俳句
としなみ

合わせて百六十記念・俳句集

吉武芳彦著(俳号 芳水 ) 平成七年十月出版

C 1955年 YOSHIHIKO YOSHITAKE




経歴:平成14年6月 勲五等、瑞宝章 叙勲す。福岡県 犀川郵便局長を勇退後全てのライフワークを犀川町と地域への社会発展・奉仕活動 に注ぎ込み、平成八年、福岡県より文化功労賞を授与。犀川町誌編集委員、同文化財保護委員、寺総代、歩こう会創設、 畦道俳句会編集長等を歴任。郷土歴史家。89歳。今回159句発表。

妻・玉枝87歳。犀川町大谷婦人会会長歴任、同俳句会同人、現代俳句歳時記辞典に一句採用された。このページの最後にけいさい。 今回149句発表。



お便り・連絡先
〒824−0224 福岡県京都郡犀川町崎山
吉武芳彦


  
吉武芳水作品 (159句)



刈 干 し



1.病 窓 の 希 薄 な 雲 に 金 魚 棲 む



2.鎌をとぐ炎天の地へはみ出さず



3.物売りにカンナも首を覗かせる



4.夕蝉のたぎり止まざる男の湯



5.点滴の日々大根の太りゆく



6.神域の掃目に洩れし蟻の列



7.刈干しの唄夜神楽の炎になりて



8.魚商来て青葉の底の魚を出す



9.万緑の暗きに天の岩戸あり



10.妻不在父の厨に寒夕焼



11.春斗終えまだ索漠の事務所中



12.蝉追ってゆくしんがりに幼児いて



13.夕立のあとに野球の子が足らず



14.青田より上り来る髭いかめしく



15.気球嵌め庁舎の窓より秋が来る



16.会議終え余熱をさます花八つ手



17.土くさい話持ち寄る春の風



18.芽木伐りて日照権を呼び戻す



19.霧動く滝壺に声呑まれいて



20.大野焼ストの鉄路をつたい行く



手品師



21.凧上がり少年いつか鳥となる



22.春雷に大樹の自画像地を走る



23.手品師の箱ほしい日の水中花



24.百舌鳥たける昨夜の酒の残る朝



25.菜種梅雨柩車の轍まだ消えず



26.職辞めて無我の世界に寝正月



27.西瓜切る定年一気に下り坂



28.菊根分け色鉛筆の芯丸く



29.私語一つ野分けの橋に落としゆく



30.大和路や寺の大屋根暮れ早し



31.稲稔る自作自演のドラマに幕



32.嫁がせて一部屋空きぬ枯芝生



33.老夫婦だけの日課に水打てり



34.母の忌は底冷えの日に廻り来る



35.花冷えや音信絶えし指を折る



36.台風に農夫のもろい積木細工



37.月仰ぎ漢にもありし愚痴



38.手の荒れたままで来いよと親鸞忌



39.凍土や雲に向いて貧を問ふ



40.蝉時雨書いて又消す砂の文字



休耕地



56.丈長き浴衣にとける旅の宿



  57.石仏の功徳は知らず冬麗ら



58.茶柱に話がそれる花菖蒲



59.休耕に怒る拳に葛の花



60.銀河まで嘆き届かぬ休耕地



61.さしむかいの暮らしいつまで烏瓜



62.代掻きの泥足に鳴る電話ベル



63.水くめば下から覗く宵の月



64.独り言ころげて落ちる山の芋



65.なけなしの余生天寿の銀河みる



66.立秋や陶土の躍る上野峡



67.初空や神鈴田毎にこだませり



68.物差しで計れぬ世相草萌ゆる



69.吉凶は天に任せて青田伸ぶ



70.冬の海乗り切る妻の羅針盤



金婚式



71.おみくじは中吉でよし福寿草



72.五百羅漢に似顔を探す赤トンボ



73.「平成」へ四股で踏込む初相撲



74.花散るや昭和の御代の花芽なり



75.菊根分鳴かず翔ばずに老いてゆく



76ジュ車すすむ都大路は寒の雨



77.葛の花絶えし本家の墓太し



78.老の坂筆は枯たし藤の花



79.金婚の式は手料理すみれ草



80.肩凝らぬ余生が欲しい花菖蒲



