも大丈夫な中に中国産毒入りギョーザが入ってしまったため、全体の弁当の値がつかなくなったようなものだ。 食品と違って金融商品は腐らない。そこで問題は二つ。第一は住宅価格の下落が止まり不良資産の発生なくなる時期だ。今のところ2010年末には調整完了と専門家の見方は一致している。現実にはもう少し早いだろう。第二はサブプライムのような質の悪い貸し先の不良資産発生率の一段の上昇と、プライムとされる優良貸し先でも延滞が起きること。これも2008年の前年比ではサブプライムの延滞率が17・3%から20・0%に上昇したし、プライムも5・8%から7・0%に上昇した程度、劇的な上昇はまずないと見た方がいい。 となるとコンピュータ万能のご時世とて、前述の幕の内弁当の中から問題部分を除去して組みなおした証券を再生し販売することは可能だ。現時点では米銀は超低金利の恩恵で米国債で運用するだけでフローとしては黒字化したが、期末に金融商品の評価損が依然巨額なのでシテイグループにしてもバンカメにしてもまだ株価を見る限り、市場から完全には信認を得られていない。 しかし2010末になって住宅市場が正常化すれば延滞債権増加つまり出血は止まる。そのときこそデイストレスト投資ファンドは巨大な利益が得られる。 一方、実体経済のほうは自動車産業へのテコ入れ策がそのころには出てくる。既にドイツ政府が導入して大成功した「自動車買い替え奨励金」だ。 9年以上経過した自動車を環境対応車への買い替えに2500ユーロの奨励金を出し、その効果で2月にドイツの自動車販売は22%も伸びた。予算上の想定台数60万台に対し申請は既に30万台近い。これと同じような案がオバマ政権内部で既に検討中と伝えられる。 「要するに景気のプレジデント・サイクルです」と筆者が久しぶりに会った資産運用のプロは言う。 新しく大統領に就任した政治家で、次の選挙で再選されたいと願わない者はいない。当然就任の年と翌年は、景気も株価もたいしたことが無いように経済運営を心がける。大統領選挙の前年から好景気が始まるのが一番好ましい。オバマ大統領はまだ40代。この不況で本音を言うわけがないが、心中では2011年からの景気回復が最も好ましいと見ているに違いない。折も折り、住宅関連の市場の回復が見込めるようだし、肝心の財務省もガイトナー長官は優秀な人材だが局長クラスの人選がストップしている。 ウオール街出身者は利害の衝突があるし、ロビーストたちの政府内での仕事をオバマ大統領は最近拒否した。それでも慌てる様子がないのは、対不況戦争が長期にわたるとの見通しだからだ。 前述した米銀大手の株価は売りつくされて反発、真の闇に見えていた米国株や景気の見通しも上昇モードは入っている。事情通たちは「せいぜい半年」と株価上昇期間を読んでいるが、再び見通しが暗くなるのは、オバマ大統領の「イエス。ウイ・キャン」の読みにすでに入っているのかも知れない。
|
| 上へ
|
●「選択」2009年2月号
「次のバブル」を狙って早々と動き出した中国
「金融市場の危機はまだ終わっていない。それでも、明けない夜はないように、
騒ぎが収まったら必ずバブルがどこかに発生する。われわれはその"起るべきバブル"
がどこに発生するか、今見定めようとしている段階だ」。
ある著名はヘッジファンドのマネジャーが最近筆者の質問に答えた返事をまとめた。
勿論この回答自体、まだまだ気が早すぎることは先刻ご承知。オバマ新大統領の
就任でお祭り騒ぎを展開した米国社会だが、金融機関の経営危機と貸し渋り、これが
企業経営の悪化につながるという悪循環はとどまる様子がない。
いい例が大手銀行の株価である。昨年末に5〜6ドル台だったシテイグループの株価
は1月22日に3ドルと破産相場をつけた。その段階でも米国上院では金融支援策の残り
3500億ドル(約31兆円)の拠出を阻止する決議案が危うく通過しそうになったほどだ。
米国での政府による金融危機脱出のための銀行支援は有権者の支持を得ていない。
まだ日暮れて道遠し、の感は深い。
「それでもFRBの流動性供給の激しさから見れば、危機はあと1年もつづかない。
今や自然治癒の段階に入った」とあるファンドマネジャーは言う。
たしかにバーナンキ議長は史上空前のスピードで世界中にドルをバラ撒いている。FRB
の総資産は8月末の8500億ドルから12月末に2兆2000億ドルになった。2,3月には
MBSの購入などから3兆ドルに達すること確実。半年あまりで3・5倍だ。日銀の金融危機
のときの総資産増加ペースの40〜50%の比ではない。
FRB以外にも主要国の政府、中央銀行の金融機関に資金投入、政府保証などで資金を
投下している。合計6兆7000億ドル(英蘭銀行調べ2008年10月)で、推定される損失
2兆8000億ドルを大きく上回る。こうした危機対策のための流動性供給は、危機が済めば
早急に回収しなくてはならないが、そうはいかない。危機の印象が強く残像にあって金融引
き締めは遅れる。危機対策の出遅れも意識される。これが「次のバブル」のタネになる。
勿論株式などへの投資を手控え、米国債や現金運用に徹していた投資家の余裕資金も
参加する。投資対象として格好なターゲットを見つければ、の話だが。まあヘッジファンドが
一番バッターとなって、投資のストーリー作りから始めるという形だ。
「バブル」の始まりは危機の終わり 想い出すといい。1987年のブラック・マンデーの当時、
何しろ一日で20%以上の株価暴落とドル安、債券安で世界中が震撼した。その結果流動性
が大量に供給され、当時日本経済の絶頂期とて、株と土地のバブルが生まれた。
1998年の
ヘッジファンド大手LTCMの経営危機のあとは、米、英、スペインなど各地で住宅ブームが発生。
また米国ひとり勝ちの構図を生み、それがサブプライム・ローンの証券化商品の世界中への
販売につながった。まあこれも一種のバブル、といっていいだろう。
では、次のバブルのターゲットはどこか。
一番積極的に、われこそはと手を上げているのが中国である。
9月中旬のリーマン・ショックが発生すると直ちに五回もの利下げを断行する一方、11月上旬
には4兆元(56兆円)の投資を2年間で行うと発表した。一部には真水は極めて少ないと批判
されているが、筆者の見たところ本物である。
ほんの一例。中国の産業界で最も在庫圧迫がひどく減産に追い込まれていた代表格が鉄鋼
と家電。ところが前述の景気刺激策では鉄道や地下鉄など鉄鋼需要増大のプロジェクトが推進
され、また家電普及率の低い農村は補助金を出して在庫整理と生活水準の向上と都市との
格差是正の一石三鳥を狙っている。よほどの知恵者がいるのだろう。
既に鉄鋼業が増産に
向かうときの先行指標である鉄スクラップ価格は、年末から反転上昇に転じたし、1月中旬に
発表された昨年12月の銀行貸し出し、通貨供給量ともに20%台の急伸となった。商社筋に
聞くと、化学関連品が売れ始めたという。
温家宝首相はこれらを踏まえて「われわれの目標は世界で最も早く景気が好転することだ」
と述べた 中国のしたたかなところは、そういいながら人民元の切り上げを最小限に止めていることだ。
しかしもう少し実績が出揃えば、流れは生まれる。上海株式市場は高値で三分の一になって
いるし、87年のブラック・マンデーのあと、東京株式市場が新高値をつけて世界に力を誇示した
歴史の再来になろう。
実は、ヘッジファンドの中ではジンクスを担いで「西暦で9の数字が末尾につく年は中国はダメ」
と言っていた向きがあった。 そういえば天安門事件は1989年だったし、59年は毛沢東の大躍
進政策の失敗で餓死者が大量に出たし、69,79年はそれぞれソ連、ベトナムと戦って敗戦。ろくな
ことがなかった。99年には大したことはなかったが。
現在大量の失業者が帰国するカネもなく大量に都市にいると報じられ、社会不安のタネは十分にある。
不安ムードと好転する経済数字のどちらを信用するか、だろう。
実を言うとヘッジファンド大手は、2009年中に大幅に利が取れる手ごろな投資先として、わが国の
円をターゲットにしている。昨年末から対ドルだけでなくあらゆる通貨に対して円が独歩高しているが、
ヘッジファンドが狙う円高の目標値は1ドル70円で、場合によっては60円台という過激なものだ。
背景は@7,8年前の対ドルの実質値と比べると15〜20%程度の円高は理屈がつくA金融での
サブプライム騒ぎの打撃はきわめて少ないB米国オバマ大統領就任でも米国景気はなかなか不況
から脱出できない上、ドル安円高を誘う米国財政収支の悪化は必至、など。基本的にはクリントン
政権と同じに「米民主党政権はドル安政策をとりやすい体質だ」という認識がある。
思い出されるのが95年4月の1ドル79円75銭の超円高である。クリントン政権の中国重視日本
叩きの政策に乗って、阪神淡路大震災という本来なら円安材料が出ているのに、わが国の輸出企業
のヘッジを次々に打ち破って自縄自縛に追い込んだ。
筆者は前年秋にこの作戦を感知して一流経済誌に「95年春1ドル80円」という論文を書いて各方面
に警告した。当時の円レートは110〜120円で、輸出企業の打撃は大きかった。麻生政権はあの
デフレ不況の再来を防ぐべく、全力を挙げてオバマ政権と交渉を開始すべきだろう。
協栄物産ゴールド四季報2009年新春号
世界的な金融危機!2009年金価格はこう動く
世界的な金融危機は拡大する一方だ。当初は米国のサブプライム・ローンの不良債権
化と考えられていた。金融機関のこうむった損失額も、FRBバーナンキ議長は2500億
ドルと述べていた。これなら地震にたとえれば微震程度でまあ大したことはない。
ところが米国の銀行の自己資本が減少し、BIS(国際決済銀行)の規制をパスする
ため、かつての日本と同じく貸し渋り、貸しはがしが始まった。
図にある通り、すでに2001年ごろの最悪水準に、今、米銀の貸し出し基準はある。
当然、住宅不況に合わせて自動車不況も始まった。自動車を現金で買う人は少ない。
ローンかリースだ。米国の自動車販売は毎月、1年前に比べて20〜30%も減少している。
GM,フォード、クライスラーのビッグスリーの経営は破綻寸前だし、自動車の販売
網でもツブれるところも出てきた。GMの社債は誰も買わないので利回りは60%(6%
ではない)まで価格は下がっている。銀行や機関投資家の持つGM社債は不良資産扱
いに転落している。
長々とご存知の金融騒動を述べたのは、これが金価格の「あるべき値段」に比べて
「カラクリを使った安い値段」に押さえ込んでいる事実をお話したいからだ。
3兆ドルの損失?
