ミニベロと共に

サロベツ・利尻・礼文

1999年8月

---小樽港---サロベツ原野〜兜沼キャンプ場 現地7泊8日
兜沼〜浜勇知〜抜海〜野寒布岬〜稚内港---利尻・鴛泊港〜沓形キャンプ場
沓形〜仙法志崎〜鰊泊〜鴛泊港---礼文・香深港〜久種湖畔キャンプ場
礼文島北部散策(スコトン岬、ゴロタ岬、澄海岬、金田ノ岬)
礼文島南部散策(元地、桃岩) 〜緑ヶ丘キャンプ場
休養
礼文林道〜香深港---稚内港---稚内---
---札幌---小樽港---


 「あと3分ほどで幌延駅に到着します。お降りのお客様は、お忘れ物のないよう御支度ねがいます・・・」
 最寄の駅を発って二泊三日。数十時間も乗り物に揺られっぱなしで、ようやく、本当にようやく、あと残り3分ほどで自由になれるようだ。久しぶりの一人旅が、北海道への距離感と孤独感を充分すぎるほど味あわせてくれた。

 想像していたとおり、幌延の町は・・・というか、その駅前は、大地の中のたった一握りほどの存在でしかないように映った。おそらくサロベツという観光資源がなければ、急行列車なんて停まることもなく、そして夏という旬がなければ、おそらく旅人の一人さえ降り立つことがないだろう・・・そんな風に思わせる小さな町。全力疾走で駆け出せば、ものの数分で郊外へと飛び出すであろう・・・そんな小さな町は、北海道のあちらこちらに点在するのだろうが、旅慣れているつもりの自分にとって、幌延は、何故か突然の僻地に感じられたのである。「急行が停まる駅やろ?」と、詩ではなく単に関西弁が溢れ出すこととなったのは、シートに身を委ね続けた時間に比例する、率直な心の声(?)だったのかも知れない。

 およそ国道40号線に沿って北上する。が、携行している地図はいつもの5万図だから、開放気分満載で突っ走る(!)そんな4WDやバイク達と同席しなくてもいいように、「抜け道・脇道・回り道」と、静かに走れそうな道を拾いながらの走行である。
 パンケ沼は、たった一人の、周囲に誰もいない緑一面の世界だった。今年の北海道は暑い日が長く続き過ぎているようで、この時季に花を求めて訪れるにはいささか物足りない気分にさせられた。エゾカンゾウが咲き乱れる一面黄色の野原を想像していただけに、早々と出鼻をくじかれた思いである。そしてその状況は、サロベツ原生花園辺りでも同じことで、かろうじてエゾリンドウとネジバナが確認されただけである。ここを訪れた観光客からは「こんなもんかぁ・・・・」といった思いが、その表情から伺い知れた。気候が例年と少しばかり異なるだけで、満足のいく観光に成るか否か?と問題にするのは、特にお金を払って運ばれてきたツアー客にありがちなこと。しかしながら気侭なサイクリストには、さほどの影響はない。有名どころに行かなくても、ペダルを回してさえいれば、ちょっとした道路脇でしばしば小さな感激に巡り合えるのだから。

 国道40号線に並行する農道を北上する。ごく稀に、農耕機材を積載したトラックとすれ違う程度で、まったく静かな、真っ直ぐな道を行く。右手に数キロ離れた国道40号線からは、時々思い出したかのようにエンジン音が聞こえてくるが、風の音よりも、チェーンの擦れる音のほうが勝るほど静かな道である。遠く近くで牛が草を噛み、グラスロールが点々と・・・、そんな北海道らしい風景がそこここに在った。いつだったか、モンゴルの草原で、眼球が求める焦点が限りなく平行であり続け、遠く、遠く、限りなく遠くを見ようとする感覚がオーバーラップする。

 行動開始が午後からだった割りに、本日はよく走ったようだ。兜沼のキャンプ場に到着したのが16:00過ぎだっただろうか。しかしそこは、既にオートキャンパーで溢れかえり、静かに過ごせるスペースを確保するのに苦労した。数年前に当地で野営したという友人によると、その頃このキャンプ場は、実に荒涼としたイメージで、心細いほど寂しい野原だったとのこと。だが、近年のアウトドアブームであっという間にオートキャンプ化してしまったようだ。誰もが気軽にキャンプできるようになったこと自体、世の中が豊かになった証のようで、実に結構なこととは思うが、モラルや知識が希薄で、同じ時間・同じ場所で生活を共にすることに甚だ不満を抱いてしまうことがある。 ・・・だが幸いにも、大地らしい透明度に満ちた、真っ赤な夕焼けが心を和ませてくれたのが有り難かった。持参した1合半のお米を炊いて、レトルトカレーをビールで流し込むように喰らい、今夜は早目にツェルトに潜り込む。

 山屋(?)は朝が早い。暑い日中はあまり行動したくないので、早朝から行動するのが私の常套手段だ。朝が早いと交通量が少なくて御機嫌に走れるから。
 兜沼から勇知までは丘陵地帯をひとつ越えていく。ミニベロとはいえ、キャンプ用具一式を積み込んでいるため、早々とロー&ローのギア比で登っていくしかない。そして丘のテッペンからは、一年振りに見る利尻山を確認することができた。分厚い雲の隙間から、ピラミダルな山容が部分的に見え隠れしている。しかしながらまだ暫くの間は、そのヴェールを脱ぎ払ってくれそうにはなかった・・・。

