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相続人が1人であればいいのですが、実際には複数いることの方が多いです。この場合、相続財産をどのように分け合うかという遺産分割の問題が発生します。
 
遺産分割〜大阪の弁護士が語る実務(相続問題相談室)
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目次

第1 共同相続
第2 遺産分割成立までの遺産の管理
第3 遺産分割
 1 分割対象となる遺産
 2 分割の時期
 3 分割の基準
 4 分割の方法
  (1) 遺産分割協議
  (2) 遺産分割調停
  (3) 遺産分割審判
 5 遺産の評価
 6 分割の効果
 7 その他の手続

第1 共同相続
相続人が1人しかいなければ、その1人が全相続財産を承継します。これを単独相続といいます。しかし、実際には、相続人が2人以上いることが多いです。この場合には、相続財産はその相続人の相続分に応じて分割するわけですが、その分割までは各相続人は遺言による指定があるときはその指定相続分、ないときは法定相続分の割合に応じて、観念上、全相続財産上に持ち分を取得しており、共有状態となっています(898条899条)。
この分割までの関係を共同相続といいます。


第2 遺産分割成立までの遺産の管理
共同相続の場合の相続財産は、上述のように、分割するまで、共有状態になっておりますので、遺産の管理は、相続人で共同で行うことになります。この管理方法ですが、共有の一般原則に従うことになります。すなわち、共同相続登記手続をしたり、土地の賃料を支払って借地権が消滅することを防いだり、という保存行為は相続人の誰でも単独で行うことができます。不動産をどのように使用するか、といった管理行為は、相続分の過半数で決めます。そして、遺産を他に売却するような処分行為は、共有者である相続人全員が同意しなければなりません。

共同相続人が相続財産たる家屋の使用借主(ただで借りている人のことです)に対してその使用貸借を解除するのは、民法252条本文の管理行為にあたるから、共同相続人の過半数決を必要とする旨の判例があります(最判昭29・3・12民集8-3-696

共同相続人の一人が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物に被相続人と同居してきた場合は、特段の事情のない限り、被相続人死亡時から少なくとも遺産分割終了までの間は、被相続人の地位を承継した他の相続人を貸主、同居相続人を借主とする建物の使用貸借契約が存続するとされています(最判平8・12・17民集50-10-2778

また、相続人は、遺産分割までの間は、相続開始時に存した金銭を相続財産として保管している他の相続人に対して、自己の相続分に相当する金銭の支払いを求めることはできません(最判平4・4・10判時1421-77)。


第3 遺産分割
遺産分割とは、共同相続人の相続分に応じて相続財産を配分することです。
共同相続人は、そのうちの1人でも、またいつでも他の共同相続人の全員に向かって、遺産の分割を請求できるのが原則です(907条1項)。しかし被相続人の遺言、共同相続人の協議、または家庭裁判所の審判によって、相続開始後5年以内に限り、遺産の分割を禁止することができます(907条3項・908条・256条)。ところで遺産の分割では、次の点に注意しなければなりません。

1 分割対象となる遺産
原則として、あらゆる財産が分割の対象となります。
しかし、以下の財産は例外となります。
まず、金銭の支払請求権のような分割できる債権、すなわち可分債権については、遺産分割手続を経なくても、法律上当然分割され、各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継することになります(最判昭29・4・8民集8-4-819)。例えば、預金は、銀行に対して、預金の払戻しを請求できる権利ですので、金銭支払請求権であり、かつ、例えば、100万円の預金がある場合、うち10万円の払戻しを請求したり、20万円だったり、分割ができるものです。このような債権は、遺産分割の対象にならず、相続開始と同時に、それぞれの相続分に応じて、当然に分割されます。妻と子2人が相続人だった場合、妻は100万円の預金のうち、50万円を取得し、子は1人当たり25万円を取得することになり、それは、遺産分割を経なくても、被相続人の死亡と同時に、そのような権利を各自が取得するということになるわけです。もっとも、相続人間で話し合って、法定相続分とは異なる債権の分配を決めることは自由です。

