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毒薬と老嬢 米 1944年 118分 |
| 製作・監督 フランク・キャプラ 原作 ジョセフ・ケッセルリング 脚本 ジュリアス・J・エプスタイン フィリップ・G・エプスタイン 撮影 ソル・ポリト 音楽 マックス・スタイナー 出演 ケーリー・グラント プリシラ・レイン ジョセフィン・ハル ジーン・アディア レイモンド・マッセイ ピーター・ローレ ジェームズ・グリーソン ジャック・カーソン |
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関連映画 ケーリー・グラント ピーター・ローレ |
フランク・キャプラといえばハリウッド黄金の30年代を代表する監督で、アメリカ民主主義への信頼に根ざしたハートフルな社会風刺コメディの傑作(「オペラ・ハット」「我が家の楽園」「スミス都へ行く」等)で知られるわけだが、そんな彼のフィルモグラフィにあって異色中の異色がこれ。
ジョセフ・ケッセルリング作の3幕4場の芝居が原作で、ブルックリンに住んでいる資産家の老姉妹エビイとマーサの豪邸が舞台。この町きっての慈善家で知られるこの老嬢たち、身寄りのない不幸な老人に毒入りワインを飲ませて成仏させる事業に熱中している。しかも、善意でしているのだからタチが悪い。そこへ二人の甥っ子で、結婚したばかりの若き舞台批評家モーティマーが挨拶にやって来るのだが、二人の叔母の所業を知ってモーティマーはびっくり!新婚旅行そっちのけで事件を揉み消そうとしているところへ、彼の兄で凶悪犯のジョナサンとその相棒で偽医師のアインスタイン博士が警察の追及を逃れてきて、事態は一層混沌としてくる・・・。 というわけで、この映画は殺人をテーマにしたブラックコメディだ。しかし、同じジャンルの「チャップリンの殺人狂時代」が個人による殺人と戦争による殺人を対比させることで戦争や大量破壊兵器に対する風刺をしたのとは違い、ブラックではあっても風刺はない単純なシチュエーションコメディになっている。老嬢たちが精を出す安楽死についても風刺としては描かれていない。そこが風刺の名手キャプラらしくないといえばらしくないが、面白さは相当なもの。 その面白さの多くはストーリーと俳優たちのアンサンブルによって生み出されている。まず虫も殺さぬような優しい老嬢たちが慈善のつもりで殺人を行っているという設定が意表を突いて面白く、それを知って動揺するモーティマーのドタバタぶりが面白さに拍車をかける。また、老嬢たち以上にイカれている同居の甥っ子テディが強烈。これが自分を第26代大統領のセオドア・ルーズベルトと思い込んでいる正真正銘のキ印で、彼が家の地下室にパナマ運河と思って掘っている穴に老嬢たちが殺した死体を埋めているなんて設定も可笑しい。 そんなヘンテコな状況に凶悪犯のジョナサンがやってくるのだが、こいつが警察の追及を逃れるために何度も整形手術をして、フランケンシュタインの怪物を演じたボリス・カーロフそっくりというのが笑わせる。彼も仲間を一人殺していてその始末に困っており、老嬢たちが死体を隠していた長持を巡ってモーティマーと繰り広げるドタバタはこの映画の白眉といえる。今までに殺した人数で老嬢たちと張り合おうとして、仲の悪いモーティマーを殺そうとするエピソードもイカれていて面白い。更に、家に出たり入ったりする様々な人物もユニーク。個人的に一番面白かったのは自分でも劇を書いている若い警官のエピソードで、モーティマーがジョナサンに縛り上げられたところへやってきて芝居の一場面を再現していると思い込み、自分の劇の筋を夢中で話し始めるとそのエピソードそっくりにジョナサンがナイフを持って後ろから忍び寄るところ。ここは大笑いすると同時に感心した。 僕はケーリー・グラントという俳優には今まで関心がなかったが、この映画では大いに感心させられた。甘い端正なマスクも素晴らしいが、一つ一つのリアクションにおける表情や仕草がとても的を得ていて分かりやすく、ドタバタも泥臭くなく非常にスマート。こんな良い俳優だとはちっとも気付かなかった。ただし、彼の演技も老嬢二人を演じたジョセフィン・ハルとジーン・アディアのオトボケ演技との対比から生み出されたもの。この二人のノホホンとして愛嬌のある老嬢ぶりとその所業のアンバランスが作品を支えているといっていい。ボリス・カーロフそっくりのメークで登場するレイモンド・マッセイや気の弱い偽医者のピーター・ローレも個性を発揮している。 キャプラは最初と最後に屋外の場面を挟みつつ、基本的に奥に台所、右手に階段と玄関、左に窓と長椅子になる長持ちを見る位置にカメラを置いて、舞台に準じた演出を行っている。人物の出し入れも鮮やかで、二つある死体を映さないのもうまい。モーティマーが事件を知ってからはテンポも快調。 ただし、結末の部分がいささかダレてしまい、半ば強引な展開になってしまっているのが残念。これは原作のフラックな結末をハッピーエンド?に変えたためだろう(もっとも物事を真面目に考えすぎる人にとっては十分後腐れはあるだろうが)。また、モーティマーがテディを精神病院に入れようと画策するエピソードが、事件を揉み消そうとすることとうまく繋がっていないような気がするのが弱点ではある。映画を観ている間はケーリー・グラントの目まぐるしいドタバタにニコニコしながら見入っていたが、後で考えるとどうも釈然としない。 殺人をコメディにしてしまうという点とその殺人を闇に葬ってしまうという点で、いわゆる良識派を気取っている人間は眉を顰めるかもしれないが、面白いんだから笑って許してやってくれ。僕としてはケーリー・グラントが魅力全開のシチュエーションコメディの快作と思う。 |