ミニベロと共に

木ノ芽峠

2000年9月

敦賀〜樫曲〜越坂〜新保〜木ノ芽峠〜栃ノ木山中林道〜板取〜湯尾峠〜今庄 日帰り


 嶺南北を分けるかつての要衝・木ノ芽峠を知ったのは、かれこれ11年も前に遡る。
 当時よく購読していた月刊誌「旅」の中で、ごく小さく紹介された茅葺屋根の記事を見て以来、ずっと心の片隅に引っ掛かっていたのだが、何故だかそこは、つい後回しにしていた「とっておき」の峠だった。
 そろそろこの地を訪れてみようか・・・と、5万図を購入して以来、早4ヵ月が経とうとしていた。暑い夏を避け、出掛けるなら涼しい季節に?と、長い間思ってはいたものの、愚図愚図しているうちに9月も半ば。またしても季節が変わろうとしていた。そしていよいよ出掛けようにも、このところ酷い水害をもたらした台風や秋雨前線が、日本列島に纏わりついてなかなか離れてくれない。ジメジメと、梅雨時季にも似た鬱陶しい日々が続いている。「あぁ、早く出掛けたい」。


 台風の可航半円が通過した地域には、サラリと乾燥した清々しい空気が押し寄せてきていた。いよいよ移動性高気圧の到来である。天気図を眺めれば、この高気圧の勢力は広大で、しばらくの間は秋晴れの天気が保証されているというもの。慌しく装備を整え、明日に備える。今夜は晩酌抜きの休肝日。
 AM4:20起床。気温18℃。都合4回もの乗り換えをして敦賀駅に8:52到着。欲を言えばもう少し早く着きたいところだが、車に乗らない私にとって、この時間がベストといったところか。
そそくさと自転車を組み立てて、コンビニで慌しくサンドイッチを喰らって準備完了。だが、空を見上げれば、意外にも雲が厚いようだった。「弁当忘れても傘ナンタラ・・・」と言われるほど嶺南北の天気は気紛れで、全国的に「晴れマーク」にも関わらず、そして気象予報士太鼓判!にも関わらず、・・・積雲がモクモクと?。そんな嶺南北の恐るべし気候を感じながら、177に電話して「警報無し」の確認後、ようやく出発となった。

 まずは北陸本線と並行し、北陸自動車道の立体交差を潜りつつ、樫曲へと向かう。
 樫曲集落内の通過は、計画段階から決めていたことだった。車の往来が激しい北陸自動車道沿いを通っても、ツマラナイのは判りきっているし、何よりも、5万図で見た限り「峠らしき凹み」があるのだから、行くべき意味が有るというもの
(?)
 集落を詰めていけば、すぐに「通り抜け不可」の表示あった。だが国土地理院発行の5万図において、幅員1.5m〜3mの道路なのだから、「通行規制なんて必要ないでしょ!」と、平静として自転車を押し進めて行く。歩くこと僅か5分足らずで、静寂に包まれた素敵な切り通しの峠に出くわすこととなった。寝ボケ加減の身体に、軽くウォーミングアップさせていただいた気分を併せ持ちつつ、落葉やら土壁やらに触れながら、一人悦に浸る。実に幸先の良いスタートだ。

 樫曲を過ぎ越坂へと向かう。
途中、稲刈りを終えたばかりの田んぼでは、老夫婦が小休止の最中だった。「おはようございます」と手を振りベルを鳴らせば、ニコニコにと見送ってくださるが、向こう様もビックリしているに違いない。こんな所にツーリストなんてそれほど訪れることもないだろうし・・・。辺りには、情報一辺倒の社会から逸脱した時間が流れているように思えた。
 越坂集落から北側に向けて道が続いているようだったが、「通行止め」の鎖があってホッとする
( !? )。地図にもない道は・・・まぁよかろう。本チャンは木ノ芽峠なのだから、これ以上時間を取ってはいられない。越坂の頂上からは急降下が続く。九十九を切って下っていく途中で、北陸自動車道を眼下に、そして嶺南北を分ける鉢伏山周辺を望むことができた。まだまだ先に、そしてまだまだ高いところに「本日」があるのだ。

 木ノ芽峠への取り付きの集落・新保には10:30に到着。
先の無名峠で悦に浸っていたせいか、予定していた時刻より少々遅い到着となった。道中、寝不足を感じつつ、ペダリングも重く感じたのは「歳のせい ?」・・・なんて、まだまだ思いたくはない。しかしよくよく地図を見れば、意外にも標高を稼いでいるようだった。新保の標高はおよそ300mなのだから、港町敦賀からだと?・・・なるほど頷けるアルバイトというものか。ともあれ、集落の中の急な一本道をヨロヨロと進む。

木ノ芽古道にて
しばし小休止

 神保の集落を抜け出すと、道路構築真っ最中の工事現場に出くわした。土砂やら建設資材やらを積載したトラックが行ったり来たり。「あぁ、この辺りもいよいよかぁ」などと思いつつ、何とかギリギリ・タイムリーな訪れ方ができそうで、砂埃にまみれた「木ノ芽古道」へと誘うペンキ印が、寂しげながらも頼もしく映った。(この木ノ芽峠へと続く山道は、今後も古道として立派に存在していくことと思われるが、その周囲は加速度を増して開発が進んでいくのかもしれない。訪れた当日、上空を頻繁に飛び交う資材運搬用ヘリコプターのけたたましい音が鳴り響いていたことをつけ加えておく。)