上記のように、可分債権は本来的に遺産分割を経ずに法定相続分に応じて各相続人が取得すると言っても、これは純粋理論的に言えばそうなる、ということであって、現実に、相続が開始して、妻が銀行に50万円の権利を取得したから払戻せと要求しても、まず銀行は応じてくれず、他の相続人全員の印のある書面を持ってくるよう言うはずです。それは、銀行にしてみれば、漫然と払戻してしまうと、後に、実は法定相続分と違う取り分を決めた遺産分割協議書があったことが判明したり、妻には預金を与えず、子にのみ与えるような遺言書が出て来ることなどがあり、その場合には無権利者に払戻してしまい、権利者の権利を侵害してしまったという銀行の責任問題が発生するからです。従って、このような場合、他の相続人の印なしに、払戻しを受けようとするのなら、銀行相手に裁判を行って判決を取るしかありません。

次に、マイナスの財産、すなわち債務については、基本的に遺産分割の対象にはなりません。それは、例えば相続人AとBがいる場合、債務だけをAに引き受けさせ、プラスの財産はBが全部取得するような分割を認めてしまうと、債権者は現実的には回収不能の状態に陥ってしまうことになり、債権者の権利が侵害されるからです。従って、このような分割を行うには、債権者の同意が必要とされ、ない限りは、法定相続分に応じて、各相続人が平等に債務を承継することになります。しかし、これは債権者に対する関係の問題であって、相続人間内部で、その負担割合をどうするのか、話合って決めることは自由です。

相続財産に属する株式を相続人が遺産分割前に勝手に処分したときは、その株式に代わり同人に対する代償請求権が分割の対象となるとした判例があります(東京高決昭39・10・21高民集17-6-44)。

2 分割の時期
遺産分割には消滅時効はなく、相続開始後、いつでもできます。もちろん、調停や審判の申立てもいつでもできます。実際に、数十年間、遺産分割をせずに放置しているケースも多数あります。しかし、このようにすると、遺産の管理に問題が生じたり、相続人が次々と死亡して新たな相続が重なり、遺産分割協議をするのに全国各地に散らばった数十人の同意が必要になってしまうような事態を招きかねませんので、やはり早めに遺産分割を行った方がいいと思います。

3 分割の基準
遺産の分割は、遺産に属する物または権利の種類、性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態および生活の状況その他一切の事情を考慮して行うことになります(906条)。従って、長男は土地を、次男は有価証券と債権を、配偶者は住家を、というように、その相続分に当たる価値を配分すればいいわけです。

協議や調停で話し合いが成立する場合には、各自の相続分に合致しないことになったとしても、それで納得しているのなら別にかまいません。

4 分割の方法
遺産の分割は、まず、被相続人の遺言による指定があればそれに従います(908条)。ただし、相続人全員の合意があれば、遺言と異なる分割協議をしても有効です。

指定がないときには、共同相続人全員の協議で行い(907条1項)、その協議が成立しないときには、家庭裁判所に分割の調停、さらには審判を求めることができます(2項)。なお、いきなり審判を申立てることもできますが、裁判所は殆どの場合は、調停を先行させるようにしています。
分割は、必ずしも現物分割であることを必要とせず、各種の財産を分配した上、差額を金員の授受で決済してもよいとされています。

遺産の一部分割をとりあえず行うことも認められています。大阪高裁は、遺産の範囲に争いがあって訴訟が係属しているような場合において、遺産の一部の分割をするとすれば、906条の分割基準による適正妥当な分割の実現が不可能となるような場合でない限り、遺産の一部分割も許されるとしています(大阪高決昭46・12・7家裁月報25-1-42)。

共同相続人が全員の合意により遺産分割前に不動産を第三者に売却したときなどは、遺産の一部について分割協議が成立したとみなせます。その場合、その不動産は遺産分割の対象から逸脱し、各相続人は第三者に対し持分に応じた代金債権を取得し、これを個々に請求することができます(最判昭52・9・19判時868-29)。