 今日は風が強い。
勇知川沿いを西に行く。浜勇知まで10キロに及ぶほぼ一直線の道だ。左右に牧場が広がる快適な道を、強い追風に乗ってトップギアですっ飛んで行く。だが、日本海側に出て北上するようになると、とんでもない向かい風に苦労させられることとなる。抜海を経て野寒布岬まで・・・ 風は、地形にならい舐めるように集結して、そして一気に拡散する。その集結点に該当する地形とは、山で言えば鞍部であり、海で言えば岬であろう。岬に近づけば近づくほど、風はそれ相応に強くなる。
そんな中、辛うじて気分を慰めてくれたのが、原生花園に咲き乱れる美しい花々だった。中でもひときわ惹かれたのは、北海道ではごくありふれたハマナスの花である。「知床ノ岬ニ、ハマナスノ咲ク頃、思イ出シテオクレ、俺達ノコトヲ・・・」。向うべき場所は違えども、この歌を口ずさむ北への旅人は、今の私のように、ごくありふれた花弁を見つつ励まされているのではないだろうか。硬く刺々しい幹に似合わぬ、ややピンクがかった赤っぽい花を咲かせる。ひっそりと控え目で・・・ 私の好きな花の一つだ。

礼文島から望む利尻富士

 想像していたとおり、野寒布岬は別段なんとはない場所ではあったが、岬として、しっかり観光地していた(?)
 早発してきただけに空腹感に侵されつつある。まだ10:00を過ぎたばかりだというのに、早速食堂の暖簾をくぐり、名物の二色丼を掻き込むこととなった。「その土地ならではの物は惜しみなく食す!」というのがお好みの旅のスタイルだが、自転車での旅となると、そのエンゲル係数は一段と跳ね上がる。旅はまだ始まったばかりというのに、先々の食費が思いやられる。しかしとにかく、濃厚なウニの味は最高だった。

 11:10稚内港発鴛泊行きの便には充分に間にあった。自転車のバカ高い航送料金に呆れてそそくさと輪行する。キャンピングといっても極端にスリム化した装備のため、ものの10分ほどで梱包してしまえるのが、最近模索し始めた「ミニベロの可能性」の一つである。傍らでは荷物満載の4サイド氏が、恨めしそうに車両航送の列に並んでいた。
 1時間40分で利尻島の玄関口である鴛泊に着く。ここは昨夏、利尻山に登るために訪れた再訪の島である。今回は、島を一周しながら素朴な漁村を訪ねてみようとやって来た。が、さて・・・・・・・?。
島内は人の姿が確認できないほど閑散としてしていた。また、リングロードは何処まで走っても完璧な舗装路だった。サーキット場の、あの鏡のような道
(!)と形容しても過言ではない、そんな道。たった一軒の民家へと続く幅員1mほどの道でさえ・・・美しき舗装路。
日本を代表する名山の一つ利尻山と、都会の料亭に直送されるという利尻昆布。それに、今や礼文よりも豊富と言われるウニ。観光客サマサマの国立公園は、まさにドル箱なのだろう。聞いた話では
(ホントかどうか?)、ン億を握って孤独に生活するオバアちゃんが相当いるのだとか。港付近の食堂に並ぶ「ウニ丼3000円也」という御品書きと、冬の厳しい自然環境での御苦労を天秤にかけても、なんだか割りに合わないと思うのは、若かりしバックパッカー時代に根付いてしまった性(?)なのかもしれない。

 昆布漁が盛んな利尻富士町を駆け抜け、礼文島へと渡った。この島も昨夏に訪れたところで、再訪したくなるその魅力は、やはり美しい花々にある。最も標高の高い礼文岳でさえ490mしかないのにも関わらず、その緯度の高さゆえ、本州の1000〜2000m級の山岳地帯に匹敵する寒冷な気候だ。夏ならば、島の大部分が緑一面の草原と化し、気軽なハイキングに出掛ければ、高山植物のオンパレードを見ることができる。とにかく凄い。そのポイントは「ゴロタ岬〜スコトン岬」「知床〜桃岩」「礼文林道」といったところで、自転車利用で楽しむならスコトン岬と礼文林道だろう。
最近のMTB感覚なら、島の全てのハイキングコースを走破できるのかもしれないが、貴重な美しい花々を踏み荒らすことになるので絶対に乗り入れてはならない。
(監視員もそこここで目を光らせている) ちなみに私の場合、”バイク・自転車乗り入れ禁止”の立て札の前までやって来て、ただ自転車を置いて寛いでいただけなのに、ずいぶん厳しい忠告を受けたものだ、 しかも大勢の観光客の面前で!。過去に走り回ったバカがいたのだろうか?・・・角を立てたくないので「ハイ、ハイ」と受け流し、その場を離れた。

 さて、この時季に見ることができた花は、タカネナデシコ、エゾノコギリソウ、ツリガネニンジン、トウゲブキ、チシマリンドウ、ネジバナ、イブキジャコウソウ・・・・といったところか。今回初めて足を運んだ礼文林道では、遠くに利尻山を眺めながら、一面それらの花たちに囲まれて、まるで御伽の国にタイムスリップしたかのような堪らない至福のひとときを味わうことができた。快晴の日を狙って、最後の楽しみにとっておいた「道」を堪能し、そしてマロングラッセかモンブランを彷彿させるような、甘味タップリの焼ウニを「嫁さんの分も!」と偽って二人前平らげ、ニンマリしながら稚内行きのフェリーに乗船したことを付け加えておく。 ^^;


礼文林道にて


HOME