 古道の入り口から僅かばかりの区間は乗れたが、後はほとんど押しばかり。昼尚暗い木々の間を進んでいく。所々に中部北陸自然歩道の道標があり、「あと○km」との表示がなされていて、距離が徐々に詰まっていくのが励みになる。
 けたたましいヘリコプターの爆音により、熊の心配をしなくて大助かりだったが、難儀なのがスズメバチ。連日降り続いた雨のせいか?よほど女王様がお腹を空かせているのだろう・・・兵隊さん達が飛び回っている。単独行には実に厄介な障害だ。道中、4〜5匹のスズメバチに集られかけて、思わず自転車をほおり投げて30mほど撤退してしまった。既に騰がりきっている脈拍が悲鳴をあげる。・・・落ち着くまでしばし小休止・・・。せめて頭と首回りだけは保護せねばと、帽子と合羽のフードを被り、恐る恐る進んでいった。急いで突破するより、じわじわと進む方が目立たなくていいのかも知れない !?。とにかく「ゼイゼイ、ハアハア」の連続である。

 鬱蒼とした木々が開け、やや日向が多くなり始めると峠は近い。増えつつあった雲も、どうやら午前中がピークだったようで、青空の面積がグッと大きくなっていた。
相変わらず心拍数は高いままだが、新保から約50分。「押し」にも飽き、「担ぎ」に転向した瞬間 ! 苔むした石畳の向うに、あの茅葺屋根が在ったのだ。かつて道元や義経らが同じように額に汗して歩み、ホッと一息ついたであろうその峠に、それはポツンと在った。心憎い演出とはまさにこういった状況を指すのだろう。感激している私の周りには、いつものことながら感嘆符が飛び交っていた。スズメバチは・・・もういない。

 木ノ芽峠でボトルのお茶を飲み干していると、何処からともなく4匹の白い犬が「ウゥ・・・ッ」と唸りながら近寄ってきた。噂に聞いていた番犬であろう。如何にも年寄りっぽく見えるのがシロウか。クマという黒い犬は見当たらなかった。そして犬達の出現からやや遅れて、高みから下りてこられたのが峠の主・M氏だった。山中での一仕事を終えられたのであろう、草刈機を片手にタオルで汗を拭う。
「こんにちは、お邪魔してます」と、ありきたりの挨拶をまず。少々無愛想なM氏ではあったが、週末ごとに訪れる来客に辟易もし、静かな平日に、またまた変わった客がやって来た・・・という感じだろうか。M氏が口にしたのは、「停電で中は真っ暗」、「ここで越冬、雪は3mを越える」、「最近ヘリコプターがうるさい」と、断片的に三言だけだった。それらにそれぞれ答えて「会話」にしようとするが、下界からやってきた若造が、興味本位で訊ねることなんて、毎週末鸚鵡のように繰り返し話されているに違いない。余計な質問なんてしないほうがいい。とりあえず写真だけは収めて・・・空を仰ぐ。すっきりと晴れつつあった。





木ノ芽峠にて
・・

 そろそろ峠を発とうとサドルに跨った時、家屋の暗がりの中から「お茶、あるのか?」と訊ねてくださったのが嬉しかった。つい先程飲み干したばかりで、ボトルの中はカラなのに、「ハイ、あります!」と答え、勢いよく出発。M氏の人間味を少しだけ覗けたようで、なんだか滑稽な気分を併せ持ちつつ、栃ノ木山中林道を突っ走っていった。
この林道は完全舗装のスカイラインで、栃ノ木峠に至るまで、ずっと下り調子でゴキゲンに飛ばせるのだが、今庄365スキー場へのアプローチを容易にする為・・・といった位置付けが大きく、また、木ノ芽峠の直下を掠めるように付けてあるので、峠の俗化も容易いだろうと危惧している。だが、現代の峠の主・M氏であるからこそ、この御時世でもなんとか喰い止まっている?というのは勝手な思い込みだろうか。自転車という無骨な拘りを差し引いたとしても、新保側から登って正解だったと思う。古の旅人気分に少しは近づけたのかも知れない。

 今庄へのダウンヒルは爽快だった。よくこれだけの標高差を押し上げたものだ。「敦賀より今庄のほうが低いの?」などと冗談混じりの自問もしつつ、満面の笑みを浮べながら下っていった。今庄13:20着。すぐに帰りの列車があったのだが、輪行していては間に合わない。
地図を見入れば、適度な距離に、適度な高さの峠が一つ。湯尾峠は、オマケのトレックパスハンティングとなった。またもや「押し」ではあったが・・・。そこにはかつての往来を物語るかのように、僅かな凹みが地面に刻まれていた。小振りだが、ここもまた雰囲気の良い峠である。

 夕刻には、嶺南北とも快晴になっていた。長らくの懸案だった「とっておき」の峠を越せたことで、意気揚々と列車の人となり、そして本日無事に「輪行日帰り。 (完)


【追記】
今回訪れた「木ノ芽古道」は、全国的にも有名な道で、多くのハイカーが集います。もし、このレポートを読んでくださった貴方が、「自転車で行ってみよう ! 」とお思いになるなら、どうか傍若無人な走行は慎んでください。決してハイカーとのトラブルは起こさないこと。そして歴史ある素晴らしい道を大切にしましょうね♪。


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