では、いま金融機関の評価損失はどのくらいに達しているか。
米、ユーロ圏、英国の先進三地域について英国イングランド銀行が調べたレポートが
10月28日に公開された。4月にも同じレポートが出されたので比較してみよう。
三地域の金融機関評価損失は、4月の1兆3000億ドルから半年の間に2兆8000億
ドルに、倍以上急増した。(その他の地域の損を含めると3兆ドルだろう)。
内不動産、住宅関連は4月時点での6244億ドルから10月7887億ドルと28%増加。
主力は住宅でなく企業関連で、社債、貸し出しなどの評価損失は4月の6647億ド
ルから10月に2兆ドルに跳ね上がった。米国では企業関連の比率は半年間で22%か
ら56%に急拡大し、ユーロ圏、英国でもいまや80%から90%に達している。
当然、公的資金の投入が行われる。米国では10月に決めた金融安定化法の7000
億ドルは当初の住宅の不良債権化した物件の買収に当てられる予定だったが、ポールソ
ン米財務長官は米銀の公的資金注入にまわすと決めた。
まあそうなると米国債の大量発行になる。図2にある通り、7000億ドルの対策費
を盛り込むと米国GDPの9%近く。
この9月に終了した。2008会計年度の財政赤字は4548億ドルと前年度の16
15億ドルの三倍近くになった。2009年度には財政赤字は1兆ドルをはるかに超え
る。巨額の国債発行が市場で受けてもらえるかどうか。
すでに米国国債の外国人引き受け比率は、94年の19%から2007年には57%
に上昇している。国債の消化が大問題だ。さて、そこで金価格とのかかわりになる。お
待たせしました。ここからが本番です。
金キャリートレードが金価格安に
国際問題評論家田中宇さんは最近「金売買市場ではカラ売りしている投資家が金価格
下落を演出している」と述べている(「操作される金相場」11月7日)。
この売り手は米銀や傘下のヘッジファンドで、米連銀(FRB)から金地金を貸し出
す仕組みがある。貸出金利は11月下旬現在2%未満だが、つい先ごろまで1%以下の
低さだった。この金のリースのシステムを使って金地金を借りて市場で売却しドルに換
え、他の利回りの高い投資を行う。「金キャリー投資」である。
GATAという団体が公表したところが、米FRBは4ドル防衛のために金価格上昇
を押さえ込もうとしている。3月にはFRB保有の金の半分以上が貸し出されており
「銀行の金キャリー取引による売りがなければ、オンス当たり3000ドルから5000
ドルの水準になる」と分析している。そこまで上昇しなくても「いまの750ドルが
1500ドルへ」と見ている向きは多い。
金価格が高騰するとドルから金への資金流出が発生するので、ドルの延命に金キャリー
は一役買っていることになる。
ここで前に書いた図2をもう一度見ていただこう。財政赤字とドル価値とは連動して
おり、GDPの9%に当たる大幅赤字は30%から40%のドル減価がありうることになる。
もうドル離れは、金の地金でなく金貨で発生している。
報道によるとドイツでは10月前半に金貨の需要は10倍に増え、銀行で金地金や金
貨の購入を申し込んでも1ヶ月以上待たされる。南アのクルーガーランド金貨も品切れ
、カナダのメイプルリーフ金貨も鋳造停止に追い込まれた。米国造幣局も金地金の調達
が出来ず、何種類かの金貨の鋳造を停止した。
通常、これだけの金の人気が高まると、禁じ下根の価格は上昇するのがごく自然な流
れである。
ところが3月のベアスターンズ崩壊のときにオンス1033・9ドルをつけた後金価
格は下落に転じ、一時はオンス700ドルを下回った。金地金の需要が増えているのに
価格で下落している。それは米FRBの金地金と借りる金キャリートレードのせいである。
恐らく金のリース金利が上昇、世界的な金融緩和でたとえば銀行間金利(LIBOR)
が下落してくると時代はガラリと変わる。金キャリートレードはまき戻しになり、金
価格は3月の高値に挑戦することになろう。
米国金融危機は金価格上昇材料
私は2006年初春に刊行された「ゴールド四季報」の創刊号に金価格見通しについ
て原稿を書かせていただいた。
当時の金価格はオンス700ドルを越えて専門家でもそろそろ終わりといわれていた。
しかし私は第1目標はとりあえずオンス800ドル、第2目標は1000ドル、第3
目標は1400ドルと主張した。第2目標まで達成されたが、第3目標はまだである。
この目標値は1980年の高値887・5ドルから20年間下げて1999年253・2ドル。
その下げ幅の倍返しというチャートから出した目標値1521ドルから少々
割り引いたもの。(その後、インフレの再燃を条件に長期で1900ドルという目標も
付け加えた)こんな強気は当時誰も言っていなかったと思う。
強気の理由は次の通り。
第一に「金価格は米国の“不快指数”」という見方だ。不快指数とはお天気の温度と
湿度を掛け合わせたものだが、米国の政治、経済にとってイヤな事態、思わしくない事
態があると金価格は上昇する。
1980年代の金価格の高値オンス887・5ドルがつく前の70年代。米国にとり
不快なことだらけだった。71年にはニクソンショックでドルは金交換を取りやめ、固
定制為替から変動制に移行。このドル安を不満とした産油国が2度にわたる石油ショッ
クを起こした。金の高値はその結果である。
今回の金価格上昇トレンドは2001年9月11日の同時多発テロから加速化した。
私は当時TVで金地金の買いを主張し、「対テロ戦争は終わりがないから最終的にはド
ル安」という理由を述べた。私の予想通りに展開したが、今回このレポートで書いた通
り、米国発金融危機は基本的には金買い。しかし現時点では金貨の買いに止まっている
が、いずれ必ず金地金の価格上昇につながる。
第二の金買いの背景は「資源インフレ」。原油価格はつい何ヶ月かまえにバーレル147
ドルがついていた。原油と金の比価が10〜12倍という経験則から見ればオンス
1400ドルがこの時点でついていてもおかしくない。
その後原油価格はバーレル50ドル台まで下落。金価格は対原油では高値で、その意
味では買い材料としての迫力は現時点ではなくなった。
しかし中国など新興国が世界経済を牽引する時代はまだまだ続く。新興国ではいろん
な面で先進国はキャッチアップするため。インフラ投資や工場建設、消費拡大は資源需
要を増加させる。
特に原油はすでに中国は米国に次ぐ世界第3位の需要国になった。しかし自動車の普
及はまだまだでモータリゼイションによるガソリン需要の本格化はこれからである。人
口の多い新興国の勃興は原油価格の長期上昇につながる。いずれ、この買い材料も復活
するだろう。
第三の「金ETFの登場」である。金取引の市場は先物・現物合わせても世界の機関
投資家の資金量の100分の一程度。ところがETFを通じて米国の大手年金は金投資
をここ数年熱心に取り組み始めた。たとえばカリフォルニア州職員年金(カルパース)
などが代表的な例。年金は投資を始める前に3年ぐらい検討時間をかけるが、投資をい
ったん始めると10年間は保有する。
だからこそNY取引所のストリート・トラックス・ゴールドのように金保有高600
トン以上という大型の金ETFが出現する。年金は資産配分を12月に決め、翌年1月
から投資を開始するのが通例なので、この1,2月にもETFへの資金流入、金買いと
いう流れが起こるかもしれない。金キャリー売り、ETF買いという需給関係が想定さ
れる。買いの方が量としては圧倒的に大きいので、価格は強かろう。(ここいらはまだ
読みきれないので明言できないが)。
この強気の理由を打ち崩す弱気材料はあるだろうか。
米国発金融危機は世界中に流動性不足を引き起こしたので、ドル調達のため新興国で
金を売却するところが出るかもしれない。もちろん欧州の中央銀行の保有金売却も、あ
りえないとは言い切れない。欧州諸国の市民たちの金貨人気を考えれば現実にはないだ
ろうがー。
対ドル為替レートとオバマ大統領
私の主張をもう一度繰り返そう。「第3目標のオンス1400ドルはまだ先にしても、
3月の1033ドル奪回は金キャリートレード解消があればいっぺんに達成される」。
時期は予想が難しいが金融市場の混乱が収まるのが2010年と見られる。となると
不況対策で主要国は金融緩和で資金ジャブジャブの機関投資家が金に注入するのも20
10年。遅くとも2011年ではないか。
これまで主にオンス当たりドルで私は自分の考えを述べてきたが、日本の投資家はグ
ラム当たり円で投資するし、為替特に円とドルのレートについて述べる。
前回私は「オバマ大統領になれば1ドル90円〜80円までの円高ドル安がありうる」
と書いた。米国民主党はドル安、保護貿易政策をとりやすい体質を持つ政党である。
それは最大の支持票はUAW(自動車労連)だし、前述した米国債大量発行などのドル安
要因もある。
また日本側にも円高要因が出てきている。それは日本近海に眠るメタンハイドレート、
シャーベット上に固まった天然ガスの開発だ。
去る8月、辞任直前の福田首相(当時)が経産省に命じたもので、同省は明年度予算
は24億円の調査費を計上する。メタンハイドレートは天然ガスが冷温でしかも高圧の
