天気予報によると、明日は一日中雨模様で、降水確率は80%と高く、局地的に激しく降り、時に雷雨もあるとのこと。上陸後、何処に移動して、そしてどう過ごすべきか?。旅の初日から早速「予備日」を使ってしまうことになりそうだが、幾つかあるターゲットに向けて、ルートと天気の読み比べ。天地の無い「あみだくじ」を辿るが如く、地図を追う。本州にかかる前線はともかく、太平洋上の二つの台風16・17号の今後の動向が気がかりで仕方がない。どんよりとしたグレーの空と、ダークな海が、右から左へゆっくりと流れていく。 |
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フェリーにて ≫ |
1日目
午前中の降水確率が100%にまで上がっていたところ、意外にも、北へ向かう列車の車窓からは、僅かながら青空が顔を覗かせ、そして陽光も射し始めた。・・・「この分だと、今日は走れるかもしれない」・・・そんな期待がもてた。奥羽本線に揺られること1時間20分。雨に濡れた秋田港からは一転して、二ツ井では路面が乾いていたのには驚くばかり。改札を出る際、駅員さんに気になる天気のことをお尋ねすると、雷雲は秋田中部より南方を通過していくような、そんな詳細な天気図を見せてくださった。どうやらこれから向かう白神山地は、徐々に回復傾向にあるようだ。自宅を出て以来丸一日以上パッキングされたままの『旅の相棒』をようやく紐解き、ゆっくりと出発の準備をする。天気は回復しつつあるものの、まだまだ空を占める雲の割合が大きいため、行動開始を急ぐことはない。駅前の商店街や県道317号線沿いのコンビニで、4食分のレトルトパックや即席ラーメン、それに携帯食をしっかり買い込んで、10:30、ようやくスタートとなった。満タンに膨れ上がったフロンドバッグには、今日と明日への思いが詰まっている。 |
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県道317号線を北上する。本日のピークとなる釣瓶落峠は標高590m。二ツ井からは35kmほどの道程である。長時間乗り物に揺られてきたものの、体調は良好。初めて東北の地に「轍」を刻めるということと、約10ヶ月ぶりのキャンプ・ツーリングということで心が躍る。藤琴川沿いに続くしっとりとした緑が、とても美しく映えていた。
峠へと向かう道中では、平日らしく大型のダンプが行き交っていた。しかしながらここは白神山地へと続く道。世界遺産人気に比例して(?)県外からのマイカーや、観光客を乗せたタクシーも少なからず走り去る。 |
「真名子」という集落を過ぎる辺りからだったろうか・・・白神山地の水を扱う工場のような建物を通り過ぎると、道幅は舗装路ながらもやや狭くなり、「熊出没注意」といった看板も見受けられ、そして藤琴川の淵が更に濃いグリーンと化し、谷は狭まり、いよいよ白神山地に入ってきた感が強くなる。県境を越える車も心なしか減ってきたように思うのは気のせいか?。太良橋に着いたのが12:00ジャスト。小休止した後、しばらく進むとダートが待ち構えていた。が、悪路に梃子摺るいうほどではなく、ミニベロ・キャンピングでも充分乗っていける路面である。
岳岱自然観察林との分岐点にポツンとあった「青森→」の看板に出くわすと、最果て・・・というか、ずいぶん僻地に足を踏み入れてしまったように思えた。幾度か足を運んだ北海道よりも、遥か遠くに来ているような、そんな感じがした。車の往来が乏しく心寂しい林道で佇んでいると、その思いは更に強くなる。
ダートを8〜9kmほど(?)進んだ辺りから、道は突然広いアスファルトに変わった。そしてヘアピンカーブを二度曲がると、一気に突出した尾根を行くようになる。深く切れ落ちた桧原沢大渓谷の眺めに思わず感嘆符を挙げ、そして釣瓶落峠に13:30到着。 延長157m・巾6.5mの立派なトンネルを潜り抜けると、そこは・・・青森。
釣瓶トンネルの青森県側には、水量豊富な沢が流れていた。さて、ここは白神の緑豊かな土地柄ということで、「さぞかし旨いはず!」とばかりに、コッヘルで直に水を掬って湯を沸かす。そして約10分で『釣瓶落ラーメン』の出来上がり。遅い昼食を「ズルズルッ」と啜っていると、「こんな所で一体何をしているのだろう?」といった面持ちで、マイカー族が二台、三台・・・と走り去って行った。
峠の秋田県側では青空が広がりつつあったものの、青森県へと下っていくにつれ、無情にも雲が厚くなり「ポツリ、ポツリ」と雨が落ちてきた。砂利が目立つダートを行くようになると、下りでありながら、さすがに気が滅入ってくる。おまけに今夜の野営を思うと、「・・・」。