81.春寒し「小督」の墓に杖を引く



82.大夕立空からキングコング来る



83.点滴の音なき管につなぐ秋



84.風けわしアラブの神の壊手



85.御大典よくぞ日本に生まれけり



蒙古塚



86.水尾の凹みしままに九月儘



87.さりげなく今日も生きたし遠青峰



88.山茶花や歴史は地下に眠りおり



89.花八ツ手今は見かけぬ伝言板



90.豊作の夢は呉れずに冬ぬくし



91.かみしめる季節の旬の蓬餅



92.物忘れするまで生きて菊根分



93.新茶摘むその一ときの無心なる



94.作る事楽し馬鈴薯コロコロコロ



95.一匹の蚊に攻められて掛時計



96.秋立ちぬ通院の文字日課表



97.法縁の御堂にまろき萩の風

98.美田より休耕田の目立つ秋



99.申年や人の真似して初句会



100.外は雪内はお灸の老二人



101.窓開く一足飛びの春の風



102.蒙古塚眠れる花の志賀の島



103.六十年目の二世が帰る花菜漬



104.父の歳すぎて茶漬のうまい夏



105.若妻の合わせ鏡に盆終わる



106.山頭火の句意解しかねる小正月



107.握手する手と腹の中夏の霧



108.葉桜や忘れた頃にピーポー車



109.針の穴行きつ戻りつ祭笛



110.賽の目に余生まかせて著我の花



111.干天に土の匂いも消えており



112.薯植える数程叩く痛い腰



113.体調の私に出来る紫蘇をもむ



114.好き嫌い言われぬ戦時南瓜汁



華の乱



115.短日や夕日ころがるヘッペ坂



116.秋夜長親しむ私の歎異抄



117.一隅を照らす灯となれ花木槿



118.ゼネコンの種はつきまじ年明くる



119.紅椿姉は小さき壺の中



120.小羊のた昏れてさまよう枯野道



121.世渡りは下手でも生きて蕗の薹



122.共白髪影を並べてゆく枯野



123.一徹者になれづじまい温め酒



124.芦の芽やお他力ばかりの吾余生



125.お返しは妻の手作り蓬餅



126.葉桜や地獄しかない刻きざみ



127.貸し借りもなき晩年や梅ちぎる



128.記念品の時計皆スト葱坊主



129.夏の朝女人高野は賑わえり



130.地球儀に紅一点は菊の國



131.腰痛の悩み何時まで二月儘



132.初日の出八十路の舟をこぎ出しぬ



133.電柱の片側濡らす冬時雨



134.うのど着た日向ぼっこはもう居ない



ボンボン時計



135.年殖えて雑煮は減りアナカシコ



136.政界はスッタモンダで年を越す



137.冬の川何処から見ても男帯



138.今川は私の母です冬日向



139.冬籠もり般若心経友とする



140.農家には嫁がこないか虎落笛



141.生まるるも死するも裸温め酒



142.お歌会の御題決まれり「苗」一字



143.梅開く災害復興着着と



144.風やさし梅の浄土は賑わえり



<145.宇宙より地球を見たい青田頃



146.西瓜切るドラマは「花の乱」盛り



147.ほほえみは遺影に消えず夏の露



148.躓いた石を振りむく油照り



149.アイスクリーム食べ社会党の大転換



150.水不足千の溜息雲の峰



151.円高や吾に無縁か稲熟るる



152.秋茄子を嫁に食わして天の邪鬼



153.八十路まで一歩一歩は月の距離



154.新米を食べて一郎ホームラン



155.豊年万作ボンボン時計笑い出す



156.縁なくば離るる娑婆よ神無月



157.穂ススキに肩撫でられる万歩計


158.お目当ては凡夫なるぞと親鸞忌



159.紅葉着て寝釈迦ゆったり三千年



吉武玉枝作品( 149句 )