下でシャーベツト状に凍ったもの。地上ではシベリアのツンドラとかカナダ、アラスカ
にあり、海底では1000メートルの深海にある。
原油に対抗するためには、バーレル55〜77ドルに価格が上昇しないと無理とされ
てきたが、高価格原油の時代到来で脚光を浴びているものだ。日本近海では南海トラフ
といって愛知県、和歌山県や四国の太平洋側に、日本が消費する天然ガスの100年分
の埋蔵量があることが確認されている。エネルギーの海外依存度96%の日本としては
明るい材料だ。
2012年度テスト採掘開始。2018年本格採掘という計画。サッチャー首相時代
の英国が北海原油のおかげで活性化したのに似ている。
この種のエネルギー自助にはこれまで米国が押さえ込む例が多かった。しかし今回は
米エネルギー省が商業化に協力を申し出ている。オバマ大統領がブレーキをかけるとは
見られていない。ともかく貿易収支の黒字増大になるので、円高要因である。私は20
18年の本格採掘ごろには1ドル70円もありうると考えている。先般円レートが世界
的に独歩高したが、このメタンハイドレートの情報が背後にあったのではないか。
とはいえ、この円高が恐らく超長期で見れば最後の円高でウーと長期では円安も円安、
大円安だろう。ついでながら、遺産としての金や円資産の運用にからむので申し上げておく。
現在の日本人口は1億2700万人。これが減少に向かっているのはご存知の通りで、
今後減り方がひどくなる。2025〜30年ごろには1億1000万人大になり2040〜
50年には1億人になると予測されている。
人口2700万人減少ロ言うと、東京都が1250万人、これに神奈川県と埼玉県の
人口を合わせたより少し下。この三つの都道府県で人が一人もいなくなるという計算だ。
人口が減ると働き手が減少するので、よほど労動生産性つまり稼ぎの多い仕事をした
いと貿易収支は悪化。円安とインフレになってしまう。だから、超長期では円安を見込
んで成長率の高い国の通貨か金地金の長期投資が一番いい。
最後に株についても私の見方を申し上げる。10月の瞬間安値6994円が本当に大
底かどうか分からない。少なくともそこに近いところまでダメ押しはあると見ている。
場合によってはもう少し下値も。
その理由は米国NYダウの弱い動きにある
NYダウは1965年から81年までの間の17年間長期低迷し、安値は65年も81年
も874,5ドルで株式は死んだといわれた。
ところがその後82年から2000年末に875ドルカら1万0787ドルに大幅上
昇。その後2002年に7197ドルまで下げたあと二タブ上昇して2007年10月
に1万4198ドルまで上げた(図参照)。現在まだ下げ相場の2年目で下げ幅は大き
いが下げ期間が足りない。世界的に見た中長期弱気相場に日本株が巻き込まれた形だ。
どうしても上値は押さえられ、2009年は上限1万4000円程度がせいぜいだろう。
こういう大きな下げ相場のときはVの字型の急反発はなく、Wの字型で結構永い期間
底練りして、Wの字の右側のVの下値が左側のVの安値より上になって、漸く上昇に転
じるのが普通だ。
とはいえ、私は大底がついた後、大勢上昇の大きな流れが生まれるという見方を変え
ていない。株価にとって一番大事な企業収益は2009年3月期の25%減益の後、2009
年後半から原油安を始めとした原料安、円高メリットが効いてくる段階に入る。
グローバルに見ても景気刺激策が効いてくる。
この原稿を書いている11月下旬現在、日本経済は最も厳しい景気後退の最終局面で
ある。しかし2008年度ではマイナス成長でも2009年はプラス成長に転換すると
見ている。この時期に超弱気見通しが乱れ飛ぶのは通例なので驚くには当たらない。
むしろ物言わぬ株式市場が長期上昇相場の到来を予告していることに注目したい。
野村證券金融経済研究所の「テクニカル・バイウイークリー」(2008年11月17日号)
で山内正一郎氏が指摘している。2008年5月に5年つまり60ヶ月の移動
平均線が1994年10月以来13年7ヶ月ぶりに10年(120ヶ月)の移動平均線
を上回る。これはゴールデンクロスといわれる長期の買いサイン。
前回出たのは、実に50年前の1949年5月。その後日本株の長期上昇が始まった。
もう位階のダメ押しがあった後の長期上昇の時代開始を私は確信している。
「選択」2008年11月号
ジョン・テンプルトンの教訓
「長期上昇の強気相場は、悲観の中に生まれ、懐疑の中で育ち、楽観の中で成熟し、
幸福感の中で消えてゆく」。
これは投資の神様とうたわれたジョン・マークス・テンプルトンの名言である。 同
氏は英国エリザベス女王から騎士の位を授けられているなら、サー・ジョンと呼ぶのが
ふさわしかろう。 8月に死去。 享年95歳。
サー・ジョンはグローバルな投資を米国で開拓し、特に小型成長株を人が目をつける
前に発掘する名人だった。 米国人としては中背で痩せ型、澄んだ目に穏やかな表情。
激しい投資の世界で抜群の運用成績を挙げ続けたファンドマネジャーというより、大
学教授か神父という方が似合っていた。
サー・ジョンの成功は「20年間以上、年率15%以上を継続した」という途方もないパ
フォーマンスをあげるだけで十分だろう。 また今回のサブプライム危機以上に世界を
震撼させた1987年のブラック・マンデーのあと「世界恐慌」とか「ドルの基軸通貨とし
ての地位への不安」という声をよそに買い出動。 テンプルトン氏が買っているのなら
といっぺんにパニック心理とクールダウンさせた実績も。
この投資の巨人の成功は実は対日本投資にあった。 ただその秘密を述べる前に、サ
ー・ジョンが世の中に出るにいたったいきさつからはじめなくてはなるまい。
額面割れ株への投資がスタート
サー・ジョンはテネシー州の小さな町に生まれた。 父は6カ所の農園を手がける弁
護士だったが、エール大学在学中に実家が破産、苦学して同大学を卒業、続いて奨学金
を得て英国オックスフォード大学を卒業し、1937年にメリルリンチ証券に入社した。
当時まだ大恐慌の後遺症で証券不況の時代。
証券取引所には100以上の企業の株価が額面1ドルを割っていた。
しかし会社調査でサー・ジョンは1939年に「現在米国は連合国に資材を提供しており、
近い将来直接この大戦争にかかわることになる」と確信した。
1939年ヒトラーがポーランドを侵略した直後の9月、サー・ジョンは「これだけの大
戦争は何年も続き、米国経済は不況の後遺症から脱し長期繁栄期に入る」と判断した。
また「額面割れの企業が普通の株価つまり数ドルに戻るほうが、優良株が倍になるよ
りも効率がずっといい」とも考えた。
その結果、サー・ジョンは、額面割れの株104銘柄を100株ずつ、計1万400ドル購入し
た。 元では借金した。 サー・ジョンの生涯でただ一度の借り入れである。 26歳。
この投資作戦は見事に適中した。 1945年、第二次大戦が終わったとき、投資資金は
4倍の4万ドルになっていた。 現在なら400万ドル相当か。
ウオール街中の噂になり、是非運用してほしいと資金提供者が続出、サー・ジョンは
独立して運用会社を立ち上げた。 勿論成功。
十分に成果を挙げ、自身も百万長者になったサー・ジョンは56歳で会社を売却、バハ
マに宮殿のような豪邸を建てて引退した。 唯一つだけカナダ籍のファンドだけ売却で
きなかったので、その運用を通信が不便なバハマで始めた。
当時の米国はドル防衛のため利子平衡税という12・5%の高率の税を米国からの海外
投資に課していた。 しかしカナダ籍のファンドは自由にグローバル投資が出来た。
サー・ジョンは60%日本株、米国株とカナダ株各20%というファンドの投資構成にする。
日本株を発掘
1960年代の日本は「粗悪品を作るパールハーバー攻撃の国」「すぐ隣国にソ連と共産
中国があり、いつ侵略されるか分からない」というものだった。 ボブ・ホープの喜劇
映画でタマの出ない拳銃を日本製?と嘆くセリフがあった。
しかしサー・ジョンは「教育水準が高く労働者は勤勉、政治は安定している」と見て、
日本は必ず世界中で高く評価されるようになると確信した。
当時から「サー・ジョンは日本株が次の4条件に合致する」と周囲の人や日本人アナ
リストに述べていた。
第一は株価水準の低さ。 一株当たり利益との比率(株価収益率)や一株当たり純資
産との比率(株価純資産比率)で判断した。 とくに後者に重点を置いた。 第二は投
資する企業の営業利益率の高さ。 業界の中での地位やシェアの高さ、技術水準などを
分析した。 そして最後は利益成長の持続性。 サー・ジョンは会社訪問で必ず長期計
画の有無と、今後の年平均利益成長率予想を経営者に質問した。
その結果日本株ではパナソニック(松下電器産業)と日産自動車、日立製作所、薬品
株の大手イトーヨーカ堂などが選ばれた。
サー・ジョンの口癖は「4年間あればモノごとは変わる」。 投資すべき対象じゃな
いとイメージの悪かった市場や銘柄も、4年間成績がよければ認識が変わる。 割安だ
った株価は、その間の利益成長と株価収益率の上昇で何倍にもなる。 対日投資の開始
時に1ドル360円だった為替レートは、1971年から円高が続いたので、サー・ジョンの対
日投資は大きく報われた。 20年以上、年率15%以上を継続。 その名は全米中に広ま
