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遺言という言葉は一般用語となっていますが、少し難しい言葉で説明しますと、自己の死亡とともに一定の財産法・身分法上の関係について法的効力を発生させる法律行為のことをいいます(民法960〜1027条)。
 
遺言〜大阪の弁護士が語る実務(相続問題相談室)
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目次

第1 遺言で定める事の出来る事項
第2 法定相続と自由相続
第3 遺贈
第4 受遺者
第5 遺言の方式
 1 普通方式の遺言
  (1) 自筆証書遺言
  (2) 公正証書遺言
  (3) 秘密証書遺言
 2 特別方式の遺言
第6 遺言の効力
 1 相続分指定の効力
 2 特定遺贈の効力
 3 包括遺贈の効力
 4 「相続させる」文言
 5 受遺の辞退
第7 遺言の撤回
第8 検認
第9 遺言執行者


第1 遺言で定める事の出来る事項

遺言制度は、人の最終の意思を尊重し、死後その意思の実現を保障するための制度です。そして、その意思を遺言(「ゆいごん」と一般に読まれますが、法律用語としては「いごん」と読みます)といいます。遺言は、相続財産の処分はその所有者である被相続人の自由に任せようという思想の現れですが、他方で、残された家族(相続人)の生活や身分関係に影響を与えるので、あまり無制限な自由を与えるわけにもいきません。そこで法律は、非嫡出子の認知(781条)、相続人の廃除とその取消し(893条894条)、相続分の指定(902条)、遺産分割の指定または禁止(908条)、遺言執行者の指定およびその委託(1006条)、財団法人設立の寄付行為(41条)、遺贈(964条)など法定事項についてしかなし得ないものとしました。遺言書に、単なる遺訓、葬儀方法などに関する事項が記載されていることもよくありますが、故人の考えや要望を伝える点で無意味ではないものの、法律上の効力は持ちません。

第2 法定相続と自由相続
一般に相続は、だれがどの割合で承継者になるかを決定する方法の点で、法律のさだめるところにしたがう法定相続と、被相続人の意思による自由相続(その典型は遺言相続)に区別されます。

相続制度の根拠を死者の意思にもとめる立場は自由相続を原則とする方向に、実質的共有財産の清算(つまり、亡夫の財産形成には、妻の内助の功があったので、妻も亡夫の相続に際しては、相当のものを貰うべき、というような考え方です)、相続人の扶養の必要にもとめる立場は法定相続を原則とし、遺留分制度を強化して自由相続を制限する方向に傾きます。現行民法は法定相続を原則とするとともに遺留分の制限のもとに遺言相続を認めています。

法定相続分は遺言により相続分がさだまらない場合に適用されることになります。なお遺言で相続人を指定することは認められていませんが、包括遺贈ができるのでほぼ同じ結果を実現できることになります。

第3 遺贈
この遺贈とは、遺言のうち財産法上の利益をあたえるもののことをいいます。このうち遺産の一定の割合をあたえるものを上記の包括遺贈、特定の財産をあたえるものを特定遺贈といいます。遺贈は相手方のない単独の意思表示である点で、相手方の承諾を必要とする死因贈与と異なります。

4 受遺者(じゅいしゃ)
遺言による贈与(遺贈)を受ける者のことです。受遺者は,相続欠格者でない限り相続人であってもよく、また、学校や研究所その他慈善団体などの法人でもよいと解されています。受遺者は遺言に関して利害関係をもっているので、遺言の証人や立会人になることができないと規定されています(974条3項)。受遺者には、包括遺贈を受ける包括受遺者と、特定遺贈を受ける特定受遺者とがあります。

第5 遺言の方式
遺言の方式は、かなり厳しく定められています
遺言は意思能力(物事を判断し、それに基づいて意思決定できる能力)は必要ですが(963条)、通常の取引行為ではないので、行為能力(法律行為を単独で有効にすることができる法律上の地位あるいは資格)は必要とされず、未成年者も満15歳になれば遺言をすることができます(961条)。成年被後見人も本心に復したことを証明する医師2人以上の立ち会いのもとに遺言することができます(973条)。

