大條和雄(だいじょうかずお)津軽三味線ルーツ解明者
1928年弘前生まれ。日本民謡文化振興協会理事、名誉教授。弘前学院大学文学部非常勤講師、青森大学訪問講師。平成13年、ロンドン大学より学術講師として招かれる。津軽三味線の歴史の語り部として活躍中。主な著書に「絃魂津軽三味線」「津軽三味線の誕生」「津軽三味線こぼれ話」「津軽三味線のルーツを求めて」など多数。

 津軽三味線の歴史は、百三十余年でジャズの歴史と瓜二つである。アメリカの民族音楽であるジャズは、誕生から今日までジャズとは何かという本質論が度たび出ている。1940年ビーバップが出たときなど、ビーバップにジャズの未来がないかという論評が出た。
 さて、津軽三味線は坊様と呼ばれた男盲の門付け、大道芸三味線に源を発し大正時代の唄会三味線(唄付け)、昭和二桁の現代津軽三味線(独奏)へ、やがてコンクール三味線へと発展し、さらにネオ津軽三味線へと展開するに及んで、津軽三味線とは何かという本質論が聞かれるようになった。
 そして、今またこの問題に大きい一石が投じられた。木乃下真市の『パッション!』である。激情のアルバムと題するように、これまでの津軽三味線の概念を一変するアルバムなのである。木乃下はこれまで俗に言われる「津軽もの」はすべて完璧に弾きこなし、津軽三味線の神様と称えられた天才白川軍八郎の再来と言われるほど、その力量は世間が周知するところである。ところで、この度のアルバム出版に当たって整理したいことがある。軍八郎の師匠が津軽三味線の始祖仁太坊であるが、その芸哲学が「人真似でない汝が三味線」であった。この哲学が今日の津軽三味線を成立させたのである。そして、今またこの哲学に法って明日への津軽三味線の扉を開くアルバム、それが『パッション!』であろう。
 これまで津軽三味線は、数多いジャズ系や西洋、東洋楽器とのセッションを世に出している。けれども真底二度三度と聴きたい意欲をそそるものは少なかった。が、本アルバムは意欲を喚起させるのである。
 思うに、競演者であるジャンルを越えたスーパーミュージシャンの優れた音楽センスに加え、異文化融合という高い理想への意気投合が感じられるからではなかろうか。
 音楽は歴史を語り、歴史は音楽を語り、そして国境がない。日本の伝承音楽津軽三味線が、世界の音楽に順応することは確実な発展であろう。私はこれまで津軽三味線は無限の「心象風景音楽」と述べてきた。そのことを証明してくれたのが本アルバムであり、津軽三味線史にとって重要な意義があると思う。津軽三味線のエポック・メーキングになることを願ってやまない。