った。 この記録は1980年代にジョージ・ソロス氏がベア・トレード(売り買い併用)
などへのヘッジファンド手法で破られる。 しかし、現在のウオーレン・バフェット氏
を上回る人気を得た。
サー・ジョンは宗教のノーベル賞といわれるテンプルトン賞を創設、マザー・テレサ
などが受賞した。 日本では鹿野日敬氏が1979年に受賞し、サー・ジョンは来日、挨拶
は故福田赳夫氏が行った。 「もう日本へは投資しないのか」と聞くともっと別の地域
に注力しているとの返事。 アルゼンチン株で4ヶ月の間に70%上昇したことが評判に
なったのは後のことだ。
1990年以降、日本株より中国株、ブラジル株にサー・ジョンは注目していた。 理由
はかつての日本と同じく投資の世界での評価が実体より低いこと。 現在もてはやされ
ているBRICS人気を先取りしていたことになる。
もしサー・ジョン・テンプルトンが健在だったら現在の日本株をどう見るだろうか。
最も重視していた株価純資産比率が10月上旬現在1・0倍と記録的な低水準になり、解
散価値を下回った銘柄が東証一部上場銘柄の半分近くある状況。 恐らく「戦争中に私
が行った投資のときに近い」と考えているのではないだろうか。
そういえばサー・ジョンの名言の一つが「最も高くつく言葉が“今回は違う”である」。
やれ100年に一度とか米国の没落とか、こんなに大騒ぎになると、1987年のブラッ
ク。マンデーの当時が思い起こされる。 あの時も前代未聞とパニックって慌てふため
いた向きがソンをした。 金融市場は10年に一度大地震が起きる。 今回は違うとの思
い込みが正しいかどうか。 あと1、2年もすれば答えは見つかる。
協栄物産ゴールド「四季報」2008年秋号
米国発金融危機と金価格
私の協栄物産さんとのお付き合いは長い。 2006年初春に経済レポート『ゴール
ド四季報』を創刊したが、その第一号のメインに金価格の見通しを書かせていただいた。
当時の金価格は1トロイオンス700ドルを越えたところで「もうそろそろ上げは終
わり」という声があった。 しかし私は@とりあえず800ドルA次の目標1000ド
ルB1400ドルと述べた。 第二目標まで達成したのはご存知の通りで、私は第三目
標のオンス1400ドルも固いと考えている。 この目標は1980年の高値887・5ドル
から20年間下げて253ドル。 その下げ幅の倍返しというチャートから。
本当は1521ドルだが少々割り引いた。(その後、インフレの再燃を条件に長期で1900
ドルという目標を付け加えた。)
この強気は当時誰も言っていなかった。 専門家であればあるほど否定的だったと思う。
強気の理由は次のとおり。
まず資源インフレへの注目。 当時まだ原油はバーレル40ドル程度からの上昇過程
だったが、私は100ドル以上と読んで「原油価格の10倍が金価格」という経験則か
ら強気を述べた。 私の意見と同じの米国有名投資家ジム・ロジャース氏の見方もご紹
介した。 今は誰も知っている名前だが、まだ当時はポピュラーではなかった。
第二は金ETFの登場。 先物市場の規模に比べて、世界の機関投資家、特に年金基
金の規模はケタ違いに大きい。 しかし資源インフレから時代の変化を読み取った米国
大手年金、たとえばカルパース(カリフォルニア州職員年金)などはETFを通じて商
品投資を開始した。 金が金融商品になったことの意義は大きい。 年金の資金はイキ
が長いのでいったん買いに入ると売りが出るまで10年はかかる。 その間の市場需給
はタイトになり、価格は長期上げ歩調になりやすい。
第三の、そして最大の金価格強気の背景は「金価格は米国の“不快指数”だ」という
ことである。
不快指数とはお天気の湿度と温度を掛け合わせたものだが、米国の政治、経済にとっ
て思わしくない事態が起きると金価格は上昇する。
たとえば1980年代のオンス887・5ドル。 これに先立って71年にニクソン・ショック
があり、ドルは対円だと360円から308円に切り下げになり、その後変
動制になった。 また73年にはオイルショックがあり、世界中がインフレに突入した。
今回はたとえば2001年9月11日のあの同時多発テロである。 当時私はTVで
こう述べた。 「対テロ戦争はきりがない。 いつ終わるか分からない戦争はカネがか
かる。 ドル安に流れは変わる」。 またその後の米国のITバブルの崩壊も「不快指
数」の上昇が金価格につながったーと、ここまで申し上げてくればお分かりだろう。
今世界を揺るがしている米国発金融危機こそ、いまや最大の米国にとっての不快指数に
他ならない。
米国発金融危機が金の上げ材料
お断りしておくが、私は「ドルが紙くずになり金が復権する」という話は信用してい
ない。 世界の外貨準備は4兆4000億ドルもあり、うち米ドルが62・5%、ユー
ロは27・0%、ポンド4・7%、円3・4%。 米ドルが使えなくなるはずがない。
ユーロでもバンカーズ・アクセプタンスという銀行間の決済市場で4%、ドルが96%
を占める。 金がこの代わりをやったらオンス当たり何万ドルになるだろう。
また米国の膨大な経常赤字を外国からの投資によってまかなうという経済構造が、い
つまで維持できるか、出来るはずがないという論者の意見も私は信用しない。
私は巨大な金額を運用するのに米国債券市場を除外できないことを知っている。 世
界中どこを探してもこの市場ほどの流動性、効率性透明性で米国国債市場にかなわない。
だから基軸通貨としてのドルの地位は代わらないし、現に金融危機が起きても外国か
ら米国へのドル還流は衰えていない。
まあそうは言っても、金融危機で新興国は手持ちのドルを売って自国の手許の流動性
を維持しなくてはならない。 また米国側もドル安の要因を長期で抱えてしまった。
それは金融不安解消のため、今回の政府の不良資産買い取り7000億ドル、それに
恐らく同じ分は最低米国債発行が必要なことである。 ドル価値は少なくとも2年から
3年は安くなると見るべきだ。
その場合、金価格は上昇基調を維持する。 だからこそ先般の米国下院の法案否決で
世界中が揺れたとき、連日金ETFに100トンを越える大量買いが入った。 「金資
産の安定性に注目」の買いと外電は伝えたが、それは当然。 当分金融騒動の後遺症が
あるうちは、金価格は堅調と見るべきだ。
では金価格に問題点、弱味はないか。
まず新興国の手持ちが以下の中の金保有分が苦し紛れで売却される可能性。 第二が
原油価格でたとえばバーレル80ドル以下というように、金との比価の関係で大幅安に
なるかもしれないこと。 そして第三は世界的株安が実体経済の悪化を生み、結果とし
てデフレ・ムードが再燃することである。 言い換えると金の個人投資家の購買意欲の
減退である。
世界で今起こっていること
この三つの材料が現実化する不安はあるか。 全くないとはいわないが、可能性は極
めて少ないと思う。 折に触れて金価格安のアト講釈に使われるかもしれないが。
やはり私はこの騒ぎが収まったら、世界中インフレかそれに近い状況になると思う。
考えてみればいい。 不況を恐れて米FRBはもちろん、日銀もECBも流動性をメ
チャクチャに供給した。 具体的な数字ではまだ分からないが何兆ドルという規模だ。
恐慌不安ですくんでし合っている状況がそのうち終わる。 そうなると次第に経済活
動は動き出す。
もともと金融破たんが実体経済に与える影響はマスコミが騒ぐほど大きくない。 大
和総研原田泰チーフエコノミストによると「北海道拓殖銀行破綻でも北海道の成長率は
日本全国の成長率より高かった」。 米国は「金融恐慌」と騒がなければ公的資金の動
員は決められなかったし、日本でも同じだった。
話を戻そう。 私は協栄物産2008年春号で前FRB議長グリーンスパン氏との質
疑応答を引用して「時代の変化」を確認した。 ヘッジファンドの年1回総会でのこと
である。
私の質問「これまで米国も世界も、IT革命や中国の安い人件費のおかげでデイスイ
ンフレと高成長をエンジョイできた。 しかし時代は変わりつつある。 どう見ている
か?」
グリーンスパン氏「その質問への答えはイエスだ。 IT革命の技術効果は薄れてい
るし中国からの対米輸出価格は上昇中。 人民元高や原油価格だか、それにドル安もデ
イスインフレからゆっくりとインフレへの転換を促進することになろう」。
この会話を踏まえて私は対ドル円レートを「110円から100円」とそれまでの1
25円から115円のゾーンから修正した。 これが的中したのはご存知の通り。 し
かし私は今回の騒ぎもあるし、恐らくこの号が出た直後の米国大統領選挙で米民主党の
オバマ候補が当選すると1ドル90円から80円台までの円高がありうると考える。
民主党の背後には米国自動車労連(UAW)などの大手労組、それも日本にやられて
いる自動車、鉄鋼などが最大の支持団体だ。 どうしても対円ではドル安、自由貿易よ
りいろんな形での保護貿易を取りやすい。 クリントン政権時の日本叩きを思い出すと
いい。 だから円高。
うんと長期では円安、だから金。
私は金をすすめる方に、長期で現物投資がいいこと。 年配の方には特にお子さんや
お孫さんへ残される遺産に金を財産の一定割合(たとえば5%)入れておくべきですよ、
