「うなり」の発生メカニズム
調弦の基本は耳でうなりを聴くことにありますが,そのうなりはどうやって発生するのでしょうか?やや専門的になりますが,ここではそのメカニズムを説明したいと思います。440Hzの波形はグラフにすると目に見えないくらい細かくなってしまうので,ここでは10Hz程度の音を例にとって説明します。
図1は10Hzと11Hzの音の波形です。1秒間に10回あるいは11回振動を繰り返している様子が示されています。1Hzの差は,振動の繰り返しが1秒間に1回だけ多いか少ないかを示しています。10Hzと11Hzの音は1秒間たつと両方とも同時に振幅ゼロ点に戻ってくるので,それ以降は1秒単位で同じことの繰り返しとなります。したがって2つの音で相互作用があるとすれば,1秒に1回の現象になるはずです。
図2は図1に示した二つの波形の振幅を足し合わせたグラフです。最初は2つの波形がほぼ重なり合って強め合うので振幅は大きくなりますが,0.5秒付近では2つの波形が逆向きになるので,互いに弱め合います。1秒付近では0秒付近と同様に強め合うので振幅は大きくなります。振幅とは音の大きさですから,1秒単位で音が大きくなったり小さくなったりしているように聞こえるのです。これが「うなりの正体」です。
1秒間だけの波形では「うなり」の実感がわかないので,もう少し長い範囲のグラフを書いてみました。図3に10秒間の波形を示します。
どうでしょう?音が1Hzで「ウワン,ウワン」とうなっている様子を想像することができたでしょうか?
これらの例は10Hzと11Hzの場合でしたが,440Hzと441Hzの場合も全く同じです。1Hz違う音は元の周波数が何Hzであろうと,1秒で最初と全く同じ状態に戻りますから,結局1Hzのうなりを発生するのです。一般に,ふたつの音の周波数をP1(Hz),P2(Hz)とすると,うなりの周波数Pu(Hz)は次の式であらわされます。
Pu=|P2−P1|(Hz)
なんか物理の授業みたいになってしまいましたね(笑)。でもこの原理を知ると,「音が合ってくるとうなりの周期が長くなる」ということがわかると思います。完全に合うとうなりは消えます。このとき,耳にはどのように聞こえるのでしょうか?
音が完全に合うと,音量が小さく聞こえることがあります。おそらく音の位相が反転していて弱め合っているのだと思われます。「うなり」の音が小さくなった部分だけが,ずっと続くと思えばよいでしょう。ぴったりと音が合った瞬間,何かに吸い込まれるような感じがするのはこのためです。この原理を工業的に応用したのが,アクティブ消音技術です。騒音源のそばで騒音と逆位相の音を発生させ,音を弱めるのです。
それじゃギターもあまりぴったりと合わせないほうがいいんじゃ?などという心配は無用です。冒頭にも書いたように,ギターは狂いやすいのです。ぴったり合わせてもすぐに狂うので,音が消えるなどと心配することはありません。すぐに少しずれてちょうど良くなるのです。ですから調弦はぴったり合わせてしまってOKです。
「ぴったり合いすぎているのは困るから,わざとずらせている」なんていえるようになれば,このページを見る必要はなくなったということですね。私はわざとずらすのは自作8弦ギターの第7,8弦を同じ音に調弦するときだけです。ちなみに,ピアノはわざとずらして調律します。同じ音程の弦が複数張られているピアノは,初めからずらせておかないと,いつまでもずれないからです。