秋田県側と同様に、8〜9kmほど(?)のダートが残っていたが、結局レインウェアを着用するほどの本降りには至らず、まずまず順調に下りきり、美山湖畔のT字路・砂子瀬に着いたのが15:10だった。左に折れると、今夜の宿営地・暗門まではもうすぐの距離。辺りは、厚い雲に覆われているためか、日暮れまでにまだ時間があるというのにヤケに薄暗い感じがした。川沿いの道をアップダウンしつつ15:40、アクアグリーンビレッジANMONに到着。結局本格的に降られることもなく、無事に一日の行程を終えることができた。上陸早々に「予備日」を使うことも検討していただけに、駒を一つ進めることができて幸先の良い初日となった。
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釣瓶落峠からの下り
所々深い砂利があったものの、概ね良好なダート
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キャンプ場を使わせていただく旨を伝え、チェック・イン。そうこうしているうちに大粒の雨が落ちてきた。慌しく荷物を降ろしツェルトを張る。週末ならともかく、夏の盛りを過ぎたキャンプ場は、実に閑散とした感じで、フリーサイトの利用者は私一人。少しでも雨を避けたいがため、大きな三本の木の下を今夜の寝床とする。
せっかく持ってきたラジオの調子が悪く、アチコチいじっても、ウンとも寸とも語りかけてはくれない。明日のヤマ場を前に、是が非でも天気を確認しておきたいところだが、「・・・」。艶々に炊いたご飯とカレー。今夜はこれで満たされた。20:40就寝。
2日目
4:30起床。いつものように、この時季なら「寝袋不要」でやって来たものの、夜中に少々寒いと感じ、エマージェンシーシートに包まって何とか快眠を得た。ツェルトを抜け出し、気になる空模様を窺うと、明け方の空を見上げる限り、まずまずの好天が期待できそうだった。迷うことなく出発を決意する。荷物を少しでも軽くしたいがため、朝からリッチにレトルト・シチューとパスタを食す。ズシリと重いエネルギー源を胃袋に放り込み・・・・・さて。
今回の旅の中で、最もシビアな行動を要求されるのが、本日向かう弘西林道(白神ライン)である。42kmものダート区間の中に、峠が三つ。それらの累積標高差は、暗門を起点とした場合1350m(?)にも及び、しかも、そのダートを含む長大な区間は無人地帯であるため、「もしアクシデントに遭遇したらどうなることか?」と、さすがに緊張せずにはいられない。果してミニベロで?無事に走り切ることが出来るのだろうか。(5:50出発)
思いのほか走り始めから順調だった。昨日の峠道と同様に、世界遺産人気の影響か(?)ダートは概ね良好で、よく締まり、砂利もさほど酷くはない。小径ホイールではあるものの、「1.75」のボリュームがあれば充分にこなせる道である。しかしながら津軽峠に着くまでに、私を追い越していった車は僅かに一台。早朝だから当然とも思えるが、とにかく延々と無人地帯が続くゆえ、普段なら鬱陶しいとさえ感じる車の存在が、今回ばかりは有り難く思えた。朝一番にスタートを切って、余裕タップリなはずなのに、心理的には焦りの割合のほうが大きいのである。そんな中、展望の良いところでカメラを取り出し、ファインダーを覗いていると、「ガサゴソ」と、獣らしきものが・・・すぐ傍で!。(津軽峠6:50着)
熊除け鈴を「カランコロン」と鳴らしながら、津軽峠から徒歩数分。どうしても見たかったブナの巨木・マザーツリーに会いに行く。樹齢400年以上とも言われるその巨木は、白神山地では最大級のものだとか。幹を仰ぎながら周囲をまわったり、そっと手で触れて木の温もりを感じたり・・・・・否・・・・・そうやってじっくりと木の傍で佇んでいたかったのだが、行く先々を思うと、そう悠長に構えてはいられない。早々と一つめの峠に辿り着いたものの、一息つくのも束の間。「ガサゴソ」と鳴る獣の気配からいち早く遠ざかりたく、サドルに跨る。
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| まず一つめの峠、津軽峠 |
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津軽峠から徒歩数分、ブナの巨木「マザーツリー」と御対面 |
赤石川林道を右に見送り、せっかく稼いだ標高を、一旦220m付近まで高度を下げて赤石大橋へ(8:00)。橋の付近では、ごく短い区間ではあるものの、意外にも舗装化が進んでいて、期待外れな思いとちょっとした安堵感が胸中で混在することとなった。
さて、弘西林道をプランニングする上で、最も精神的にキツイだろうと思っていたのが、これから登り返すことになる天狗峠である。エスケープルートから徐々に遠ざかり、そして長大な林道の核心部へと向かって行くわけだから、「迅速かつ丁寧にクリアしたいものだ・・・」と。