以下、各遺産分割手続について説明いたします。
(1) 遺産分割協議
相続問題は、親族間の問題ですから、円満に解決するのが望ましく、協議によって解決することを目指すべきです。話し合いがまとまりましたら、遺産分割協議書を作らずに、それぞれの財産の名義移転などを行ってもいいですし、殆どの相続問題は、そのようにして解決されていると思われますが、相続人間の対立が多少でもあったり、税務対策の面からきちんと書面を作っておいた方がいい場合は、遺産分割協議書を作成すべきです。
遺産分割協議書の書式はこちらです。

なお遺産分割協議書を作成せずに、遺産をばらばらに被相続人名義から相続人名義に移転する手続を行うケースで、よく問題になるのが、不動産の相続登記を行う際に用いられる「相続分なきことの証明書」です。不動産について、一部の相続人単独の相続登記をする場合、少なくともその不動産に関する相続人全員の印のある遺産分割協議書が必要なはずです。しかし、法務局は、一通の遺産分割協議書を持ち回りで相続人全員に印を押させることが煩瑣であることもあって、「私は、被相続人の死亡による相続につき、生計の資本として被相続人から、すでに相続分相当の財産の贈与を受けており、相続する相続分のないことを証明します。」、という内容の証明書を、全相続人がそれぞれ一通ずつ作成している場合は、遺産分割協議書に代わるものとして、相続登記を受理する扱いをしています。このように便宜的に使われているのですが、これを作成してしまったが故に、他の相続人から、遺産分割協議が成立しており、この証明書を発行した人は、もはや相続財産の取り分はない、という主張がなされることがあります。名古屋高裁金沢支部は、「相続分なきことの証明書」が作成された場合において、当該事例の経過に鑑みて、「本件においては遺産分割協議が成立したものと認めることはできない」と判断しておりますが(平成9年3月5日決定 家月49巻11号134頁)、安易な作成は慎むべきです。

(2) 遺産分割調停
協議が整わず、遺産分割調停を申立てる場合は、相手方のうちの一人の住所地の家庭裁判所又は当事者が合意で定める家庭裁判所に、相続人全員を相手に申立てます。申立人となれるのは、共同相続人、包括受遺者、相続分譲受人、遺言執行者(包括遺贈の場合)です。
遺産分割調停・審判の申立書書式はこちらです。

調停手続では,2名の調停員が、当事者双方から事情を聴いたり、必要に応じて資料等を提出してもらったり、遺産について鑑定を行うなどして事情をよく把握したうえで、各当事者がそれぞれどのような分割方法を希望しているか意向を聴取し、解決案を提示したり、解決のために必要な助言をし、合意を目指して話合いが進められます。
話合いがまとまらず調停が不成立になった場合には自動的に審判手続が開始され、家事審判官(裁判官)が、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮して、審判をすることになります。

(3) 遺産分割審判
遺産分割の審判の申立先は、調停と違って、相続開始地すなわち被相続人の最後の住所地の家庭裁判所の管轄とされています。ただし、調停の不成立によって審判に移行する場合は、通常、調停をしていた家庭裁判所が審判手続きを受けています。
審判は話し合いではなく、家事審判官(裁判官)が職権で事実の調査および証拠調べを行い、当事者の希望なども考慮のうえで、分割の審判が下されます。審判に対し、不服のある当事者は、即時抗告をすることができます。即時抗告期間は、審判の告知を受けた日の翌日から起算して2週間であり、審判をした家庭裁判所に即時抗告の申立てをします。
抗告審は高等裁判所で行われます。

家庭裁判所は遺産分割審判の前提たる相続権、相続財産等の法律関係につき当事者間に争いのあるときは、審判手続においてこれら前提事項の存否を審理判断した上で分割の処分を行うことができます(最大決昭41・3・2民集20-3-360)。例えば、寄与分や特別受益が問題になった場合は、家庭裁判所は審判にあたって、それらの前提問題を家裁自身で判断して、遺産分割審判を出すことができます。

しかし、遺産の範囲に争いがある場合、例えば、被相続人の子の名義の不動産がある場合、その不動産の購入資金は被相続人が出したものであり、税務対策などから、便宜的に子の名義にしているだけであって、実際には被相続人の財産であったのであり、遺産なのだ、という主張がしばしば出ることがあるのですが、このような場合は、話し合いで解決しなければ、最終的には地方裁判所で行われる訴訟、すなわち相続財産確認請求訴訟等によって解決するほかなく、家裁はこの問題については判断できないことになっています。そこで、このような問題が遺産分割審判で出てきた場合は、家裁は審判を一時ストップするか、審判申立てを取り下げさせ、訴訟の結果を待つことになります。このように、一つの相続問題について、家裁と地裁の間でキャッチボールが繰り返されることがあり、現在の実務上の問題であります。