と申し上げている。
理由は? 人口減少である。 こればかりは間違いない。
現在この日本列島に1億600万人の人口がいる。 2008年から始まっている人
口減少は年々ひどくなり、2025〜30年ごろには1億1000万人台になり、2040
〜50年ごろに1億人。
考えてみたらいい。 人口2600万人減少というと東京都が1250万人、それに
神奈川県と埼玉県を合わせた分より少し下。 でも、この三つの都道府県でヒトが一人
もいなくなる。 勿論都会への集中は止むことなく、現実に無人になるのは地方だろうが。
人口が減ると労働人口、働き手が減少する。 よほど効率の高いビジネスをしないと
国としての収入が減る。 どうしても円レートは円安になる。 いまの貿易数詞の黒字
が減る分は、海外子会社からの配当金などの送金では補いきれないからだ。
私の見るところドル円では160−170円。 堺屋太一さんは小説の中で「1ドル
250円、1人民元50円」と書いている(「平成30年」朝日文庫)。 当然為替や
すはインフレ率の上昇につながる。 だから、金。
商品先物業界の成長も
去る9月、米国先物取引行協会(FIA)の会議が東京で開かれた。 世界中から先
物取引業者や取引所幹部が参加し、世界のこの世界での活況振りが報告された。 金に
は直接関係ないが、商品先物業界が再生することは、投資家にとっていいことだ。
ここ4年間先もん取引での日本は世界の中の地位が下降している。 これは業界の体
質改善が進んでいるためである。 再生前の生みの苦しみ、といえるだろう。 古い体
質の業者や外務員は業界を去り、委託証拠金も底を打った。 今後は取引所のシステム
導入、株式会社化でまず近代化というか世界の流れに追いつく。 CO2排出権取引な
どを含め、商品取引は前進を始める。 つれて商品先物取引業界の評価が高まり、資産
アドバイザーとして認知される意義は大きい。 私はその日が近いことを願って止まない。
エース交易「情報交差点」 2008年7月号
今後の株式、為替、国際商品市場をこう見る
2007年後半から世界中が振り回されたサブプライム騒動も、ようやく峠を越えた。
株価は3月にNYダウ1万1740ドル、日経平均は1万1691円の底値をつけ
たが、その後ほぼ20%上昇。 当時の不安感は薄れた。 対ドル円為替レートも3月
には瞬間95円までドル安円高が進んだが、その後100円トビ台にまで戻った。
「質への逃避」で債券に向かっていた機関投資家の資金は株式と原油に転じている。
ポールソン財務長官も最近「最悪の状態は回避され、ヤマは過ぎた」と発言している。
この状況を踏まえて、サブプライム騒動とは何だったのか、を回顧しておくことは無
駄ではあるまい。
住宅価格の下落で質の悪い住宅ローンが不良資産化するーというのがサブプライム騒
動の発端。 昨年7月にはバーナンキ議長の推定では500〜1000億ドルとされて
いた。 ところが現実には1兆ドルというのが08年3月以降定着している。 サブプ
ライム問題を住宅ローンの延滞率から計算するとたいした損失額ではないのだが、サブ
プライムを材料に発行されているCDOという証券の流通市場全体がマヒしてしまった
ので、損失規模が拡大したのである。
1兆ドル、100兆円というと日本のバブル崩壊後の日本の不良債権額と同じだが、
米国は日本の前例をよく研究している。 対策は早く、FRBは7回の政策金利引き下
げ、政府は1680億ドルの減税をわずか3週間で決めた。 また3月には証券会社ベ
アスターンズの買収を決めたJPモルガンに対しFRBは緊急融資を行うなど、非常事
態に対応した特例的な金融政策を決めた。 決め手である公的資金投入はまだだが、い
わば搦め手 から投入して代行させた形である。
こうして金融危機は収まりつつあるのだが、問題は実体経済にこの危機が波及し、
「戦後最大の不況」になるかどうか、である。 ごくごく軽い景気減速に止まり、セン
セーショナルに騒がれた世界長期不況にならないと考える。 ドル価値も暴落というに
はほど遠い。 米FRB統計で見ると外国中央銀行はよく米国債買いは、ずっと前年比
20%台の増加を続けているからだ。 ドルへの信認は揺らいでいない。
さて、以上の見方を前提に、これからどうなるか。
米国経済の成長が減速することは間違いない。 現に1〜3月期の0・6%成長はド
ル安による輸出の寄与分が1%あったのに助けられた。(著名エコノミストのエド・ハ
イマン三は、1〜3月期の成長は1・5%あったと主張しているが。) しかし年後半
には昨年後半1%成長を押し下げていた住宅のマイナスがなくなり、減税の寄与が出て
くる。 雇用の軟調、ガソリン価格減少、さらには住宅の逆資産効果などがあっても1・5%
から2%の成長が最もありうるシナリオだ。
マイナス成長つまりリセッションならともかく、この程度の減速なら、世界経済の成
長は高水準つまり4%台を維持する。 既に昨年はIMFの推計では4・9%の高成長
だったが、うち米国は0.5%の寄与で、BRICSを中心とした新興国がほとんどを
占めた。 いまや世界は、一人の主役が成長を支えていた時代から、数多くの新興国が
支える時代に入っている。
中国にしてもロシアにしてもインドにしても、一人当たりGDPは日本の昭和30年
代の段階だ。 急速な成長が賃金上昇を支え、耐久消費財の普及が進展、電力や水道、
道路などの社会インフラ投資が盛ん。 経済全体としてはインフレが進展するが、「よ
いインフレ」で逆に成長を助ける。 勿論先進国にとってはインフレは「悪いインフレ」
で高金利をもたらすのでマイナスだが。
新興国の成長が「離陸」するキッカケは、米国を中心とした先進国への輸出、それに
資源国たとえばロシアや豪州、カナダなどは価格上昇の恩恵で外貨準備残が増大し、こ
れがマネーサプライの高水準の増加を支えている。
そこへ米国、欧州を中心とした先進国が不況対策で低金利による潤沢な資金供給を行
っている。 過剰な資金、金供給プラス旺盛な需要イコール高度成長インフレ含み、と
いうのは経済の鉄則だ。最近月の世界のM2は13%も伸びている。
サブプライム騒ぎが一段落したあとは、グローバルな好況、又はバブル或いはその両
方だろう。
チャートは世界の鉱工業生産指数を見たもの。 3月まで、一体サブプライムによる
金融市場の混乱なんてどこにあるの?といった形だ。
いやこれからが問題だ、という懐疑派の向きには、鉱工業生産の先行指標である鉄ス
クラップ価格を示しておこう(チャート参照)。
これは前FRB議長グリーンスパン氏の愛用している指標。 鉄鋼は鉱工業生産の中
で最重要製品だが、生産統計発表は2〜3ヶ月遅れる。 グリーンスパン氏は鉄鋼業の
アナリスト経験があるので、一般のエコノミストのように何ヶ月も前の統計を見て、そ
の動向が現在も続いているように判断するのは間違いが多いと考えた。 鉄鋼会社は増
産をするときは鉄鉱石や原料炭と一緒に使われる原材料の鉄スクラップを増産直前に購
入量を増やす。 この価格を見ていると鉄鋼の増産があるかどうかすぐ分かる。
ところで鉄スクラップでの現在の市況だがトン6万円を越えた。 昨年後半は4万円
である。 世界のモノの経済を鉄鋼ひとつで判断するのは早計だが、鉄スクラップは米
国でも中国でも6万数千円である。 本当に世界の景気が悪くなるのならこんなに高い
価格になるわけがない。
もうひとつ。 世界の景気がよくなることをはっきりと示しているのが海運業である。
世界の景気がいい時には荷動きまで活発化するので、ドライカーゴといわれる貨物
の運送料が上昇する。 バルチック指数が一般的に使われているが、1月ごろの5800
ポイントから、5月下旬には1万1400ポイントへほぼ倍になった。 私の世界好況、
場合によってはバブル、という説をウラ付けるものだ。
では、このシナリオをブチ壊す不安材料はないのだろうか、ある。
たとえば中国。 北京五輪が終わった後ガタが来るのでは、とか、四川省の大地震の
悪影響は、という具合だ。 四川省のほうは中国全体の経済への比重は4%で大したこ
とはないし、北京政府は道路、鉄道など社会的インフラを猛烈に拡大する。 何よりも
私がうらやましく思うのは、確認埋蔵量10億トン以上という巨大な海底油田が渤海で
最近発見されたことだ。 ツキがある。 やはり歴史的興隆期なのだろう。 高度成長
は維持できるだろうし、「色の白いは七難かくす」というのに似て、高い成長は難点を
消してしまう。
中国と並んで世界の注目を集めている原油の高価格だが、市場では「投機資金のせい
でいずれ急落」と冷ややかだ。 しかし中東の新聞報道を読んでいると、現在ヒズボラ
などのイスラム教シーア派民兵がイランからの援助を受けて、イスラエルやイスラム教
スンニ派との対立がますます激化している。 中東大戦争、それも宗派がらみの出口の
見えない戦いの恐怖が背景にある。 なかなか大幅下落という事態にならないのではな
いか。 これも私の世界バブル説のひとつの理由だ。
結論。 BRICS中心の世界経済の成長は当分続く。 そして大事なことは、日本
がその時代環境の中で十分な国際競争力をバックに「黄金時代」が続くということだ。
日本の「最後の黄金時代」