天狗峠へと向かう途中、再び一台の車が追い抜いていった。そして数十メートル先で停車し、初老のオジサンが降りてこられて、「何処からお越しですか?この辺りはよく熊が出ますから、どうぞお気をつけ下さい」といった意味の、濃い津軽弁で話し掛けてくださった。有り難いような有り難くないような話だが、わざわざ車から降りてこられてまで優しく話し掛けてくださったのが嬉しくて、「常にコレを鳴らしながら走ってますので」と、熊除けの鈴をお見せすると、「ふむふむ」と頷いてくださった。この鈴の効果が如何ほどのものか?は、ともかくとして、心寂しい林道の中で、孤独感が少しばかり晴れたような気がした。
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【左】二つめの峠、天狗峠 (標高793m)
【上】天狗峠からの下りにて 向白神岳方面の眺め
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天狗峠には9:00に到着した。峠直前まで延々のダートであるものの、峠のほんの僅か数メートル手前から舗装路に変わったのには、正直なところガッカリさせられた。「せめて峠だけは、ダートの状態のまま残しておいて欲しかった」・・・ここを訪れるサイクリストなら、誰もが同じように思うことだろう。
峠で一息つきながら、写真を撮ったりしている最中にも、「カランコロン」と鈴を鳴らす。もう少し時間が経てば、きっとマイカー族の往来も増えてくるのだろうが、静まり返った森の中で、たった一人きりではやはり不安がつきまとう。静寂を好んで居据わろうにも、それを打ち消す思いが胸中を占める。
追良瀬川へと下って行く道は、峠から僅かな区間は舗装路だった。そして西の展望が大きく開け、向白神岳方面の青い山塊を臨むこととなる。舗装が切れ、再びダートを延々と下っていく。効きの悪いブレーキレバーを握り続けていると、掌は痺れ、握力が鈍り、腕も硬直してくる。ましてや長い時間窮屈なスタンディング姿勢をとっていると、腰がだるくもなり、太腿の裏側が張り、そして足底にも相当な負担が・・・。そんな状況でも安全に下っていくには、時々立ち止まってはストレッチを加えるしかない。そしてまた『旅の相棒』に身を預ける。ダートの下りでは、ずっとそんな調子だった。
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追良瀬橋 9:45。もしメカトラブルが起きたとしても、歩いてだってこの林道を抜け出すことが出来るだろう・・・当初の懸念とは裏腹に、既にそんな位置までやって来た。あと残す峠は一つだけ。じっくり、じっくり・・・。再び登り返す途中、「白神の水・美人になる水」と書かれた水場で咽を潤し、よく締まったダートを坦々とペダルを回して登っていく。
朝食を済ませた巷が、ここにきて一気に増えてきたようだ。一台、また一台と、エンジン音が近づいてきては過ぎ去っていく。そして早朝から我が身を包んでいた緊張感も、すっかり消え去ろうとしていた。走り始めてまだ二日目だというのに、まだ午前中だというのに、一つの旅が、終わってしまうように思えた。 |
| 弘西林道 最後の峠、一ッ森峠 |
一ッ森峠 10:50着。ここまで来たからには「もう安心
!?」とばかりに、ボトルの水もタップリと残っていることだし、サッサと下ってしまうのも勿体ない。そんなわけで、じっくりとラーメンでも啜ろうか?と、コッヘルに水を入れ、そしてコンロに点火しようとしたところ、「・・・」火が点かない。(実は時々やらかすことなのだが)、濡れたままのコッヘルと一緒にパッキングしていたせいで、コンロが湿気てしまって不機嫌な状態になっていたのである。というわけで、『一ッ森ラーメン』は残念ながらお預けとなった。さほど空腹感に苛まれていたわけでもないし、とりあえず水とチョコレートで誤魔化して、そそくさと岩崎へと下っていくことにする。
相変わらずのダートは、ごく短い区間の舗装路を交え、そしてまたダートに。ブレーキレバーの引きが益々深くなる頃、300mラインを割る辺りから、ようやく見通しの良い快適な舗装路に変わった。笹内川に立つ釣り人を見て、いよいよ弘西林道を抜け出したと思った。それ以降は、もうブレーキレバーを強く握りしめる必要もなく、あとは海に向かって突っ走るだけ。
岩崎の町の向うに海が見えたとき、感激して思わず叫んでしまった。時計を見ると、まだ12:05。意外や意外
!?、6時間余りで弘西林道を走破したことになる。暗門からここまで、否、ダート交じりの昨日からここまで、幸いにもメカトラブル無し。・・・わが『旅の相棒』は、やっぱり凄いヤツだと思った。
こいつは私を、「何処へでも連れていってくれる!」。
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