遺産の共有および分割に関しては、共有に関する民法256条以下の規定が第一次的に適用され、現物分割を原則としますが、分割によって著しくその価格を損するおそれがあるときは、その競売を命じて価格分割を行うことになります(最判昭30・5・31民集9-6-793)。

5 遺産の評価
遺産を分割するためには、遺産の金額的評価を行い、各相続人の相続分に応じた分配を公平に行わなければなりません。この金額的評価を、いつの時点を基準に行うかという問題が生じます。遺産分割調停や審判は、何年もかかることがまれではありませんから、相続開始時での価値と、遺産分割成立時の価値にはかなりの乖離が生じていることがあるからです。この点、実務では、遺産分割のための相続財産評価は分割の時を標準としてなされるという扱いがほぼ定着しています(札幌高決昭39・11・21家裁月報17-2-38は、「遺産分割のための相続財産の評価は分割時を基準とすべく、そのときまでに加えられた遺産に対する改良費は、分割によりその物を取得する相続人に対し遺産分割の手続外で償還請求権を行使し得るから、分割審判において考慮する必要はない。」と述べています)。

6 分割の効果
分割があると、各共同相続人は、相続開始のときにさかのぼって、分割された権利義務を承継したことになります(909条本文)。したがって、上記の例でいえば、長男は土地を、次男は有価証券と債権を、配偶者は住家を、被相続人死亡の瞬間から承継したことになるわけです。しかし、次男の承継した債権が取立不能になったときは他の相続人にその分を相続分に応じて負担してもらえます(912条911条)。また、次男が配偶者に配分されたはずの家屋を、分割前に善意の第三者に売却してしまった場合には、第三者はその家屋の所有権を取り戻される心配が生じますので、このような第三者を保護する規程が設けられています(909条但書)。

この第三者保護規定に関し、最高裁は、相続財産中の不動産について、遺産分割により相続分と異なる権利を取得した相続人は、登記を経なければ、分割後に当該不動産につき権利を取得した第三者に対し、自己の権利の取得を対抗することができないとしています(最判昭46・1・26民集25-1-90)。

なお、最高裁は、「相続させる」趣旨の遺言による権利の移転は、法定相続分または指定相続分の相続の場合と本質において異なるところはないとして、「相続させる」趣旨の遺言によって不動産を取得した相続人は、その権利を登記なくして第三者に対抗できるとしており(最判平14・6・10判時1791-59)、遺言書の「相続させる」文言に強力な効果を与えていますので、遺産分割の場合と、第三者保護のあり方が異なることが注目されます。

すでに成立している遺産分割協議について、その全部または一部を全員の合意により解除した上、改めて分割協議を成立させることができますが(最判平2・9・27民集44-6-995)、遺産分割協議が成立した場合に、相続人の一人がこの協議において負担した債務を履行しないときであっても、その債権を有する相続人は、債務不履行解除を定めた民法541条によって、遺産分割協議を解除することはできません(最判平1・2・9民集43-2-1)。

7 その他の手続
すでに述べた通り、共有状態を解消する法的手続は遺産分割調停・審判ですが、共同相続人の一部から遺産を構成する特定不動産の共有持分権を譲り受けた第三者が、共有関係の解消のためにとるべき裁判手続は、遺産分割審判ではなく、共有物分割訴訟になります(最判昭50・11・7民集29-10-1525)。もっとも、譲り受けたのが、相続人の地位そのものである場合(抽象的な相続分を包括的に譲り受けたような場合)は、この第三者も遺産分割調停・審判に参加することになります。また遺産分割協議・調停・審判によって、複数の相続人で特定相続財産を共有にすることももちろんできるのですが、その後に共有状態を解消するためには、同様に共有物分割訴訟によることになります。

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