遺言は要式行為とされており、民法上一定の方式が定められています。この方式に従わない遺言は無効となります(906条)。すなわち、遺言は、特別の事情があって特別方式による場合もありますが、普通は、(1)自筆証書、(2)公正証書、(3)秘密証書の方式に従ってなされます(967条)。
1 普通方式の遺言
(1) 自筆証書遺言
遺言者が自分自身で作成するものであり、全文・日付・氏名を書き、捺印せねばなりません(968条1項)。簡単で秘密が保たれますが、紛失・滅失・偽造・変造の危険があり、方式不備で無効にされたり、その真実性が争われることも少なくありません。ワープロ、パソコンによる作成も、自筆証書遺言としては無効になるので、注意が必要です。このように自筆証書遺言遺言者が自書することが必要ですが、他人の添え手による補助を受けた場合は、遺言者が自書能力を有し、遺言者が他人の支えを借りただけであり、かつ、他人の意思が介入した形跡がない場合に限り、自書の要件を充たすものとして有効であるとする最高裁判例があります(最判昭62・10・8民集41-7-1471)。また、遺言の全文、日付および氏名をカーボン紙を用いて複写の方法で記載することも、自書の方法として許されないものではないと判断しています(最判平5・10・19判時1477-52)。しかし、自筆で作ったものをコピーして、それに署名・捺印したようなものは無効とされる可能性が高いので止めるべきでしょう。
自筆証書遺言の具体例ですが、以下のようなものです。

 
                 遺 言 書

本籍     大阪市○○区○○町1丁目1番
住所     大阪市○○区○○町1丁目1番
                        遺言者   甲 野 太 郎

私は下記のとおり遺言する。

第1条  下記の不動産は長男甲野一郎に相続させる。

(1)土地  所在    大阪市○○区○○町○丁目
       地番    ○番○
       地目    宅地
       地積    180u

(2)家屋  所在    大阪市○○区○○町○丁目○番地○
       家屋番号  ○番
       種類    居宅
       構造    木造瓦葺3階建
       床面積   1階100u
              2階50u

第2条  下記銀行預金は妻の甲野花子に相続させる。

       ○○銀行○○支店 普通預金口座 1234567 名義 甲野太郎

第3条  前2条で定めた以外の財産は、次男甲野次郎に全部相続させる。

第3条   遺言執行者として下記の者を指名する。
       大阪市○○区○○町○○丁目○○番
                            甲 野 一 郎

 
上記のとおり遺言した。

    平成○○年○月○日
                      遺言者   甲 野 太 郎    印


自筆遺言証書における押印については、指印でもいいとされています(最判平1・2・16民集43-2-45)。

この自筆証書遺言は、その遺言書が示すことが何なのか、解釈を巡って紛争になることも多いのですが、最高裁は、多数条項からなる遺言書の中からその特定条項を解釈するにあたっても、当該条項のみ切り離し形式的に解釈するだけでは十分ではなく、遺言書の全記載との関連、作成当時の事情および遺言者の置かれていた状況などを考慮して、その真意を探求し当該条項の趣旨を確定すべきである(最判昭58・3・18判時1075-115)としており、柔軟な解釈をする姿勢を打ち出しています。例えば、遺言者の住所をもって表示した「不動産」を遺贈する旨の遺言は、その住所地にある土地および建物を一体として遺贈する意思表示と解するのが相当であると判断されています(最判平13・3・13判時1745-88)。

また、あまりに厳格に様式を求め、遺言を無効としてしまうと、故人の意思を尊重しないことになってしまいますので、一定程度の緩和を行っています。例えば、氏名の自書については、遺言者が何人であるか疑いのない程度の表示があれば足り、必ずしも氏名を併記する必要はないとし(大判大4・7・3民録21-1176)、遺言書が数枚にわたるときでも一通の遺言書として作成されているときは、その日付・署名・捺印は一枚にされることをもって足りるとし(最判昭36・6・22民集15-6-1622)、遺言者の署名があるけれども、押印を欠く英文の自筆遺言証書について、遺言者が帰化した人であることなどの事情を考え、有効とした事例(最判昭49・12・24民集28-10-2152)があります。また、自筆遺言証書に記載された日付が実際の作成日付と違っていても、誤記であることおよび真実の作成の日が遺言証書の記載その他から容易に判明する場合には、日付の誤りは遺言を無効にはしないとしています(最判昭52・11・21家裁月報30-4-91)。