柚子



1.元旦や箱に眠りし軸を出す



2.年明くるホダの芯まで燃えつくし



3.餅飾る牛のおらざる牛小屋



4.元旦の陽を磨き出す朱の盃



5.雪嶺に遭難の記事ひろげ読む



6.柩ゆく足音だけの雪剥がし



7.床の間の麦一本に客通す



8.蝶生まれて通勤傘をひろげ干す



9.無防備に猫まろび居る春の椅子



10.春耕や身近にストの風吹いて



11.句座終わる籠の蛍を闇に戻す



12.螢火を宙に遊ばせ句座生まる



13.無表情にカルテ引き出すカンナ燃え



14.柚子匂う野良着のままの夫の背



15.柚子しぼるは璃の夕日匂わせて



16.落日を引き止め軒に大根干す



17.南天の夕日集めてふきん乾く



18.越冬の密談軒に雀来て



19.針穴に長き夜の灯を透し見る



20.帰らねば青嶺落日支えをり



花梔子



21.梅林に固定のリフト未だ錆び



22.蕗の薹轆轤廻せば壷が出る

23.寒戻り厨の蛇口みな詰る



24花梔子夫は不実の瞳をそらす



25.白躑躅赤い下駄履く妻老いて



26.遍路らへ鎖を這わす石粗し



27.彼岸会の石の唐獅子逆立ちす




28.病院に矢印ありて花菖蒲



29.綿菓子に少女の記憶膨れ出す



30.啓蟄や赤いポストの腹開く



31.紫蘇の紅双手に染めて壷撰ぶ



32.夏だれの朝豆乳を濃く絞る



33.空蝉や法名録に父探す



34.面とれば童顔たりし秋祭



35.月光の宙にはりつく女郎蜘蛛



36.黄落のしきりに巫女が鈴を振る



37.親鸞忌花瓶の獅子の貌磨く



38.人波のから宙え破魔矢ゆく



39.縄飛びの輪が打って居る雪の嶺



40.歎異抄のどこかを奪う法師蝉



白木槿



41.枯野村小径に打ち込む赤い杭



42.草萌えに郷土史秘めし一里塚



43.ブルの手が寒夕焼の土掴む



44.梅盛り天満宮の牛ごろ寝



45.屋上の病衣ひしめく花曇り



46.表札は残して逝きぬ白木槿


47.弟の手記かすれ居り終戦日



48.秋空へ昼餉の背のび採石夫



49.乾燥機の籾シャンシヤンと百舌日和



50.麹の熱手かげんで見る冬至星


51.球根の息吹き返す暗き納屋



52.紫蘇色の双掌に電話のベルが鳴る



53.みちのくの紅葉を選び妻佇たす



54.団体の汗を呑み込む鍾乳洞


55.休診のドア押して見る百日紅



彼岸団子



56.背番号の牛ゆつたりと野は萌ゆる



57.明け暮れを山と語りて菜を洗う



58.落日の一瞬燃ゆる花すすき



59.結び役果たしてほろ酔う天の川



60.おお寒の声が飛び込む無人駅



高御座



61.崩御に眼鏡の潤む七日粥,/font>


62.蝶生まれて久留米絣の紺匂う



63.花こぶし長押に眠る槍の錆



64.曼珠沙華無心に走るレールバス



65.母と孤児会えずに戻る天の川



66.螢飛ぶ一山越ゆれば吾が郷里



67.月見草起点に踏み出す万歩計



68.奥津城の墨跡さやか桐の花



69.白萩や気品を包む墨衣



70.高御座の玉音満つる秋の天



71.青胡麻わ束ねて鉾先天に向く



72.白鷺の音なく声なく稲熟るる



73.稲は黄に穂尺を計る指の馴れ



74.朝霧の向うより声生まる



75.躓けばつの字くの字に干大根



青田道



107.受け難き命尊や桐の花



108.秋信濃旅の名残りにそば処



109.初モズや雨戸一枚繰り忘れ



110.夏草や古城に広げる握り飯



111.寄せ書の「螢」に消えた友三人



112.菜種梅雨機嫌の悪い万年筆



113.初鶏や律義な振子の置時計



114.如月や切味にぶき鎌を研ぐ



115.ダムとなる運命(さだめ)知らずや藤の花



116.水子仏に心をこめし寒の水



117.城山の落葉に結ぶ靴の紐



118.下萌や待った効かぬ老の坂


119.年順とあきらめて居り金鳳花



120.つまされし弔辞の一言白牡丹



121.自我の角悟れば折れる彼岸寺



122.自然淘汰日日地に戻る柿の花



123.満天の星に宿かる笊の梅



124.青田風母似父似の三姉妹



月見



125.花空木どっこいしょと電話口



126.夏燕厨のかみさんこがし癖



127.千金の雨にあたふた日和傘



128.果つること知らぬ涙や終戦日



129.幼名を弔辞で呼びかき水仙花



130.秋彼岸本家の掃き始む




131.初モズにとり間違えた塩と砂糖



132.地子と言う強味に生きるお茶の花



133.あらそいを忘れし夫の日向ぼこ



134.秋の蝶易者にあずける掌心



135.弟の忌無心に皮剥くお種柿



136.年惜しむ糸でつないだ領収書



137.こっそりと隠れ煙草や老の春



138.雪三日小田原評定の藪雀



139.三ケ日膳に長寿の夫婦箸



140.おふくろの味を煮詰める柚子の味噌



141.門松の貼絵は戸毎峡の里、めはらみか



142.遮断機の向側より春一番



143.梅林のふところ深く人消える



144.夏羽織亡母が手がけたしつけ糸



145.通夜戻り音なき闇の沈丁花



147.外された亡父の表札夏燕



148.指の外に折る子は持たず母子草



この句は現代俳句歳時記辞典( 1993年11月発行).著者 榎本一郎 「 つき 」の項目に採用された

149.月見団子四角の膳の真中に


著者近影

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