2002年1月から丸6年半、80ヶ月に近い景気上昇が続いている。 かつてのデフレ
時代の1%内外から2%に上昇しただけだが、2%成長の6割は輸出と輸出産業の
設備投資である。 かつては日本の輸出は自動車と電機の二枚カンバンだったが、これ
に重厚長大産業が加わった。 鉄鋼、プラント、造船、建設機械、工作機械など、昭和
30,40年代の日本の高度成長を支えた産業群である。
これらは高度成長期が終わった後永い間不振が続いていたが、見事に息を吹き返した。
中国など新興国の経済が急成長をはじめ、これらの市場で日本の重厚長大産業の製
品が必要となった。 好況の始めには「人件費が日本の二十分の一と安い中国などに日
本の産業界は根こそぎやられてしまうのでは」と懸念されていた。 しかしその懸念は
無用だった。 日本の技術優位性から来る価格支配力は大きく、中国を含めてほとんど
すべての国で貿易収支は黒字。 しかもグローバルな生産性が確立された。 具体的に
は日本国内で高度な部品を作り中国などでアッセンブリーして、組み立て加工された完
成品を欧米などに販売するという形である。 中国の組み立て加工は子会社なので日本
の親会社は子会社からの配当金や特許料収入を取れる。
実は貿易黒字より現在の日本では配当や特許収入のほうが多い。 これは実は大変な
ことであって産業革命を果たした英国とか第二次大戦後の米国とか、世界の工場となり
高度な技術を誇っていた国家でも、巨大貿易黒字と同時に配当収入が多いということに
はならなかった。 産業史上空前の素晴らしい現象が起きているのが現在の日本なので
ある。 私は黄金時代と呼んでいいと思う。
現在の日本では、政治のねじれ、官僚支配、経済も太田大臣によると「もはや一流と
いえない」。 いずれ少子化と老齢化で先細りというような暗い見方が一般的だ。 し
かし現実には日本は素晴らしい力を持っている。
少々ワキ道にそれるが、最近の日本は世界で「クール」つまり「カッコいい」「好感
がもてる」と評価が高い。 そして日本文化の輸出が伸びている。
日本の漫画は世界市場の60%を占め、日本製のTVアニメの対米輸出額は鉄鋼の輸
出額を上回った。 日本の対米輸出は2006年までの10年間で1・7倍となったが、
漫画、アニメ、ファッション、映画などの「文化商品」の対米輸出は三倍以上伸びた。
製造業の強みにプラスして文化の側面が加わったわけだ。
実は話のワキ道ついでに、外国からの訪日観光客が急増していることも挙げておこう。
昨年の訪日外国人観光客は835万人、14%増加した。 うち7割は太平洋地域
で韓国、台湾、中国、それに豪州である。 2000年に対し円レートが2007年に
はこれらの国の通貨に対し切り下がり、割安になったことが大きい。 豪ドルは58%、
韓国ウオンは30%、人民元19%、円に対し切りあがった。 別表の通り観光客来
日の経済波及効果は大きい。
株式、為替の見通し
さて、こうした大づかみな世界と日本の経済を前提に、私の考えを述べよう。
まず株価。 日経平均は3月17日の1万1690が大底。 これから、5年かけて
2万円以上を目指す上昇相場。 来年3月期の会社予想の5・8%減益はいろんな事情
で増額修正必至とみる。
為替。 11月4日の米国の大統領選で民主党オバマ候補が勝つか共和党マケイン候
補が勝つかで円ドル関係は変わる。 米民主党は基本的に大手労組の味方で保護主義ド
ル安政策だということを忘れてはならない。 かつてのクリントン政権時に円高政策の
コンダクター役を果たしていたエコノミストのフレッド・バーグステン氏は円レート80円
から90円を妥当、としている。 95年の1ドル80円の超円高時には同氏の目
標値をヘッジファンドが為替市場の仕掛けで次々と達成していた。 日本にとって苦い
経験の張本人が言っているし、シカゴの為替市場ではこのところヘッジファンドが先物
で円買いドル売りを増やしている。 11月の選挙結果次第で仕掛け再開、という事態
もあろう。 また無効の言い値だからスワ80円台と心配することも必要なかろうが。
共和党特にマケイン候補は親日だし、「貿易収支の赤字端伊部国際投資で還流して
くれればいい」というブッシュ政権の為替政策が踏襲されるから、上限125円下限115円
のゾーンに戻ることが期待される。
ただし、私は20年か30年先の円レートは100円とか90円とかは「そんな時代
があったの?」というくらい円安になっているだろうと考えている。
既に成長率の高い新興国や資源国の通貨に対しここ数年間でも円は安くなった。
それでも強い産業界の力で極端な円安は防止されているのだが、人口の減少の幅が大き
くなってくる。 2030年ごろには円ドル相場はうんと安くなっているのではないか。
ある試算では1ドル160円になっていることは申し上げておこう。
原油価格と金
最後は商品。 まず原油だが中東の地政学的要因が容易でないことは前記した。
米国人はマッチョ主義で57%の国民がイランの核施設を爆撃すべきだと考えている。
万一そうなると、専門家はバーレル265ドルに跳ね上がると見ている。
中東はひとまずおいて、やはり中国が引き起こしつつある資源獲得戦争の激化が原
油高の背景にある。
現在の世界の石油消費は一日9000万バーレル。 うち米国が2000万、中国
は600万消費しているが、米国は自国内で600万、中国も300万生産している。
しかし2020年には一日1億2000万バーレルに増加すると予想されている。
増加分3000万バーレルのうち中国、インド、東南アジアが1800万を占める
ことは確実だ。 これらの新興国は自国の成長のために石油利権を獲得したので、他国
に分配するわけではない。
これまで何回も叫ばれてきた石油危機は、現実には発生しなかった。 メジャーオイ
ルが世界中を探査し発掘し販売してきたからだ。 しかし今回の資源獲得戦争は違う。
たとえば中国は日産600万バーレルのベネズエラ原油を独占しようとしている。
パイプラインをコロンビアを越えて太平洋まで運びタンカーで上海へ。 米国の神経
を逆なでされている。
これに加えてロシアも。 同国は一日1100万バーレルとサウジアラビアとほぼ
同量の原油を発掘しているが、米国には売らずほとんど欧州に販売している。 恐らく
中ロは米国の覇権をひっくり返すためにウラで連携しているのだろう。 だから中東の
動向が気になる。 渤海の巨大原油は温家宝首相は「次世代のために保有しておく可能
性」について触れているので、獲得戦争が依然続くからだ。 結論。 市場の期待と逆
に高水準の価格は持続性がある。
次に金。 これも投機とされることが多いが、とんでもない。 ETFの登場で、
金への投資の性格が変わったことがワカっていない。 欧米の機関投資家はETFによ
って巨額の投資が可能になった。 こうした年金による買いは10年単位の長期投資で
2倍や3倍になった程度で売却することはない。 私はまあオンス2000ドルを越え
たら売るところもあるいは出るかと思い、1800ドルを目標にしている。 香港の著
明投資家マーク・ファーバー氏は「80年代のオンス850ドルはその後のインフレを
考えると3000ドル」という目標値。 ご参考までに。
(表1)世界のモノの経済は好調(出所:スフィンクス)

(表2)出所:日本鉄源協会

(表3)出所:JNTO、住商総研ワールド・フォーカス(2008/4)

(表4)日本の人口増加率と為替

ニューリーダー2008年新年号
2008年は大型上昇相場
新しい2008年は、今後3,4年続く大型上昇相場の始めの年となろう。 私の目標値は
2011年か2012年に日経平均2万8000円から3万円である。
思い起こすと2003年、日経平均7600円台の底値の年に私は本誌に寄稿して「長期では
日経平均3万円も夢ではない」と主張した。
その後2007年2月には1万8300円をつけ、4年弱上昇の整理期間10ヶ月を経て日経平均
は24%ダウンした。 これで10年を超える長期上昇の第一波動は終わりで、この号が刊
行される直後の2月近辺から上昇第二波の開始となる。
第一波の上昇幅は、1万7000円。 第二波の上げ幅は第一波よりずっと大きいから、
まあ1万4000円上昇として2万8000円。 ここで3万円も夢でなくなる。
「サブプライム問題は世界不況につながらないか」とご質問が出そうだが、心配要ら
ない。 米国政府の対策は日本の先例を見て手早いし、銀行の貸し渋り、貸しはがしも
アブダビのシテイバンクへの出資やシテイ=バンカメの超大型合併などで解消へ。 そ
れでもまだ問題の根は残るが、FRBの金利引き下げとドル安とで、米国経済は従来の
デイスインフレからジワリとインフレに向かう。 かつてITバブルが飛んだ後住宅バ
ブルで難問を消したように。 今回も米国インフレでサブプライム問題を最終的にチャ
ラにする作戦だろう。
世界経済は米国の景気減速で不況にならないか? ならない。 かつて米国が唯一国
で世界経済を支えていたが、いまやBRICSや中東産油国、アジア諸国などの新興国
が5%台の世界好況を支えているからである。 別の表現をとると、軍事力を別にすると
米国は「普通の国」になってしまったのである。
それでも米国の貿易赤字によるドルのバラまきが世界の成功を支えていたのでは?