他方で、自筆遺言証書の日付として「昭和四拾壱年七月吉日」と記載された証書は、日付の記載を欠くものとして無効と判断されています(最判昭54・5・31民集33-4-445)。

いずれにせよ、自筆証書遺言は、偽造・変造されたものであるという主張を招きやすく、また、その形式や文言の解釈を巡って争いになりやすいので、あまりお勧めはできない方式です。

(2) 公正証書遺言
遺言者が遺言の趣旨を公証人に口述などの方法によって伝え、公証人が証書を作成して保存するものです。方式・保存の確実さではもっとも優れていますが、証人2人の立ち会いを必要とする(969条)ので、内容を秘密にできないという欠点があります。

立ち会いをする証人ですが、推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族は証人にはなれないと定められています(974条)。

しかし、公正証書遺言の作成に、証人となることができない者が同席しても、この者によって遺言の内容が左右されたり、遺言者が自己の真意に基づいて遺言をすることを妨げられたりするなど特段の事情のない限り、同遺言は無効とならないと最高裁は判断しています(最判平13・3・27判時1745-92)。

(3) 秘密証書遺言
公正証書は確実ですが、秘密が漏れる心配もあります。そこで、遺言者が署名・捺印して封をし、公証人のところに持って行き、自分の遺言書だという確認だけを受けておく遺言の方式です(970条971条)。 秘密は守られますが、公証人役場に保管されるわけではないので、遺言書の紛失・滅失の危険があります。

この秘密証書遺言に関しては、ワープロでの本文の作成は認められています。この点、最高裁は、ワープロを操作して遺言書の表題および本文を入力し印字した者が遺言書の筆者である(最判平14・9・24判時1800-31)と認定しています。


2 特別方式の遺言
病気・遭難など危急の際には、特に簡単な方式で遺言をすることが認められており、病気や船の遭難などで死が迫っている場合の危急時遺言と、船に乗っている場合や伝染病などで病院に隔離されているような場合の隔絶地遺言があります(976条以下)。しかし、この方式の遺言は、家庭裁判所の確認が必要であり、またこの特別事情が去って6カ月経てば普通方式で遺言をやりなおさなければなりません(983条)。

第6 遺言の効力
1 相続分指定の効力
遺言による相続分の指定が、相続人間において効力を有することは当然のことです。では、相続人以外の第三者に対しては、いかなる効力を持つでしょうか。判例は、法定相続分を下回る相続分を遺言により指定された共同相続人の一人が、遺産中の特定不動産に法定相続分に応じた共同相続登記がされたことを利用して、自分の共有持分権を第三者に譲渡し移転登記をしたケース(つまり、実際に遺言で貰ったよりも多い財産を他人に譲渡してしまったケースです)において、第三者は指定相続分に応じた持分を取得するにとどまるとしています(最判平5・7・19判時1525-61)。つまり、この第三者は、遺言書で指定された分以上は取得できないというのであり、遺言書による相続分指定は、相続人以外の第三者に対する関係でも効力を有するとしております。

2 特定遺贈の効力
特定受遺者への遺贈財産の移転は遺言が効力を生ずると同時に、つまり被相続人の死亡のとき行われます。したがって、例えば目的物が家屋の所有権のときには、被相続人死亡の瞬間に特定受遺者に移転し、相続人を経由しません。現実には受遺者に引渡しがあるまで相続人が占有管理するのですが、その場合にも相続人はそれを使用収益することは許されません(992条以下)。

この点で、いくつかの判例がありますので、ご紹介しておきます。

(1)特定遺贈の目的物は、遺言者の死亡と同時に、直接受遺者に移転する。(大判大5・11・8民録22-2078)

(2)債権の遺贈は、遺言者死亡の時から債権移転の効力を生じ、遺言執行者の債権譲渡の意思表示を必要としない。(大判大10・5・30民録27-983)

