ミニベロと共に  前のページへ

津軽の峠と海と山 その2
( 岩木山 )

2004年8月


3日目
 昨日の峠越えが堪えたようで、酷い筋肉痛が残っている。今日は無理せずに、平地で大人しくしているほうが無難かもしれない。早朝一番、まずツェルトから顔を出すと、秋を思わせる高層の雲が美しかった。旅立つ前から気になっていた台風は、どうやら西の方角に反れて行ったようだ。
 残る150gのパスタを食し、まだお休み中のキャンパーよりも一足先に動き出す。特に急ぐ必要もないはずなのに、一人でキャンプしていると、就寝時刻が早くもなり、どうしても朝が早くなるのだから仕方がない。まだ静かな国道101号線を、6:25からペダルを回す。
 海岸に沿って延びる五能線には、「何も無いことが良いんだなぁ」と思わせる駅が幾つかあった。驫木駅もその一つ。バス停か?とさえ思うような駅舎の中を、4〜5歩も進めばホームに出る。そして、その向こうにあるのは、・・・海。
何気なく立ち寄ったその駅で出会った「彼」は、そこで一晩明かしたとのこと。聞けば・・・この夏、北海道を走って現在東北を南下中だとか。傍らにあった彼の自転車が、私と同じ20インチだったこともあり、しばし旅の話に花が咲いた。

 「どうぞ良い旅を!」とエールを送ってペダリング再開。朝の心地良い潮風を受けながら、国道101号線をひた走る。
まだ観光客が訪れていない千畳敷では、カモメかウミネコかは知らないけれど、そんな海鳥達が数十羽、陽光に向かって列を成していた。空を見上げれば、これが「行きあいの空」と呼ぶのだろうか?。高層の巻雲と、それよりも低いところに位置する積雲が、それぞれの意志を持ったかのように混在する様子が見て取れた。8月下旬、すでに津軽地方は秋の気配。
 すっかり川幅を広げた赤石川を渡る時、右手前方に「ドド〜ン」と大きな岩木山が現れたのだが、あいにく上半分は雲に隠されて全容は判らず。やはり今日は平地で良し!と納得する。
 鰺ヶ沢の町が近づいてくると、通りに沿ってズラ〜リと焼イカの看板が並び始めた。値段を見ると、大きなイカが一杯250円!という安さだったから、ついつい立ち寄ってしまった。店のおばさんがイカを焼き始めると、辺りに何ともいえない香ばしい海の匂いが漂って、朝からすっかり晩酌気分に
(?)。「海もいいよなぁ」などと呟きながら・・・・・・しばし。
「海もいいよなぁ」   焼イカ・一杯250円也

 七里長浜では、イメージしていた通りの青い海が私を迎えてくれた。夏の盛りを過ぎた静かな浜には、誰一人いない。目の前に広がるのは・・・まるで、水平線の彼方から秋の風を運んでくるような・・・そんな海。「久々に、こんな海が見たかった」。気紛れに立ち寄った海岸に、遅い夏休みの一コマがあった。

七里長浜にて

 フロントバッグの前に落ちる「自分の影」と対話しながら、黙々とペダルを回す。まっすぐな道を、黙々と。
特に目的なんてなかった。ただ単に「平地を流せればいいか !?」、といった程度の気分ではあったが、唯一頭の隅にあったのは、いつだったか、テレビか何かで見た「しじみ」のこと。七里長浜に沿って北上していった先には、その「しじみ」が多く捕れるという十三湖がある。今日の目的はいつの間にかそれに絞られた。ところどころ砂利の混じる農道に寄り道しながら、津軽の早い秋の訪れを感じつつ、地平線に溶け込むような、真っ直ぐな道を行く。

 十三湖、12:40着。そこで食した「しじみラーメン」には、なんと36個ものしじみが入っていた。このところ草臥れきった肝臓も(?)これで元気になるだろう。岩木川からの肥沃な栄養分がそうさせるのか、湖の水は俄かに土色を帯びていた。しじみを捕る小舟がゆらゆらと浮かんでいる。湖岸では、つい今し方捕ってこられたのであろう・・・「ガサガサ、ゴリゴリ」・・・と、網の目を通してしじみを分別する作業が行なわれていた。興味本位に「一回の漁でどのくらい捕れるのですか?」などとお尋ねすると、「それはマチマチだよ」と返ってきた(もちろん津軽の言葉で)。単純な問に単純な答えが返ってきて、当り前のこととは判っていながらも、それが何故だか妙に嬉しかった。特に飾るわけでもなく、垣根も感じさせない応対に、何となく「ホッ」と。こちらもそれ以上のことは何も尋ねず、向こうもそれ以上のことは何も喋らず、しばらくの時間が流れた。脈々と続けてこられたその作業を見ているだけで、それで充分だと思った。そして黙って頭を下げて、踵を返し、再びペダルを回す。(13:20)

十三湖の近くで

 リラックスするつもりが、ずいぶん遠くまで来てしまった。明日のことを考えると、やはり無理した感がある。ハイピッチでペダルを回さないと、日暮れまでに山懐のキャンプ場に着けそうにない。しかしながら広域農道に沿って綿々と広がる金色の稲穂や、岩木川のゆったりとした流れを見ていると、「まぁ、のんびり行くか !?」とも思えてくるし・・・。そしてまた、ここに来て改めて「なるほど!」と思った”津軽富士”を仰ぎつつ、「この山は津軽の人々に愛されている山なんだなぁ。」とか思ったりもして。きっと津軽平野の何処からでも仰ぐことが出来るのだろう・・・そんな岩木山は、午前中の雲を脱ぎ掃い、ほぼ全容を見せようとしていた。平野から見るそれは、1625mの山とは思えないほど裾野が広くて大きな山である。あとほんの少しだけ、山頂に雲が掛かっているのが心憎かった。その演出の意味は「明日までお預け」ということか?。(板柳16:10)

