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雑誌 形成外科 第40巻 第5号 1997年5月
Editorial(編集者から)  (原文:日本語)

題名:  

性転換?

原科 孝雄

 (埼玉医科大学総合医療センター形成外科)



 昨年7月の埼玉医科大学倫理委員会の性転換症に関する答申の後、インタビューで「この人たちは病気ですか」といきなり問われ、絶句してしまった。それは思い浮かぶ患者がすべて精神的にも肉体的にもすこぶる健康で、彼らの苦境から脱するための手術には多額の資金が必要なため、一心不乱に働いている人たちばかりであったからである。その件について当人たちと話し合ったところ、障害というべきであろうという結論に落ち着いた。確かに性転換症は頭脳の性と、肉体のそれとが異なるという最大級の障害であって、“性同一性障害”とも呼ばれている。
 先進諸国の中で性転換症の治療を認めていない国はない。健康保険の適用も可としている国さえある中で、わが国の現状はあまりにもかけ離れていて、当事者たちが暗黒時代と称しているのもまったくうなずける。なぜこのようになったのかの理由はいくつか考えられる。

 まず日本人は性の問題というとタブー視する。そして過去の不幸な事件、すなわちある産婦人科医が行なった、街娼に対する精巣切除手術に対して有罪判決が出されたことである。以来お上に弱い日本人は、性転換手術は違法であると固く信じて疑わず、30年近い暗黒時代が過ぎた。もう一つは彼らを「ミスターレディ」、「ニューハーフ」などとピエロ扱いした俗悪テレビ番組が、性転換者に対する偏見を固定化してしまった。もちろん先進諸国においても偏見の払拭にはまだほど遠い。安楽死、臓器提などの倫理問題で常に世界をリードするオランダでも、いったん性転換者であることが露見すると失職することもあると聞いたし、北米では性転換者の街娼がなぶり殺しになることもあるそうである。それは病気の苦しみから、また家族からさえも疎外されてローティーンにして家を離れ、結局セックスしか生きる道がなく、若くしてHIVポジティブになることなどによる。

 わが国では少しましとはいえ、似通った事情にある。彼らはまず女子校の制服のスカートに我慢できずに登校拒否をする。何とか卒業して就職しても、女の子扱いされるのに耐えられない。「もう辞める」という患者に、将来の手術のために何とか我慢して続けるようにいっても、もうこれ以上自分を偽って生きていくのはいやだという。

 身体外表面の先天異常を直すのは形成外科医の仕事である。性転換症は頭脳の性と肉体のそれとが異なるという最も重度の先天異常である。そして他の先天異常と同様に、本人たちにはまったく責任がない。その診断、手術適応決定は精神科医、心理学者によってなされなければならず、決して外科医主導であってはならない。しかし、いかに精神科医が治療、手術の必要性を説いても、かんじんの外科医が躊躇しては事は進まない。この関係の唯一、最大の学会である“Harry Benjamin International Gender Dysphoria Association”では、過去6名の会長のうち、2名が形成外科医であった。

「性転換症?」といって食わず嫌いをせず、まずわれわれ形成外科医が理解を示すことが、これらわずかな数のマイノリティの福祉につながる。

[終わり]


 

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