その見方も違う。 世界の輸入に占める米国のシェアは12%程度、伸び率を掛けた輸
入増加の寄与率では中国のほうがいまやずっと大きいのである。
米国の成長率が1%ダウンしても、中国は現在の11・5%成長が10%になる程度。 イン
ドもロシアも8~9%にカンケイない。
新興国家の近代化が日本を潤す
国民一人当たりGDPを日本の巡ってきたとおりに当てはめてみると、インドは昭和
29年、中国とブラジルは昭和38,9年当時の日本のレベルである。 ロシアは昭和43年。
これらの新興国家群はいろいろな背景で一斉に経済的に「離陸(テイク・オフ)」した。
日本の昭和3,40年代のような高度成長が続く。 目標は米国や日本のような高
度文明で、あと20年くらい高成長が続く。
当然、工業化と同時にインフラの充実が始まる。 どの国もかつての日本と同じよう
に鉄鋼の国産化に始まり、工業用水、生活用水の供給、電力の供給、道路建設、港湾の
近代化、空港の拡充などを行われなくてはならない。 日本からの輸出品がどの国でも
珍重され、関連産業は繁盛。 これが日本の長期景気を支えている。 日本の景気は輸
出主導なのである。
最近日本貿易会は貿易動向を発表した。 今回の景気上昇が始まったのは2002年1月。
そこで2001年の数字と2007年と比較してみる。
輸出は48兆6000億円から76%増の85兆7000億円に。 経常収支黒字は11兆9000億円の
2・2倍の25兆8000億円に伸びている。 この輸出の伸びが景気を支えている。
ついでに2008年も、原油など原材料価格の上層はあるものの、輸出は10・6%増の91兆
円、輸入はわずか1%増の74兆9000億円に止まり、経常収支黒字は31兆3000億円で21%増
に達する見込みだ。
長い間、日本の輸出は自動車と電機が2本柱だった。 しかしここ5,6年の間に第三
の主役が出てきた。 昭和3,40年代の日本の高度成長を支えた「重厚長大産業」である。
具体的には鉄鋼、化学などの資材と、造船、プラント、建設機械などの重機械、それ
に工作機械、ロボットなどの一般機械類である。 これらはすべて昭和3,4年代の花形
産業だったがその後泣かず飛ばず。 これらがすべて息を吹き返した。 1~10月の輸出
実績では、中東産油国やロシアなどへ60~70%もの高い伸び率だというと、好況振りがお
分かりいただけよう。
自動車、電機を含めこれら輸出急伸企業は大企業が多い。 だから東証上場の2423社
の決算は6期連続して経常ベースで最高利益を更新している。 この利益増は、ドル安
=円高でも、また原材料高でも終わりにならない。 世界景気の好調に加え、団塊の世
代退職で賃金コスト負担が軽減されるためだ。 また不況期にリストラに勤めた結果、
労働生産性と設備生産性が製造業で急向上しているのも、好調持続の背景である。
注目すべきことがある。 第一にあらゆる製品、部品や素材を含めて日本が世界に供
給を止めると世界の動きがとれない製品が何百とあること。 第二はその技術優位が今
後10年以上も崩れそうにないこと。 そして第三がグローバルに市場を広げている結果、
海外生産子会社からの配当収入や特許料収入つまり所得収支黒字が、貿易収支黒字を
上回っていることだ。
この第三の点はもっと注目されていい。 19世紀の世界の工場英国でも、第二次大戦
直後の米国でも、大幅な貿易収支と所得収支黒字が両立したことはない。 日本はいま
や世界史に例のない「世界好況の最大の受益者」になっているのである。 私が「黄金
時代が来た」と考える理由だ。
株価は世界一割安
私が長期上昇相場を予想する理由は、企業収益の伸びと日本がとっている低金利とが、
日本の株価を世界一割安にしている事実である。
世界のファンドマネジャーが株価水準を判定する手法がある。 「イールド・スプレッド」と
呼ばれるもので、下は米連銀が開発したモデルである。
使う指標は二つ。 長期金利つまり10年もの国債金利と株式益回りである。 益回り
というと聴きなれないが一株当たり利益を株価で割ったもの。 株価収益率(PER)
の逆数である。 この原稿を書いている2007年12月不中旬現在、長期金利は1・5%弱、
日経平均の益回り(2,008年3月期予想)は5・6%であり、差し引くとマイナス4・1%であ
る。 これだけ低いイールド・スプレッドは日本の株式市場の歴史でも珍しいし、世界
ではもちろんない。
にもかかわらず、この夏から秋に日本の株価が下落したのは、市場売買量の60%を占
める外国人機関投資家が買い方針から売りに転じたためである。 そのきっかけは、昨
年7月の参院選だった。
メリル・リンチ社が毎月中旬に世界のファンドマネジャー1000人あまりに行うアンケ
ート調査がある。 「日本株を買いたい」比率マイナス「日本株を売りたい」比率を引
いた数字で示そう。 7月はこれが+23%で、世界の市場で一番高かった。
ところがご存知の通りの選挙結果で8月は+7%に激減、9月は4年半ぶりでマイナス4%
に転落した。 10,11月はマイナス8%とマイナス幅拡大。 売りの理由は「政治的に安
定しない国の株は買えない。」
現に米、英国などのヘッジファンドを含む機関投資家は連月何兆円もの売りを行った。
米国株がサブプライム問題で下落すると日本株は下がり、逆に米国株高で朝方上昇
しても外国からの売り注文を手持ちしている外資系証券会社からの売りで引け値は小幅
高に止まったり安かったりした。
ところが12月には行って、前途の見通しは一挙に開けた。 全く新しい外国人投資の
登場である。
政府系ファンドの買い期待
国富ファンドとも政府系ファンドとも訳されている「ソブリン・ウエルス・ファンド
がその新しい買い手である。
大別すると@オイル・資源マネー系A外貨準備高系の二つある。
まずオイルマネーはOPECの生産量は一日当たり3062万バレルで、原油価格をバレ
ル70ドル、採掘・維持コストを20ドル(かなり高めだが)と見るとバレル50ドルで1・
15億ドル。 1年間で5475億ドル(6兆2250億円)に達する。
一方外貨準備系の代表の中国は最近月で1兆5000億ドル(16兆5000億円)。
世界の外貨準備合計は5兆9000億ドル(649兆円)。
これらの従来の投資は米国国際投資だったが、ドルの下落もあり通貨分散が積極的に
開始されようとしている。 また債券中心から株式、不動産を含めて多様化する方向に
ある。 既に報道されているものだけで次の通り。
@ アブダビ投資マネーが米シテイバンクの発行済み株の4・9%分を75億ドルで購入。
A ドバイ・インターナショナル・キャピタルがソニー株を相当量購入。
B 中国チャイナ・イベントが日本株を含めて国際分散投資を計画。
C ロシアのSWF〈具体名は未定〉が明年2月から2兆円で投資を開始。
これらは恐らく債券60%、株式40%のバランス方で運用され、世界の債券・株式市
場の時価総額比重に応じて運用されるパッシブ型の投資となろう。 投資金融が巨大で
ありリスクを日空するにはこの方法が一番いい。
となると株式投資の分は8%。 当初は少しずつ投資されようが、恐らく月間数兆円
の買いが入る。
従来からのヘッジファンドなどのプロ外国人投資は買わなくても、こうして「捨てる
神あれば拾う神あり」である。 割安に放置されていた日本株は、前述の重厚長大産業
と同じく、一気に息を吹き返すと期待しているのである。
協栄物産「四季報」 2008年新春号
2008年の金価格はこう動く
私は2006年5月協栄物産さんから、この四季報創刊に当たって金価格の動向予測
をテーマに原稿を書いてほしいと依頼された。
当時の金価格は高値オンス732ドルをつけたあとで小幅下落中、弱気の向きが多か
ったが、私は次の目標をかかげた。
第一目標がオンス800ドル、第二は大台1000ドル、そして第三目標は1400
ドル。 この目標は、1980年の高値から安値253ドルの下げ幅の倍返し1521
ドルを少々割り引いたメノコ算として注目したものだ。 しかし、当時は超強気として
注目された。
その後、第一目標は達成、第二目標の1000ドルもみんなが言い出して少しもいま
どき珍しいものではなくなった。 この情勢変化で私は1400ドルの目標に加えて第
四の「オンス1900ドル」という、少々自分でも強気な目標値を結論としようと思う。
なぜか。 それには2008年以降の日本を含めた世界経済の大きな変化を理解し
なくてはなるまい。
米国住宅不況の影響は大
8月の米国株急落以降、誰でも知っているサブプライム問題は、11月現在株価への
反応は一見したところヤマを越えた感がある。
しかしこの問題も軽視できない。 間接的な悪影響が、未確認ではあるが、相当に巨
大だからだ。
最近のある大手米国金融機関の社内レポートによると、住宅市場問題に関連した直接
損失は4000億ドル。 しかし損失をこうむった銀行、ヘッジファンドは通常高いレ
バレッジをかけている。 デリバテイブを使って調達資金の10倍ぐらいの金額を投資
しているーということだ。
ヘッジファンドの場合は損失計上になるが、銀行の場合は融資削減を強いられる。
このレポートによると「少なくとも2兆ドルの融資削減という影響」が十分ありうると
試算されている。
私はこれでもまだ甘すぎると考えている。
米FRBは銀行に大量の資金を融資して、流動性不足に陥らないように努めている。
しかし融資先の経営難が起きるのは、90年代後半の金融不況時の日本と同じだ。
景気への悪影響は避けられない。 現に中小型株の多い米ラッセル2000指数は、も
う昨年比でマイナスに沈んでいる。
まずいことにサブプライム・ローンは2006年から1年半の間に急増しており、借り手
の金利負担増加→不良債権化は2008,9年以降に顕在化する。 すでに2回計
0・75%政策金利は下げられたが、あだ足りない。 過去の例で言うとインフレ率を
引いた実質金利ゼロにするまで、FRBは金利を引き下げる。 インフレ率3・5%と
するとあと0・25%が少なくとも3回、政策金利は3・75%まで引き下げとなろう。
1年間は続くまいが、9ヶ月ぐらいは金利引き下げが繰り返され、その間はドル安が
続くことになる。
この間、かつてのように「米国がクシャミすれば世界は風邪を引く」状態と違い、B
RICSやVESTAなどの新興国経済が高成長を遂げている。 世界経済は2008
年も4%台後半のまずまず高水準の成長が続く。 つまり米国の景気スローダウンをヨ
ソに、近代化で経済的離陸の始まった世界景気は終わらないのである。
デイスインフレ時代の終わり
私は11月早々、NYとバミューダに行った。 米機関投資家やエコノミスト訪問、
それにヘッジファンドのセミナー出席のためである。 このセミナーでは前FRB議長
グリーンスパン氏が質問に答える形で1時間話してくれるのが魅力で出席した。 例に
よって日本人というかアジア系は私一人。 米国の年金、大学や個人基金の出資側、フ