上記二つの判例は、特定遺贈によって、被相続人の死亡によって、直ちに財産移転の効力が生じるとした判例です。

プラスの財産について、特定遺贈により、承継者を指定できることは当然ですが、マイナスの財産、すなわち債務については、遺言では指定できません。債権者の地位を不安定にするからです。この場合は、法定相続分に応じた額で、それぞれの相続人が債務を分担して相続することになります。

3 包括遺贈の効力
しかし、遺言者が遺言でその総財産を売却しその代金を分配贈与するよう指定した場合は、包括遺贈であり、財産分割に至るまで受遺者は遺産を共有するという判例があり(大判昭5・6・16民集9-550)、このようなケースでは、直ちに財産移転の効力は生じないことになります。

4 「相続させる」文言
また、実務上、相続人に対して、特定の遺産を「相続させる」という文言の遺言書が公正証書でもよく作成されます。
この「相続させる」文言に関して、最高裁は、その趣旨が遺贈であることが明らかであるかまたは遺贈と解すべき特段の事情のない限り、当該遺産を当該相続人をして単独で相続させる遺産分割の方法が指定されたものと解すべきであるとし、当該遺言において相続による承継を当該相続人の意思表示にかからせたなどの特段の事情のない限り、何らの行為を要せずして、当該遺産は、被相続人の死亡の時に直ちに相続により承継される(最判平3・4・19民集45-4-477)と判断しており、この文言には特別の効力が認められています。

このように、被相続人の死亡によって、直ちに遺産が移転されることになりますので、特定の不動産を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言により、その相続人が被相続人の死亡と同時に当該不動産の所有権を取得することとなり、その者は単独でその旨の所有権移転登記手続をすることができ、遺言執行者は、遺言の執行としてこの登記手続をする義務は負わないとされています(最判平7・1・24判時1523-81)。
また、遺言によって特定の相続人に相続させるものとされた特定の不動産について、賃借権確認請求訴訟の被告適格を有する者は、遺言執行者があるときでも、遺言書に当該不動産の管理および相続人への引渡しを遺言執行者の職務とする旨の記載があるなどの特段の事情のない限り、遺言執行者ではなく、相続人であるとされています(最判平10・2・27民集52-1-299)。

5 受遺の辞退
特定受遺者は、相続人等に向かって特定遺贈を受けないという意思を表示することもできます(986条)。このほか、遺贈に債務を付けた負担付遺贈という制度があり(1002条以下)、この場合には、負担である債務を履行しないと、遺贈を取り消されることがあります。

第7 遺言の撤回
ところで、遺言は、遺言者においていつでも自由に取消し(撤回)ができます。また、遺言を複数回行った場合は、後の遺言が前の遺言と矛盾していれば、後の遺言の方が有効です(1023条)。
この点で興味深い判例があります。終生扶養を受けることを前提とし養子縁組をした上、その養子に対して、遺言書によって、大半の不動産を遺贈した者が、後に協議離縁をした場合、その遺贈は取り消されたものとみなされるというものです(最判昭56・11・13民集35-8-1251)。このケースは、先の遺言と抵触する後の遺言が作成されたものではありませんが、遺言書で表示された遺言者の意思を柔軟に解釈したものと評価することができると思います。また、最高裁は、第一の遺言を第二の遺言によって撤回した遺言者が、さらに第三の遺言によって第二の遺言を撤回した場合に、第三の遺言書の記載に照らし、遺言者の意思が第一の遺言の復活を希望することが明らかなときは、遺言者の真意を尊重して、第一の遺言の効力の復活を認めると判断しており(最判平9・11・13民集51-10-4144)、これも柔軟に解釈するという流れであると思います。

第8 検認(けんにん)
検認とは、家庭裁判所が遺言書の存在および内容を認定することです。
遺言書の保管者は、相続の開始を知ったら、遅滞なくこれを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければなりません(申立書の書式はこちら)。遺言書の保管者がいない場合に、相続人が遺言書を発見したときも、同様です(1004条1項)。検認によって、遺言書の存在を明確にし、更にその偽造・変造を防ぐことを目的としています。したがって、偽造・変造のおそれがなく、間違いなく相続人の遺言が行われたことが明らかな公正証書による遺言については検認は必要とされていません(同条2項)。