 弘前市に入ってから幾度か道を間違えたこともあり、時間・体力ともにかなり消耗してしまった。今日はよく走った。平地ながらも150km近くは走っただろう。ミニベロに乗るようになって、一日でこれだけの距離を走ったのは初めてかもしれない。「ちょっと身体をほぐしに・・」というつもりが、余計に疲労を生むこととなった。
 今夜の野営地・桜林公園キャンプ場
(無料)に向かって登り始めたところ、この先に食料を調達できる所があるのかどうか?不安に思い、県道3号線沿いのリンゴ園で作業されていた御夫婦に、「この先にコンビニとかはあるでしょうか?」といったことをお尋ねすると、とてつもなく親切に教えてくださって、非常に恐縮してしまった。夕暮れも間近で、焦る気持ちを解きほぐしてくれるかのような、そんな優しい心遣いに痛いほど感謝しながら、登りかけた坂道を一旦戻り、そして何とか今夜の食材を仕入れることとなる。
 キャンプ場までの登り勾配は、疲れた身体に駄目押しをしてくれた。こんなことで、明日の山登りはどうなることやら?・・・とにかく好天を願うばかり。18:15。辺りが暗くなりかけた頃、ようやく辿り着いたキャンプ場では、離れた所にポツンと一張りのテントが。今夜、この広い敷地を寝床にするキャンパーは、私を含め2組だけ。薄暗がりの中でツェルトを設営し、ヘッドランプの灯りを頼りにお米を研ぐ。そして真っ暗になった頃ようやく夕飯ができあがった(19:30)。もちろん今夜もレトルト・カレー。 21:20 就寝。

4日目
 4:00起床。ツェルトが結露することなく朝を迎えた。残りわずかの米を軟らかく炊いて、即席ラーメンといっしょに食す。重々判っていたものの、昨日までの疲れがかなり残っている。しかしながら夜が明けるにつれ、かなり好条件での登山が期待できそうに思い始めると、居ても立ってもいられなくなり「ソワソワ」と。
小さなリュックに慌しく荷物を放り込み、登山口に立ったのが5:10。ここから見る岩木山は、平野から見るそれとは赴きを変え、さほど大きな山とは思えず・・・(否、それはきっと空気が澄んでいるからだろうが)・・・朝陽に照らされ、実に優しげな山に映った。まだここから1300mもの標高差があるというのに
(!)だ。ともあれ、一片の雲に邪魔されることのない山頂を、ようやく拝むことができたのが嬉しかった。
百沢スキー場から見た岩木山  

 スキー場を抜け、しばらくの間は鬱蒼とした樹林帯を行く。・・・カラスの休場 5:35、・・・焼上りヒュッテ 6:25、・・・それまでは穏やかだった道が、沢筋を行くようになると、急にゴロゴロとした岩だらけの道となり、場所によっては、ごく僅かではあるものの攀じ登るような場面もあって面白い。あのオーバーユースな山にありがちな(?)整備され過ぎた道ではなく、自然をそのまま活かした道であることが嬉しく思えた。途中の水場・錫丈清水でノドを潤す。まだ朝が早いゆえ周囲には誰もいない。一人で黙々と山道を行く。種蒔苗代 7:00、いよいよ山頂が目の前に大きく近づいてきた。


・・
百沢登山道から 来たし方を振り返る。 岩木山山頂にて

 急斜面のガレ場を登りつめ、誰にも会うことなく山頂に着いた(7:20)。眼下には、昨日走った津軽平野の広がりが。そして反対側には、一昨日走った白神山地の幾重もの連なりが見渡せた。思い返せば・・・、旅の序盤から天気との睨めっこを繰り返し、タイトな旅程の中で津軽に触れて、そしてようやく辿り着いたこの山頂で、運良く上天気に恵まれたことに感激してしまい、柄にもなく、山頂の風に吹かれながら独りで「熱く」なった。
逆光に照らされた高層の雲が上空に延びる。最後に”このヤマ”を残しておいて正解だった。「津軽の峠と海と山」・・・意とするように纏まった、この心地良過ぎる旅のエピローグは、下界での頑張りに対する、山の神様からの御褒美だったのかもしれない。 (完)

8月下旬、津軽はすでに秋の気配    弘前へと向かう途中で


【装備一覧】
20インチ・ミニベロ、マット兼用フロントバッグ、中型ウェストバッグ、水筒(2)、輪行袋(ストラップ5)、工具一式、チェーン錠、折り畳み式リュック、ツェルト(ポール&ぺグ)、シュラフカバー、エマージェンシーシート、レインウェア、長袖アンダーウェア(上下)、ラグジャ、膝用サポーター、速乾Tシャツ、手袋、レーサーパンツ(実はスイミングパンツ)、Tシャツ・パンツ・靴下(各2セット)、薄地もんぺ、短パン、帽子、タオル、バンダナ、ちり紙、コッヘル(1)、コンロ、ガス燃料缶、お箸、ナイフ、ライター、細引き、洗濯バサミ(4)、石鹸、歯ブラシ、ヘアブラシ、蚊取線香(少々)、ロウソク(少々)、医薬品、ヘッドランプ、カメラ、レンズ(20mm/35〜70mm)、フィルム(2)、三脚、地図(5万図8枚・他)、熊除け鈴、サンダル、防水袋、ボールペン、ラジオ。
持参した食料・・・米3合、パスタ300g、ふりかけ。
現地で買い足した食料(合計) ・・・カレーレトルト(3)、スパゲティレトルト(2)、即席ラーメン(4)、ピーマン(1袋)、チョコレートなど携帯食を少々。(他は食堂などで)


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