ァンドマネジャーたちの出席者はアメリカ人ばかりだった。
私の質問を司会者が冒頭に取り上げてくれた。 「これまで米国も世界も、IT革命
や主に中国などの安い人件費のおかげで、デイスインフレと高成長をエンジョイできた
が、時代は変わっていると、あなたは認識しているか?」
たいがいゴチャゴチャと分からないことをいうのだろうと考えていたが、とんでもな
い。 グリーンスパン氏の回答は「イエス」。 理由は次の通り。
技術革新効果が薄れている。 中国からの対米輸出価格は上昇中。 人民元高、ドル
安で米国にとっての輸入物価上昇は加速化しよう。 ドル安もデイスインフレから、ジ
ワリとしたインフレの背景。
つまり長期にわたるデイスインフレが転機を迎えているーという認識を示したのである。
グリーンスパン氏は幅を明言しなかったが、ドルがどの程度他通貨に対して減価する
か。 既に通貨市場では対ユーロ、カナダドル、豪ドルなどに対しドルは過去最安値。
私も対円で「110円は通過点」と見ている。 これまでの対ドル125円と115円の
ゾーンから、恐らく110円から100円のゾーンへ移行する事となろう。
ただし「もう米国の時代は終わり。 ドルは暴落」という極端な議論に私は同意しな
い。 中国や中東産油国の政府系ファンド(ソブリン・ウエルス・ファンド)は米ドル
から他通貨への乗り換えは行わないからだ。日銀、イングランド銀行も対米協力。
グリーンスパン氏も「2004年の日銀によるドル買い介入停止の時のほうが、私は
よっぽど心配していた」という。
中東特にサウジは同盟関係を重視してサウジ・リアルは固定制の切り上げ幅を最小に
止めたし、中国も人民元切り上げを制御して小幅に止めつつある。要するに政治要因で
ぼうらくさせないのである。
基軸通貨というものは主に二つの役割がある。 ひとつはモノの価値の尺度。 金は
オンス何ドル、原油はバレル何ドルといった具合だ。 そしてもうひとつは国際金融の
世界での銀行同士の決済市場(BA市場)でのシェアだ。 米ドルは95%を占め他通
貨の追随を許さない。
だから私は「ドルに代わって金が基軸通貨に」という説を信用しない。 セールストーク
としては、ペーパーマネーである米ドルの価値下落は金にとり有利、ということは
確実に言えるだろうが。
脱デイスインフレに3コース
デイスインフレからインフレに至る以前のニア・インフレに時代は変わりつつある。
その点、グリーンスパン氏も私も一致している。 理由は@中国インフレAドル安~
インフレをグリーンスパン氏は注目しているのだが、私は資源インフレを追加したい。
資源はいくらでもあるが、やはり代表は原油だろう。 これは中東情勢を考えると、
いくら世界経済の成長スローダウンがあっても、大幅な下落は考えにくい。
この原稿執筆中の11月下旬現在、WITバーレル当たり価格は100ドル寸前。
旺盛な買い気から押して大台突破して恐らくそこらが目先天井と考えている。 市場内
部要因から見て100ドル飛び台が目いっぱいと思うからだ。
もうひとつ、ここらが目先天井と見るのは、1980年のバーレル40ドルはインフ
レ上昇分でデフレートすると95ドル。 当時の40ドルが瞬間天井だったように、い
くら新興国が原油買いあさりをしていても、持続性があるとは考えにくい。
この私の想定には、ひとつの弱点がある。 それはブッシュ政権が直接やるか、ある
いはイスラエルが代理役を務めるか不明だが、イランの核施設攻撃の可能性である。
10月末に米国有力調査機関が世論調査したが、米国民の52%がイランの核施設へ
の攻撃を支持している。
内訳を見ると共和党支持71%、無党派層44%、民主党支持41%。 次期大統領有
力候補のヒラリー・クリントン上院議員もイランへのし攻撃は支持しているのは意外。
イランのアフマデイネジャド大統領は核開発特にウラン濃縮を進行させている。 同
時にイラク国内での反米勢力サドル師派民兵への援助を、シリアと協力して進めている。
これが米国になってイラクでの苦戦の背景となっている。
そこでイスラエルが9月にシリアを空から攻撃し「次はオマエの番だゾ」とイランを
恫喝している。 10月には米国はイランの上層部親衛隊アルクッズをテロ支持組織と
認定した。 他国の軍隊をテロ支持組織というのは空前の出来事である。
これを対イランのムチとするとアメの方が北朝鮮への融和策だろう。 テロ支援国家
指定解除はそのひとつ。 米国に対し平和的姿勢で恭順すれば悪いようにしないという
サインだろう。 しかし私はイランのアフマデイネジャド大統領は、そんな弱腰の政治
家ではないと思うが。 原油価格はこの思惑がある限り、下値はせいぜい90ドル大台
を少し割る程度と推測する。
食糧関係のトウモロコシ、小麦、大豆なども高いだろう。 バイオガソリン関連の需
要もあるし、異常気象で豪州が大不作なことも影響する。 牛、豚などの肉類とくに豚
肉は中国では50%も上昇している。 やはり「資源インフレ」だろう。
金融商品になったことの意味
少々回り道をしすぎた。 金価格という本来の目的に立ち戻ろう。
金が注目される理由を改めてまとめると次の通り。
第一に世界的な「脱デイスインフレ」。 次に来るのはインフレではーという懸念。
第二はBRICS中心とした金需要増加。 特にインド人、中国人の金好きは大きな
意味を持つ。
そして改めて第三の、そして最大の要因が「金が単なる商品でなく、機関投資家が購
入する金融商品に変わった」という点。 ズバリいうと金ETF(上場投資信託)の活
躍である。 特に2007年から本格参入を開始した米国公的年金の買いが今後ますま
す拡大する。 追随する米国の公的、私的年金の投資本格化が、下落があっても一時的
で小幅なものに止める。
この小冊子の読者は先刻ご存知と思うので簡単に止めるが、ETFとは金地金(現物)
のみで運用する投資信託を有価証券化したもの。 証券取引所に上場され裏づけとし
て金地金を行管する仕組みだ。
2003年オーストラリア証取にGBSが上場されて2008年で5年だが急成長は
周知の通り。 最大の米国のストリート・トラックス・ゴールド(GDL)は2007
年9月末の金保有高は578トンと前半同期比192トン増。 大手金ETF5本の保
有金は600トン、世界の金需要量の五分の一に当たる。 2003年12月末に5本
全体で8トンしかなかったのだから、いかに市場に歓迎されたか分かるだろう。
ETFの上場はラッシュといって良い。 米国、欧州、南ア、豪州、シンガポール、
イスタンブール、インドに続いて2007年8月に大阪証券取引所が金ETFを上場。
東京証券取引所も近く上場する計画と伝えられる。
金ETFによる金投資は小額で済むので、個人投資家の入門として妥当だ。 金の現
物を買うと1kgでいま約300万円するが、金ETFだと10口(10g)が売買単
位なので3万円と100分の一ですむ。 毎月の投資に適する。
しかし、金価格への影響は、大手の機関投資家の巨額資金による長期投資のほうが云
うまでも大きい。
私が特に注目しているのは世界最大の年金カルパース(カリフォルニア州職員退職年
金基金)の本格的投資開始である。
3年間の準備期間を経て2007年から開始された商品投資は、とりあえず資産の3%分。
しかし私の知る限り米国の公的年金はいったん投資を開始したら売ることは10年間は
ないし、3%という投資配分も10%まで年毎に切り上げてゆくだろう。 公的
年金は株式、債券を十分に保有しており、創刊どの低い商品投資は不動産投資に変わっ
て投資比重は高まる。
カルパースに追随する米国の公的、私的年金それはプライベートな家族基金は数多い。
先般私が出席したヘッジファンドのセミナーでもカルパースへの評価は極めて高かった。
8月の株価急落でもキズは軽かったとか。
図に示したとおり、株式や債券などの金融商品市場と商品の円物、先物市場の規模は
ケタが二つは違う。 商品のほうが小さいのである。 金ETFの登場は、機関投資家
がこれまで投資をためらっていた市場性という問題点を解決した。 今後流入してくる
投資資金は従来のスケールの二桁増と考えるといい。
そこで、問題だ。 機関投資家が一体オンス何ドルにまで投資し続けるか、である。
推理に近い。
まず第一のヒントは比価。 原油のバーレル当たり価格の10倍とか12倍とか、あ
るいは銀の価格との対比。 米国人は銀のほうを好むから。 ただしまだ銀のほうは金
に比べて研究が進んでいないが。これで見るとまあ1200ドル程度か。
第二は過去の高値との比較。 消費者物価の上昇率を掛ければ簡単に出る。 1980年
と2007年の間に3・38倍になっているから、オンス875ドルは2106ドル。
まあそこまで行かないから2000ドル寸前の1900ドル。
時期はいつか。 これまでの金融市場と実物資産市場のサイクルから見ると、商品上
昇期間はせいぜい20年。 1999年と2001年にCRB指数は182ポイント台
でダブル底をつけて上昇に転じた。 早ければ2019年、遅くとも2021年が天井
だろう。 (CRB指数のチャート)。
ジム・ロジャースも「商品の天井は、毎日のTVニュースで、ダウ平均と並んで商品
が大きなテーマとして報じられる時期に来る」といっている。
商品の多くは鉱山や鉱脈の開発、農場の拡大による供給が需要の増加を上回ったとき
が、価格の天井の時期だ。 世界的に在庫水準もその頃には積み増しが恐らく普通にな
っている。 現時点ではまだそんな状況はほど遠い。
私の金投資体験
私は1989年に山一證券から日債銀にスカウトされたが、そのあたりから月1回、
金を買い始めた。 当時週刊文春でマネードクターの名前をつけられて今のマネー雑誌
の走りのような連載をしていた。 財産作りの中で、私は少なくとも5%、出来れば10%
を金投資と主張していたので実践しなくては、と思ったのである。
オンス400ドル台で、253ドルの安値も含めて2003,4年ごろまで投資を続
けた。 そのあたりで日本株が実質をつけていたので買いに出たのと、私の財産のなか
である水準に達したからである。 今はある安全なところに現物は預けてある。
私は香港で上海から逃げてきた中国人富豪から話しを聞いたし、またベトナムからボート
で脱出してきた難民の話も聞いた。 身一つでナンから逃れるのにはペーパーマネーは
無力で、金が一番いい。
フランスの歴史ある大財閥の当主に話を聞いたときも同じ。 共通しているのは「イザ
となったらやはり金」という教訓だ。
私には三人の息子夫婦に幼い孫娘4人がいる。 可愛くてかわいくて仕方がない。
何ものにも変えられない宝だ。 幸せで平穏な一生を送ってほしいと心から願っている
が、世界の歴史を見ると平和で無事な時代はむしろ短い。 何かコトが起きたときに非
常事態からの脱出資金のために、私は金を持っており、これを相続させたいと考えてい
るのである。