検認は、遺言書の内容を審査するのではなく、ただ外形を検査認定してその形式的存在を確保する手続にすぎませんので、検認によって無効な遺言書が有効になることはありません。また、検認を行わない場合、過料の制裁がありますが(1005条)、それだけで遺言が無効になるわけでもありません(大決大4・1・16民録21-8)。
。しかし、遺言が偽造されたなどという争いを拡大することになりますので、必ず検認を受けるべきです。

家庭裁判所の検認手続には、検認の申立人、相続人その他の利害関係人を立ち会わせるようになっていますが、立ち会わなくても検認の効力には関係ありません。また、封印のある遺言書は家庭裁判所で、相続人またはその代理人が立ち会って開封しなければなりません(同条3項)。なお、特別方式による遺言については裁判所の確認を必要とします(976条2項)。これは遺言が遺言者の真意から出たものかどうかを判定するものですが、この確認を得たものでも検認を受けなければなりません。

第9 遺言執行者(いごんしっこうしゃ)
遺言の内容を実現させるための職務権限を有する者のことです。遺言の内容は相続人の利益に反したり、相続人が無能力者であったりして、相続人以外の者に執行させるのが適当な場合が少なくありません。遺言執行者は、そのために設けられた制度です。

遺言執行者は、遺言による指定があれば、その指定に従って就任することになり、また、指定がない時は、遺言の内容からして、その実現のために遺言執行者が必要であれば、利害関係人の請求により家庭裁判所が遺言執行者を選任します。

無能力者と破産者は遺言執行者となることが許されません(1006条以下)。

遺言執行者は、遺言の内容が財産に関するものであるときは、まず相続財産の目録を作成して相続人に交付し、その目録にしたがって財産の保存そのほか遺言の執行に必要な行為を行います。

遺言執行者は、一応、相続人の代理者とされていますが、実質的には死者の人格を代理しているので、相続人を相手に訴訟を起こすこともできると解されています。最高裁は、遺言執行者は、相続人の代理人とみなされるからといって、必ずしも相続人の利益のためにのみ行為すべき責務を負うものではないと判断しています(最判昭30・5・10民集9-6-657)。
逆に相続人も遺言執行者を被告として、遺言の無効を主張して、相続財産について、共有持分権の確認を求めることができるとされています(最判昭31・9・18民集10-9-1160)。

遺言執行者がある場合は、特定不動産の受遺者から遺言の執行として目的不動産の所有権移転登記手続を求める訴えの被告適格を有する者は、遺言執行者に限られ、相続人はその適格を有しないという最高裁判例があります(最判昭43・5・31民集22-5-1137)。もっとも、遺言が執行された後については別となります。最高裁は、遺贈による所有権移転登記の抹消登記を相続人が求める場合、遺言執行者でなく受遺者を被告とすべきであると判示しています(最判昭51・7・19民集30-7-706)。


遺言執行者は、遺言の執行に必要な一切の行為をなす権利義務があり、相続人もその執行を妨げてはいけません。遺言執行者がいる場合、相続人が相続財産について行った処分行為は、絶対無効となります(大判昭5・6・16民集9-550)。この絶対無効というのは強力なものであり、例えば、特定の不動産を受遺者に遺贈する旨の遺言書が作成された場合、遺言執行者がいるのであれば、相続人が勝手に、遺贈の目的不動産を第三者に譲渡し、またはこれに第三者のため抵当権を設定して登記したとしても、相続人の処分行為は無効となり、受遺者は、遺贈による目的不動産の所有権取得を登記なくして処分行為の相手方たる第三者に対抗できます(最判昭62・4・23民集41-3-474)。このケースでは、遺言執行者として指定された者が就職を承諾する前に上記処分行為が行われたのですが、最高裁はそのような場合でも、遺言執行者がある場合にあたると判断しています。

ただし、受遺者が自ら遺贈の目的物について、自己の請求権を保全する仮処分の申請をすることは許されています(最判昭30・5・10民集9-6-657)。

遺言執行者は正当な理由があれば家庭裁判所の許可を得て辞任できるし、また任務を怠れば利害関係人の請求によって解任されます(1019条)。
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